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第一章
復讐の炎3
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何もできないあいだに、貴族の男は布越しにギルデウスの頬に口をつけた。
あの野郎!!
「おい!俺が代わりになる!」
「代わり?お前が?無理無理、あの貴族は宝石箱の人間にしか興味がないからね。例えば、私とか」
モレスは笑った。
ウィオルはなんとか体を木にくくりつている縄を解こうとしたが、いくらやっても無理だった。何重にも重ねられた太い縄はそう簡単に解けない。
袖の中に隠した刃物もあらかじめ取られたようである。
くそっ、どうすれば!
深呼吸して目だけで周りを見ると、一瞬だけ景色に混じれた何かと目が合った気がした。
モレスを盗み見る。ギルデウスが好き勝手にされるのを見て気味の悪い笑顔を浮かべていた。こちらを見ていないことにひと安心して、先ほど視線が合った場所を見る。
ひかえ目で、ビビリな視線がウィオルに注がれる。馬だ。すっかり存在を忘れていた馬が妙に悲しげな顔をしてウィオルを見ている。しかも口にナイフを咥えていた。
ナイフ!こっちに来い!馬!
声が出せないので、目線で訴えるが、馬はぶるぶると頭を振った。
やはり無理か……いや、今意味伝わったのか!?
ウィオルは目線でもう一度訴えかけようとした。だが、ガシャンという音が響いた。
ギルデウスが出した音である。
「薬が切れてきた頃かな」
モレスは、はあ、とため息をつく。貴族の男は驚いたように後ずさったが、ギルデウスが鎖を解けないのを見るとまた笑みを浮かべた。
モレスは服の内側から小瓶のようなものを出して2人に近づいていく。
今だ!馬、早く!
馬もウィオルの周りに誰もいないのを見てソワソワし出した。
早く来い!
伝わったように馬は足音を小さくし、草のある場所を選んで近づいてきた。
本当にかしこいなこの馬。団長たちが餌付けしたんだよな?
かしこさにウィオルは馬の本当の主人は別にいるのではないかと疑った。
馬は木の後ろに回り、咥えていたナイフで縄を切ろうとした。
「俺に渡せ」
小声で言い、背後の手をちょいちょいと動かす。
馬はきょとんしたあと、ナイフを渡した。ただし、刃のほうである。
もう気にすることなくナイフを手の中で回し、刃を縄に当てた。
「早く隠れろ。見つかるぞ」
去らない馬を見てウィオルは小声でそう言った。だが馬は歯を剥き出しにして縄を噛んで引っ張っていた。
手伝ってくれているのか?
「手伝わなくていい、早く行け」
馬は言うことを聞かない。必死に縄を引っ張っている。
ウィオルは湖のほうを見た。2人とも暴れているギルデウスにしか意識を向けていない。
「離せっ!来るな!」
「お前のそう言う顔が見たかったんだよ!ハハハッ!」
ウィオルがその光景を見て心配になったが、ギルデウスが差し出されている薬から顔を背ける時に目が合った。
あんまりにも一瞬すぎて気のせいかと思うほどである。だがウィオルはすぐに理解した。
こっちの状況をわかって気を引きつけてくれている。
ウィオルは急いでナイフを動かして縄を切った。馬の協力もあって、一番下にある縄の部位が少しずつと真っ二つに分かれようとしている。
ブチっと切れるとウィオルは身をよじって縄を緩めた。
ぼたぼたと重たい音を立てて縄が落ちる。
モレスが異変に気づいて振り返ろうとした。
「ああああ"あ"あ"!!」
貴族の男が突然大きな悲鳴をあげた。その手がギルデウスに噛み付かれていた。ボキリと音を立てて貴族の右手の親指が噛みちぎられ、ぺっと指が地面に吐き出される。あと少しで湖に落ちそうになる。
「手が!私の手がッ!!」
「ザマァ見ろ!ハハハハハハハッ!!!」
