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永遠の一瞬(挿絵あり)
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クレハは海岸近くにバイクを停めた。
ハルは初めての潮の香りに驚く。
「なんか、しょっぱい匂いがする。」
「これが海の匂いだよ、ハル。」
「海の匂い…」
季節の変わり目の風が、海の匂いを運んでくる。
初めて来たはずなのに、ハルはどこか懐かしいような気持ちになった。
「おっと時間だ。ハル、海岸まで走るぞ!」
クレハはハルの手を掴んで走り出した。
「わっ、おい…っ」
ハルは、驚きながらもクレハに合わせて走った。
クレハの大きな手がハルの手を包み込み、クレハの大きな背中がハルの目の前を塞いだ。
ハルは、このまま繋いだ手の感触を忘れたくなくて、クレハの手を強く握り返した。
海辺に着くと、クレハは言った。
「ほら、見て。」
クレハに言われて、ハルは顔を上げた。
「わ…」
ハルは思わず声をあげた。
そこには、エメラルドグリーンの海が広がっていた。
そして、今まさに登り始めた朝日が、キラキラと海をオレンジ色に照らしていた。
「これをハルに見せたかったんだよ。」
クレハは言った。
「…キレイ…」
初めて見た海は、あまりに美しく輝いていて、ハルは目を奪われた。
「ハル、好きだよ。」
クレハが言った。
ハルは思わずクレハを見た。
「クレハ…本当に…?」
「このシチュで嘘はないだろ。」
「いつから…好きだったの…?」
「いつだろうな。思えば初めて会った日、お互いに顔を見合せたあの瞬間に一目惚れだったのかもな。」
「…外見かよ…」
「いやいや、そうじゃないよ。」
「じゃあ教えて。僕の…どこが好きなの?」
そう言ったハルはじっとクレハの目を見つめた。
その吸い込まれそうなほど大きな瞳には不安が見え隠れしていた。
「長くなるけどいいかな。」
「うん…。」
「強気な性格。口調も強め。でも本当は優しくて甘えん坊で恥ずかしがり屋。そんなギャップがたまらなく可愛い。気を張って使う強い口調と時折見せる少年らしい仕草、強くあろうとするハル、優しくまだあどけない少年らしいハル。そんな不思議な魅力に、一緒に過ごしていくうちに惹かれていったよ。自分でもおかしいと思うくらい、どうしようもなく惹かれていった。」
クレハの言葉のひとつひとつを噛み締めるように、ハルは真剣な表情をして、じっとクレハの瞳を見つめる。
そのハルの瞳からは、次第に不安の色が消えていった。
「まだ聞く?」
「うん。」
「そんなに真剣に聞かれると、流石に少し恥ずかしくなってくるな。」
「ここまできたら最後まで言えよ。」
「はは、ごめんごめん。ハルは料理も上手いし、貸した服を丁寧に畳むような几帳面さもある。それでいて、単身敵地に乗り込むような大胆さもある。それだけの実力もあるしな。相当鍛えたんだろう?そんなとても努力家なところも好きだよ。」
「…ありがとう…」
そんな細かいところまで見ていてくれたこと、行動から自分の性格まで想像してくれていたことにハルの気持ちは温かくなる。
クレハは深呼吸をすると、話を続けた。
「ハル、前に言ってたよね。明日なんていらないって。」
「うん…」
「俺がハルの明日になりたい。」
「…え…?」
「ハルの生きる意味になりたいんだ。ハルが明日も生きたいって思えるように、ハルの心の翳りを払いたい。ハルの明日の希望になりたい。そう思ってもらえることに俺の存在意義がある。なんて、小難しい言い方をしちゃったな。」
「クレハ…」
「つまりさ、それだけハルを大切にしたいって事。一生、愛させて欲しい。今日と変わらない愛を明日も与えさせて欲しい。明後日も来年も、その先もずっと、永遠にね。」
クレハは、ハルの小さな頭を撫でながら言った。
「……プロポーズかよ…っ…ぅ…」
ハルは顔を上げられなかった。
本当はクレハの顔を見たかったけど、涙が堰を切ったように流れ出して止まらなかった。
愛が欲しかった。
