27 / 32
小話~とあるご夫婦の愛 R18
しおりを挟むスキル〈呪い〉の恐ろしい事件簿
初めてそのスキルが発現したのは、建国からほどない王家主催の夜会でのことであった。
そのころ、男性のかつらが流行り、思い思いのかつらを着用しおしゃれを楽しみ、そこかしこで当時のイケメンたちがモテにモテていた。
パトリック・カミンスキは、子爵位を継いだばかりであった。若くして当主になった彼は、今宵こそは意中の女性に声をかけ求婚するために意気込み、緊張のピークのため友人たちとの談話の内容など耳に入ってこないほど。
その時、彼の恋焦がれる女性がやってきた。
「相変わらず麗しいなあ……。おや? いつもなら父か兄がエスココートをするはずなのに、彼女の隣に立っている男は誰だ?」
パトリック以外にも彼女を狙う青年は多い。周囲がざわめき出した。パトリックは、ちらちら彼らの事が気になりながらも、本格的に始まったダンスを彼女と共に踊りたくて機会を伺っていた。
やっと、エスコートの青年とダンスが終わった彼女は、そのまま他の男と踊らず、腰を彼の手にぐっと添えられたまま。
やがて、青年が膝まづき彼女に求婚をする。どうやら彼は、彼女の幼馴染で隣国に今まで行っていたらしい。
パトリックは目の前で繰り広げられ、二人が衆目の中、祝辞を贈られるのを呆然と見ていた。自分と違い、どう見ても他にもよりどりみどりそうなイケメンの青年が憎くてたまらなくなった。
その時、パトリックの体から魔力が漏れ出し、周囲どころか会場中を飲み込む。
一体何事かと暫くの間、全員が閉じていた目を開けると、そこには生地のようなものがあるばかり。体に覆いかぶさるそれは、どうやら着ていた服のようで、なんとか這い出た彼らは裸である事に気付く。
男性は驚き股間を即座に隠し、女性は泣きながら服で身を包み、悲鳴があがった。
パトリック以外の人間が小さくなり、再び大きくなると周囲は阿鼻叫喚、パニックになった。
すると、先ほど彼女に求婚した青年が、股間ではなくいきなり頭を押さえた。
「み、みるなあああ!」
いや、青年だけではない、国王や国の重鎮など高位貴族の男性まで取り乱しているではないか。
流行のかつらの下は、完全な荒野から部分が涼しくなっているもの、かつらで隠せるからと地肌に散らかされた糸くずのようにはりついているものなど様々だ。
パトリックは、どうなっているのか呆然とあたりを見わたしていた。
「恐ろしい……。これは、まさに呪いだ……」
当時、神から与えられた頭皮を覆う色を失う事は、大罪を犯した証拠だとされていた。
とはいえ、神殿で儀式を受け清めていれば問題ないが、現在悲鳴をあげ頭を隠しているのは、その事実を誤魔化して周囲に秘密にしている者たちなのだ。
モテていた男性たちの真の姿がさらけ出され、女性たちが騙されたと怒り悲しみ、数組のカップルは修羅場となった。
男たちはパトリックが発動させたスキルに身震いした。あのスキルにかかれば、全てが明らかにされてしまう。また、彼のそのスキルの強さなどから、様々な立場ある男たちに声をかけられ始めた。
なんとも理不尽な信仰のために、その姿を隠し続けて来た者たちは、こぞってパトリックにスキルをかけないように頼み込んだ。
この事件は、国王たちによって完全に闇に葬り去られた。
当時の国王の厳命もあり、誰も口にできず公文書どころか日記やメモすら許されず、歴史の中に埋もれたという。
「あんな、神をも畏れぬ人だなんて思わなかった。わたくしは神に背くあの男に嫁ぐところだったのですね……。ああ、きちんと神殿に行き、しかるべき行動をとってらっしゃれば、どのようなお姿でも良かったのに……」
パトリックは、信心深い女性が騙されたと嘆き悲しむのを慰めた。
彼女はパトリックの優しい献身的な姿に対して恋するようになり二人はほどなくして結婚した。
いつしか、カミンスキ家のスキルは、〈呪い〉としてまことしやかに囁かれるようになる。
血統によりそのスキルを受け継ぐ事が判明すると、国王や重鎮たちはカミンスキ家を侯爵家に昇格させ味方につけた。
カミンスキ家は、その事を栄誉あることだと感動し、〈呪い〉のスキルの内容は忘れされていったものの、国に忠誠を誓い、清く正しくを家訓として栄えたのであった。
※※※※
時は流れて、スコルピオン捕縛前の、王宮内では。
現国王は、ベッドで王妃の胸の中、安らぎを覚えていた。
聖母のように美しい彼女は、目前にある愛する夫のその頭をそっと撫でている。
「ついに、王家にのみ真実が伝えられている〈呪い〉のスキルが発現したか……」
「あなた、変に隠すからこのような事態になったのではなくて?」
「そうかもしれんが、だが……」
「ん……、もういい加減離れてくださいな」
「……」
王の唇が愛する彼女の胸の飾りに吸い付く。
「あん……、もう、しょうがない人ね?」
「私のこの姿を知っていてもなお側にいてくれる君が魅力的過ぎるから悪い」
「まぁ、あなたったら」
ちゅっ
王妃は王の頭の天辺にキスをした。
「ふふふ、あなたは、こんなに素敵でセクシーなのに……。もう今では大昔のあの信仰は廃れているのですから、この際、カミンスキ侯爵のスキルを公になさって、管理すればよろしいかと」
「だが……、もしもまた、悩める同志の姿が白日のもとに晒されたら」
「ん……、あなた、そこは……」
王は彼女が自らの一本も色がない頭部を心から愛しく思ってくれている事に幸せを感じながら、彼女の秘めたる赤い粒に吸い付いた。
「あなた、お願い……もう、奥が切ないの……」
とろとろになった彼女の望み通り、王は奥深く想いを叩きつけた。
汗までもが二人を高めさせ、何度もお互いに上り詰める。大満足した王は眠る彼女にキスを落とした。
翌日、艶々になったかのような肌を隠しもせず、王は、ヴァインベルク騎士団長と副団長から進捗状況の報告を受けた。
その際、シモン・カミンスキに対して、カミンスキ侯爵の後継にするよう意思を示したのである。
その横で、疲労の色すらその色気に拍車をかける美しい王妃が、堂々たる王の姿を、この世の誰よりも素敵だと言わんばかりに瞳を輝かせて見惚れていたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。
たまこ
恋愛
公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。
ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。
※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
結婚式に代理出席したら花嫁になっちゃいました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
美希は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、結婚式の友人の代理出席をする予定で式場にいたのに!?
本編は完結してますが、色々描き足りなかったので、第2章も書いています。
第3皇子は妃よりも騎士団長の妹の私を溺愛している 【完結】
日下奈緒
恋愛
王家に仕える騎士の妹・リリアーナは、冷徹と噂される第3皇子アシュレイに密かに想いを寄せていた。戦の前夜、命を懸けた一戦を前に、彼のもとを訪ね純潔を捧げる。勝利の凱旋後も、皇子は毎夜彼女を呼び続け、やがてリリアーナは身籠る。正妃に拒まれていた皇子は離縁を決意し、すべてを捨ててリリアーナを正式な妃として迎える——これは、禁じられた愛が真実の絆へと変わる、激甘ロマンス。
婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!
柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる