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第三章 新たなる展開?

3ー24 広域防空体制と航空爆弾

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 1941年晩秋、吉崎は海軍及び陸軍に対して広域防空体制の構築を勧めた。
 取り敢えず中核となるのは、無人飛行船型偵察機クー1001による拠点配備による広域監視体制の確立であった。

 朝鮮半島上空に1機、満州上空に2機、台湾上空に1機、北海道、樺太及び千島列島に3機、太平洋方面に8機の、合わせて15機を常時滞空させるために28機のクー1001を展開し、防空本部及び各航空基地等との通信システムを統合したのであった。
 闇魔法を行使しての売込みにより、1942年初春には予算承認が下りたのだった。

 吉崎は同時に航空母艦からも飛び立つことのできる高々度無人偵察機テー02及び早期警戒機レー331の配備も推し進めた。
 少なくとも航空母艦を中核とする機動部隊の戦略には不可欠な「眼」を配備することにしたのである。
 
 理由の一つは米国における新型航空機の展開配備が1942年から早まるものと見ていたからである。
 依田隆弘の時間線では、1942年から米軍航空機の刷新が始まる。

 総合性能では間違いなくル―101の方が上だが、徐々に米軍機の地力が上昇する頃合いなのだ。
 格闘戦では負けないかもしれないが、一方で物量に押されると、防衛ラインを抜かれる可能性が高い。

 その為には要撃機としては、侵入して来る敵機を確実に捕捉し、一撃で撃ち落とす性能が必要になって来るだろう。
 その為に操縦性能は据え置いたまま、エンジン馬力を向上させて最大速度を上げるとともに、攻撃用兵器の開発をしなければならなかった。

 これと同時に捕捉率を上げるために広域にわたる空域哨戒が必須となったのである。

 ◇◇◇◇
 
 俺は、高山浩二海軍大尉。
 海軍のパイロットなんだが、一般には秘匿されている、一機艦の空母「若狭」に配属されている。

 元々は96中攻のパイロットだったんだが、選抜されて若狭の乗員になった。
 空母では珍しい双発機の早期警戒機レー331を飛ばすことになっちまった。

 新型空母はでかい。
 斜め甲板の着陸甲板だけでも240mの長さがあるんだが、レー331の着艦については、場合により、320mある全通甲板を使わせてもらえる。

 レー331は双発機なんだが、俺が乗っていた九六式陸上攻撃機二一型に比べると、全幅はあまり変わらないが全長が1m余り長いかな。
 特徴的なのは機体上部にレーダー用の円盤を乗っけていることだ。

 従って、高さが96中攻に比べると2mほど高いんだ。
 96中攻は全備重量が8トンもあるんだが、レー331は爆弾も積んでいないのに10トンを超える。

 そうしてエンジンは、96中攻が千馬力程度のエンジン二基なのに比べて、4800馬力のエンジン2基を搭載している。
 だから、こいつは戦闘機並みの速力が出る双発機なんだ。

 乗員5名を乗せて、巡航速力は270ノットを超えるし、航続距離は2000海里を超える性能を持っている。
 最大速力は631キロなんで、まぁ逃げ足も速い方だ。

 そうして最大の特徴は、こいつは高々度を飛べる機体ということだ。
 成層圏と言われる1万m以上の高さからの偵察が主任務なんだ。

 最大上昇限度は1万5400mで、この高度では空気が薄くてそのままでは人は死ぬ。
 だから機内は与圧が為されていて、搭乗員は酸素マスクもつけずとも動けることになる。

 逆に敵に遭遇した場合は逃げるかそれとも敵が上昇できない高度まであがってやり過ごすことになる。
 ただしこの方法は多用すると敵に対応されるというので、早期発見、早期回避がモットーでもある。

 パイロットは二名、俺と相方の矢島健三海軍中尉が副操縦士になっている。
 このほかに俺の機に乗り込むのは、高雄たかお信康のぶやす通信士官、大野おおの源次郎げんじろう情報分析士官、高坂こうさか雄一ゆういち戦術指揮支援士官の三名の海軍中尉が乗っている。

 パイロット以外の三人は、いずれも新たな発想の元に作られた航空機搭乗員の職だ。
 高雄信康通信士官は通信担当だが、母艦である「若狭」との交信だけでなく、全ての周波帯における無線監視を行っているし、あちらこちらにある無人飛行船偵察機との情報交信もやっている。

 大野源次郎情報分析士官は、機体上部にあるレーダーからの情報分析がメインだが、無人飛行船型偵察機等からの情報データに基づく分析も併せて行っている。
 情報分析士官は、この搭乗機に集まる情報の全てを分析・吟味して、有用な情報を抜き出す仕事だ。

