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5章 猫の恩返し
66話 アレスの困惑と真意 *アレス視点
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皆、この光景を見て相当焦っているだろう。
2日目の一番手が咲耶になったことで、当初は皆ホッと胸を撫で下ろしたはずだ。ところが蓋を開けてみれば、彼女の調理した料理2品がとんでもない完成度なのだから。特に【イカ焼き】、露店販売で150ゴルドという破格の値段設定、肝心の味も申し分ない。当初、懐疑的に見ていた参加者や味見人たちも、3人の監視員の言葉で咲耶の料理を信じた。10歳の記憶喪失少女が、値段と客層も考えた上での2品で、文句の付けようがない。
でも、だからこそおかしいんだ‼︎
料理の完成度が高過ぎる。
僕は、隣で食しているザフィルドに疑問をぶつけてみる。
「ザフィルド、君は2品の味をどう思う?」
「どれも、絶品ですね。イカ焼き、この味を150ゴルドで引き出せるのが素晴らしい。こちらのアヒージョも、肉とオイルのバランスが絶妙です。あの固くパサパサしたパンを熱したオイルに浸すだけで、ここまで味が激変するのかと、いやはや驚きの連続です。これは、貴族間で流行りますよ」
今日に限って、やけに饒舌に喋るな。
相当、これらを気に入ったようだ。
この男は僕の護衛だが、結構な料理通で、味にかなり煩い。その言い方から察するに、この2品は未知なる料理ということになる。
「君は、おかしいとは思わないのか?」
「は? 文句のつけようがありませんが?」
そう言っていることに、違和感を覚えないのか?
「君の言う通り、文句のつけようがない。だからこそ、おかしいんだ。課題自体は2日前に発表されたばかりだぞ? 料理人ならともかく、10歳の記憶喪失少女が、どうやってこの短期間で、これ程の完成度の高い料理を作れるんだ?」
僕に言われ、ザフィルドもはっとした顔となる。
「確かに…」
しかも、咲耶の言い方が、妙に気になる。
新規料理のはずが、まるで既に知られているかのような言い方だ。
「彼女の持つスキルは、【心通眼】【レシピ検索[無生物]】の二つだけのはずだ。料理に煩い君がこれらを知らないとなると、これらはこの国にない新規料理となる。自ら開発したのか、隣国の力を借りたのか、もしくは……」
大樹マナリオが咲耶に昔の忘れ去られた料理を教えた可能性も否定できないが、僕的には、咲耶があの二つ以外のスキルにも目醒めていて、それを有効利用していると考えるのが自然だ。
やはり、ルウリはリリアーナの元婚約者である僕を信用していない。まあ、会ったばかりの貴族に全てを明かすのもおかしいけど。
咲耶、君は何を隠しているんだい?
君と再会してからの5日間、やっぱり僕の気持ちは変わらない。
僕は、君のことが好きだ。
君が無能者でもスキル持ちでも、どちらでも構わない。
記憶喪失になり、僕との記憶を無くしても、君の性格は変わってなかった。
僕は、リリアーナ…いや咲耶という女性が好きなんだ。
そんな彼女が平民になった以上、僕が公爵家を捨て平民にならない限り、再度婚約を結ぶことなんて不可能だ。公爵家の長男である以上、当然そんな自分勝手な迷惑行為なんてできないから、僕と咲耶が結ばれることはない。それでも友達として、初恋の彼女に何かあった場合、僕は今回のように迅速に動き出す。
「アレス様、それ以上の詮索はいけませんよ」
「ああ、わかっているさ」
元々、咲耶に関する全ての情報を明かされたなんて、僕だって思っていない。むしろ、彼女の新たな一面を見られて嬉しいくらいさ。ベイツさん、ルウリ、フリード、マナリオ、この面子であれば、(強調)また街内で事件が起きたとしても、必ず咲耶を守ってくれる(強調)。
………もう一つの目的を達成させるため、僕たちも動きやすくなる。
「ザフィルド、彼らから連絡は?」
僕たちは、7人でこの街へ来た。
この事実は、ルウリ、フリード、ベイツさんの3人に教えている。
僕以外の6人は、ある特殊任務を父から言い渡されているので、到着早々ザフィルド以外の5人が駅で散開し、今でも街内を調査している。僕には彼らと同行するための力がないから、少しでも役立てるよう、露店巡りのついでに情報収集も行っているが、フェスタ初日であの騒動が起きてしまった。
おそらく、この騒動は我々の裏の目的と関係している…はずだ。
「いいえ、まだありません」
「そうか」
昨日以降、5人からの連絡が途絶えたままだ。
あの騒動の裏で起きた何かに巻き込まれたのか?
