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小話系
クリスマスマジック 5
しおりを挟む厚木が戻ると、サンタの格好をした吉継が玄関まで走ってきた。
「さとみさんおかえりなさい」
「ただいま」
吉継がモジモジし始める。
「さとみさん」
「どうした」
「これです」
手のひらになにかが乗っている。
「これは…」
なんだ。3Dペンで描いたと思われる吉継の作品…なのだが。
「しょうたいじょおです」
「招待状なのか」
「はい」
「これは何だ」
「さとみさんのくるまです」
言われてみれば見えなくもない。
象を飲んだウワバミ…にも見える車の裏には両面テープが付いており、吉継が厚木のシャッの胸に車を貼る。
吉継に手を引かれて入ったリビングは、クリスマスらしいデコレーションがされていた。
「おかえりなさい、社長」
「ああ、お前はメガネか」
「はい吉継くんが作ってくれました」
「作りました」
えっへんと胸を張る吉継。
「らしくて、いいな」
「くふふっ」
「クリスマスツリーも用意しました」
「ああ」
「さとみさん、ここに座ってください」
吉継に手を引かれてソファに座る。
「吉継くん」
「はいです」
座った厚木の前に立ち、吉継は胸を押さえて緊張でもしているかのよう。
「社長、吉継くんが厚木さんに伝えたいことがあるようですよ」
前置きもなく、何もわからない厚木に、笠井が説明する。
「ぼくはさとみさんとここにきて楽しいです。お礼にお歌うたいます」
歌うのはありがとうのうたとクリスマスのうた。
いつの間に練習していたのか。歌い終わると吉継はペコリと頭を下げる。
「ありがとう、受け取った」
厚木の言葉はそっけないが、吉継は気にせず「はい」と言ってモジモジしている。隣に座らせると小さい手が厚木の腿に置かれる。
「歌は練習したのか」
「はい、ぼくはあお組の歌唱隊ですから」
「保育園では歌唱隊でいろんな歌を歌ったんですよね」
「はいです」
「すごいな」
そう言って立ち上がり、玄関先に置いていた小さな包み紙を渡す。
「これはなんですか」
「歌のお礼だ」
「あけます」
無心で包み紙を留めていたシールをめくっている後ろで、笠井が驚いた表情をしている。
パーティをすると聞き、プレゼントが必要かと帰りに買ってきたが、吉継の好みはわからないので、マフラーを巻いた熊のぬいぐるみだ。吉継の手に丁度いいサイズの。
「くまです」
大人の吉継と同じサイズの熊もいたが、それを買う気になったのは一瞬、悪趣味に思えたので子どもの吉継にも扱いやすいサイズだ。
「くまです…かわいいです…」
「ああ可愛いな」
「社長…レジシステムをご存知だったのですか」
必要なものは身の回りに揃っているうえ、都度必要なものはだいたい笠井が揃えている。厚木が現金なりカードなり、通貨を所持していることに驚く笠井だ。
「俺をなんだと思っている」
「…タイムスリップしてきた王族…?」
「ふん、チャイルドシートを買って経験値は積んでいる」
吉継が料理を食べたあとは、笠井がケーキを持ってくる。
ホールケーキに砂糖菓子のサンタやトナカイ、ツリーなどでデコレーションされているのを見て、厚木はやっと吉継の言葉を理解した。
クリスマスの定番ケーキらしい。
「さとみさんどうぞ」
「俺は甘いものは…」
「吉継くん、あーんだったら社長は食べますよ」
「はい」
「笠井…」
吉継は、切り分けたケーキを崩してかけらをフォークで刺す。拙い手付きなので危なっかしいが、ぷるぷるしなから目の前にフォークを持って来て期待の眼差しを向けられて口を開く。
「どうですか」
「いや…甘いな…」
「おいしいですねぇ」
「ああ…ほら」
吉継の口もとにケーキを運ぶと、ぱあっと明るい表情になり、大きな口を開く。
「あんまぁいです」
「だな」
見つめあいながらいちゃつき出した二人は、帰るタイミングを逃した笠井が、薄目になっていることに気づいていない。
恐竜のパジャマを着た吉継がベッドでゴロゴロする。
「パーティってとくべつです、すごいです」
手にはくまのぬいぐるみを持ちながら、まだどこか夢を見ているような顔でふわつく吉継だ。
吉継を寝かせるため厚木もベッドに横になると、すかさず寄ってくる小さな体。背中をトントンしていると目がトロンとしてきた。普段ならすぐに寝るところだが、なぜか眉を寄せて寝ないよう頑張り、厚木の服を握っている。
「眠いなら寝ろ」
「さとみさん」
「なんだ」
「ぼく、ここが一番すきです」
「そうか」
「さとみさんが一番すき…」
それだけ言うと、含み笑いをしてからそのまま寝てしまった。
吉継が寝たのを確認してからベッドから抜け出す。その寝顔はあどけなく、庇護欲が刺激されるが、恐竜がくまを捕食しているようにしか見えない。
小さな吉継に不思議な愛着が湧き始めていた。
それがいいことなのかどうか…。
夜が明けるには早い、未明の時間。
書斎で目を通しておかなければならない書類に一通り目を通し、吉継の様子を見に行くため寝室に戻る。
扉を開けると、よく知る声がかかる。
「厚木さん」
吉継だ。大人の方の。
恐竜のパジャマは脱ぎ捨てられ、くまのぬいぐるみも大男にベッドを占拠されて、端に追いやられている。
「俺、いつのまに厚木さんのところに来ましたか」
「覚えてないのか」
「覚えていません…」
思い出そうとして、むぅと眉を寄せる顔は小さい吉継によく似ている。小さい吉継が似ているのか、卵が先か鶏が先か。そんなことより。
「なぜ服を着ない」
吉継は裸だ。寝室の箪笥を探せば夜間着の一枚や二枚出てくるはずだが、箪笥を開けた形跡もなく、吉継は一応掛布で前を隠していた。羞恥心が育っていることにある種の感動があった。
しかし吉継は、つまらないことを聞くなとばかりに答えた。
「ここに俺の服はありません」
厚木さんの服はみんな小さいです。と余計な一言も添えて。
何がどうなっているのかはわからないが、子どもの吉継はいない。代わりに厚木のSubで、パートナーだが、どこかピントのズレたところがある大男の吉継がいる。帰って来た。
やはり、吉継は吉継だ。ブレない。
しかし厚木の目の前の吉継は大人なので、どこをどう見ても据え膳状態で厚木の前にいるというのが、どういうことなのか。
しっかり体に教え込んでやった厚木だった。
おわり。
トンデモ設定に長々お付き合いくださりありがとうございましたー。
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