【完結】王命婚により月に一度閨事を受け入れる妻になっていました

ユユ

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マリーの支え

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 話し終えると、


「もはや別人ね」

「あのアンジェリーナがなぁ。
記憶が無いのは怪我が要因ではないのだな?」

「はい。傷など何もありませんでした」

「何かショックなことでもあったのかしら」

「ストレスかもしれないな」

「パーティに参加させて大丈夫かしら」

「陛下からの指示だから参加させないわけにはいかない。王太子殿下とレアーヌ王女の前でしっかりと仲の良い夫婦を見せて欲しいそうだ。できるか?」

「まだノア王太子はアンジェリーナを諦めていないのですね」

「そうなんだ。だからローランドには頑張って欲しい。アンジェリーナはノア王太子殿下の提案は全て断るように」

「提案?」

「王命以降、王太子は陛下に王命の終了を度々願い出ている。未だにだ。王女の輿入れは決まっているし、王女がアンジェリーナを排除したいと思えば、今後危険が伴ってくる。しっかりと王太子の恋心を砕いて欲しい。分かるな?アンジェリーナ」

「顔、分かるかなぁ」

「やたらキラキラした感じの青年がそうよ」

「ド派手な衣装ってこと?近寄りたくないなぁ」

「そ、そうじゃなくて絵本から飛び出してきたかのような王子様って意味よ」

「ふうん。ところでママとパパは恋愛結婚なの?」

「ど、どうしたのよ急に」

「恋愛婚だ」

「え!? 知りませんでした」

アンジェリーナのママは照れて、パパも少し照れて、イアンは知らなかったのか驚いていた。


この後、私はアンジェリーナのママとドレスを見に行った。



【 イアン・プラジールの視点 】


嫁いでいったアンジェリーナの報告は時々受けていた。犬猿の夫ローランドとは冷え切った仲で、アンジェリーナは部屋に篭り、最低限の義務だけ果たしているという。
夫ローランドの方は婚約しても恋人を作ったり一晩の相手がいたり。それは婚姻後も変わらなかった。
彼がパーティにも恋人を伴うため、その噂がノア王太子殿下の耳にも届き、自身の婚姻が近いにも関わらず 彼は益々アンジェリーナを諦められなかった。


『は?記憶喪失!?』

ある日、妹アンジェリーナの記憶が失くなったと聞かされた。何があってそうなったのか両親は調査を入れるも 何も掴めなかった。

何故かアンジェリーナはローランドの叔母にあたる人の嫁ぎ先であるヤンヌ子爵家の領地に長期滞在をしていた。

『向こうでアンジェリーナが社交をしているようだ。しかも評判がいい。下位貴族と仲良くしているようだ』

信じ難かった。あのアンジェリーナが下位貴族と?

私とアンジェリーナは仲が良いとは言えなかった。
両親にとって子供3人の中で末娘のアンジェリーナが特に可愛かった。確かにアンジェリーナは美人だ。だが性格に難があった。妹は高位貴族しか相手をしなかった。子供の頃も学園でも一貫していた。例え選民意識があったとしても隠すことをしない妹が嫌だった。
何故かメイドのマリーだけは平民であっても側に置き優遇した。特別は彼女だけ。


ついに王太子殿下の婚姻が近付き 王女が来る日が目前になった。
父上はアンジェリーナの身の危険を危惧していた。

『イアン。迎えに行くついでに、ミュローノ侯爵邸の中を見せてもらい、アンジェリーナの部屋に入り待遇を確認して来てくれ』

『はい、父上』



ミュローノ侯爵邸に到着するとアンジェリーナが出迎えた。

“お兄ちゃん”

そんな風に呼ばれたのは妹がかなり幼いとき以来だ。記憶が無いからか?

アンジェリーナの部屋に入り引き出しを開けたりクローゼットを開けたりしていると妹は怒り出した。

無関心だったくせに非常識な干渉をするなと抗議してきた。怒り方も話し方も表情もまるで違う。そして犬猿の仲だったはずのローランドは宥めるようにアンジェリーナの手を握って心配そうに見つめていた。

ローランドの仕打ちは許し難いものだ。子を成すための最低限の行為のときだけ接触し、あとは使用人任せで言葉も交わさず顔も合わせない。女を作りパーティに現れたり旅行へ出掛けていた。
この子の言う通りだ。アンジェリーナは他人の屋敷で独り耐えていたのだ。
記憶が失くなったのは天の恵みかもしれない。

