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お見舞い。…から軍師に
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忙しさ真っ只中の厨房で指揮を取る。
「本当にこれを?」
「大丈夫。もし叔父様が文句を言ったら私が作ったことにするから」
鶏の胸肉を柔らかくするために調味料を入れた水に浸けておいた。料理人達はこの方法を知らないから抵抗があった。
だけど…
「本当だ!胸肉がしっとり柔らかい!」
焼いてソースを絡めた鶏肉の味見をしてもらった。
カロリーを抑えて筋肉を付けてもらわないといけないので、最近は子爵に出す食事にも口を出していた。
今までは怪我を負う前のメニューを出していたが、子爵が食欲が無いと少食になったことで肥満にはならずに済んだ。だが筋肉は落ちている。
今は やる気とリハビリという運動をすることで食欲が戻っているので筋肉を付けて骨にもいい食材を選んで 食事を作ってもらっている。
子爵をその気にさせて以来 子爵邸の多方面で指示を出していた。子爵が“言い出したのはアンジェリーナなのだからダンスが踊れるようになるまで滞在しろ”と言ったせいだ。
お陰ですっかり馴染んでしまい、今は滞在3ヶ月になる。
王都のミュローノ侯爵邸には連絡を入れて、オーダーしていた服や靴は纏めてこっちに送ってもらった。
あまりにも長い滞在で、私が迷惑をかけていると思ったのだろう。ローランドが来たいと叔母様に手紙を送ってきたけど、“来るな”と遠回しに手紙を書いてローランドに返事をしたらしい。
甥っ子だよね?
ワイドパンツは最初 驚かれたが、今では使用人達も見慣れてきたようだ。
滞在中、私も成長した。叔母様がダンスの教師を雇ってくれて簡単なものなら踊れるようになった。
引き続きラウル先生にも乗馬を教わったので もう1人乗りできる。
子爵がもっと回復したら遠乗りをしようと約束した。
子爵は歩けるようになると叔母様と私を連れ回して、知人や友人や親類のパーティに参加した。
私のことを知っている人もいて驚いていたけど、新たなアンジェリーナに直ぐに順応してくれた。
子爵邸に遊びに来る人が増えて、賑やかになった。
「え!ローランドの!?」
王都で暮らしていた叔母様達の息子パトリックと妻レジーヌが帰省して、私の姿を見て驚いていた。
「そうよ。式で会ったでしょう」
「確かに…でも雰囲気がまるで違う」
「記憶がないのよ。今までのアンジェリーナは忘れてリーナと仲良くしてね。リーナはヤンヌ子爵家の恩人なのだから」
叔母様が私が子爵家で何をしたか説明してくれた。
「ミュローノ夫人。父がお世話になりました。子爵家全体が明るくなりました」
「叔父様の努力の賜物です」
「ミュローノ夫人はいつまで滞在を?」
「アンジェリーナとお呼びください。
そろそろ帰ろうと思っているのですが、」
「何を言うんだ。リーナは子爵邸にいなさい」
「父上、何を言っているのですか」
「聞けばリーナは嫌いな男と婚姻して義務を押し付けられているのに、その夫は呑気に愛人と旅行を楽しんでいるのだぞ!」
「愛人と旅行ですか」
今まで大人しく聞き役に徹していたお嫁さんのレジーヌが反応した。
「この屋敷にやってきて、自分がミュローノ侯爵家の嫁のようなツラをして、何とも不愉快な女だった」
「…アンジェリーナ様、よろしいのですか?」
「え?」
「そんな女に夫を奪われて」
「ん~聞いたところによると私もローランドもかなり嫌い合っていたようで、私と会うのは基本的に月に一度の10分から20分程度だったと聞きました。記憶を失くして目覚めた時は既に恋人と旅行へ行った後でしたし、その後は一度すれ違っただけで挨拶しかしておりません。ですから思い入れなど全くありません。
私は記憶がありませんから、貴族とか夫人の座とかもピンときません。
ただ王命に逆らうことはできないと聞きました。
私は婚姻を維持して子を成すために月に一度ローランドと十数分過ごすことからは逃れられません。
ですが子さえ産んでしまえば共に暮らす必要はありません。子の親権も養育権も持たないようなので彼の子を産むだけです」
叔父様 叔母様 パトリック レジーヌは固まってしまった。
「皆様は気になさらないでください。お金だけはくれるみたいなので、服も買えて飢えることもありません。乗馬もできるようになりましたし、火も起こせるようになりました。薪割りも経験しましたし、馬小屋掃除や洗濯もできるのですよ」
「くっ…ううっ」
泣き出したのは子爵だった。
「お、叔父様!?」
私と叔母様は席を立ち、子爵の背中を摩った。
「ここにいなさい。領地内の小さな屋敷に住んでもいい」
「叔父様」
「そうよ。別にミュローノ邸で暮らさなくたっていいわ」
「叔母様」
「あいつが凄んでも、君の居場所を言わないよ」
「パトリック様」
「私は妻を幸せにしようとしない甲斐性無しに塩を撒いてやりますわ」
「レジーヌ様……ううっ」
この世界で家族が出来たみたいで嬉しくて、緊張の糸が切れてしまった。
涙が止まらぬ私の口にマリーがお菓子を入れた。
「……」
涙はピタッ止まり、モグモグと口を動かした。
ヤンヌ一家は唖然としていたが、以前マリーに本来の私の話をそれとなくしたうちの一つを覚えていてやってくれたのだ。
“泣き出すと母が口の中にお菓子を入れるの。何故か泣き止むのよ”
「本当にこれを?」
「大丈夫。もし叔父様が文句を言ったら私が作ったことにするから」
鶏の胸肉を柔らかくするために調味料を入れた水に浸けておいた。料理人達はこの方法を知らないから抵抗があった。
だけど…
「本当だ!胸肉がしっとり柔らかい!」
焼いてソースを絡めた鶏肉の味見をしてもらった。
カロリーを抑えて筋肉を付けてもらわないといけないので、最近は子爵に出す食事にも口を出していた。
今までは怪我を負う前のメニューを出していたが、子爵が食欲が無いと少食になったことで肥満にはならずに済んだ。だが筋肉は落ちている。
今は やる気とリハビリという運動をすることで食欲が戻っているので筋肉を付けて骨にもいい食材を選んで 食事を作ってもらっている。
子爵をその気にさせて以来 子爵邸の多方面で指示を出していた。子爵が“言い出したのはアンジェリーナなのだからダンスが踊れるようになるまで滞在しろ”と言ったせいだ。
お陰ですっかり馴染んでしまい、今は滞在3ヶ月になる。
王都のミュローノ侯爵邸には連絡を入れて、オーダーしていた服や靴は纏めてこっちに送ってもらった。
あまりにも長い滞在で、私が迷惑をかけていると思ったのだろう。ローランドが来たいと叔母様に手紙を送ってきたけど、“来るな”と遠回しに手紙を書いてローランドに返事をしたらしい。
甥っ子だよね?