ずっと愛されたかった。
クレハは、それを自分に与えてくれる。
本当の愛情を自分に与えてくれる。
それを心が確信した瞬間、想いが涙と一緒に溢れ出した。
「ハル、好きだよ。」
クレハは、ハルを再び強く抱き締めて言った。
「う…ぐすっ…もう何があっても泣かないって決めてたのに……クレハのせいだ…ッ…バカ…」
「ハル、『バカ』って口癖だろ?」
「…バカ…」
「ほらまた。まぁ、そんなところも愛おしくてたまらないけどね。」
クレハはハルの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「…子供扱いすんなよ。」
ハルはぷいっとそっぽを向いた。
「はは、ほんと可愛いな。」
もう何度可愛いと言われたか分からない。
最初は恥ずかしいだけだったその言葉も、今は自分だけの為に向けられたいと思っていた。
「僕も…クレハの事…好き…」
そう小さく答えたハルの頬は少し赤らんでいた。
「ハル、本当か…?」
「…このシチュで嘘なわけねーだろ。」
「ははは、だよな。嬉しいよ。凄く嬉しい。」
そう言って笑ったクレハの笑顔にまた涙が溢れそうになる。
クレハを好きになってよかった。
海のさざなみが聞こえる。
それは、優しい音色のようだった。
「ハル、過去を無くすことはできない。でも…、だから、"これから"を一緒に作ろう。ハルと俺で、2人で未来を作っていこう。」
クレハはそう言うとしゃがみこみ、砂浜に『春』と書いた。
「春…」
「そう、春。今日から俺と幸せな毎日を過ごすハルの新しい名前。」
ずっと一人で生きてきた。
これからは違うんだと思ったら、声にならなかった。
ハルは、顔を上げて海を見た。
エメラルドグリーンの海とオレンジの朝日。
その輝きは涙で透き通って見えた。
「…魔法があったらな…」
ハルは小さく呟いた。
「魔法?」
「うん、魔法。この瞬間が永遠に続くような魔法。」
クレハはそっとハルの手を握った。
「春、好きだよ。」
ハルは手を握り返して言った。
「僕も、好き。」
夢のようなこの時間は、一瞬のようで、永遠のようで、ハルにとっての全てだった。
ハルは初めての潮の香りに驚く。
「なんか、しょっぱい匂いがする。」
「これが海の匂いだよ、ハル。」
「海の匂い…」
季節の変わり目の風が、海の匂いを運んでくる。
初めて来たはずなのに、ハルはどこか懐かしいような気持ちになった。
「おっと時間だ。ハル、海岸まで走るぞ!」
クレハはハルの手を掴んで走り出した。
「わっ、おい…っ」
ハルは、驚きながらもクレハに合わせて走った。
クレハの大きな手がハルの手を包み込み、クレハの大きな背中がハルの目の前を塞いだ。
ハルは、このまま繋いだ手の感触を忘れたくなくて、クレハの手を強く握り返した。
海辺に着くと、クレハは言った。
「ほら、見て。」
クレハに言われて、ハルは顔を上げた。
「わ…」
ハルは思わず声をあげた。
そこには、エメラルドグリーンの海が広がっていた。
そして、今まさに登り始めた朝日が、キラキラと海をオレンジ色に照らしていた。
「これをハルに見せたかったんだよ。」
クレハは言った。
「…キレイ…」
初めて見た海は、あまりに美しく輝いていて、ハルは目を奪われた。
「ハル、好きだよ。」
クレハが言った。
ハルは思わずクレハを見た。
「クレハ…本当に…?」
「このシチュで嘘はないだろ。」
「いつから…好きだったの…?」
「いつだろうな。思えば初めて会った日、お互いに顔を見合せたあの瞬間に一目惚れだったのかもな。」
「…外見かよ…」
「いやいや、そうじゃないよ。」
「じゃあ教えて。僕の…どこが好きなの?」
そう言ったハルはじっとクレハの目を見つめた。
その吸い込まれそうなほど大きな瞳には不安が見え隠れしていた。
「長くなるけどいいかな。」
「うん…。」
「強気な性格。口調も強め。でも本当は優しくて甘えん坊で恥ずかしがり屋。そんなギャップがたまらなく可愛い。気を張って使う強い口調と時折見せる少年らしい仕草、強くあろうとするハル、優しくまだあどけない少年らしいハル。そんな不思議な魅力に、一緒に過ごしていくうちに惹かれていったよ。自分でもおかしいと思うくらい、どうしようもなく惹かれていった。」
