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FE350

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今年も残すところ一か月を切りました。急に寒くなりましたが、お体ご自愛いただき、来年をお迎えくださいませ。大掃除をチマチマ開始しており、さらに時間がとれなくなりましたので、明日から更新を1回/日にします。
それでは、よろしければ楽しんでいってくださると嬉しいです。





  なんだか、レンジさんは、私には非常にニコニコしているのに、部下だというカラマさんに対して威嚇しているかのように厳しい顔をしている。

 まさか、パワハラ上司ってやつ?

 ちょっとレンジさんへの幻滅ポイントが10あがった。ポイントの基準はない。ただ単に気分の問題だ。取り敢えず、100満点と言う事にしておこうと思う。100点になった所で、私にはどうする事もできないんだけどね。

 あれ? カラマさんは気にしていないというか、レンジさんが冷たくすると逆に嬉しそう? 
  これがふたりの関係性なのかもしれない。幻滅ポイントは3くらいでいいかも。私は、心の中でレンジさんのポイントを下方(この場合上方?)修正した。



「モモカが、大学で召喚の研究をしている聖職者のじじいたちの言う異世界の乙女とは限らない。来たばかりで疲れている彼女を、寒い外に連れていく訳にはいかないな。さっさと帰れ帰れ」

「えー? でも団長、寒いったって、魔法でぬっくぬくでしょ。そんな言い訳通じませんって。なんせ、あいつらは現れた乙女を探せって血眼になってるんですから、すぐにここを突き止めると思いますよ? そうなったらモモカちゃんは連れ去られるでしょうし。俺と一緒に行く方が、絶対にいいですってば」

「モモカの事を、お前が気安く呼ぶな。だが、それもそうか……。だが……」

  異世界の乙女というのは、どの種族とも子作り出来て、しかも、どんどん気温が低くなっているこの世界に順応できる子孫を残す事ができるっぽい。

  何なの、そのヘンテコ理論。種の保存なら、自然と環境に適応するもんじゃないの? 冷たいようだけど、それが無理なら絶滅しちゃうんだろう。だけど、この世界には魔法があるんだから大丈夫なんじゃない?

  わざわざ異世界の乙女を召喚してまで、しなきゃいけないとは思えない。カレンって人とリアって人は、夫を複数持って、その国に非常に貢献したらしい。ケド…………


……知らんがなー



  ビィノさんにカレンさんとリアさんは、日本から来たって言われてる。

  という事は、一夫一妻だよね? 

  複数とか無理に決まっている。この世界の人たちにいいように言われて無理強いされたのかも。とっても気の毒だと思ったし、それって、この世界の事情であって私には関係ないよね?

 もう、色んな事が一気にやってきて疲れちゃった。何も考えたくない。でも、考えざるを得ないっぽくってげんなりする。

 レンジさんとカラマさんのやり取りを見ると、どうやらレンジさんは私を守ってくれるみたい。優しいし、騎士団のトップの彼について行けば大丈夫だろう。

 私は、世界最強の粘着力を持つというゴリラパイセンテープのごとく、レンジさんにしがみついて絶対に離れないようにしようと決意した。

  あと、元の世界では、私という存在が最初から無かったことになっているらしい。で、二度と帰れないとも言われた。

  桃矢や友達の事は気になるし、今までの苦労を考えたらモヤる。だけど、おじいちゃんたちは、桃矢を幸せにしてくれるって約束してくれた。スサ何とかって言ってたけど、たぶん偉い神様かなにかだ。

 私は、結局1000円返してくれなかった詐欺おじいちゃんよりも、声だけ聞こえて来たしっかり者そうなおばあちゃんに、桃矢の事をお願いしますってお祈りを繰り返した。

 私個人に関しては、こうなったらどうしようもない。とにかく、頼れるレンジさんにくっついとけばオールオッケーだろう。


 彼の肘をがっしり掴んだ。力強く握ったから、白い騎士服にしわが出来る。すると、レンジさんはすかさず私のほうを見て笑ってくれた。

 ああ、やっぱりレンジさんのこのにこやかな笑顔はホッとする。私に保護者がいるっておじいちゃんは言ってたと思うけど、絶対レンジさんの事だ。たぶんだけど。



「モモカ、すまない。来たばかりで心細いのに、カラマのやつが勝手な事を言って。滅茶苦茶酷いやつだよな。だが、俺がずっとついている。あいつらが変な事を言ったとしてもだな、モモカはこの世界の最高位の女性なんだ。夫が複数などという馬鹿げた事を言い出したら、ビィノ様のようにひとりがいいとはっきり宣言すればいい」

「ちょ、ひっでぇ。てか、団長だって、やっぱり異世界の乙女だって思ってたんじゃないか。俺ばっかり悪者のように言って!」

「いきなり来たお前にモモカは怖がっていた。それを証拠に、お前が彼女の気持ちなんかお構いなしに矢継ぎ早にした質問に、答えざるを得ないと思い正直に話すしかなかったみたいだろう? お前は、突然の事で気が動転しているモモカがかわいそうだと思わんのか」

 あ、いえ。カラマさんが来た時は怖がったというより、びっくりしただけで。それに、質問にはスラスラ答えたのは、なんとなくおまわりさんの職務質問に答える庶民の条件反射のようなもので、無理やり聞き出されたわけではない。

