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 あれは、アキがダブルデートを企画して、ありえるを紹介してくれた日の事だった。

『なあ、えみりちゃん。ありえるの幼馴染の彼女なら、イケる口なんだろ? あの二人と複数でも俺は構わないんだけどさ。でも、えみりちゃんと二人っきりがいいなあ。あいつらトイレに行ってなかなか帰って来ないし、このまま二人で抜け出してホテル行かない? いいとこ知ってるんだ』

 ありえるの彼氏と、トイレに行った二人を待っていた時に、周囲にあまり人がいない場所に連れていかれた。

『は?』
『おびつちよこだったかなー。あいつの本名。知ってた?』
『いえ、知りませんけど。あの、手を離してください』
『お? 初心な振り? そういうのもいいねえ。びっちよ、なんて名前通りのあの子の繋がりなんだから、こういうの実は平気なんだろ? なあ、行こうぜ。俺、これでも上手いよ? 滅茶苦茶気持ちよくしてあげる』

 にやにや肩を抱きながら、指先で肩をなぞられてぞっとした。アキの幼馴染の彼氏だから酷く拒否もできずに、彼の差し出したスマホの動画を見せられてしまう。
 そこには、3人の男の子が笑いながらベッドでしている動画だ。映っている彼女も、暴行されている様子じゃなくて、喜んでいるような数秒の内容だった。

『あの! わ、私、そういうの無理っ! は、離して下さい!』

 心臓がばくばく嫌な音をたてる。今まで周りにいなかったタイプの男の人から慌てて離れた。

『あー……、なるほど。なんだよ、つまんね。俺、普通の女の子には手を出さないから安心してていいよ。でも、さっきの事はここだけの秘密ね? もしもバラしたら君みたいな子が大好物な友達を紹介するからね』

『は、はい……。だ、誰にも、言いません……。私には関係ないですし。あの、犯罪じゃないんですよね?』

『当たり前。俺、こんな事で前科つきたくないし、女の子に困ってないから。見ただろ? あいつだって喜んでたし。昨日だって俺と連れと三人で楽しんだんだぜ?』

『……なら、黙っています』

 そういう事は漫画やテレビとかだけの世界で、実際にはないだろうと思っていたのに、彼氏の幼馴染がそういう事をしていたなんてびっくりした。

『クスクス。えみりちゃんさ、あの彼やめときな。あの根っからの性悪な女とずっと幼馴染とかイカれてるぜ? 騙されているにもほどがあるし、きっと酷い目に合わされて取られちゃうよ?』

『……彼女と貴方がどうであれ、アキ君はそんな人じゃないです』

『ふうん? でもなあ。ま、年内に彼を取られて泣かないようにね?』

『アキ君は、あくまで幼馴染としてしか彼女を見てませんから。彼女だってそうでしょう?  別れるなんてないですし余計なお世話です』

『ちぇ。うーん、 俺、えみりちゃん気に入っちゃった。もしもフラれたら俺呼んで?  エッチなしで慰めてあげるから。なんなら真剣に恋人になる?  俺、付き合ってる間は一途だし絶対浮気しないから』

『別れないからそんな日は来ませんってば』

『はいはい。クスクス、ほんっと、かわいいなあ。お、あいつら戻ってきたよ』

 その後、笑いながら仲良しの幼馴染の二人と合流した。それからは、いちゃいちゃしている二人からなるべく距離を取りアキと離れないようにした。



※※※※





 アカウントもメアドも消されているし、私はそう言う事に疎いから冤罪を晴らすことは出来ないかもしれない。でも、私がフラれて泣いて名前だけだけど謝罪したし、彼女がもうこれ以上それをネタにこちらに関わる事はないだろう。
 二度と、一切関わらないで欲しいと願いながら、とぼとぼと歩いた。終電はすでに行ってしまっている。


 入った満喫でドリンクバーにあるコーンスープとパンを貰って小さな部屋に入った。パソコンがあるけれどつける気にもならず、オフィスチェアに座った。
 スマホから、元彼の連絡先や、それまで録った思い出の写真を消していく。


ひっく、ひぃっく……


 ここなら、涙を遠慮なく流せる。声は、隣に聞かれるかもしれないから、腕で顔を隠し、口を押えてなるべく鳴き声が漏れないようにした。


 未だに、別れた事も、さっきあった色んな事も嘘のようだ。でも、あれは本当に起こった事で。

 初めて出来た彼氏に別れを告げられた23日。真夜中を過ぎた今は、クリスマスイブだ。世間ではお祝いムードで恋人たちが楽しむ、そんな日に、世界中で一番みじめでひとりぼっちなのかもしれないなんて思いながら涙を流し続けたのであった。

 一睡もせずに満喫で過ごす時間がとても長く感じる。それでも、朝は無情にもやってくる。出勤時間が近づいて、涙で腫れあがった目を冷やして、簡単にメイクをする。

 商業施設のオープン時間はまだまだ先だけれど、従業員は早い。今日は一年で一番忙しい日になるだろう。くたびれた体を引きずるように、重い足を動かす。それ以上に沈み込んだ心のまま職場に向かって行った。
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