 一人の人間ではとても処理しきれないような情報量なんだが、「電子頭脳」と呼ばれる奴が情報分析士官の手助けをしている。
 戦術指揮支援士官はもっと特異な職域だろうな。

 高坂雄一戦術指揮支援士官は、そうして得られた各種情報をもとにシミュレーターで可能な戦術を試し、場合により戦闘機や爆撃機等の飛行戦隊に助言を与える役目を担っている。
 航空戦隊ごとに適切な攻撃・防護体制を組むための情報支援を行い、必要とあれば飛行隊長に戦闘指揮もできる権限を有しているんだ。

 尤も、俺たちパイロットを含めて、扱う機材はこれまでの機器とは全く違うものだ。
 だから俺たち全員が、千葉の片田舎にある吉崎航空機製作所の片隅で三か月以上にわたってシミュレーション訓練を行い、小笠原の秘密基地に移ってからシミュレーションと実機訓練をさんざんぱらやらされてようやく若狭へ配備になった。

 今日も今日とて、訓練飛行のために今まさに「若狭」を発艦しようとしている。
 何度やっても慣れないのが、カタパルトによる発艦だ。

 重さ10トンを超える双発機が、大砲のように空母の艦首から蒸気圧カタパルトで撃ち出されるんだ。
 100m足らずの距離を2秒ほどで時速280Km(秒速約78m)まで加速させられるんだが、瞬間的な加速度は6G近くになるはずだ。

 下手に口を開けていたら舌をかんだりすることになりかねん。
 パイロットシートにググっと押さえつけられる感触は、無事にフライトできると信じてはいても不安になるもんだ。

 まぁ、一旦飛び上がってしまえば、あとは俺の思いのままに愛機を動かせるわけだが、レー331については「連梟れんきょう」という愛称がつけられている。
 俺の愛機の通信呼称は「ワレ01」だな。

 最初の「ワ」が若狭のわ、次の「レ」が連梟のれであり、レー331のれでもあるな。
 最後の「01」は、若狭に連梟が二機搭載されているのでその区別のための番号だ。

 現在「若狭」は小笠原の南200キロの海上にあり、この周辺には余り通行船はいない。
 しかしながらどこに監視の目があるかはわからないので。発艦するとすぐに、俺は愛機を1万2000mの高度まで上昇させる。

 この間、乗員である情報士官たちは最新の情報装置と取っ組み合いをして、ありとあらゆる情報を引っ張り出そうとしている。
 因みに俺の相方である副操縦士は、パイロットの支援が主任務だが、1万2000mの定常高度に達すると、情報士官たちの手伝いも始める。

 彼らのところに入る情報は、俺の愛機を飛行させる場合にも重要な指針情報になるんだ。
 また、状況にもよるが水上艦や潜水艦に助言を与えることもできる。

 戦時になれば、中佐又は大佐クラスの指揮官が搭乗して高空から指揮を取る場合もあることになっている。
 まぁ、今のところ戦争にはなっていないから大丈夫なんだが、俺の愛機はレーダーにめっぽう強い。

 レーダーで海域と上空を探査して敵を見つけるのが得意なわけだが、同時に敵のレーダーに対しては非常に映りにくい素材からできている。
 敵味方識別装置が付いているので味方の艦や基地には俺の機の位置情報がわかるようになっているんだが、敵味方識別装置の無いレーダーには物凄く小さい反応しか捕らえられず、ノイズと判断されることが多い。

 但し、ウチが使うレーダー波は敵にも探知される恐れがある。
 従って連続した使用はできるだけ控えているし、20通りもの異なる周波数で探索できるようにもなっている。

 ◇◇◇◇

< 吉崎視点 >

 通常水平爆撃を行う場合は、高度が高いと狙いがそれやすいので高度を低くとった方がベターである。
 特に通常爆弾については、一般的な形では頭部が丸く尾部に方向舵を持っている場合が多い。

 これは方向舵というより安定板であるのだが、横風の影響を受けやすくどうしても風で流されてしまうのだ。
 例えば千m上空で落とした爆弾は、およそ14秒程度で地上に自然落下することになる。

 この際に横風5mの風が吹いていれば、爆弾は単純計算では70mも風下に落ちる(実際には空気抵抗もあって異なる数値になる)ことになるわけである。
 比較的小さな軍事目標に向けて落とすには非常に効率が悪いことになる。

 しかしながら、一方で対空陣地が近い場所では飛行高度が低ければ対空砲が狙いをつけやすくなるために、爆撃機の事情としては余り高度を下げられないことになる。
 但し、高速かつ超低空(例えば高度20m程度)での侵入の場合は、対空砲側が狙いをつけられなくなるのでそうした事情を無視できるのだが、同時に地上の起伏や建物の高低により衝突や墜落の危険性も増すことになるし、同時に高速での爆弾投下は爆撃機側でも目標への狙いをつけにくくなる。