ギルデウスは嘲笑うかのように男を嗤った。
「このっ、小汚い蛮族が!」
貴族が手を上げて殴ろうとした。シュッとウィオルの投げたナイフが男の腕に刺さる。
「あ"あ"あ"っっ!!!」
湖付近に落ちていた剣を拾い上げ、橋を走ってモレスの顔ギリギリで剣を振るう。気が緩んだすきに湖へ蹴り落とした。ついでに貴族も蹴り落とす。
ウィオルは一連の動きを終えるとすぐさまギルデウスのそばまで来る。
鎖は鍵でかけられており、ウィオルは剣で錠前を壊そうとした。
「俺のいう通りに錠前を壊せ」
ウィオルは不思議そうにしたが、言われた通り、柄頭を巧みに使って錠前をボキッと壊すことができた。
「慣れてますね」
「アルバートに鍵かけられた時よくやっていたからな」
「ああ、通りで。あなたに剣が支給されない理由がわかりました」
シャスナ村の騎士にはみんな剣が支給されるが、ギルデウスだけいつも素手だった。てっきりそれは武力を削ごうという意図だと思っていたが、これも原因らしい。
とことん人の予想を超える男である。
パチンーー
ズンと心臓が沈んだ感覚に襲われる。ウィオルは舌を噛んで正気を保とうとした。
振り返ると、モレスが岸に立ってウィオルをにらんでいた。その足もとに貴族の男がしがみついて何かを叫んでいる。
「おい!話と違う!私の命の安全はできるでしょうな!いいか、私はプレーー」
パチンと、指が貴族の目の前で鳴らされる。その音に一瞬で静かになり、地面に倒れた。
「ごちゃごちゃとうるさいヤツだな」
モレスは忌々しげにつぶやいて貴族を踏みつけた。
そのあいだにウィオルは急いでギルデウスの手と体の鎖を繋いでいる錠前を壊した。
何度も手がぶれてうまく壊せなかったが、なんとか壊した頃には手の皮がところどころめくれていた。
感覚が鈍くなるよう暗示かけられているせいで、ウィオルはまったく痛みを感じない。
その様子にギルデウスが眉をひそめた。
パチンーー
ぐっ!
ウィオルはその指鳴らしを聞いた瞬間思い切り舌を噛んだ。血がだらりと口の端からこぼれる。脚はいうことを聞かずに地面に崩れた。
「俺だけの声を聞け!」
大きく響いた声が頭痛を和らげ、ウィオルが顔を上げる。
「俺を見ろ。俺だけに集中しろ」
ギルデウスは片ひざをついてウィオルの顔に手を置いた。
顔を近づかせ、ごく近い距離でお互いの吐息がぶつかる。
「俺の匂いが好きなんだろ。充分嗅がせてやるから、お前の意識すべてを俺だけに向けろ。他は何も考えるな。何も聞くな」
ギルデウスはウィオルの口に自分のを重ねた。ウィオルは重たい頭ですぐに理解ができず、ぼんやりとしていたが、すぐに柔らかい何かが口の中に侵入してきたことで意識を取り戻した。
「うっ!」
不思議と、あの指鳴らしがずっと聞こえるのに体も頭もどんどん軽くなっていく。間近にいることでギルデウスの匂いが限りなく鼻腔を埋め尽くす。
それがつい、気持ちいい、と考えてしまい、ウィオルがハッとして両手を突き出した。
「はあ……はあ……」
「どうだ。楽になったか?」
「は、はい……」
立ち上がって、鎖がなくなったことでギルデウスは自由になった手足を動かし、モレスに向かって獰猛な笑みをもらす。
「やってくれたな」
ウィオルが暗示にかかってくれないのを見て、モレスは焦った表情をした。
「借りるぞ」
強奪に近い行為で手の中の剣が奪われ、ウィオルは止める暇もなく、ギルデウスがモレスに向かっていくのを眺めた。
「キスする必要あったか?」
つぶやいてウィオルはよろよろと立ち上がる。
このままでは本当にモレスが殺されてしまう。見ればわかることだが、武力面に関してモレスは遥かにギルデウスに及ばない。
おそらく暗示もギルデウスには通用しない。でなければとっくに使っていたはずだ。
立ち上がった瞬間、香水でもないのにふわりと残り香が漂ってきた気がした。
