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第3章・勘違いされたのは最も公平で善意の貴族令嬢。

01高等部二学年のレイナ・ローグ。

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 私、つまりレイナ・ローグはローグ侯爵家の、いわゆる侯爵令嬢です。

 歳は十七。
 王都にある貴族や王家の子息令嬢の集う学園に、私も例に漏れず通っています。

 高等部二学年。
 学業成績は真ん中より少し上。
 運動は得意ではありませんが授業にはついていける程度。
 趣味は紅茶とピアノを少々。
 ローグ侯爵家自体も昨今は特にこれといってわかりやすい功績がある家でもありません。

 学園においてはかなりニュートラルな部類に入る、学生です。

 もちろん世の中的には貴族令嬢であり、なにより侯爵家という身分が決して低くもないことは知っています。

 あくまでも学園内において、普通のティーンエイジャーなのです。

 だからこういう状況は非常に困る。

「どうして! 平民と貴族で平等な学習の機会を与えるのがこの学園の理念でしょ!」

「お、落ち着いてください。仰ることはわかりますが、学園規則ですので――」

 食堂近くの廊下で一人の女生徒が激昂げきこうし声を荒らげ、荒げられたもう一人の女生徒がたしなめている。

 あらぁ……、何やら揉め事のようです。

 一学年下の……、あ、怒っている子は特別修学制度、いわゆる平民枠の子ですね。もう一人は顔見知り程度ですが面識のある子です。

 数年前から学園は、貴族の子息令嬢だけでなく平民にも良質な学習機会を与えるために設けられた制度です。
 国内の一般の学校から成績優秀者に声をかけ、試験や面接の後に高等部からの編入が行える。
 実際平民枠の卒業生から商会を立ち上げた者や、爵位を持つ者の秘書として政界にたずさわる者も出ていたりします。

 賛否はあるけど少なくとも私個人としてはこの制度には大いに賛成派の人間です。

 まあ兎にも角にも私は食堂に入りたいのですが、激しい言い合いの横を通るのが少し怖い。私は根本的に小心者なのです。
 どうしよう、頼りになる執事のディーンは同行していないのに……。

「食堂の利用時間まで制限される言われはない。私たちの方が時間も短いし、利用時間を過ぎたら入ることすら許されないのは不平等だと言いたいの。カリキュラムの差もあるし、こういったルールで差を作るのは不平等でしょ」

 平民枠の女生徒は、なかなかな声量で主張する。

 不平等……、まあ不平等か。
 時間という数字だけを切り取ればそれはそうなのですが……。

 単純に特別就学制度の生徒と一般枠の生徒ではカリキュラムの差があります。貴族がこの学園に入学するのは基本的に小等部からで遅くとも中等部からです。
 礼儀作法や基礎的な政治の知識、そういったものは中等部までに習得し終えています。
 高等部からの平民枠生徒はそれらの授業を受けなくてはならないので差が生まれる。

 さらに、貴族の子息令嬢は貴族仕事の練習する時間も必要なので全く同じカリキュラムで一括ひとくくりにすることは出来ないのです。

 まあ小等部から入学が出来ない時点で平等ではないのは事実ですが。

「でも規則ですので……あ、そのお話は後ほど一緒に生徒会へ進言して調査をしてもらいましょう! 調査結果に応じて食堂の利用時間を伸ばしてもらうように――」

「そんなことじゃ何も変わらない! 調査するのも判断するのも貴族でしょ! 私たちのためにそこまで動くことはない! なのよ!」

 たしなめる女生徒の言葉に、平民枠の女生徒は興奮した様子で返す。

 
 その言葉に。

「ちょっとよろしくて」

 私は反応してしまう。

「……ごきげんよう。私は高等部二学年のレイナ・ローグです。よしなに」

 後輩たちの気まずい視線にとりあえず挨拶をする。

 あー、声かけちゃいました……。
 まあでも仕方ない、私がそれを聞いてしまった以上介入するしかないのです。

「貴女は今、特別修学制度は不公平であるととなえ、あまつさえ生徒会や学園の公平性にとなえている」

 私は落ち着いて女生徒の言い分をまとめて。

「間違えていますよ。貴女は」

 こうから否定する。
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