クレハの言葉のひとつひとつを噛み締めるように、ハルは真剣な表情をして、じっとクレハの瞳を見つめる。
そのハルの瞳からは、次第に不安の色が消えていった。
「まだ聞く?」
「うん。」
「そんなに真剣に聞かれると、流石に少し恥ずかしくなってくるな。」
「ここまできたら最後まで言えよ。」
「はは、ごめんごめん。ハルは料理も上手いし、貸した服を丁寧に畳むような几帳面さもある。それでいて、単身敵地に乗り込むような大胆さもある。それだけの実力もあるしな。相当鍛えたんだろう?そんなとても努力家なところも好きだよ。」
「…ありがとう…」
そんな細かいところまで見ていてくれたこと、行動から自分の性格まで想像してくれていたことにハルの気持ちは温かくなる。
クレハは深呼吸をすると、話を続けた。
「ハル、前に言ってたよね。明日なんていらないって。」
「うん…」
「俺がハルの明日になりたい。」
「…え…?」
「ハルの生きる意味になりたいんだ。ハルが明日も生きたいって思えるように、ハルの心の翳りを払いたい。ハルの明日の希望になりたい。そう思ってもらえることに俺の存在意義がある。なんて、小難しい言い方をしちゃったな。」
「クレハ…」
「つまりさ、それだけハルを大切にしたいって事。一生、愛させて欲しい。今日と変わらない愛を明日も与えさせて欲しい。明後日も来年も、その先もずっと、永遠にね。」
クレハは、ハルの小さな頭を撫でながら言った。
「……プロポーズかよ…っ…ぅ…」
ハルは顔を上げられなかった。
本当はクレハの顔を見たかったけど、涙が堰を切ったように流れ出して止まらなかった。
愛が欲しかった。
ずっと愛されたかった。
クレハは、それを自分に与えてくれる。
本当の愛情を自分に与えてくれる。
それを心が確信した瞬間、想いが涙と一緒に溢れ出した。
「ハル、好きだよ。」
クレハは、ハルを再び強く抱き締めて言った。
「う…ぐすっ…もう何があっても泣かないって決めてたのに……クレハのせいだ…ッ…バカ…」
「ハル、『バカ』って口癖だろ?」
「…バカ…」
「ほらまた。まぁ、そんなところも愛おしくてたまらないけどね。」
クレハはハルの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「…子供扱いすんなよ。」
ハルはぷいっとそっぽを向いた。
「はは、ほんと可愛いな。」
もう何度可愛いと言われたか分からない。
最初は恥ずかしいだけだったその言葉も、今は自分だけの為に向けられたいと思っていた。
「僕も…クレハの事…好き…」
そう小さく答えたハルの頬は少し赤らんでいた。
「ハル、本当か…?」
「…このシチュで嘘なわけねーだろ。」
「ははは、だよな。嬉しいよ。凄く嬉しい。」
そう言って笑ったクレハの笑顔にまた涙が溢れそうになる。
クレハを好きになってよかった。
海のさざなみが聞こえる。
それは、優しい音色のようだった。
「ハル、過去を無くすことはできない。でも…、だから、"これから"を一緒に作ろう。ハルと俺で、2人で未来を作っていこう。」
クレハはそう言うとしゃがみこみ、砂浜に『春』と書いた。
「春…」
「そう、春。今日から俺と幸せな毎日を過ごすハルの新しい名前。」
ずっと一人で生きてきた。
これからは違うんだと思ったら、声にならなかった。
ハルは、顔を上げて海を見た。
エメラルドグリーンの海とオレンジの朝日。
その輝きは涙で透き通って見えた。
「…魔法があったらな…」
ハルは小さく呟いた。
「魔法?」
「うん、魔法。この瞬間が永遠に続くような魔法。」
クレハはそっとハルの手を握った。
「春、好きだよ。」
ハルは手を握り返して言った。
「僕も、好き。」
夢のようなこの時間は、一瞬のようで、永遠のようで、ハルにとっての全てだった。
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