10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護

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4章 ベイツの過去

45話 ベイツの犯した大罪

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【ミーシャとティリルは、何のために下界へ降りてきたのか?】

俺は奇妙な胸騒ぎを感じながら、寝巻きに着替え、風呂場を後にする。リビングに行くと、神妙な顔をした2人がソファーに座っていた。やはり、俺に何かを伝えるつもりなのか?

「ベイツ、お風呂に入ったことで、疲れも癒され、視野も回復し、思考力も判断力も回復したわね」

ミーシャのこの言い回し、やはり何かを隠しているな。
《辛い現実が待っている》、ルウリのあの言葉の意味を知っているのか?
ミーシャもティリルも真剣そのもの、何を告げる気だ?

「あ…ああ、そうだな。2人は、俺に何かを伝えにきたのか?」

「その通りよ。ただ、咲耶ちゃんとユウキちゃんが短剣の回収に成功したようだから、あなたにこの事実を伝えるべきか、少しだけ迷っているのよ」

短剣の回収?
まさか、2年半前に大樹の根元に埋めた物のことを言っているのか? 

この5日間、ずっと嵐が続いていた。
これは、この地域一体で不定期に発生する天災だろう。
それが今日になって、突然止んだ。
そして、ミーシャとティリアに再会した。
偶然だとは思えん。
【辛い現実】……いいだろう、それを全て受け止めようじゃないか!!

「ミーシャ、覚悟はできた。俺は、全てを受け止める」
「あなたらしいわね」

何故か悲しげな表情のまま、俺に笑顔を見せる。

「やっぱり、パパは凄い。みんなの言った通り、たとえ真実を知ったとしても、きっと乗り越えてくれるよ。真実を伝えないと、ルウリ様との約束を破ることになっちゃうから、私たち全員が消えちゃうよ。お母さん、お父さんを信じて」

みんなが消える? 
どういうことだ?

それに、ティリアは7歳なのに、いつの間にそんな大人びた顔をするようになったんだ? 天国で、一体何があった?

「そうね、信じましょう。ベイツは、大樹様の叫び声を聞いたかしら?」

「大樹様? 街外れにあるあの大きな樹のことか? 嵐の最中、その方向から咆哮とも言える叫び声と、巨大な魔力と威圧を感じたが、すぐに収まったな」

あれは、間違いなく脅威度B以上の魔物の魔力だ。だが、すぐに引っ込んだし、念のため冒険者ギルドに行き、状況を聞いたら、ガロードさんが対処に向かい、すぐに嵐も止んだことから、受付嬢たちも然程慌てていないようだった。だから、家へ戻ってきたんだ。

「今日、私たちが行動を起こさなければ、その大樹様が魔物化して大騒動に発展していたのよ」

「何だって!?」

あの巨大な樹が魔物化だと!?
瘴気を発するような物は周辺に一切ないのに、何故魔物化するんだ?

「あの大樹からここまでは、結構な距離がある。ルウリ様とフリード様が駆けつけるまでに、数百名の人が死に、貴重な蒸気魔導列車2つとリリアム駅も破壊され、街の景気をひっくり返せる程の被害が発生するわ。そのせいで、王族が原因を究明すべく、王家直属のエリート騎士団を動かし、大樹近辺の調査が隈無く実施されたことで、昔私たちの埋めた短剣が発見されてしまうの」

あの時に感じた巨大魔力、俺やガロードさん、ルウリたちが気づいたとしても、到着するまでには、時間がかかる。それに嵐である以上、騒音も聞こえずらくなり、その分避難も遅れてしまう。後手の対応により、凄まじい被害が生じていたことだけは間違いない。だが、その大騒動と短剣が、どう繋がってくるんだ?

「騎士たちはその短剣を押収し、調査を専門機関へと依頼する。その結果、あの短剣は人の血を多く啜った呪いの魔剣=呪剣に分類されたの」

「呪剣だと!! そんな馬鹿な!! あれは、君の父親が護身用として持たせた物だぞ!?」

元々、ミーシャは子爵家の3女で、成人した15歳の時に誕生日プレゼントとして、両親から護身用の短剣を貰ったと聞いている。俺が19歳の時に、当時18歳の彼女と出会い、一目惚れしてご両親にお付き合いの許可をもらうよう直談判したが、何度言っても承諾してくれなかった。当時はBランクの冒険者で、ミーシャの住む街の英雄と持て囃されていたから、快く許可してくれると思ったが、平民との結婚は許さないの一点張りで、聞く耳を持ってくれなかった。だから、俺はミーシャと相談し、駆け落ちを選択したんだ。その際、彼女は両親との繋がりを無くしたくないため、あの短剣を持って俺と共に街を出ていった。

「父も母も知らないのよ。2人は新品の短剣と思い込み、家紋を入れて私に渡したのよ。生前、私も気づかなかったけど、死んで天国に行き、死ぬまでの流れを御使様から聞いたことで発覚したの」

俺も、今の今まで全く気づかなかった。ただの普通の短剣に見えたんだが……あ……待て待て待て!! そもそも、あの短剣を埋めたキッカケは、ミーシャの生家ブレントン子爵家で起きた事件にある。詳しくは知らんが、ミーシャの兄がパーティー会場で口論となり、カッとなって伯爵家の長男を殺したんだ。これにより、《子爵位》が剥奪されてしまい、義兄は牢獄行き、家族全員が平民となってしまい、その後の行方がわからなくなってしまった。

あの短剣を持ったままでいると、必ず誤解を受けてしまい、俺たち家族も批難される可能性がある。だから、廃棄処分にしようと思ったが、ミーシャの家族との繋がりがある物品類はあの短剣しかない。俺は、行方不明となった元ブレントン子爵家の者たちと何処かで再会することも考慮して、ほとぼりが冷めるまで大樹の根元に埋めようと、俺がミーシャとティリアに提案したんだ。

