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3巻

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「構いませんよ。アッシュさん、ゴブリン三体が前方にいます。今から攻撃を仕掛けますので、私が合図したら、即座にゴブリンたちを見てください」
「わかった。相手は僕たちに気づいていない。僕なら、気取られないよう接近して、不意打ちかな」

 まだアッシュさんを少ししか見ていないけど、多分あそこにいるゴブリンたちと同じくらいの強さだと思う。

「私のステータスは特殊でして、攻撃力が0なんです。だから、こうやって間接的に相手を――」

 アッシュさんと一時的にでもパーティーを組む以上、いずれステータスのことはバレる。化物扱いされる前に、こっちから伝えておこう。私は、相手にデコピンするような感覚で、親指で薬指を押さえ、薬指に力を蓄積させていった。

「今です!! ゴブリンたちを見てください!!」
「え?」

 アッシュさんがゴブリンたちの方を向いた瞬間、私はをゴブリン目掛けて放った。『ボッ』という音のコンマ数秒後に、遠方にいるゴブリン一体の胸に、大きな風穴が開いた。残る二体のゴブリンは、何が起きたのかわからないようで右往左往している。
 私の新技の一つ『指弾』――空気を思いっきり指で弾く技だ。私の思い描いた通り、空気の弾が発射されたようだ。ただ、命中率に問題ありだね。左隣にいたゴブリンの左足をねらったんだけど、大きくずれてしまった。ついでなので、指弾を連射してみよう。
 ……うーむ。十発放って、二発が二体のゴブリンに命中か。指弾は遠距離に不向きだね。中距離なら、命中率もかなり上がるだろう。

「え? ……あんな遠くにいた三体のゴブリンに、いきなりいくつも風穴が開いた? シャーロット、何をしたの? 魔法を使ってないよね?」
「今のは指弾という……体術です。指で弾いた空気をゴブリンに放ったのです」

 もう体術にしておこう。実際、身体の一部を使っているしね。

「は? ……ちょっとちょっとちょっと、おかしいから!! 指で弾くだけで、風魔法のエアブレットができるのなら、全員が使ってるよ!!」

 あ、わかった!! この人のツッコミ、ザウルス族のレドルカにそっくりだ!!

「Aランクの人ならわかるけど、七歳くらいの女の子が物理的な空気弾を作れるわけ……」
「アッシュさん、現実を見てください。私はその空気弾で、ゴブリンを討伐したのです」

 そういえば、他人に私の強さを直接見せたことはなかった。唯一の例外が、ネーベリック戦だ。ダークエルフの村から王都に来るまでの間は、ザンギフさんたちが魔物を討伐してくれた。私がしたことは、回復魔法くらいか。

「あの……出会ったばかりで、大変失礼かもしれないけど……シャーロットのステータスってどれくらい?」

 うわあ、直球で質問してきたよ。出会ったばかりの人に、普通言わないよね。でも、教えておこう。これで私を敬遠したら、それまでの出会いだったということだ。

「……敏捷も防御も、999を超えています」
「……マジで?」
「マジです」

 沈黙が周囲を支配した。アッシュさんは、私を受け入れるかな?

「……わかった……信じるよ。実際に、あの空気弾を見たら、信じざるをえない。君も、何か途轍とてつもない事情を抱え込んでいるようだね。ある意味、僕以上に大変だ。シャーロットなら、僕の抱えている問題を解決してくれるかもしれない」

