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第二章 火の女神リクシスの加護
12 加護は好きな人にしか与えない
しおりを挟む「失礼ですが、お姉さんは何者ですか?」
アフロはリクシスさんに訊いた。
僕が火の女神から加護を受けてるとは、露ほどにも思っていないだろうが。
「私は……」
と、リクシスさんが言いかけたところで、「きゃあ♡」という声が響いた。
「あの……もしや、火の女神リクシス様では?」
そう尋ねているのは女騎士アーニャさん。
こんなにも甘えた声が出せるのか、と驚いた。
いつもの怖いアーニャさんの性格からは、とても考えられない。
「いかにも……」
リクシスさんはそう答え胸を張った。
「きゃあ、やっぱり! あたし火の女神様のファンなんですぅ」
「はあ……」
「おお! これが噂の竜槍ゲイブルガですね~かっけぇぇ!」
「……」
「この竜槍で魔物を突いて突いて、えぐりまくって、うおりゃあって無双するんですよね~ああ、生で見たいなぁ、生で♡」
「……機会があれば」
リクシスさんは苦笑いを浮かべている。
さらに、アーニャさんは熱く語る。オタクかよっ!
「あたし火の神殿に三回行きましたっ!」
「それはどうも」
「あとあと、千年前にあったとされる火の大戦物語は二回読みましたっ!」
「……二回なんですね」
「はい、また読みたいんですけどねえ。最近、勇者様パーティに就職してからのんびりできなくて……あっ! 火の女神様ファンとしてはあの魔族たちを火あぶりにするシーン、あれはちょっとグロいですが、あたしは大好きですよ~」
「ありがとう」
「あ、あのぉ……最後に、握手してくれませんか?」
顔を赤く染め、もじもじしているアーニャさん。
はあ? アーニャさんのキャラが崩壊している。
僕、アフロ、ミルクちゃん、そしてノエルさんでさえ、ぽかんとした顔を浮かべていた。すると……。
「いいよ」
と、リクシスさんは手を伸ばす。
すぐにアーニャさんも手を伸ばすと二人はガッチリと握手した。
その手が離れてもなお、わーい! と飛び跳ねて喜ぶアーニャさんは、まるで子どもみたいにミルクちゃんの肩をバシバシと叩く。
「きゃあぁぁ、夢みたいぁい! 火の女神と握手しちゃったぁ、やっばぁっ」
い、痛いです……と言ったミルクちゃんの額から汗が流れた。
「ラクト……おまえ火の女神と知り合いなのか?」
アフロが訊いた。
僕はリクシスさんと目を合わせてから答える。
「はい、今日知り合ったばかりです」
ほう……と、アフロはつぶやくとリクシスさんをじっと見つめた。
「火の女神リクシスか……思ったよりもふつうの女だな」
どういう意味? と、リクシスさんは片方の眉をあげて尋ねた。
アフロは白い歯を見せて笑うと、
「もっと、こう男っぽいと思ってたが……なかなかいい女じゃないか。綺麗だな」
「それはどうも」
「そうだ……この前クリスタル神殿で変なことを言う老人がいたな……たしか、神託とか意味不明な言葉を言ってたが、火の女神の加護を受けると、何かいいことがあるのか?」
まあね、と肯定したリクシスさんは、ふわりとブロンドヘアをかきあげた。
褒められると嬉しいみたいだ。
アフロはリクシスさんに近づいていく。
満更でもなく、ドキッとするリクシスさん。
アフロめ……肉食系男子はこれだから強いし、エロい。
「それなら火の女神よ。俺に加護を与えてもいいぞ」
「え?」
「さあ、俺は勇者アフロだ。光栄に思え」
「ん~」
リクシスさんは苦笑い。指先でほっぺたをかいた。
「お断りします」
「え? 勇者様の俺に加護を与えられるのだぞ! 光栄に思え女神よ」
「やだ。絶対にあんたに加護は与えない」
「なぜだ!?」
アフロの顔は落胆の色が濃い。
すると、リクシスさんはスッと移動した。
ドキッとした。花の甘い香りが漂う。
リクシスさんは僕の腕をぎゅっと抱きしめ、唇を舐めてから話す。
「私は好きな人にしか加護は与えませんから……」
おいおい……とアフロは首を振るとつづけた。
「それなら俺を好きなってもいいぞ。なんでラクトなんかと腕を組んで……さあ、真の勇者様はここにいるぞっ! さあ、俺の胸に飛びこんでこいっ!」
両手を広げたアフロから、包容力のある男の甘い香りが漂う。
ミルクちゃんとアーニャさんは瞳の色をピンクに染めた。
一方、ノエルさんだけがリクシスさんのことを、眉根を寄せてにらんでいたので、僕は驚いた。
どうしたのだろう。
いつもの穏やかなノエルさんは、ここにはいない。
気になって、僕はノエルさんに話しかけてみた。
「ノ……ノエルさん久しぶりです」
「ラクト……くん」
「あの……元気でしたか?」
「う、うん」
「あ、よかった。あの、料理とかどうしてますか?」
「外食ばっかりしてる」
「え、本当ですか? おや……服が汚れてますよ。ちゃんと洗濯はしていますか?」
「いいえ……首都に帰ったらまとめてしてる」
「え? 綺麗好きなノエルさんらしくないですね……大丈夫ですか?」
……大丈夫じゃない。
ぼそっとノエルさんはそう言ったように聞こえた。
その暗い顔色から最近うまくいっていない状況がうかがえる。
ノエルさんが、チラッと見据えているのは、僕の腕に絡みつくリクシスさんのこと。
あれ? これってもしかして……嫉妬?
まさか、それはありえない。
しかし、僕はなんだか嬉しくなってしまった。心は踊り、調子にのってしまう。外食ばかりして健康を害しているであろうノエルさんのことが心配になったこともあり。僕はとんでもないことを口にしていた。クビになったくせに。どの面下げてこんな言葉を……。
「僕、戻りましょうか?」
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