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新婚旅行~出会いの痴漢れっ……いや、魔道列車にて R18弱

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  ザムエルはシルヴィアの弟であるリシャルドに彼が欲しがったフィギュアをあげた。リシャルドも、まさかシルヴィアの夫であるザムエルが同じ趣味だとは思わず、飛び上がるほど喜ぶ。

  

「うわあ、義兄上いいのですか?  これ、限定もののシリアルナンバー付きじゃないですか!」
「もうすぐ15の誕生日だと聞いたからな。君はとても大事にしているとシルヴィアから聞いているし、是非貰って欲しい」
「うわあ、うわあ! 嬉しいですっ!」

  ザムエルは、まだ無邪気さの残るリシャルドの嬉しいそうな笑顔と、「義兄上」と呼ばれる事にむず痒く感じつつも喜んだ。二人は、同じ趣味を持つ者として、生涯仲良く過ごしたのである。




※※※※




 
 そして、今日。二人は新婚旅行のためにプラットホームで列車を待っていた。空を滑るかのように豪奢な列車がホームに到着した。

 すでに荷物は、旅行先のホテルに運び込んでいる。簡単な荷物だけをザムエルが持ち、シルヴィアを力強くエスコートした彼が車両内に入った。

 二人の姿を目にした人々は、ぎょっとした後、視線を慌ててそらす。可憐で華奢なシルヴィアを、不埒な組織の組員である大男が無理に連れ去っているのではないかとハラハラした。

「あなた、あちらのようですわね?」
「ああ。ほら、慌てなくても逃げやしないよ」

 通報しようかどうしようかとまで考えていた人物たちは、彼らの会話を耳にして再び驚愕した。どう考えても夫婦のようなやりとりで、白昼夢かもしれないと先ほど聞こえたセリフを記憶の彼方に消去しようとする者までいる。

 そんな周囲の思いなどつゆ知らず、二人だけの世界を作ったまま、彼らは指定席に移動していった。二人が車両内から消えたあと、シーンと静まり返っていた空間にようやく常日ごろから聞こえてくる、人々の息遣いなどが戻ったのであった。

 二人は、魔道列車にある二人きりのプライベートルームに足を踏み入れた。空をかける窓からの景色をシルヴィアが目を輝かせて見ていた。

「そういえば、あの時どうやってこの列車に?」
「彼に〈呪い〉を掛けられた時、父が〈使役〉した黒猫がわたくしを咥えてあの場所まで逃がしてくれたんです。あの時の女性の置いたカバンにわたくしを置いていってしまって。カバンから降りようとしても、女性が動き出したので必死に掴まっていたんです」
「そういえば、あの女の足元にはビジネスバックが置いてあったな」
「はい。電車内であの位置にたどり着いた彼女がカバンを床に降ろした時、やっとカバンから降りる事が出来て。でも、その、ち、痴漢が来てしまって踏まれそうになったのです。そうしたら、その……。ザムエル様が颯爽と助けてくださって……。カッコ良くて……。ずっとお側にいさせていただき本当に嬉しかったんです」
「そ、そうか……」

 ザムエルは照れながらも誇らしく思い、シルヴィアを自らの膝の上に乗せた。

「ザムエル様はとても凛々しくていらっしゃるから、人形の姿のわたくしでは到底ほかの女性に太刀打ちできませんでしょう? ですから、せめて小さな置物感覚としてでもずっと部屋にいていいって言ってくださって、わたくしとっても嬉しかったのです」
「俺にはシルヴィアだけなのだが……」
「ザムエル様のご両親も、義兄様たちも、まるでザムエル様が女性から嫌われているようなことを仰ってましたけれど……」
「ヘンリクも言っていただろう? 俺の事を恰好良いなどという人間はシルヴィアだけだろうなあ……」
「そんなはずはございません! 現に、この間ゾフィアも恰好いいって言っていたではないですか」

 シルヴィアは、まさかゾフィアもザムエル様をと一瞬頭を掠めるが、彼女にはシモンがいる。バカな考えを頭から振り落とすが、真剣に夫にまとわりつくかもしれない女性の出現に対して心配して嫉妬をしていた。

「あれは、一応義理の兄になる事でお世辞を言われただけだと思う。彼女の頬だってひきつっていたし……」
「もう、ザムエル様はこんなに素敵で逞しく、なのに、慎み深くって照れ屋で可愛い一面もお持ちなんですもの。料理も何もかも出来て、これでモテないはずはないのですわ!」

 シルヴィアが当時の事を思い出しながら、世界一の男であるザムエルを褒めたたえ始める。口と胸の中がむずむずしだして、ザムエルは彼女の口をふさぎたくなった。

「シルヴィア、もういいから……」
「え? きゃ!」

 ザムエルは、きらきらと輝く笑顔を見せる妻が愛しくてたまらなくなる。胸がぎゅうっと切なくなり何かがこみあげてきた。

「ほら、黙って……」

 シルヴィアは、途端に落ちて来る唇に塞がれ、即時にとろんと思考と表情を変える。お尻の下に、硬く大きな存在を感じて、もぞもぞ身じろぎした。

「ん、くちゅ……、はぁん……」
「かわいい。俺のシルヴィア……」

 彼の手が、旅行のための軽装のボタンをはずし、胸を直接触り始めた。

「あ……、こんな所で……」
「誰も来ないさ」
「んんっ! ダ、ダメですぅ……」

 シルヴィアは、今にも開かれそうな扉をちらちら見て、一向にかまわないとばかりに、スカートの中に腕まで入れて不埒な動きをし始める夫の手首を掴んだ。

「シルヴィア? 拒むのか?」

 初めて見せる彼女の抵抗に対して、ザムエルはショックを受けて呆然となった。

「だって、ちが……、こんな所でなんて……。わ、わたくしは……」

 涙を目に浮かべて、上目遣いにザムエルに訴える妻の言葉を聞き、頭を殴られたような気持ちになった。

「ご、ごめん。シルヴィア、泣かないでくれ……!」
「うう……、ザムエル様……。わたくしは、ザムエル、さまと、二人きりの時がいいの……」
「ああ、ああ。そうだな! ごめん。ごめん! 嬉しくて、浮かれ切って場所と時を考えずに……。シルヴィア、怒ったか?」
「怒るとかじゃなくって……。いいえ、怒りましたわ、わたくし!」

 シルヴィアは、心底反省した様子の夫に、途端に絆されそうになったけれど、こういった場所で二度としたくないと思い、ぷくっと頬を膨らませた。しょんぼりしつつも、そんな彼女が可愛いなあとデレデレするザムエル。

「旅行の間、ザムエル様はわたくしがいいと言うまで触れて来ないでくださいませっ!」
「そ、そんなっ!」

 彼の膝から降り、向かい側の席に移動してつんっとそっぽを向いたシルヴィアの言葉に、ザムエルは、この世の終わりだと言われた方がマシだと思った。

 ホテルにつき、ようやく機嫌を直した彼女の腰を抱こうと手を伸ばすが、ペチンと叩かれてしまう。 夜のホテルで、彼女から仲直りのキスを贈られるまで、叱られた大型犬のようになっていた。


「もう、しょうがない人ですね? 愛していますわ」
「シルヴィアッ! 俺のほうがもっと愛している!」



 勿論、その後は、二人っきりの部屋で、たっぷり以上にシルヴィアを食らいつくして大満足したのであった。


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