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22 怪しい男の目的は
しおりを挟む宿へ戻ってしばらくすると父さん達も戻ってきた。
「ライリー、ヴィンセントの具合は?」
「…熱が出ててまだ意識が戻らない。とりあえず、ポーションは飲ませておいた。効くかはわからないけど。」
「そうか…。ありがとうヴィンセント。お疲れ様。」
母さんが寝ているヴィンの頭を優しく撫でる。
「今回はヴィンセントが居なかったらと思うと怖いですね。」
「そうだな。ヴィンセントの力が無かったら、王都のあちこちで爆発が起きていたかも知れない。」
そんな事になったらと考えるだけでゾッとする。こんな事を平気で出来る事を考えると、ガンドヴァが企んだ可能性が高い。
その後騎士団長から連絡が来て、ヴィンが見つけた場所全ての魔道具を回収したと教えられた。そしてそのままスラム街のローブの男達が入った建物を捜索したらしい。するとそこに屯っていた男達を捕縛。
今は尋問しているそうだ。
ギルドマスターも例の男を捕まえていたようで、騎士団へ預けたと教えてもらった。
そしてヴィンは3日、目を覚さなかった。その間僕はすごく怖かった。
熱は2日続いて、その間はポーションを口移しで飲ませていた。僕が出来るのは、汗を拭いてあげることと側にいることだけ。
3日目にやっとヴィンが目を覚ました時は嬉しくて泣いてしまった。
「ライリーさん、ご心配をお掛けして申し訳ありません。」
「ホントだよ…。どれだけ心配したと思ってる。」
「ヴィンセント、具合はどうだ?」
「ライアスさん達もすみませんでした。目以外は少しだるいだけで大丈夫です。右の目が痛むのと、それで今はよく見えないくらいです。」
色が薄くなった金の瞳。しばらくは目を使わないように眼帯を付けることになった。
それから2日程、ヴィンをゆっくり休ませてから王宮の宰相様の元へと向かった。
「…無理、してないか?」
「大丈夫です。体はもう回復しました。」
ヴィンの目は相変わらずあまり見えていないらしく、付けた眼帯が痛々しい。なのに笑顔で大丈夫だと言う。
「もし辛くなったりしたら遠慮せず言ってくれよ。」
「はい、エレンさん。ありがとうございます。」
王宮へ着くと騎士団長のエイデンさんが出迎えてくれて、そのまま宰相様の執務室へ向かう。
中はまた人払いがされていて、今回は魔法師団長の姿もあった。
「皆さんご足労いただきありがとうございます。ヴィンセント殿のおかげで、最悪の事態を防ぐ事が出来ました。貴方の献身に感謝します。」
宰相様、宰相補佐様、騎士団長に魔法師団長までもがヴィンに頭を下げた。
「あ、あのっ!頭を上げてください!私は出来る事をしただけです!そんな事をされると困ります!…えっと、あのっ…!」
あたふたするヴィンが可愛くて、その場は和やかな空気になった。
全員で席に着いて、あの後の報告を聞く。
「魔道具ですが爆発の魔道具で間違いありませんでした。私たちが見つけたあの日の翌日に、爆発するよう仕掛けられていたようです。」
魔法師団長は回収した魔道具を調べた結果を教えてくれた。見つかった魔道具は全部で38個。
「この数字はガンドヴァの守り神ドゥクサスに由来していると思われます。ドゥクサスは38人の子供がいるとされ、その子供達がガンドヴァの国全体を守っているという神話があります。
おそらく、38個の魔道具を爆発させドゥクサスの怒りを買ったと思わせるつもりだったのではないかと。」
「捕まえた男達はガンドヴァの人間だった。だが尋問にかけても口を割らずはっきりした事はまだ分かっていない。」
やっぱりガンドヴァだったのか。
「国境付近には兵士が集まっていたという報告はない。おそらくだが、今回の爆発で戦争を仕掛けるというよりは警告だったんじゃないかと予想している。」
「お前達の国はもうすぐガンドヴァの手に落ちるぞ、というね。」
「ドラゴンを倒すほどの人物がいると分かって、向こうもなりふり構っていられないのでしょうな。内部からじわじわと破壊活動をしようという魂胆でしょう。…国境警備が強化される前に入り込んでいたと考えるのが妥当でしょうか。」
なるほどな。なんでそんなに簡単にガンドヴァの人間が入り込んでいたのか不思議だったけど、そういう事か。
「ですが偽造した身分証で入り込む事は可能です。その辺りも対策を練り直す必要がありますね。」
