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第1章・辺境へ追放されたのはメインヒロイン。
15しがらみが届かない場所での生活。
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「でも、絵画コンクールには応募できなかった。まあ僕が描けたのは城の内装だけだったからね、窓の位置とか私室とか廊下の長さとか……もれなく国家機密に触れるものしか描けなかったから当然、側仕えや護衛の者たちによる検閲で却下された」
笑い話のような空気で笑えない話を続ける。
これはうっかり話なんかじゃなくて、自分の住んでいる場所を絵に描くことすら出来ないほどに徹底して外界から隔絶されているということだ。
恐ろしい、これは怖い話だ。
「これは仕方ないことだし、その年のコンクールは僕らとそれほど年頃の変わらない天才芸術家の少年が国王陛下賞を賜ったらしいし、応募できていたところで僕のような素人じゃどっちにしろ入選も出来なかっただろう」
穏やかな声で語りは続く。
これはジョーヌルートの話だ。
ジョーヌはこの後、王都で一番の画家として様々な作品を発表して富や名声を得るのだが。
事故で利き手を負傷して絵が描けなくなってしまい、今までの貯えで荒れた生活をしていたところにメリィベルと出会う……。まあこの世界では私は会ってないんだけど、メリィベルと出会わなかった世界線のifノベライズでは攻略キャラ全員なんだかんだで達者に生きているので別に救済がないわけではない。念の為。
「そこから僕は時々、何故か目眩や息切れを起こすようになって食事も戻してしまうようになって、過呼吸で動けなくなり二度ほど気を失った」
さらに彼は症状について語る。
何故か…………ね。
今は少し違うんだろうけど、彼は自身のストレスを自覚すら出来ていなかったんだ。
王家だろうと子供は子供、物心ついたころからの隔離生活が彼にとっての通常で常識で世界だったとしても少しずつ異常さや異質さを理解してしまう。
特に彼は弟や妹の生活を聞かされている、大義によって隔絶を矯正されていてもストレスは溜まるし精神的に疲弊もする。
それらはやがて顕著に、身体に表れる。
「城の中の医師だけではどうしようもなくなり、急遽この国で最先端医療を研究しているローゼンバーグ公爵を専属医として迎えた」
彼の語りは続く。
ローゼンバーグ公爵……ああそっか、ロートルートで最近父親が忙しくて話すことが出来ていないってのはここから来ていたのか。思わぬ繋がりをみせるのね。
それは息子を蔑ろにもする……、相手は王家どころか第一王子だ。仕方ない。
「でも、僕は良くならなかった。ローゼンバーグ公爵は原因を特定出来てはいたらしいけど、公爵では手の施しようがなかったんだ」
語りは続く。
まあ……、そりゃあ公爵じゃあどうしようも出来ない。
心因性の呼吸器疾患…………、治すなら精神的な不安と向き合わなくてはならないが。
その原因は、王家の思惑による隔離の他にない。
五爵最高位の公爵とはいえ、原因を取り除くことは不可能だ。
「焦りはどんどん強くなった、朝起きて同じ景色を見るだけで息が出来なくなった。投薬で発作を抑えていたけど、限界は近かった」
続けてさらに症状について語る。
投薬による抑制、恐らく呼吸器に対するものではなくて精神安定剤のようなものだと思う。
でもこの世界の薬学だと、その手の薬は極端に眠くなったり虚脱感を伴うものが多い。
ローゼンバーグ公爵は名医だから副作用はかなり抑えて、用法用量は抜かりないとは思うけど……彼にとって何も出来ない時間がさらに増えるというのは……症状の悪化に繋がる。
「そんな中、ついに終わったんだ。一人の軍人によって国を仇なす貴族の掃討が」
彼は少し震える声で、そう言った。
アダムスキーによる粛清の終わりは、時系列的にいえばロートルートの毒殺冤罪裁判より後だ。
ifノベライズでは最後の戦いで大怪我を負って、そのままローグ侯爵家によって身柄を保護される。そのままローグ侯爵令嬢と恋仲になるみたいな……時系列的に多分私はもうこの辺境の地に追放されている時だ。
「それは僕の隔離の終わりを意味していた。故にトントン拍子で僕の復帰式典の話が進んだ…………でも、僕はその時にはもう薬を飲まなくてはまともに人と話すことすら出来なくなっていた」
少し低い声で語りは続く。
そんな状態で復帰式典……、プレッシャーが強すぎる。無茶だ。