ウィオルは頭に浮かんだ先ほどの場面を慌てて打ち消す。
橋を渡って岸に来る。
ギルデウスがどんどんモレスを死角に追い込んでいく姿が見える。
貴族の腕から落ちたナイフを拾い上げて2人を見た。
一方は軽い身のこなしで逃げ、もう一方は本気で斬りかかろうとしている。
ウィオルはあの気になった小屋を見た。
似ている。
小屋の作りが記憶の中のある作りと似ている。
モレスの悲鳴にウィオルはパッと目を向けた。モレスがお腹を押さえながら苦しげに顔をしかめている。
ギルデウスの持っている剣からぽたりと血が滴り落ちた。
本来なら自分にその行動を止める権利はない。しかし、ギルデウスには殺人という行為をしてほしくなかった。ウィオルは悩んだすえに、意を決して叫んだ。
「もうやめてください!」
ギルデウスがピタッと身を固くした。恐ろしいほどの無表情でウィオルを見る。
「お前は黙っていろ」
「その人は人身売買及び脅迫、窃盗、公共物破壊。内容によっては帝国法でも死刑になる可能性があります。帝国法に任せてはダメですか?」
「自分の手でやらないと気が済まない!お前は引っ込んでいろ!これ以上手を突っ込むなら一緒に殺す!」
目に復讐の炎を燃え上がらせているのを見て、ウィオルは言葉に詰まった。
完全に冷静さを失っている。
ギルデウスは何度もモレスに切りかかり、剣もモレスも血まみれになった。対してギルデウスは笑みをどんどん広げる。
すぐに殺さず、苦しめる過程を楽しんでいるようにしか見えない。
「ギルデウス様!モレスと同じような人になりたいですか!」
だがもうウィオルの声は届かなかった。2人はお互い宝石のような目を向け合って、それぞれ激しい感情をむき出しにしている。
ウィオルはモレスの小さな動きをとらえた。
逃げながら背後に手を回して何かを取り出す。それをかかげた。
「どうせなら一緒に死んでも一興じゃないか!」
火薬を布に包んだ手製の爆弾だ。導線が燃えている。
ウィオルはすでに走り出し、復讐に周りが見えなくなったギルデウスに被りさった。
同時に大きな爆発音が響き、抱きついたまま2人の体はゴロゴロと地面を転がっていく。
あの野郎!!
「おい!俺が代わりになる!」
「代わり?お前が?無理無理、あの貴族は宝石箱の人間にしか興味がないからね。例えば、私とか」
モレスは笑った。
ウィオルはなんとか体を木にくくりつている縄を解こうとしたが、いくらやっても無理だった。何重にも重ねられた太い縄はそう簡単に解けない。
袖の中に隠した刃物もあらかじめ取られたようである。
くそっ、どうすれば!
深呼吸して目だけで周りを見ると、一瞬だけ景色に混じれた何かと目が合った気がした。
モレスを盗み見る。ギルデウスが好き勝手にされるのを見て気味の悪い笑顔を浮かべていた。こちらを見ていないことにひと安心して、先ほど視線が合った場所を見る。
ひかえ目で、ビビリな視線がウィオルに注がれる。馬だ。すっかり存在を忘れていた馬が妙に悲しげな顔をしてウィオルを見ている。しかも口にナイフを咥えていた。
ナイフ!こっちに来い!馬!
声が出せないので、目線で訴えるが、馬はぶるぶると頭を振った。
やはり無理か……いや、今意味伝わったのか!?
ウィオルは目線でもう一度訴えかけようとした。だが、ガシャンという音が響いた。
ギルデウスが出した音である。
「薬が切れてきた頃かな」
モレスは、はあ、とため息をつく。貴族の男は驚いたように後ずさったが、ギルデウスが鎖を解けないのを見るとまた笑みを浮かべた。
モレスは服の内側から小瓶のようなものを出して2人に近づいていく。
今だ!馬、早く!
馬もウィオルの周りに誰もいないのを見てソワソワし出した。
早く来い!
伝わったように馬は足音を小さくし、草のある場所を選んで近づいてきた。
本当にかしこいなこの馬。団長たちが餌付けしたんだよな?