 アッシュさんが抱えている問題か。子供の私に言うくらいだから、かなり追い詰められているね。

「とりあえず、話してくれませんか?」
「……僕はロキナム学園に在籍していて、今は初等部の三年生なんだ」

 アッシュさんが、神妙な面持ちで語り出した。

「十歳から十二歳までが初等部、十三歳から中等部となるんだけど、初等部の最終学年である三年生には、ノルマが課せられているんだ」

 ここの学園もエルディア王国と同じで、十歳からのスタートなんだね。アッシュさんは、十二歳なのか。

「そのノルマとは何ですか?」
「三年生になってから半年以内に、冒険者ランクをDに上げることさ」

 別段、難しくないよね? Eランクの依頼を連続十回成功させた後、実技試験で試験官に認めてもらえばいいだけだ。Eランクの依頼内容は、ゴブリンやコボルトなどのEとFに相当する魔物討伐を主体としている。魔法が封印されているとはいえ、十二歳という年齢を考えると、クラスメイトとパーティーを組み、剣術や槍術スキルなんかを駆使すれば、比較的簡単に達成できると思う。

「半年という期間があるのなら、簡単では?」
「普通ならね。でも、僕には一つ問題があってね」

 問題? アッシュさんを見ると、どこかくやしそうな表情をしている。

「僕自身の強さが、ゴブリン並みなんだよ」

 アッシュさんも、自分の弱さを自覚しているのか。

「初等部一年生の最初の半年間は、普通にみんなと互角に渡り合えたんだ。けど、一年生の後半になってから、どういうわけか僕のステータスがまったく上がらなくなった。日を追うごとに差は広がっていき、今では完全に『落ちこぼれ』となってしまった。三年生のはじめ頃は、クラスメイト三人とパーティーを組んでいたんだ。でも、僕が足をひっぱり、依頼がなかなかこなせなかった。このままだとまずいと思い、パーティーメンバーと相談して、僕だけ離脱したんだよ。現在、クラスの中でDランクに到達していないのは、僕だけさ」

 妙だな。基礎訓練をしていけば、レベルが上がってなくても、ステータスは上がるはずだ。

「それで、半年という期限は、いつまでなんですか?」
「……三日後。遅れたら、その場で退学となる」

 三日後!? 今から十回連続で依頼を達成させるのは不可能だよ!! だから、一か八かで、このランクアップダンジョンに挑戦したんだ!! でも、さっきの戦闘を見る限り、このまま進んだら間違いなく死ぬ。ここで出会えたのも何かの縁だし、手助けしますか。

「……スキルレベルは上がっているんですか?」
「担任のアルバート先生にだけ、僕の持つスキルとそのレベルを話したんだけど、みんなとほぼ同じ位置にいるらしい。ステータスレベルが上がっても、ステータスの数値だけが固定されたままなんだ。先生も色々と調べてくれたのに、原因はわからない」

 それは、確かに異常だ。もしかして、呪われてる?

「ステータス欄に、何か異常が記載されていますか?」
「何も記載されていない。正常だよ」

 ふーむ、これは何かあるね。『構造解析』で原因がわかるはず。

「アッシュさん、私のステータスレベルが11になると、あるスキルが使用可能となります。このスキルを使用したら、おそらく原因を突き止められると思います」
「え、本当!? シャーロットの現在のレベルは?」
「8です」

 このダンジョンを攻略すれば、多分レベル11に届くと思う。

「僕と同じか。それなら二人で、ここを突破しよう。シャーロットの強さに頼らず、僕自身も戦うよ」

 そうは言っても、アッシュさんの強さはゴブリン並みだ。さすがにその強さでは、最下層に到達するまで、かなりの困難をいられるだろう。ここは、強さを底上げしておく必要があるね。

「アッシュさん、『身体強化』のスキルレベルはいくつですか?」
「え、2だけど?」

 2だと、大した強化にならない。レドルカたちに教えた方法で、どこまで引き上げられるかな?

「アッシュさんには、『身体強化』のスキルレベルを上げてもらいます。私の教えた通りにイメージすれば、おそらく一つか二つ上がると思います。そこまで上がれば、格上となるEランクの魔物相手でも、一人で対処できますよ」
「え、二つ!? 『身体強化』は、そんな簡単には……」
「実践済みです。私の仲間たちも、その方法で上がりました」

 私はアッシュさんに、人間の身体の仕組みについて教えた。どうやら学園でも、臓器や筋肉あたりは教わっていたらしく、すぐに理解してくれた。さすがに、細胞のことまでは知らなかったけど。

「わかった。臓器や筋肉、骨を構成する細胞にまで魔力を行き渡らせるよう、強くイメージするんだね。やってみるよ!!」

 さあ、どこまで上がるかな?