「アレス様、あれを‼︎」
ザフィルドは、駅の方向の空を指差している。そこに何か……あれは鳥……いや鳥型の式神だ‼︎ あ、僕らが視認した途端、移動を!?
「ザフィルド、追うぞ‼︎」
「はい‼︎」
5人のうちの1人は土と風の法術師、自然の力を扱うことで法術を使用できる。1日に1度、式神経由もしくは、5人全員が直接宿屋に帰還して任務状況を報告するよう言ってある。2日前まで命令通りにしていたのに、昨日になって突然彼らとの連絡が途絶えてしまった。今このタイミングで式神を経由させて知らせてくるということは、何か起きたに違いない。
あの式神は、僕たちを何処へ誘っている?
どんどん人気のない方向へ行くぞ?
「アレス様、あなたは…」
「ザフィルド、ここで僕だけを宿屋へ帰らせたら、誘拐される危険性があるし、この地域に留まると、咲耶たちだけでなく、周囲の人々も巻き込まれてしまう。それらの行為は、奴らの思う壺だよ。僕にとって、このまま式神のもとへ向かうのも危険だけど、1人になるより、危険度は幾分マシさ」
ザフィルドも理解してくれたのか、それ以上は何も言わなくなった。僕とて、剣術・体術・魔法の戦闘訓練を毎日行っている。実戦は初めてだけど、ここで単独行動を起こすのも危険だとわかる。
式神は、駅から離れた人気のない方向へ向かっていく。あの地域には、まだ未開発の場所もあり、土地自体もあまり整備されていない。背丈の高い雑草も生い茂っているから、10人程度の人がいても目立たない。
鳥が、地に降りた‼︎
あそこか!?
何が待ち構えている?
僕は最悪の事態を想定して、ザフィルド共にその地へと駆けていく。
2日目の一番手が咲耶になったことで、当初は皆ホッと胸を撫で下ろしたはずだ。ところが蓋を開けてみれば、彼女の調理した料理2品がとんでもない完成度なのだから。特に【イカ焼き】、露店販売で150ゴルドという破格の値段設定、肝心の味も申し分ない。当初、懐疑的に見ていた参加者や味見人たちも、3人の監視員の言葉で咲耶の料理を信じた。10歳の記憶喪失少女が、値段と客層も考えた上での2品で、文句の付けようがない。
でも、だからこそおかしいんだ‼︎
料理の完成度が高過ぎる。
僕は、隣で食しているザフィルドに疑問をぶつけてみる。
「ザフィルド、君は2品の味をどう思う?」
「どれも、絶品ですね。イカ焼き、この味を150ゴルドで引き出せるのが素晴らしい。こちらのアヒージョも、肉とオイルのバランスが絶妙です。あの固くパサパサしたパンを熱したオイルに浸すだけで、ここまで味が激変するのかと、いやはや驚きの連続です。これは、貴族間で流行りますよ」
今日に限って、やけに饒舌に喋るな。
相当、これらを気に入ったようだ。
この男は僕の護衛だが、結構な料理通で、味にかなり煩い。その言い方から察するに、この2品は未知なる料理ということになる。
「君は、おかしいとは思わないのか?」
「は? 文句のつけようがありませんが?」
そう言っていることに、違和感を覚えないのか?
「君の言う通り、文句のつけようがない。だからこそ、おかしいんだ。課題自体は2日前に発表されたばかりだぞ? 料理人ならともかく、10歳の記憶喪失少女が、どうやってこの短期間で、これ程の完成度の高い料理を作れるんだ?」
僕に言われ、ザフィルドもはっとした顔となる。
「確かに…」
しかも、咲耶の言い方が、妙に気になる。
新規料理のはずが、まるで既に知られているかのような言い方だ。
「彼女の持つスキルは、【心通眼】【レシピ検索[無生物]】の二つだけのはずだ。料理に煩い君がこれらを知らないとなると、これらはこの国にない新規料理となる。自ら開発したのか、隣国の力を借りたのか、もしくは……」
大樹マナリオが咲耶に昔の忘れ去られた料理を教えた可能性も否定できないが、僕的には、咲耶があの二つ以外のスキルにも目醒めていて、それを有効利用していると考えるのが自然だ。
やはり、ルウリはリリアーナの元婚約者である僕を信用していない。まあ、会ったばかりの貴族に全てを明かすのもおかしいけど。
咲耶、君は何を隠しているんだい?
