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小話~とあるご夫婦の愛 R18

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スキル〈呪い〉の恐ろしい事件簿



 初めてそのスキルが発現したのは、建国からほどない王家主催の夜会でのことであった。

 そのころ、男性のかつらが流行り、思い思いのかつらを着用しおしゃれを楽しみ、そこかしこで当時のイケメンたちがモテにモテていた。

 パトリック・カミンスキは、子爵位を継いだばかりであった。若くして当主になった彼は、今宵こそは意中の女性に声をかけ求婚するために意気込み、緊張のピークのため友人たちとの談話の内容など耳に入ってこないほど。

 その時、彼の恋焦がれる女性がやってきた。

「相変わらず麗しいなあ……。おや? いつもなら父か兄がエスココートをするはずなのに、彼女の隣に立っている男は誰だ?」

 パトリック以外にも彼女を狙う青年は多い。周囲がざわめき出した。パトリックは、ちらちら彼らの事が気になりながらも、本格的に始まったダンスを彼女と共に踊りたくて機会を伺っていた。
  やっと、エスコートの青年とダンスが終わった彼女は、そのまま他の男と踊らず、腰を彼の手にぐっと添えられたまま。

 やがて、青年が膝まづき彼女に求婚をする。どうやら彼は、彼女の幼馴染で隣国に今まで行っていたらしい。

 パトリックは目の前で繰り広げられ、二人が衆目の中、祝辞を贈られるのを呆然と見ていた。自分と違い、どう見ても他にもよりどりみどりそうなイケメンの青年が憎くてたまらなくなった。

 その時、パトリックの体から魔力が漏れ出し、周囲どころか会場中を飲み込む。

 一体何事かと暫くの間、全員が閉じていた目を開けると、そこには生地のようなものがあるばかり。体に覆いかぶさるそれは、どうやら着ていた服のようで、なんとか這い出た彼らは裸である事に気付く。
 男性は驚き股間を即座に隠し、女性は泣きながら服で身を包み、悲鳴があがった。

 パトリック以外の人間が小さくなり、再び大きくなると周囲は阿鼻叫喚、パニックになった。

  すると、先ほど彼女に求婚した青年が、股間ではなくいきなり頭を押さえた。

 「み、みるなあああ!」

 いや、青年だけではない、国王や国の重鎮など高位貴族の男性まで取り乱しているではないか。
  流行のかつらの下は、完全な荒野から部分が涼しくなっているもの、かつらで隠せるからと地肌に散らかされた糸くずのようにはりついているものなど様々だ。

 パトリックは、どうなっているのか呆然とあたりを見わたしていた。



「恐ろしい……。これは、まさに呪いだ……」



 当時、神から与えられた頭皮を覆う色を失う事は、大罪を犯した証拠だとされていた。

  とはいえ、神殿で儀式を受け清めていれば問題ないが、現在悲鳴をあげ頭を隠しているのは、その事実を誤魔化して周囲に秘密にしている者たちなのだ。

 モテていた男性たちの真の姿がさらけ出され、女性たちが騙されたと怒り悲しみ、数組のカップルは修羅場となった。

  

 男たちはパトリックが発動させたスキルに身震いした。あのスキルにかかれば、全てが明らかにされてしまう。また、彼のそのスキルの強さなどから、様々な立場ある男たちに声をかけられ始めた。

 なんとも理不尽な信仰のために、その姿を隠し続けて来た者たちは、こぞってパトリックにスキルをかけないように頼み込んだ。

 この事件は、国王たちによって完全に闇に葬り去られた。
  当時の国王の厳命もあり、誰も口にできず公文書どころか日記やメモすら許されず、歴史の中に埋もれたという。




「あんな、神をも畏れぬ人だなんて思わなかった。わたくしは神に背くあの男に嫁ぐところだったのですね……。ああ、きちんと神殿に行き、しかるべき行動をとってらっしゃれば、どのようなお姿でも良かったのに……」

 パトリックは、信心深い女性が騙されたと嘆き悲しむのを慰めた。
  彼女はパトリックの優しい献身的な姿に対して恋するようになり二人はほどなくして結婚した。

 いつしか、カミンスキ家のスキルは、〈呪い〉としてまことしやかに囁かれるようになる。
  血統によりそのスキルを受け継ぐ事が判明すると、国王や重鎮たちはカミンスキ家を侯爵家に昇格させ味方につけた。

 カミンスキ家は、その事を栄誉あることだと感動し、〈呪い〉のスキルの内容は忘れされていったものの、国に忠誠を誓い、清く正しくを家訓として栄えたのであった。



※※※※


  時は流れて、スコルピオン捕縛前の、王宮内では。



  現国王は、ベッドで王妃の胸の中、安らぎを覚えていた。
  聖母のように美しい彼女は、目前にある愛する夫のその頭をそっと撫でている。

「ついに、王家にのみ真実が伝えられている〈呪い〉のスキルが発現したか……」
「あなた、変に隠すからこのような事態になったのではなくて?」
「そうかもしれんが、だが……」
「ん……、もういい加減離れてくださいな」
「……」

  王の唇が愛する彼女の胸の飾りに吸い付く。

「あん……、もう、しょうがない人ね?」
「私のこの姿を知っていてもなお側にいてくれる君が魅力的過ぎるから悪い」
「まぁ、あなたったら」

ちゅっ

  王妃は王の頭の天辺にキスをした。

「ふふふ、あなたは、こんなに素敵でセクシーなのに……。もう今では大昔のあの信仰は廃れているのですから、この際、カミンスキ侯爵のスキルを公になさって、管理すればよろしいかと」
「だが……、もしもまた、悩める同志の姿が白日のもとに晒されたら」
「ん……、あなた、そこは……」

  王は彼女が自らの一本も色がない頭部を心から愛しく思ってくれている事に幸せを感じながら、彼女の秘めたる赤い粒に吸い付いた。

「あなた、お願い……もう、奥が切ないの……」

  とろとろになった彼女の望み通り、王は奥深く想いを叩きつけた。
  汗までもが二人を高めさせ、何度もお互いに上り詰める。大満足した王は眠る彼女にキスを落とした。

  翌日、艶々になったかのような肌を隠しもせず、王は、ヴァインベルク騎士団長と副団長から進捗状況の報告を受けた。

  その際、シモン・カミンスキに対して、カミンスキ侯爵の後継にするよう意思を示したのである。
  その横で、疲労の色すらその色気に拍車をかける美しい王妃が、堂々たる王の姿を、この世の誰よりも素敵だと言わんばかりに瞳を輝かせて見惚れていたのであった。




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