 そうレンジさんに説明しようと思ったけど、このまま気の毒な異世界人というポジションにいるほうが、レンジさんだって全力で私を守ってくれるかもっていう打算が、私の頭の中でエクセルの表計算以上にとてつもない速さでなされた。

「レンジさん……、私どうなるんですか?」

 なるべく、なよなよした心細そうな表情をして、レンジさんを見上げてみた。クラスにいた男子に大人気だった、女子には嫌われるケド、すぐに泣きまねをするチヤホヤされるあざと女子みたいに。

「モモカ、大丈夫だ。俺がなんとしてでも、守ってみせる!」

「レンジさん、でも、そんな事をしたらレンジさんが……」

 全く柄じゃない。だけど、バイト先で男子たちをあごで使いまくってた女の子のように、頼れるのはあなただけーって感じを全面に出して俯く。

「モモカ……。自分が一番辛いというのに、俺の事を……」

「団長、俺、俺も加勢します! か弱くてはかない彼女を、聖職者たちのオモチャにされてたまるか」

「カラマもそう言ってくれている。だから、安心してついて来て欲しい」

「レンジさんがそう言うのなら……」

 はっきり言って大根でしかなかっただろうけど、やってみるもんだ。効果は抜群以上のクリティカルヒットで最高得点を叩きだしたようだ。


 というか、レンジさんもカラマさんも、人が良すぎる。悪女にすぐに騙されそうだなぁ……

 私が言うのもなんだけど、私を守ろうって感じでお互いに力強く見つめ合って頷くふたりを見て、彼らが心配になってしまったのである。

 レンジさんの運転する大きなバイクの後ろに乗り込んだ。雪がパラパラしているけれど、彼の魔法のおかげかあったかい。

「モモカ、俺の腰をしっかり太ももで挟んで、手でつかんでいてくれ。なるべくゆっくり進めるが、俺の体の動きに合わせて欲しい」

「わかりました!」

 見た事はあるけれど、こうして乗ったのなんて初めて。背もたれは小さいから、レンジさんの言うように、彼の大きなおしりをきゅうっと太ももで挟む。抱き着きたかったけど、そうすると逆に危ないし、レンジさんが困った事になるとかなんとかゴニョゴニョ言われたから、彼の腰を両手でぐっと掴んだ。

「……やわ、やわらか……」

「? レンジさん、何か言いましたか?」

 振り落とされてはたまらない。安全だっていうけど、バイクのほうが車とかよりも死亡率が高いってニュースで言ってた。

 レンジさんを絶対に離さないぞーと、ある意味決意を固くしてたからレンジさんの言う事を聞いていなかった。

「いや、何でもない。じゃあ、行くぞ」

「団長、羨まし―! 俺もモモカちゃんを後ろに乗せたかった!」

 カラマさんのバイクは、FE350というらしい。モトクロスっていうのだったっけかな? 山とかのデコボコの道のレース中継を一度見た事があるんだけど、がっしりというよりも、軽そうでぴょんぴょん飛び跳ねるような見た目だった。

 バイクに颯爽と跨るふたりの騎士の姿は、とても恰好良いと思った。がっしりしたレンジさんも、スラっとしたカラマさんも、物凄く乗りなれているみたいでそつがない。

 バイクがエンジン音なく進み始める。

 ドルンドルンとか、エンジンの音がしないバイクなんて初めて。車で、物凄く静かなプュリウスとかがあったけど、あれよりももっと静音というか、無音。

 まるで、ハリウッド映画みたいに移り変わる美しい景色を堪能する余裕なんてない。必死にレンジさんにしがみついて、気が付けば大学とこの世界で入っている、聖職者が召喚を研究している場所にたどりついた。

  大学というよりも、サックラーダンファミリーみたいな建物だと思った。歴史ある建物は、とても大きくて、見上げるとこちらに倒れてきそう。

 本気でちょっと怖くなった。レンジさんに今度は打算無しでしがみつく。

 案内された応接室のソファに座る。私の領隣りに、レンジさんとカラマさんがいて、大きなふたりに挟まれた私は、コンビニのサンドイッチのハム状態だ。奥のほうに具が入ってないアレ。ペラッペラのスカッスカな感じ。

 レンジさんたちに聞いた通りの事を、大学の教授みたいなおじいちゃんたちに唾を飛ばしながら言われた。王様にも会ってもらうとか言われて困惑する。

 夫が5.6人とか、日替わり定食かーい。冗談じゃないわよー!

 私は、おじいちゃんたちがしゃべり終るのを待たずに、にっこり笑った。バイト先で培った、普通顔の私でも、あのバイトの女の子かわいいなー、って言われるアイドルスマイルだ。

 私の笑顔を見て、期待に満ち満ちた目をするおじいちゃんたち。本当に目つぶしハイビームやフラッシュが飛んできそう。

 おお、とか、さすが異世界の乙女だとかなんとか言ってる。レンジさんはというと、私のほうを不安げに覗き込んで、手をぎゅっと握ってくれた。

 そして、私はレンジさんと視線を合わせて頷き合うと、喜んではしゃいでいるおじいちゃんたちにこう言った。

「ぜーったいに、イ・ヤ・で・す! 私は、たったひとりの男の人と愛し合って幸せにくらしたいんでーす!」




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