かしこさにウィオルは馬の本当の主人は別にいるのではないかと疑った。
馬は木の後ろに回り、咥えていたナイフで縄を切ろうとした。
「俺に渡せ」
小声で言い、背後の手をちょいちょいと動かす。
馬はきょとんしたあと、ナイフを渡した。ただし、刃のほうである。
もう気にすることなくナイフを手の中で回し、刃を縄に当てた。
「早く隠れろ。見つかるぞ」
去らない馬を見てウィオルは小声でそう言った。だが馬は歯を剥き出しにして縄を噛んで引っ張っていた。
手伝ってくれているのか?
「手伝わなくていい、早く行け」
馬は言うことを聞かない。必死に縄を引っ張っている。
ウィオルは湖のほうを見た。2人とも暴れているギルデウスにしか意識を向けていない。
「離せっ!来るな!」
「お前のそう言う顔が見たかったんだよ!ハハハッ!」
ウィオルがその光景を見て心配になったが、ギルデウスが差し出されている薬から顔を背ける時に目が合った。
あんまりにも一瞬すぎて気のせいかと思うほどである。だがウィオルはすぐに理解した。
こっちの状況をわかって気を引きつけてくれている。
ウィオルは急いでナイフを動かして縄を切った。馬の協力もあって、一番下にある縄の部位が少しずつと真っ二つに分かれようとしている。
ブチっと切れるとウィオルは身をよじって縄を緩めた。
ぼたぼたと重たい音を立てて縄が落ちる。
モレスが異変に気づいて振り返ろうとした。
「ああああ"あ"あ"!!」
貴族の男が突然大きな悲鳴をあげた。その手がギルデウスに噛み付かれていた。ボキリと音を立てて貴族の右手の親指が噛みちぎられ、ぺっと指が地面に吐き出される。あと少しで湖に落ちそうになる。
「手が!私の手がッ!!」
「ザマァ見ろ!ハハハハハハハッ!!!」
ギルデウスは嘲笑うかのように男を嗤った。
「このっ、小汚い蛮族が!」
貴族が手を上げて殴ろうとした。シュッとウィオルの投げたナイフが男の腕に刺さる。
「あ"あ"あ"っっ!!!」
湖付近に落ちていた剣を拾い上げ、橋を走ってモレスの顔ギリギリで剣を振るう。気が緩んだすきに湖へ蹴り落とした。ついでに貴族も蹴り落とす。
ウィオルは一連の動きを終えるとすぐさまギルデウスのそばまで来る。
鎖は鍵でかけられており、ウィオルは剣で錠前を壊そうとした。
「俺のいう通りに錠前を壊せ」
ウィオルは不思議そうにしたが、言われた通り、柄頭を巧みに使って錠前をボキッと壊すことができた。
「慣れてますね」
「アルバートに鍵かけられた時よくやっていたからな」
「ああ、通りで。あなたに剣が支給されない理由がわかりました」
シャスナ村の騎士にはみんな剣が支給されるが、ギルデウスだけいつも素手だった。てっきりそれは武力を削ごうという意図だと思っていたが、これも原因らしい。
とことん人の予想を超える男である。
パチンーー
ズンと心臓が沈んだ感覚に襲われる。ウィオルは舌を噛んで正気を保とうとした。
振り返ると、モレスが岸に立ってウィオルをにらんでいた。その足もとに貴族の男がしがみついて何かを叫んでいる。
「おい!話と違う!私の命の安全はできるでしょうな!いいか、私はプレーー」
パチンと、指が貴族の目の前で鳴らされる。その音に一瞬で静かになり、地面に倒れた。
「ごちゃごちゃとうるさいヤツだな」
モレスは忌々しげにつぶやいて貴族を踏みつけた。
そのあいだにウィオルは急いでギルデウスの手と体の鎖を繋いでいる錠前を壊した。
何度も手がぶれてうまく壊せなかったが、なんとか壊した頃には手の皮がところどころめくれていた。
感覚が鈍くなるよう暗示かけられているせいで、ウィオルはまったく痛みを感じない。
その様子にギルデウスが眉をひそめた。
パチンーー
ぐっ!
