神様はいない Dom/Subユニバース

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小話系

フェティッシュ 5

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 この間は結構気持ち悪かったな…。
 ふとした時に思い出すのは、数日前、くるっと丸め込まれてレースの男性下着を着用させられた時のことだ。
 なんとなく、いつもとは違った。
 変な下着を穿かせられたところまでは、テンプレと言えなくもない。毎回うまい返しを習得しなければとおもうのだが、気がついたら厚木のペースになってしまう。
 吉継に変な下着を穿く趣味はない。厚木が喜ぶなら…と、一瞬でも心が緩んでしまうのがよくない。
 厚木はどう贔屓目に見ても変態だ。
 自分より体の大きな男にレースの下着を着せて喜んでいる変態だ。
 吉継のなけなしの知識では、変態下着のゴールはセックスだと思う。 
 セッ…愛の営みを盛り上げる優秀なアイテム。性的興奮を煽ることが制作者の意図だと思うのだが。
 しかし、厚木の気持ち悪いところは、変態下着を本来あるべき使い方をしていないところだ。多少のいたずらはされるが、あくまで観賞用の意味合いが強い。下着姿で一緒に過ごしたこともある。着用感を言わされたりも。先日は、変なポーズを取らされ、それを視姦するような目つきで見られた。これが過去一気持ち悪かった。
 ついでに体も触られた。あれはあれで気持ちよかったが、性感帯には触れなかったし、プレイもしなかった。わけのわからない美辞なのか麗句のつもりかを並べ立てるところは異星人らしく、時々ディスりもちゃんと入れてくる。
 あんな変態でも、吉継には”ご主人様”なのだ。
 吉継にも不安はある。
 プレイよりも下着な厚木への不安。ここのところ毎日会っていて、簡単なプレイだけでも吉継の心は安定していた。それでも、下着の方がいいのか?と疑問に思ってしまう。
 吉継には圧倒的に経験値が不足している。
 一般的な育ち方をしてきていない。
 ダイナミクス絡みの事件に巻き込まれたこともある。最終的に今ここなので、それはまあいいのだが。
 いわゆる”普通”がわからないことが、目下の不安材料だ。
 厚木のことを変態でキモい異星人だと罵っているが、パートナー同士のコミュニケーションとして、あれが”普通”だったらどうしよう…というところだ。
 吉継の中に明確な標準値がないので、比較材料もない。
 厚木に変態と言ったところで、お前が言うなと言われてしまえばそれ以上なにも言えない。
 かと言って、相談相手もいない。
 山科、笠井、押元、千聡…厚木のことを知る人たちを思い浮かべていくが、誰にも相談できる気がしない。一歩引けばあまりにもくだらない内容だからだ。
 山科に厚木の変態性を知らせるのは気の毒だ。なにより、山科に知られるのは吉継が恥ずかしい。他の人に相談するのは、吉継の手に負えないくらい大事になりそうで二の足を踏む。ただ普通のパートナー同士がどんなコミニュケーションを取っているのかを知りたいだけだ。できたら、厚木と同じDomがいい。いやこの際Subでも…。
 吉継は誰にも言えない悩みを抱えながら、今日も厚木から半ば押し付けられた車で出勤した。

 

