春の明日になりたい

はる

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海に行こう

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クレハはハルを自宅へと連れて帰り、傷の手当をし、ベッドに連れて行った。

クレハのベッドで寝るのは、先日熱を出した時以来だった。

布団の柔らかさがクレハの優しさに似ているような気がして、寝具から香るクレハの匂いに安心して、ハルはすぐに眠りについた。

その間もクレハはハルの手を握り、愛おしそうに寝顔を眺めていた。

そうして、ハルが目を覚したのは朝方4時頃だった。

「ハル、おはよう。」

ハルは声のする方を向き、眠い目を擦った。

クレハがじっとこちらを見ている事に気付いた。

「…お…ぅ…」

「ハル、おはようにはおはようでしょって前も言っただろ?」

「う…おはよう…」

起き抜けにその笑顔は眩しすぎて、やっぱりハルは目を逸らしてしまった。

「クレハ…ずっと起きてたのか?」

「まぁね。可愛い寝顔を眺めていたら時間なんて気にならなかったよ。」

「ねが…ッ…やめろよ、そういうの。」

寝顔を見られていた恥ずかしさにハルは顔を赤らめる。

涎とか垂らしてなかったかな、と変な心配をしてしまった。

「お、いい時間だな。」

クレハは時計を見て言った。

「何がいい時間なんだ?」

クレハはハルの質問には答えずに、ふっと笑って言った。

「今から海に行かないか?」

「は…?海…?」

「前に言っただろ。海を見てみたいって」

「あ…」

クレハと初めて会った時。

瓦礫に閉じ込められていた時に交わした何気ない会話。

あんな何気ない会話を覚えてくれていたのかと思うと、ハルは嬉しい気持ちになった。

「どうする?まだ体が辛かったら無理しなくてもいいよ。」

「…行く。」

「平気か?」

「しつこいな、誘ったのはクレハだろ。 」

ハルの相変わらずの憎まれ口にクレハは「平気そうだな」と笑った。


クレハのバイクの後ろに乗せてもらい、薄暗い朝の街を走った。

夏から秋への季節の変わり目の風がハルの頬を切る。

薄汚れた街を出て国道に乗る。

見たことの無い景色にハルの胸は踊った。

「あのさ、ハル。」

信号待ち。

クレハが前を向いたままハルを呼びかけた。

「何?」

「俺は孤児だったんだ。」

「え?」

突然打ち明けられた話にハルは驚く。

クレハは前を向いたまま話を続けた。

「多分だけど、組織に入ったきっかけはハルと同じだよ。あの時俺は10歳くらいだったかな。」

ポツポツ話し始めるクレハの背中を見つめながら、ハルは黙って耳を傾けた。

「ハルに出会って、ハルを知って、まるで昔の自分を見ているようだったよ。人を信用しない目。俺に似ていた。だから気になっていた。ハルのことが気になって、ハルのことが放っておけなくなって、ハルのことが頭から離れなくなって、ハルのために何かをしたいと思うようになっていた。」

「クレハ…」

「最初に会った時、連絡先を聞いておけばよかったって後悔したよ。まぁ結局また会えたからいいんだけどさ。これが運命ってやつかな?なんてな。お、青になった。」

信号が変わり、クレハはバイクを走らせた。

ハルは言葉を発するタイミングを逸してしまったが、妙に早口なクレハが何だか可愛く感じた。

ハルは何も言わずにそっとクレハの腹に手を回し、背中にそっと頬をよせた。

クレハのタバコの香りを仄かに感じた。

クレハが何か言っていたような気がしたが、エンジンの音にかき消されて聞こえなかった。
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