「嘘……スキルレベルが、2から5に上がった。こんな簡単に上がるなんて……」

 よし、成功だ!! でも、アッシュさんの年齢で三つも上がるとは思わなかった。おそらく、アッシュさんが日頃から努力していたんだね。コツを教えたことで、秘めたる力の一部が解放されたのだろう。

「次に、私が先程お見せした『身体への属性付与』の方法をお教えします」
「え、いいの!?」
「はい、隠しているわけではありませんので」

 私は、『身体強化』と属性付与による二重の強化方法を教える。アッシュさんはこの二つを使用しながら、身体を三十分ほど動かすことで、扱い方に慣れてくれた。
 この間、私はアッシュさんの動きを終始観察していた。そこで、不自然な点を発見した。彼の基本ステータスはゴブリン並みにもかかわらず、剣術や体術の動きが異様によかったのだ。明らかに、ステータスとのバランスが不自然だ。

「シャーロット、すごいよ。『身体強化』と属性付与を上手く使いこなせば、このダンジョンの魔物たちとも渡り合える!!」
「二つの同時使用は、極力避けてください。私の仲間たちは全員が大人なので問題なかったのですが、『身体強化』と属性付与の力を一ヶ所に集約させると、かなりの負担がかかると言っていました。アッシュさんの場合だと、二重使用だけで負担になると思います」
「何度か試してみたけど、確かに身体にはかなりの負荷がかかるね。気をつけるよ」

 これで準備万端だ。ダンジョンの探索を再開しよう。



 6話 新技『風の刃』でやらかしました


 地下二階へと通じる階段を目の前にして、私たちはホブゴブリン二体にゴブリンメイジ一体と交戦している。アッシュさんいわく、ゴブリンメイジ自体は非力だが、回復魔法のヒールと火魔法のファイヤーボールを使用するため、遭遇そうぐうしたら真っ先に討伐すべき相手らしい。だから、アッシュさんがホブゴブリン二体を相手している間に、私がゴブリンメイジに接近し、『内部破壊』で瞬殺した。そして現在、私たちはホブゴブリンとそれぞれタイマンで戦っているところだ。

「アタタタタタタタタタタタ」

 ホブゴブリンの身長は、私よりも少し高いくらいだ。アッシュさんが戦っている方はショートソードを持っていて、私の方は右手に棍棒こんぼうを装備している。私は相手のふところに入り、顔面やボディーをパンチで連打しているところ。

「ギギ。ギグギャガガガガガ(弱い。まったく効かないぞ)」

 この~!! まったく効いてないよ。やはり、攻撃力0は伊達だてじゃない。

「あのさ、シャーロット。そろそろ遊びはやめてくれないかな? 僕の方は、決着がついたよ」

 アッシュさんがあきれた顔で、私を見ている。

「パンチを何百発も当てたらさすがに倒れるんじゃないかと思って、連打しているんですけど、こいつ全然倒れません」

 現時点で、百発近く連打しているのに、このホブゴブリンは鼻をほじっている。なんか、ムカつく!!