 対空砲についても、口径75ミリを超える砲については、10000mを超える射撃能力を有している場合もあるが、それ以下の対空砲では高度が4000~6000m程度を想定している場合が多く、特に40ミリ以下の口径の対空機銃では高度4000mを飛ぶ機体を落とすことはほぼ不可能である。
 このような事情を踏まえて、吉崎航空機製作所で製造した特殊爆弾は、二種類ある。

 一つは厚いバイタルパートを有する戦艦等を対象にした対艦用の追尾爆弾であり、これは爆弾頂部に電子カメラを搭載し、狙いをつけた目標に向けて尾部の方向舵を微調整しながら落下する代物である。
 実地検証においては、速力50ノットで疾走する海上目標に対して、高度1万mから投下して数m以内の誤差で衝突させることができる優れものである。

 単純に言って魚雷艇程度の大きさの艦艇であれば、間違いなく至近弾となるだろう。
 しかも形状が先端部に行くに従って鋭利に先細っているために、高度1万5000mから投下した場合の終末速度は音速の1.5倍程度になる。

 通常の爆弾を投下した場合、目標の地上付近では爆弾の風切り音が聞こえるのだが、この爆弾は高度6000mを超えた高空から投下した場合、爆弾の風切り音が地上に到達する前に着弾する。
 つまりは、地上目標物に対してその飛来を予期させないことになる。

 音速を超えて着弾した爆弾は、最初にプラズマ噴射で標的の装甲を溶融し、艦内部に入り込んで爆発する。
 その距離はおよそ7m程度にしているので、装甲が薄く、甲板層の少ない艦艇については、甲板から艦底までぶち抜いて海中で爆発することになる。

 一方で陸上のトーチカや防空壕に対しては、地表から7mの場所まで突き進んで爆発し大きな被害をもたらすことになる。
 なお別途に遅延信管をつけ、大深度地下構造物攻撃用の爆弾としても使えるが一般的ではない。

 この追尾爆弾は500キログラムの重量である五十番で、従来の爆弾で換算すると1500キロ爆弾相当の破壊力を有する。
 また、250キログラムの重量である二十五番で、略800キロ爆弾に相当する破壊力がある。

 いずれも搭載航空機の最高上昇限度からの爆弾投下が可能である。
 今一つは、小型爆弾を内包したクラスター爆弾である。

 この爆弾は、重量で約5キログラムの子爆弾を多数内包し、目標地点上空で爆発飛散し、半径200m~400m程度の範囲に子爆弾を降らせる代物である。
 子爆弾は衝突時に爆発するが、概ね15キログラムの高性能爆薬程度の破壊力があるため、対人兵器としてはかなり悲惨な結果をもたらす兵器である。

 500キロ爆弾で60個、250キロ爆弾で30個の子爆弾を内包している。
 親爆弾の破裂は内蔵レーダーにより、高度が150mで爆散する様になっている。

 主として小型艦艇への攻撃、若しくは大型艦の対空砲への攻撃手段として使え、簡易な追尾装置を持っているために、8千m以上の高度から400m四方程度の狙った範囲内に爆弾を投下できる性能がある。
 爆撃機の照準装置は、爆弾と連動しており、照準することにより自動で標的を追尾しうることになる。

 爆撃機側の何らかの事情で最適の投下位置から外れたような場合、爆弾投下は自動的にキャンセルされる仕組みになっている。
 この二種類の新型爆弾は、どうしても狙いをつける必要があるために、一人乗りの戦闘機である蒼電及び蒼電改には使用させず、二人乗りの新型攻撃機で使うようになっている。

 無人偵察機は、軽空母までが運用できるステルス偵察機であり、将来的には小型の対空ミサイル二本を搭載できる。
 但し、遠隔操縦のためのパイロット一名とセンサー運用員1名が必要であり、なおかつ、空母で運用する場合、空母上空に通信用ドローンを上げておく必要がある。

 通信用ドローンは、ステルス偵察機よりも小型であり、離着陸以外は自動で空母周辺上空を巡回飛行していることができる。
 因みに通信用ドローンは最大上昇限度が1万5000m、ステルス偵察機は高度7000mでの運用を原則としているので、概ね空母から600キロ前後の距離まで運用は可能である。

 それ以上の距離で運用する場合は、複数のステルス偵察機を運用するか、若しくは衛星通信等を使用しなければなならないだろう。
 1942年夏の時点では人工衛星の存在は陸海軍にも秘匿している状況なので、衛星通信の代わりに通信専用飛行船の通信システムの一部を使うことになるだろう。

 飛行船タイプの無人偵察機は、海外基地にて二機乃至三機が運用されているほか、基幹警戒システムとして日本上空の太平洋側に8機、日本海側に3機、満州上空に2機、台湾上空に2機を常時配備している。
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