君と再会してからの5日間、やっぱり僕の気持ちは変わらない。
僕は、君のことが好きだ。
君が無能者でもスキル持ちでも、どちらでも構わない。
記憶喪失になり、僕との記憶を無くしても、君の性格は変わってなかった。
僕は、リリアーナ…いや咲耶という女性が好きなんだ。
そんな彼女が平民になった以上、僕が公爵家を捨て平民にならない限り、再度婚約を結ぶことなんて不可能だ。公爵家の長男である以上、当然そんな自分勝手な迷惑行為なんてできないから、僕と咲耶が結ばれることはない。それでも友達として、初恋の彼女に何かあった場合、僕は今回のように迅速に動き出す。
「アレス様、それ以上の詮索はいけませんよ」
「ああ、わかっているさ」
元々、咲耶に関する全ての情報を明かされたなんて、僕だって思っていない。むしろ、彼女の新たな一面を見られて嬉しいくらいさ。ベイツさん、ルウリ、フリード、マナリオ、この面子であれば、(強調)また街内で事件が起きたとしても、必ず咲耶を守ってくれる(強調)。
………もう一つの目的を達成させるため、僕たちも動きやすくなる。
「ザフィルド、彼らから連絡は?」
僕たちは、7人でこの街へ来た。
この事実は、ルウリ、フリード、ベイツさんの3人に教えている。
僕以外の6人は、ある特殊任務を父から言い渡されているので、到着早々ザフィルド以外の5人が駅で散開し、今でも街内を調査している。僕には彼らと同行するための力がないから、少しでも役立てるよう、露店巡りのついでに情報収集も行っているが、フェスタ初日であの騒動が起きてしまった。
おそらく、この騒動は我々の裏の目的と関係している…はずだ。
「いいえ、まだありません」
「そうか」
昨日以降、5人からの連絡が途絶えたままだ。
あの騒動の裏で起きた何かに巻き込まれたのか?
「アレス様、あれを‼︎」
ザフィルドは、駅の方向の空を指差している。そこに何か……あれは鳥……いや鳥型の式神だ‼︎ あ、僕らが視認した途端、移動を!?
「ザフィルド、追うぞ‼︎」
「はい‼︎」
5人のうちの1人は土と風の法術師、自然の力を扱うことで法術を使用できる。1日に1度、式神経由もしくは、5人全員が直接宿屋に帰還して任務状況を報告するよう言ってある。2日前まで命令通りにしていたのに、昨日になって突然彼らとの連絡が途絶えてしまった。今このタイミングで式神を経由させて知らせてくるということは、何か起きたに違いない。
あの式神は、僕たちを何処へ誘っている?
どんどん人気のない方向へ行くぞ?
「アレス様、あなたは…」
「ザフィルド、ここで僕だけを宿屋へ帰らせたら、誘拐される危険性があるし、この地域に留まると、咲耶たちだけでなく、周囲の人々も巻き込まれてしまう。それらの行為は、奴らの思う壺だよ。僕にとって、このまま式神のもとへ向かうのも危険だけど、1人になるより、危険度は幾分マシさ」
ザフィルドも理解してくれたのか、それ以上は何も言わなくなった。僕とて、剣術・体術・魔法の戦闘訓練を毎日行っている。実戦は初めてだけど、ここで単独行動を起こすのも危険だとわかる。
式神は、駅から離れた人気のない方向へ向かっていく。あの地域には、まだ未開発の場所もあり、土地自体もあまり整備されていない。背丈の高い雑草も生い茂っているから、10人程度の人がいても目立たない。
鳥が、地に降りた‼︎
あそこか!?
何が待ち構えている?
僕は最悪の事態を想定して、ザフィルド共にその地へと駆けていく。
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