「そこでローゼンバーグ公爵が無理を通して、僕の療養を提案した。辺境の地で王家のしがらみが届かない場所での生活を、提案したんだ」
彼は語りの締めくくりに、柔らかな口調でそう言った。
笑い話のような空気で笑えない話を続ける。
これはうっかり話なんかじゃなくて、自分の住んでいる場所を絵に描くことすら出来ないほどに徹底して外界から隔絶されているということだ。
恐ろしい、これは怖い話だ。
「これは仕方ないことだし、その年のコンクールは僕らとそれほど年頃の変わらない天才芸術家の少年が国王陛下賞を賜ったらしいし、応募できていたところで僕のような素人じゃどっちにしろ入選も出来なかっただろう」
穏やかな声で語りは続く。
これはジョーヌルートの話だ。
ジョーヌはこの後、王都で一番の画家として様々な作品を発表して富や名声を得るのだが。
事故で利き手を負傷して絵が描けなくなってしまい、今までの貯えで荒れた生活をしていたところにメリィベルと出会う……。まあこの世界では私は会ってないんだけど、メリィベルと出会わなかった世界線のifノベライズでは攻略キャラ全員なんだかんだで達者に生きているので別に救済がないわけではない。念の為。
「そこから僕は時々、何故か目眩や息切れを起こすようになって食事も戻してしまうようになって、過呼吸で動けなくなり二度ほど気を失った」
さらに彼は症状について語る。
何故か…………ね。
今は少し違うんだろうけど、彼は自身のストレスを自覚すら出来ていなかったんだ。
王家だろうと子供は子供、物心ついたころからの隔離生活が彼にとっての通常で常識で世界だったとしても少しずつ異常さや異質さを理解してしまう。
特に彼は弟や妹の生活を聞かされている、大義によって隔絶を矯正されていてもストレスは溜まるし精神的に疲弊もする。
それらはやがて顕著に、身体に表れる。
「城の中の医師だけではどうしようもなくなり、急遽この国で最先端医療を研究しているローゼンバーグ公爵を専属医として迎えた」
彼の語りは続く。
ローゼンバーグ公爵……ああそっか、ロートルートで最近父親が忙しくて話すことが出来ていないってのはここから来ていたのか。思わぬ繋がりをみせるのね。
それは息子を蔑ろにもする……、相手は王家どころか第一王子だ。仕方ない。
「でも、僕は良くならなかった。ローゼンバーグ公爵は原因を特定出来てはいたらしいけど、公爵では手の施しようがなかったんだ」
語りは続く。
まあ……、そりゃあ公爵じゃあどうしようも出来ない。
心因性の呼吸器疾患…………、治すなら精神的な不安と向き合わなくてはならないが。
その原因は、王家の思惑による隔離の他にない。
五爵最高位の公爵とはいえ、原因を取り除くことは不可能だ。
「焦りはどんどん強くなった、朝起きて同じ景色を見るだけで息が出来なくなった。投薬で発作を抑えていたけど、限界は近かった」
続けてさらに症状について語る。
投薬による抑制、恐らく呼吸器に対するものではなくて精神安定剤のようなものだと思う。
でもこの世界の薬学だと、その手の薬は極端に眠くなったり虚脱感を伴うものが多い。
ローゼンバーグ公爵は名医だから副作用はかなり抑えて、用法用量は抜かりないとは思うけど……彼にとって何も出来ない時間がさらに増えるというのは……症状の悪化に繋がる。
「そんな中、ついに終わったんだ。一人の軍人によって国を仇なす貴族の掃討が」
彼は少し震える声で、そう言った。
アダムスキーによる粛清の終わりは、時系列的にいえばロートルートの毒殺冤罪裁判より後だ。
ifノベライズでは最後の戦いで大怪我を負って、そのままローグ侯爵家によって身柄を保護される。そのままローグ侯爵令嬢と恋仲になるみたいな……時系列的に多分私はもうこの辺境の地に追放されている時だ。
「それは僕の隔離の終わりを意味していた。故にトントン拍子で僕の復帰式典の話が進んだ…………でも、僕はその時にはもう薬を飲まなくてはまともに人と話すことすら出来なくなっていた」
少し低い声で語りは続く。
そんな状態で復帰式典……、プレッシャーが強すぎる。無茶だ。
「そこでローゼンバーグ公爵が無理を通して、僕の療養を提案した。辺境の地で王家のしがらみが届かない場所での生活を、提案したんだ」
彼は語りの締めくくりに、柔らかな口調でそう言った。
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