ワイドパンツは最初 驚かれたが、今では使用人達も見慣れてきたようだ。
滞在中、私も成長した。叔母様がダンスの教師を雇ってくれて簡単なものなら踊れるようになった。
引き続きラウル先生にも乗馬を教わったので もう1人乗りできる。
子爵がもっと回復したら遠乗りをしようと約束した。
子爵は歩けるようになると叔母様と私を連れ回して、知人や友人や親類のパーティに参加した。
私のことを知っている人もいて驚いていたけど、新たなアンジェリーナに直ぐに順応してくれた。
子爵邸に遊びに来る人が増えて、賑やかになった。
「え!ローランドの!?」
王都で暮らしていた叔母様達の息子パトリックと妻レジーヌが帰省して、私の姿を見て驚いていた。
「そうよ。式で会ったでしょう」
「確かに…でも雰囲気がまるで違う」
「記憶がないのよ。今までのアンジェリーナは忘れてリーナと仲良くしてね。リーナはヤンヌ子爵家の恩人なのだから」
叔母様が私が子爵家で何をしたか説明してくれた。
「ミュローノ夫人。父がお世話になりました。子爵家全体が明るくなりました」
「叔父様の努力の賜物です」
「ミュローノ夫人はいつまで滞在を?」
「アンジェリーナとお呼びください。
そろそろ帰ろうと思っているのですが、」
「何を言うんだ。リーナは子爵邸にいなさい」
「父上、何を言っているのですか」
「聞けばリーナは嫌いな男と婚姻して義務を押し付けられているのに、その夫は呑気に愛人と旅行を楽しんでいるのだぞ!」
「愛人と旅行ですか」
今まで大人しく聞き役に徹していたお嫁さんのレジーヌが反応した。
「この屋敷にやってきて、自分がミュローノ侯爵家の嫁のようなツラをして、何とも不愉快な女だった」
「…アンジェリーナ様、よろしいのですか?」
「え?」
「そんな女に夫を奪われて」
「ん~聞いたところによると私もローランドもかなり嫌い合っていたようで、私と会うのは基本的に月に一度の10分から20分程度だったと聞きました。記憶を失くして目覚めた時は既に恋人と旅行へ行った後でしたし、その後は一度すれ違っただけで挨拶しかしておりません。ですから思い入れなど全くありません。
私は記憶がありませんから、貴族とか夫人の座とかもピンときません。
ただ王命に逆らうことはできないと聞きました。
私は婚姻を維持して子を成すために月に一度ローランドと十数分過ごすことからは逃れられません。
ですが子さえ産んでしまえば共に暮らす必要はありません。子の親権も養育権も持たないようなので彼の子を産むだけです」
叔父様 叔母様 パトリック レジーヌは固まってしまった。
「皆様は気になさらないでください。お金だけはくれるみたいなので、服も買えて飢えることもありません。乗馬もできるようになりましたし、火も起こせるようになりました。薪割りも経験しましたし、馬小屋掃除や洗濯もできるのですよ」
「くっ…ううっ」
泣き出したのは子爵だった。
「お、叔父様!?」
私と叔母様は席を立ち、子爵の背中を摩った。
「ここにいなさい。領地内の小さな屋敷に住んでもいい」
「叔父様」
「そうよ。別にミュローノ邸で暮らさなくたっていいわ」
「叔母様」
「あいつが凄んでも、君の居場所を言わないよ」
「パトリック様」
「私は妻を幸せにしようとしない甲斐性無しに塩を撒いてやりますわ」
「レジーヌ様……ううっ」
この世界で家族が出来たみたいで嬉しくて、緊張の糸が切れてしまった。
涙が止まらぬ私の口にマリーがお菓子を入れた。
「……」
涙はピタッ止まり、モグモグと口を動かした。
ヤンヌ一家は唖然としていたが、以前マリーに本来の私の話をそれとなくしたうちの一つを覚えていてやってくれたのだ。
“泣き出すと母が口の中にお菓子を入れるの。何故か泣き止むのよ”
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