 「ハロー吉継ちゃん」
 「………」
 「いいね、そのちょっと死んでる表情筋、元気そうだね」
 理生だった。
 あ、ちょうどいいタイミングでDomだ…と思ったが、理生に相談なんてしたくない。
 解決への道は遠かった。
 「どうしてここにいますか」 
 理生はアメリカだかどこかの外国で、厚木の祖母である千聡の付き人みたいなことをしながらビジネスを学んだり、豪遊したりしている、気障でいけ好かなくて性格の悪いDomだ。
 ここは厚木の社長室だ。厚木はパソコンに向かって、なにか打ち込んでいる。説明して欲しい吉継の視線を知ってか知らずか受け流している。
 「え、どうして…って、知らないの?」
 「はい」
 「すぐ説明を省く、聡実ちゃんの悪い癖だねー」
 「わかりません。教えてください」
 「いいの?」
 「ああ」
 理生の言葉に、吉継絡みで堂々と隠し事をされているのかとムッとしたが、厚木はしらっとしていた。変態のくせに。
 「聡実ちゃんがアメリカで補正下着のブランドを立ち上げることになったから、今日は打ち合わせ」
 「は、はぁ…」
 厚木の仕事にキョーミが湧かない、むしろ仕事は厚木を縛るライバルなので、ブランドを立ち上げるイコール性懲りもなく仕事を増やすということだと吉継の頭が負の処理をした。忙しくて相手してくれなくなったら籠城だけでは済まさないと心の中で厚木に脅しをかけていて、返事は空気みたいになった。
 「男性向けの補正下着で、ブランド名が『Y.A』」
 「はぁ………………………は?」
 どうでもいい話を聞かされていると思っていたが、下着という単語に何かが引っかかって、厚木を見る。視線を感じた厚木は、吉継を見返してニヤついた。それはとても癇に障る笑い方で。
 「散々試着をしただろう」
 「あ、あれ…?」
 あの趣味の悪い、厚木の変態性を凝縮させたようなキモいレース下着のことか?もしくは今まで幾度となく穿かせられたプライベートゾーンを隠すことを放棄した、下着としてやる気が全然感じられないあれやこれのやつか?
 「多分”あれ”だねー!」
 理生が適当に話を合わせてくるが、吉継の中では確信になりつつあった。
 「どれだけ動いても理想的にヒップラインにフィットして着崩れしない、逸品だっただろう」
 「ちなみに、吉継ちゃんのブランドだからね。イメージモデルは本物のモデルが務めるけど、デザイナーのイマジネーションを駆り立ててくれたお礼に、『Y.A』の下着は着たい放題の特権付きだから」
 「そういうことだ」
 そういうことってどういうことだ?厚木のさも当然といったその顔がいけ好かない。
 「い、いらないです、いらない…」
 ブランド…補正下着で…男性用?…いらない情報ばかりだ。なにより、『Y.A』ってなに……っあ、蘭吉継、俺だ。と思ったときには大きな声が出ていた。
 「ご褒美!」
 「ん?」
 「どうした?」
 「ご褒美言います」
 「ああ」
 変態下着を穿いたご褒美権だ。行使するなら今しかない。
 厚木も覚えているようだ。
 吉継は、厚木に時間をかけてプレイしてもらって甘え倒そうと思っていた。週末が良いなと楽しみにしていたのに、こんなところで使うことになるなんて、ひどい。
 「名前いりません、下着もいりません」
 お金を持った変態は質が悪いとつくづくわかった。
 あのレース下着を穿いた股間やお尻の中まで視姦する勢いのキモい視線、ついでにささやかな大きさの乳首や脚線にまでねっとりとした視線を送ってくる厚木に恐怖すら感じたあれは、品質検査の一環だったのか…?マジキモ。
 やけにフィットする下着は補正が入っていたからなのかと妙に納得したが、デザイナーなど見たことも聞いたこともない、縁もゆかりもない人だが、勝手にイマジネーションを暴走させないでほしかった。
 「お前みたいな大男向けの補正下着だ。海外でしか流通しない」
 どこにも安心できる要素がない。それでフォローしたつもりか。
 「本当は吉継ちゃんにモデルもしてもらいたかったけど、下着姿は聡実ちゃんから許可が下りなくてさぁ!愛されちゃってるねー。でも、名前貸しでちょっとしたお小遣いは入るから、ね?」
 「…いらないです…」
 どうして厚木は、欲しいものはくれないのに、いらないものばかりくれるのか…。
 「ところで吉継ちゃん、上半身を補正するタイプがあるけど、ブライダルインナーとしてどう?」
 「????」
 理生の捲し立てに、吉継の頭はキャパを超えた。
 「…厚木さん…」
 「どうした、お腹でも空いたか」
 「わかりません…、俺…」
 しゅんとしてことばも尻窄みになる。覇気が無くなった吉継を厚木が引き寄せて声をかける。ついでにちゃっかりお尻も撫でているが、今の吉継に文句を言う力はない。
 「嫌だったのか」
 「…厚木さんは、下着のほうが好きですか」
 「いや…」
 不埒な手が止まる。
 「俺…下着ばっかり嫌です…」
 やっぱり厚木は吉継より下着が好きなんだと思うと、イヤイヤと言う力も出てこなかった。
 無表情でしょんぼりしている吉継に、さすがの厚木も自分の変態性を推し通してはこなかった。
 「…わかった」
 「厚木さん…」
 「…控える」
 止めると言わないのが厚木だ。
 でも、吉継としてはそれで充分だった。
 「だったらいいです」
 「ああ」
 ゴホンゴホンとわざとらしい咳払いの音がして、あ、そーいえばもう一人いたなと思い出した。
 「お取り込み中申しわけないですがぁー、結局ブライダルインナーは着るの?ちゃんとしたものを作るよ?どーせするんでしょ、結婚」
 「し、しません…」
 「日本ではしない」
 「え?」
 「あ?」
 意見の相違で二人見つめ合う。
 愉快犯の理生だけが腹を引きつらせて笑っていた。





 おわり。
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