「君の攻撃力は0なんだから、どれだけ連打しても、ダメージはゼロだよ」

 く、正論を言われると……もうやめよう。馬鹿らしくなってきた。

「『内部破壊』」
「ギ(え)?」

 パンチが当たった瞬間に『内部破壊』を使用したら、すぐに効果が現れて、ホブゴブリンは倒れ、消失した。

「何度か戦い方を見たけど、本当に攻撃力が0なんだね。それに、『内部破壊』だっけ? 皮膚ひふに触れた瞬間、相手の魔力をかき乱し、それを利用して相手の中枢ちゅうすうたたく。はたから見ると、何が起きているのかわからないよ。でも、怖ろしいスキルだ。僕もいつか習得したい」

 アッシュさん、私の戦法にかなり慣れてきたね。よし、次の段階に移ろう。私が試したい技は、あと二つある。

「『内部破壊』に関しては、『魔力循環』『魔力操作』『魔力感知』が最低でも8以上ないと、習得できませんよ」

 レドルカたちから質問されたときは、『内部破壊』についてきちんと答えられなかった。だから、私は新規スキルの習得条件について、その詳細をきちんと確認しておくことにしたのだ。

「8だって~~!? シャーロットのスキルレベル、一体いくつなの!?」
「『魔力循環』『魔力操作』『魔力感知』、いずれも10です」

 というか、振り切っているせいで、正確な数値はわからない。

「最高レベルじゃないか!? その歳で、どうやってそこまで上げられたの!?」
「死ぬ危険性が非常に高いので内緒ないしょです。私の場合、特殊な事情が絡んでいるのです」

 ネーベリックの件もあるし、現時点では事情を明かせない。それに、実践したら間違いなく死ぬと思う。

「シャーロット自身が死ぬ寸前にまでなったということ? ……わかったよ、これ以上は踏み込まないでおくよ」

 そうしてくれると助かるね。
 さて、アッシュさんと出会ってから四回魔物と戦ったけど、私の直接攻撃力は間違いなく0だ。でも間接攻撃力は数値こそわからないけど、おそらく999を超えていると思う。指弾の扱い方にも慣れた。周囲に冒険者がいる状態で使用しても、きちんと制御できるだろう。

「アッシュさん、この地下一階で、お互いの戦い方がわかりましたね」
「え……そうだね。僕も、『身体強化』と属性付与の扱い方を実戦で学んだおかげで、このダンジョンでも通用することがわかった。連携も機能してる。よし、地下二階へ行こう!!」

 そうして目の前にある階段を下りていくと、出口付近が異様に明るかった。出口を抜けると――

「え、明るい!? ここが森林エリア?」
「クラスのみんなから聞いていたけど、まるで外にいるみたいだ」

 出口の先は、ジャングルだった。上を見ると、かなり天井が高く、ダンジョンとは思えないほど、周囲が異様に明るい。でも、さっきの洞窟エリアと違って、視界が悪い。魔物たちの襲撃に備えるべく、『魔力感知』と『気配察知』の力が強く要求されるだろう。

「アッシュさん、行きましょう」
「シャーロット、無闇に宝箱を開けちゃダメだよ。『状態異常無効』のユニークスキルを持っていることは、ここまでの冒険でわかったけど、『わな察知』と『わな解除』のスキルをみがきたいのなら、宝箱自体や周囲を観察しないといけない」

 アッシュさんは、あの件のことを言っているのか。
 地下一階で宝箱を見つけたときのこと。私がそれを躊躇ちゅうちょなく開けたら、紫色の煙がモクモクと出てきて、アッシュさんが毒に侵されてしまったのだ。無論、私は異常なし。私が『状態異常無効』というユニークスキルを持っていることを伝えると、毒に侵されながらも――

『強さといい……スキルといい……反則……』

 と、苦しみながらもツッコミを入れていた。
 なお、すぐさま私が毒消し用のポーションを彼に飲ませたことで、事なきを得ている。
 魔鬼族全員が魔法を封印されている状態だから、もちろん魔法での治療はできない。そのため、状態異常回復薬やその効能も兼ね備えたポーションの需要が非常に多い。イミアさんに言われて、各状態異常に対応可能な薬やポーションを買っておいてよかった。魔鬼族に変化しているので、表立って魔法を使えないからね。お金に関しては、クロイス姫が工面してくれた。
 その件以降、アッシュさんは私に『わな察知』の方法と、自分の知りうる限りのわな解除の方法を教えてくれたのだ。そのおかげで、『わな察知』と『わな解除』という二つのスキルを習得できた。

