魔王様、天使は経費で落とせません!

冬島六花

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4.パーティでの出来事

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 会場にはさまざまな種族の来客があり、みな思い思いに談笑していた。

 ぐるりと見回したときに、目が合ったのは――。

 

「あっ! アイナさん!」

「やっほー、マリア! 調子はどぉ?」

 挨拶をしたのはアイナだ。車椅子を後ろから押している。

「はい! 何も問題なし!」

「そっかぁ。それなら良かった」

 アイナは微笑むとマリアの頭をポンッと撫でた。

「アイナさんこそ、忙しい中、抜けて来てくださって嬉しいです!」

「ふっふっふ、抜けたわけじゃないわ。施設利用者さんと楽しみにきたってわけ」

「そうなのですね! ……楽しんでいただけるといいなぁ」

 

 アイナは魔王城内で介護の仕事をしている。他の職員とともに、利用者さんと車椅子で

 パーティにやってきたというわけだ。

 魔物たちは基本的に不死身なので、そこまで重い空気になる場面には遭遇しないのだという。人間界の介護職と比べると、体力的にも精神的にもいくらか楽であると、アイナはよく話している。

「楽しんでるよ~。めちゃ賑やかだね。コスプレしている人もいてさ。やっぱりパーティはいいね。これがないと年越せないって感じ」

「ですよね! よろしくお願いします」

「うん。マリアも楽しむんだよ」

「はい!」

 アイナに手を振ると、マリアはまた仕事に戻った。

 

 パーティ開始から時間が進むにつれ、参加者はだんだん増えてくる。

 魔王城で働く者たちも多い。今夜は無礼講というわけだ。

 魔王城なんて名前だけ聞くとブラックな職場みたいだが、完全週休二日で社会保険完備、残業代は完全支給でボーナスも年三回という、嘘くさいくらいの高待遇だ。

 私も現代日本で経理OLだった頃よりは、今の方がずっと余裕ある生活を送れている。

 まだ慣れないことと言えば、魔王城から支給された〝天使〟姿の制服くらいだろうか。

 アイナがぼやくのも分かる。私も制服自体は気に入っているのだが、いかんせんOLが着るには可愛すぎる……ような?

 

(それにしても、魔界にはいろんな人がいあるなぁ。みんな違ってみんな素敵、って感じ)

 

 改めて辺りを見回すと、本当に様々な種族がいる。

 人間だけでなく、獣人族も多い。その場にいると、私も楽しい気分になってきた。

(よし、私もこの機会に、魔界の人脈を広げなくちゃね!)

 マリアは小さくガッツポーズをすると、受付で最大限、好感度の高い対応をこころがけたのだった。



 * * *

  

 そんなこんなで、いつの間にかパーティは終盤を迎えていた。

 受付係の任を解かれた私は、ワインを片手にオードブルを食べていた。

 隣には、同じく仕事を終えて一人になったアイナもいて、日々の生活についての雑談を楽しくしている。

 

 いよいよ午後十一時。今年も残すところ後一時間となった頃、マリアのもとへ魔王がやってきた。

 

「マリア。今日は君もパーティの準備や受付でしっかり働いてくれていると聞いている。……ありがとう」

「魔王様! いえいえ、とんでもございません。私は職業人として当然の働きをしているまでです」

 

 彼はとても凛々しくて、マリアはつい見惚れてしまう。

(やだ……! なんでこんなにドキドキしちゃうの!?)

 顔が熱くなるのを感じながら、必死に平静を装うマリアだったが、時すでに遅し。



 そんな彼女の様子をすぐそばで見ていたアイナが、私に囁いた。

「あれぇ~? マリアってばぁ、まさか魔王様に惚れ直しちゃった?」

 ニヤニヤしながらアイナが言う。図星すぎて返す言葉が見つからない。

 

(もう、アイナさんったら!)

 

 私は顔を真っ赤にして俯いたまま、口をパクパクさせていた。

 その様子を見ていた魔王は、すかさず私をフォローする。



「こら、アイナ。マリアをからかうんじゃないよ」

「は~い! ふふ、お熱くて羨ましいですわ」

 素直に返事をするアイナを横目に見つつ、魔王は私に話しかける。

「大丈夫か? 気分でも悪いのか?」

 

 心配そうに顔を覗き込んでくる魔王に、さらに鼓動が速くなるのがわかった。

 それを悟られないよう、なんとか声を絞り出す。

 

「……大丈夫です!」

「そうか。それなら良かった」

 にっこり微笑む魔王を前に、マリアは心の中で叫んだ。

 

(どうしよう! もう、心臓が持たないよぉ~!)

 

 しかしそのドキドキは、ドムの次の言葉で最高潮になる。

「マリア、このパーティが終わったら、俺の寝室へ来ないか? 語り合いたいんだ……このワインを片手に」

 グラスを傾けながら、魔王は私にウインクをした。



「ま、魔王さまっ! そ、その……経費で買ったをプライベートに流用するなんて御法度です!」

 職業柄、私はとんでもなく可愛げのない台詞を言ってしまう。

「ふふ、なるほど。君は経費で落とせないというわけだね。では今宵は、僕が特別に違う酒を用意させよう。……待っているぞ」

 魔王は私の手を取り、甲にチュ、と口づけた。



(え? それって、つまり……そういうことだよね……?)

 

 いきなりの展開に戸惑う私だったが、これはもう、行くしかない。

 だって相手は魔王だよ? プロポーズを断ったくせに、片思いしている。

 しかも今夜はとびきりかっこいい……もう、断れるはずがないじゃない!

 

(よーし! 女は度胸! ここは一世一代の大勝負に出るんだからね!)

 

 覚悟を決めたマリアは頷いた。

「……はい、魔王様」
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