それが、今から2年半前に起きた出来事だ。
その約半年後に、ミーシャとティリルは天災で死んだ。

あ……そういうことか、ルウリの言った意味がここで理解できたぞ。

「察したようね。あの短剣が発端となり、天災が起きてしまい、大樹が魔物化し、街に大損害を与えてしまった。王家は短剣の所有者の名を伏せて、情報を開示するつもりだった。でも、情報が何処からか漏れてしまい、新聞記者たちがこぞって記事にしたことで、あなたの名前が国中に知れ渡ってしまう。国中の人々がその真実を知り、あなたを批難するようになったことで、国王陛下や他の貴族たちもAランクとして名を馳せていたあなたを庇うことができなくなり、公開処刑となってしまうの」

「な、俺が公開処刑!?」

いや……ありえる。あの天災で亡くなった人々は、ゆうに1000を超えている。その発端となった俺が明るみになれば、全ての怨恨が俺に集中することになる。そんな負のオーラが俺1人に集まれば、絶対何らかの騒動が起こる。手遅れにならないうちに、王家が動いたんだ。

だが、これはあくまであったかもしれない未来の話だ。咲耶たちが騒動を終息させた以上、被害もなければ、短剣も彼女の手にある。今となっては、もう起きない未来の話になるのか。

「まさか……ミーシャ、ティリルは俺を救うために?」

2人は、頷く。

「そうだよ、パパ。私が偶然御使様の話を立ち聞きしちゃったの。パパはね、このままだと公開処刑されるの。天界の法律上、たとえ自分が直接手を下していなくても、間接的に多くの人々を死なせてしまった場合は、地獄行きになるって聞いたの。[そんなの嫌だ!!]と思って、仲間に相談したんだ」

地獄行き……それは当然だ。俺が短剣を埋めなければ、誰も死ななかったんだ。俺が、ミーシャやティリル、天災で亡くなった人々を殺したようなものだ。《何も知りませんでした。俺は悪くありません》で、済む話じゃない。

「私は、お母さんやみんなに必死にお願いしたの。天災で死んだ人たち全員が理解してくれて、みんなで御使様たちに嘆願したんだ。[パパ《ベイツさん》を助けてほしいって]」

今、聞き捨てならない言葉を聞いたぞ!?

「ちょっと待て、ティリル!! 天災で亡くなった人々が、何故協力してくれたんだ? 俺が殺したようなものだぞ? むしろ、恨まないとおかしいだろ?」

恨まれこそすれ、俺に協力してくれるわけがない。
俺はミーシャを見ると、何故か軽く微笑んだ。

「そうね。現世で亡くなった人々は、天界に来ることで自分の死亡理由を知ることになるのだけど、当初は皆が嘆き悲しみ、あなたを恨み罵っていたわ」

ミーシャが、容赦ない言葉を俺に告げる。
頭でわかっていても、心が痛い。

「そう…だろうな。故意ではないとはいえ、俺が大樹を狂わせ、多くの人々の命を奪ったことにかわりないのだから」

天災で亡くなった人々から見れば、俺を恨んで当然だ。
逆の立場で考えたら、俺だってそいつを恨むだろう。
愛する家族を俺から引き離したのだから。

「あなた、最後まで話を聞いて。亡くなったみんなは、確かに死んだ当初はあなたを恨んでいた。でもね、私たちは必死に天災の原因を突き止めようと、1人で頑張るあなたの姿を天界からずっと見守っていたの。その姿を見続けることで、1人また1人とあなたを恨まないようになっていったの。霊峰スムレットで起きた天災で、あなたは咲耶ちゃんを救ってくれたわ。彼女の境遇を知り、教育者として、彼女にこの世界の常識を必死に教えていく姿を見ていくことで、今では誰もあなたを恨んでいないのよ。むしろ、そんなあなたの生き様を見て、皆が応援しているわ」

「なん…だと…皆が俺を応援?」

俺は、亡くなった人々のことなんて何も考えていない。ただただ、ミーシャとティリルを俺から奪った天災の原因を知りたかっただけなんだ。そんな俺を…応援してくれている? こんな自分勝手な男を応援?

「パパ、本当のことだよ。始めは御使様全員から反対されたけど、パパは不遇な咲耶お姉ちゃんを助けてくれたことで、一気に注目が集まったの。そして、天災で死んだみんなもパパを恨んでいないということが考慮されて、御使様たちが神様に私たちの嘆願を訴えてくれたの。ギリギリになってしまったけど、ようやく現世に下りる許可も出て、御使様から公開処刑されるまでの流れを教えてもらい、ルウリ様を通じて、ここへ来たんだよ」

「俺のせいで亡くなった大勢の人々が、俺を助けるために神に懇願してくれた?」

俺は、自分の妻と子供を殺してしまったんだぞ?
俺は、1000人以上の人々を殺した愚か者なんだぞ?
生きていていい存在じゃない。
そんな俺を、応援?
俺を生かそうとしてくれている?

「俺は…俺は…幸せに生きていい存在なのか?」

「パパ、パパは生きていいんだよ」

「短剣を埋めたのは、ベイツだけの責任じゃない。私やティリルだって、あなたの発案に賛成したのだから、私たち家族全員に責任があるの。あなた1人が抱え込まなくていいのよ。そして、今はもう亡くなった全員があなたを許している。あの悲惨な未来も消失したし、あなたは咲耶ちゃんの育ての親として、今を生きてほしい」

「俺は…俺は……」

ミーシャとティリルの言葉が、俺の胸に深く突き刺さる。
気づけば、俺は泣いていた。
そんな俺を見て、ミーシャは俺を優しく抱きしめてくれた。
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