「わかりました。『わな察知』と『わな解除』は覚えたてで、スキルレベルが1しかありませんから、今後は慎重に行動していきます」

 洞窟と違い、森林となると、わながどこに設置されているのかわかりにくい。進んでいたら、高さ八メートルくらいある木のてっぺん付近に魔物の気配を感じた。

「アッシュさん、あそこにいる魔物は?」

 見た目は小型の猿っぽいけど、身体全体が鱗のような硬い何かで覆われている。

「あれは……Eランクのシールドウォックだ。小型だけど、身体を覆う硬い鱗のせいで、攻撃力と防御力が高く、素早さもある。やつは接近戦を得意としていて、遠距離からの攻撃に弱い」

 遠距離攻撃に弱い……か。それなら、あの新技を試せる!!

「新技を試していいですか? あの位置なら、他の冒険者たちにも被害は及びません」
「確かに、あの位置なら大丈夫かな。どんな技なの?」
「ふふふ、いずれアッシュさんにもできるような技です。見ていてください」

 私の目の前に落ちている棒切れを拾う。ちょうどいい長さだね。これを使わせてもらおう。
 二つ目の新技、一言で言うなら『風の刃』というものだ。ある程度の力量を持った剣士は、剣を振ったときに生じる風圧で、風の刃を発生させることができる。
 まあ、これは漫画やアニメの世界での話だけど、ここはその世界に限りなく近い。指弾ができたのだから、風の刃もできるはずだ。
 剣による攻撃の場合、直接攻撃に該当がいとうするのは刃の部分のみ。その攻撃から派生する『風の刃』は間接攻撃に該当がいとうするだろう。
 早速、やってみよう。まずは、シールドウォックに軽く『威圧』をかける。

「よし、『威圧』が効いてる」

 次に、棒切れを左腰のベルトの隙間すきまに入れ、居合斬りの構えをする。はじめてやってみる技だから、確実に成功させるためだ。現実の日本でも、『居合』という技は存在するからね。力は三割程度にして……

「いけ!! 居合斬り!!」

 あれ? こっちを見ているシールドウォックに反応がない。もしかして失敗した?
 ――ドゴーーーーーーーン!!
 え、何!? 居合斬りを放ってから数秒遅れて、物凄ものすご轟音ごうおんがダンジョン全体に響いた!!

「うわああぁぁぁーーーー、なんだこの音!? あ!! て……て……天井が……」

 アッシュさんが小刻みに震え、天井のある一画を指さした。 
 あ!! 天井に、剣で斬ったかのような一筋の跡がある。まさか……私の仕業しわざ

「あ、シャーロット、シールドウォックと木々が!!」

 え? シールドウォックの身体がズレてきた!! そして、木々も風の刃で斬られたらしい。ズズズと音を出し、スッパリと斬れて地上に落下、ズズゥゥーーーーンという衝撃音が鳴り響いた。斬れたのは一本だけじゃない。私が刃を放った方向にある全ての木々が、シールドウォック含めて見事にスッパリ斬れていた。居合斬りで放った風の刃の威力が強すぎる!! 

「やばい!! 逃げないと!! シャーロット、急いでここから離れるんだ!! みんなが何事かと思って、ここに集まってくるかもしれない」
「あ……はい」

 とんでもないことを仕出かしてしまった。この技は使用禁止だね。急いでこの場から離れよう。

「……シャーロット、さっきの技は刀術の居合斬りだよね?」
「はい。指弾と同じく、剣を思いっきり振ったら、風の刃が発生するんじゃないかと思い、適当に居合斬りをやりました」
「あれで……適当? 剣も見えなかったし、ダンジョンの天井に大きな傷跡をつけるなんて……威力が大きすぎる。シャーロットは、武器を持たない方がいい」