今後の大きな課題として取り組んでいく、とこの件に関しての報告は終わった。
「しかし今回の件についても、通話の魔道具のおかげで迅速な対応が取れました。改めて御礼を申し上げます。」
通話の魔道具が無かったら、全ての爆発を防ぐ事は難しかったかもしれない。これを作った兄ちゃんが改めて凄いと思った。
「ところで…。」と宰相様がヴィンに視線をよこした。
「ヴィンセント殿、ぜひ私の部下として働いていただけませんか?」
「え?」
なんと宰相様からスカウトされてしまった。
「実は貴方のことを少し調べさせてもらった。トルバート家の長男で貴族学園文官科の満点合格者。授業の成績も大変よく頭脳明晰だと。…ただその目の色でトルバート家から勘当され平民となった。」
「……。」
「責めている訳ではないよ。貴方のその目の力と素晴らしい頭脳。私に貸していただけないかと思って。今回の件も貴方の機転により迅速に動く事が出来た。そんな優秀な方を是非部下として招きたいのだがどうだろうか。」
「…私の目はまた魔力が視えるかはわかりません。お力になれるかもわかりません。」
視力すら今は低下してしまってる状態だ。元に戻る保証はない。なんせヴィンのような目の事についてどこにも記述が無いのだから。わからない事だらけだ。
「もし目の力が戻らなくてもいいのだ。貴方のその頭脳だけでも大変価値のあるもの。ぜひ力を貸して頂きたい。」
「ライリーさん…。」
どうしていいかわからないんだよな。宰相様直々に誘われてるんだし。
「…ヴィンはどうしたい?ここで働きたい?」
「……私で力になれるのなら働きたいと思います。ですが…。」
不安な顔で僕の手をきゅって握ってきた。
「言いたい事は言っていいよ。どうしたの?」
「……あの…ライリーさんと…離れたく、なくて…。」
ぐふっ!
可愛い!!なにこの生き物!!可愛い!!
堪らなくなって抱きしめてしまった。
「はっはっは!これはこれはなんと可愛らしい。ライリー殿と恋人でしたな。ではライリー殿もこちらで働けばよろしい。騎士団所属として、ヴィンセント殿の専属護衛で。」
え?専属護衛?
「正直言うと、ヴィンセント殿の力は他国も喉から手が出るほど欲しいもの。万が一バレた時は非常に危険だ。今はまだ隠せているが人の口に戸はたたない。いつか秘密が漏れるだろう。
だがライリー殿が側にいれば簡単には手は出せない。王宮にいる事はヴィンセント殿を守る事にもなる。…絶対安全とは言えないが、他の場所にいるよりかは安全性は高くなる。」
…そうか。今回の事で騎士にもヴィンの目の事はバレている。どこで秘密が漏れるかなんてわからない。
「だから専属護衛としてライリー殿を付けることは可能だ。それにライリー殿の方がヴィンセント殿も安心だろう。」
「それなら僕はヴィンの側にいます。いさせて下さい。」
僕だってヴィンの側から離れたくない。いずれは結婚だってしたいと思ってる。
ヴィンのしたい事もさせてあげられるし、ヴィンを守る事も出来る。ならこの話を断る理由はない。
「ただ1つお願いがある。貴族学園へもう一度入り卒業してほしい。」
「どういう事でしょうか。」
僕は既に『ドラゴン討伐の英雄』となっているから、このまま騎士団に入る事は問題ない。実績があるから。
でもヴィンの場合は、今回の事を大々的に公表する事は出来ない。目の秘密を明かさなければならなくなるからだ。だから貴族学園を卒業して、正規で宰相様の所に就職する必要がある。
流石になんの学歴もない人間を雇う事は出来ない。
「もうすぐ新学期が始まる。そのタイミングで3学年生として編入し卒業してほしい。…いいかい?」
「…わかりました。」
「じゃあ、後ろ盾は俺たちがなろう。俺たちでも問題ないですよね?宰相様。」
平民となったヴィンが学園に入るには貴族の後ろ盾が必要だ。僕達も一代限りの騎士爵とは言え、一応は貴族だ。
「問題ありませんよ。それで手続きしましょう。」
「あの、それなら僕ももう1度学園に入ります。」
「ライリーさん?」
「じゃなかったらヴィンと離れ離れになるから。僕もそんなのは嫌だ。」
「はっはっは!若いというのは羨ましい。ではその方向で手続き致しましょう。」
もう学園に行く事はないと思っていたのに、こんな形で戻るなんて思わなかった。
でもヴィンはもうあの時のヴィンじゃない。今度はきっと楽しい学園生活が送れるはずだ。
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