ウィオルはその指鳴らしを聞いた瞬間思い切り舌を噛んだ。血がだらりと口の端からこぼれる。脚はいうことを聞かずに地面に崩れた。
「俺だけの声を聞け!」
大きく響いた声が頭痛を和らげ、ウィオルが顔を上げる。
「俺を見ろ。俺だけに集中しろ」
ギルデウスは片ひざをついてウィオルの顔に手を置いた。
顔を近づかせ、ごく近い距離でお互いの吐息がぶつかる。
「俺の匂いが好きなんだろ。充分嗅がせてやるから、お前の意識すべてを俺だけに向けろ。他は何も考えるな。何も聞くな」
ギルデウスはウィオルの口に自分のを重ねた。ウィオルは重たい頭ですぐに理解ができず、ぼんやりとしていたが、すぐに柔らかい何かが口の中に侵入してきたことで意識を取り戻した。
「うっ!」
不思議と、あの指鳴らしがずっと聞こえるのに体も頭もどんどん軽くなっていく。間近にいることでギルデウスの匂いが限りなく鼻腔を埋め尽くす。
それがつい、気持ちいい、と考えてしまい、ウィオルがハッとして両手を突き出した。
「はあ……はあ……」
「どうだ。楽になったか?」
「は、はい……」
立ち上がって、鎖がなくなったことでギルデウスは自由になった手足を動かし、モレスに向かって獰猛な笑みをもらす。
「やってくれたな」
ウィオルが暗示にかかってくれないのを見て、モレスは焦った表情をした。
「借りるぞ」
強奪に近い行為で手の中の剣が奪われ、ウィオルは止める暇もなく、ギルデウスがモレスに向かっていくのを眺めた。
「キスする必要あったか?」
つぶやいてウィオルはよろよろと立ち上がる。
このままでは本当にモレスが殺されてしまう。見ればわかることだが、武力面に関してモレスは遥かにギルデウスに及ばない。
おそらく暗示もギルデウスには通用しない。でなければとっくに使っていたはずだ。
立ち上がった瞬間、香水でもないのにふわりと残り香が漂ってきた気がした。
ウィオルは頭に浮かんだ先ほどの場面を慌てて打ち消す。
橋を渡って岸に来る。
ギルデウスがどんどんモレスを死角に追い込んでいく姿が見える。
貴族の腕から落ちたナイフを拾い上げて2人を見た。
一方は軽い身のこなしで逃げ、もう一方は本気で斬りかかろうとしている。
ウィオルはあの気になった小屋を見た。
似ている。
小屋の作りが記憶の中のある作りと似ている。
モレスの悲鳴にウィオルはパッと目を向けた。モレスがお腹を押さえながら苦しげに顔をしかめている。
ギルデウスの持っている剣からぽたりと血が滴り落ちた。
本来なら自分にその行動を止める権利はない。しかし、ギルデウスには殺人という行為をしてほしくなかった。ウィオルは悩んだすえに、意を決して叫んだ。
「もうやめてください!」
ギルデウスがピタッと身を固くした。恐ろしいほどの無表情でウィオルを見る。
「お前は黙っていろ」
「その人は人身売買及び脅迫、窃盗、公共物破壊。内容によっては帝国法でも死刑になる可能性があります。帝国法に任せてはダメですか?」
「自分の手でやらないと気が済まない!お前は引っ込んでいろ!これ以上手を突っ込むなら一緒に殺す!」
目に復讐の炎を燃え上がらせているのを見て、ウィオルは言葉に詰まった。
完全に冷静さを失っている。
ギルデウスは何度もモレスに切りかかり、剣もモレスも血まみれになった。対してギルデウスは笑みをどんどん広げる。
すぐに殺さず、苦しめる過程を楽しんでいるようにしか見えない。
「ギルデウス様!モレスと同じような人になりたいですか!」
だがもうウィオルの声は届かなかった。2人はお互い宝石のような目を向け合って、それぞれ激しい感情をむき出しにしている。
ウィオルはモレスの小さな動きをとらえた。
逃げながら背後に手を回して何かを取り出す。それをかかげた。
「どうせなら一緒に死んでも一興じゃないか!」
火薬を布に包んだ手製の爆弾だ。導線が燃えている。
ウィオルはすでに走り出し、復讐に周りが見えなくなったギルデウスに被りさった。
同時に大きな爆発音が響き、抱きついたまま2人の体はゴロゴロと地面を転がっていく。
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