“お父様 お母様”ではなく“パパ ママ”と呼ぶアンジェリーナに両親は嬉しそうだ。


2人をミュローノ邸に送り届けたとき、アンジェリーナと向き合った。

「アンジェリーナ、お前に無関心で置かれた境遇を理解しようともしなかった。悪かった。
嫌ならいつでもプラジール邸に来なさい。王都でも領地でも自由に過ごすといい」

「ありがとう、お兄ちゃん」

ニッコリ微笑む妹の肩を抱き寄せてローランドが威嚇した。

「見張っているからな、ローランド」



プラジール邸に戻り、父上に出迎えのときから部屋の様子まで報告した。

アンジェリーナの部屋は良い部屋ではあるがローランドの部屋とは離れていて、夫婦の部屋は使っていないこと。まともなドレスは3着で、後は以前のアンジェリーナならば着ることが無い服ばかりだったこと。宝石も少なく安価な物が増えていること。
マリーが言うには部屋を移す提案をローランドがしたようだが、(面倒だから)今のままでいいと返答していること、

「アンジェリーナは強がっていたのかもしれません」

「あの子の“大丈夫”をそのまま受け取るのではなかったな」

「マリーがついて行ったことだけが幸いね。マリーだけは どんなときもアンジェリーナの味方をして、代わりに叱られることもあったわね」

「辛い境遇から引き上げた子だったが、優しく強い子に育って良かった」

「出会ったときから優しくて勇敢な子でしたわ」

今日初めて両親がメイドのマリーについてはなしてくれた。

マリーは隣の伯爵領に住む下位貴族がメイドに手を付けて孕ませたときの子だ。
母親は子爵夫人の折檻で苦しみながら死んだ。マリーは夫人やその子供たちから虐められ、使用人からも疎まれていた。

ある日、母上がアンジェリーナを連れて伯爵家の茶会に出向いたとき、伯爵家の分家の子爵一家も来ていた。子爵の息子はアンジェリーナに目を付けて、隙を見て悪戯をしようとした。そこに下女のような姿をしたマリーが飛びかかった。

子爵の息子トリスタンは12歳、マリーは8歳、アンジェリーナは7歳だった。
トリスタンはマリーを振り払いアンジェリーナの服を捲ろうとした。マリーはまたトリスタンに飛びかかり、爪で顔を引っ掻いた。トリスタンは激昂しマリーを蹴り踏み付け続けた。アンジェリーナが髪飾りでトリスタンの背中を刺し、トリスタンがアンジェリーナを払い飛ばしたところで使用人が気付き止めに入った。

母は激昂し、プラジールの騎士から短剣を受け取るとトリスタンを刺そうとしたが、アンジェリーナが母上の服を掴んだ。

『こんな人の皮を被った獣はお父様に任せましょう。それより、私はあの子が欲しいです』

医者が来るまでに使用人達に手当てを受けているマリーを指差した。

『あの子を連れて帰りたいの?』

『だって、彼女の家族は 彼女を大事にしていませんし、野蛮な一家が彼女に何をするか分かりません。あのケガは私を助けようとしてくれたから負わされたのです。彼女にもしものことがあったら悲しいです』

『分かったわ』

母上はトリスタンを捕らえない代わりにマリーを除籍させて連れ帰り、手厚い看護をさせた。
回復したマリーを縁戚の貴族の養女にしようとしたがマリーが使用人としてアンジェリーナの側にいたいと願い出た。

『私は平民です。母も平民でした。もう貴族籍に入りたくありません』

それ以来、マリーはずっとアンジェリーナの側に居続けている。

父上はアンジェリーナの顔と身体の痣や擦り傷を確認し、マリーの見舞いを終えると隣接する伯爵領へ向かった。

伯爵は領地から子爵家を追い出し、立ち入りを禁止した。
そして子爵家からまとまった金を没収してきた。プラジールには端金だ。

『父上、それ、どうなさるのですか』

『マリーの母親は拷問死だ。慰謝料を支払うのは当然だろう。マリーの怪我に対しても支払う義務がある。
マリーが結婚するときに渡そうと思う』

それ以来、プラジール家ではマリーの持参金のために毎月積み立ててきた。
マリーはそのことを知らない。
子供のうちはアンジェリーナの付き添いと勉強をさせた。読み書き、テーブルマナーを終えると 簡単に歴史や数学を学ばせ、淑女教育やダンスも習わせた。
もし、婚姻相手が貴族でも大丈夫なように、またうちか別の屋敷で侍女になれるように。

侯爵令嬢の専属メイドなのに一般メイドと同じ給金しか渡していないがマリーは文句を言わない。
差額を積み立てていることも知らせていない。

マリーがプラジール家で働くことになった経緯を聞いて、アンジェリーナは下位貴族だから差別するのではなくて、下位貴族に気に障る者達が多いから避けていたのかもしれない。実際に昔 子爵家の子息に襲われたのだから。

「父上、マリーの昇給をお願いします」


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