 改めて、自分の力を痛感したよ。三割くらいの力で、あの威力……下手に武器を持ったら、確実に仲間を殺してしまう。

「すみません。あそこまで威力があるとは思いもしませんでした。武器に関しては、きちんと扱い方を習ってから、実戦で使用することにします」

 クーデターのときに知らずに使っていたら、敵味方関係なく全滅していたかも。

「ここで試しておいて正解だったね。さあ、先に進もう」
「はい」

 新たな課題が発生した。『風の刃』のような、強力な遠距離攻撃を制御できる力を身につけないといけない。当分の間、近距離攻撃と指弾による中距離攻撃の制御に専念しておこう。遠距離攻撃は、その後で頑張がんばろう。



 7話 シャーロットの魔法講義


 私たちは、地下二階での居合斬りによる騒ぎの後、堅実にダンジョン攻略を進めていった。途中、私もアッシュさんも、毒や混乱などの状態異常系のわなに何度かまってしまったけど、その都度つど、私がアッシュさんを薬で治療した。落とし穴のわなに関しては、察知できるようになってきたので、事前に察知して、わなをダンジョンから引きがした。その後、自分のものにしたんだけど、アッシュさんいわく――

「ダンジョンのわなを引きがせるなんて、聞いたことがないよ。しかも、引きがすとき、それを防ごうとなんらかの攻撃魔法が働いたと思うんだけど……シャーロットはノーダメージなんだね。シャーロットにしかできない芸当だよ」

 らしい。私の異常なステータスだからこそできるんだね。これまでのところ、私はわなの『落とし穴』を五個獲得している。これらは、クーデターのときに利用できそうだ。
 そして私たちは今、地下四階のセーフティーエリアにいる。時刻が夕方五時となったので、今日はここで泊まることに決めた。ここには他に十代前半の冒険者が六人もいて、彼らも野営の準備をはじめている。
 周囲は森林に囲まれているけど、このエリアの区域だけが、大きな広場となっていた。清浄せいじょうな空気が出ているからか、魔物の気配が一切ない。これなら安心して料理を食べられるし、ゆっくり眠れそうだ。
 夕食にはまだ早いから、少しアッシュさんの魔法の鍛錬をしよう。
 これまでのアッシュさんの戦い方を見てきたけど、剣術や体術のスキルレベルは比較的高いんじゃないかな? Eランク相手にも、十分通用している。でも、肝心かんじんの魔法が問題だ。

「アッシュさん、夕食にはまだ早いので、今から魔法の鍛錬をしましょう」

 アッシュさんが持っている魔導具は、四つの指輪だ。うち三つは、ヒール、ファイヤーボール、アイスボールがそれぞれ放てるもの。あとの一つは、誕生日にもらったという『祝福の指輪』で、呪いを受けつけない効果があるらしい。アッシュさんは、常に祝福の指輪とヒールの指輪を装備している。残り二つは、状況に応じて装備するそうだ。理由を聞いたら、指輪をつけすぎると、剣を握りづらくなるからだとか。

「鍛錬? 僕の魔法、どこかおかしいかな?」
「はっきり言いますと、魔法の根幹となるイメージが弱すぎて、本来の力を出せていません」
「え? 詠唱だってきちんと唱えているし、火と氷のイメージも問題ないと思っていたけど……」

 その火と氷のイメージが弱すぎるんです。

「アッシュさん、とりあえず授業で学んだことを全て忘れてください。ここだけの話にして欲しいのですが、私は『精霊視』というユニークスキルを持っています。このスキルのおかげで、私は精霊様を認識することができ、五歳の頃から多くのことを教わりました。今から私の言う通りに、アイスボールを放ってください」

 明日にはボスと戦うことになるから、アッシュさんをさらに強化させておこう。本当なら、スキル『武器強化』も教えたいところだけど、まずは属性付与に慣れてもらわないといけない。

「せ……『精霊視』を持っているの!? わ、わかった」

 まずは、『無詠唱』を覚えてもらおう。


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