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俺とモモカの愛を邪魔する不届き者   side レンジ ※ほんの少しだけ要素あり

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 やはり、俺の思った通りだった。出会ったばかりだというのに、モモカも俺に惹かれていたなんて。一目会った時から恋に落ち、そして結婚するやつは数人いたが、俺には有り得ねぇと思っていた。でもまさか、今の今まで女の子に興味なんてなかった俺が、いわゆる一目ぼれ&相思相愛の劇的な恋に落ちるとは思いもしなかった。

 異世界から来た乙女は、その国を救うために訪れるという。だが、モモカは召喚術による転移ではない。モモカの言うおじいちゃんおばあちゃんに扮した神が、俺だけのために遣わしてくれた運命なのだろうと確信した。


 俺は今まで、女の子に好き、しかも、大のつく好きなんて言われた事などない。騎士団のカラマたちのほうが、よっぽどモテるし、あいつらは耳にハムスターがつくほど言われ慣れているだろうが。

 俺は嬉しすぎてどうにかなりそうだった。しかも、モモカの語る俺への熱い想いを聞き、そんなにハムスターが好きなら、思う存分その姿を可愛がってもらいたくなり獣化したのである。

「あ、さっきのコ。じゃあ、朝にいたのはレンジさんだったの?」

「ぷっきゅきゅ」

 モモカ、俺のモモカ。

 俺は、一直線に彼女の元に走り出した。脱げた服は椅子やら床やらに落ちているだろうが構うものか。ああ、モモカ、結婚式はいつにする? その前に、両親や兄にモモカを紹介しよう。兄のスカットもだが、兄嫁のパイナさんと甥っ子のザックも、かわいいモモカを気に入ると思う。

「か……っわいいいいいい! おいでー」

 あ、そんな大胆な。

 モモカが満面の笑顔で、俺の体をよしよし撫でてくれる。細くて白い指で、耳や鼻先をこしょこしょされた。積極的なモモカに、内心たじたじしてしまうが、もっとして欲しい。
 夜には俺がモモカを可愛がってやるからな、なんつってな。さすがに気が早すぎる。そういうのは、結婚してから初夜のベッドで、がいいだろう。うん。

「しっぽもちっちゃーい」

「ちぅん!」

 モモカが、しっぽを摘まんだ。おしりのあたりがぞくっとして思わず声が出る。そのまま、俺を仰向けにして、お腹まで撫で始めた。全身マッサージされて気持ちがいい。

「あ……そっか、男の人だもんね。恥ずかしい恰好をさせちゃってごめんね」

 モゾモゾするが、そのままそこをもっと撫でてもらいのに、モモカはそう言うとくるんと俺をひっくり返した。獣化状態だと、俺たち獣人はあまり気にしないが、自慢のゴールデンボールズを見て気を使ってくれたのだろう。モモカになら全身見られたっていいのに。少し残念な気がしたが、純真で初心な妻を迎える事ができそうで幸せだ。

「いやぁん、かわいいー。撫でるとぺったんこになって溶けていくー」

 それにしても、この姿の方がモモカが他人行儀じゃない。素直に本心を俺に見せてくれているようだ。背中をそーっと撫でられて、うっとりしながら彼女の指と、俺を愛でる言葉に酔いしれた。

 ずっと続いて欲しい、俺とモモカの運命の愛のひと時は、無残にもチャイムの音で引き裂かれた。

「レンジさん、誰か来たみたい」

「ちっ……!」

 人化状態であっても、チッっと舌打ちしていただろう。俺たちの邪魔をする不届き者はどこのどいつだ。

 俺は、人化し……ようとしたが、今ここですれば、モモカの前で素っ裸になってしまう。人化状態の俺の姿もまんべんなく見て貰ってもいいが、男の裸など見た事がないだろうモモカが恥ずかしがるに違いない。

 この姿の言葉は、生憎モモカには通じなさそうだ。俺は、モモカの手から降りてプライベートルームに向かう事にした。あそこなら服がたくさんあるからな。

「ちちちっ」

 モモカ、少し寂しいだろうが、側を離れる俺を許してくれ。すぐに戻るよ。

「レンジさん? お客さんをお迎えにいくのかな? ここで待っていたらいい?」

 なんと……!

 モモカと俺は、言葉ではないシンパシーで繋がっているのだろうか。俺の意図を正確に受け取ってくれるモモカが愛しい。これほど賢くかわいい妻は、世界中探してもモモカだけじゃないか?

 俺は、モモカの指先にチュっとキスをした後、急いでプライベートルームに走った。すぐさま人化して、カラマが以前選んでくれたおしゃれな服を着る。

「モモカ……同じ家の中にいるというのに、こうしてほんの少し離れるだけで恋しいとは……」

 胸の中が、何かを失ったかのように切ない気持になる。恋に落ちた部下たちの体たらくやノロケ話を、どこか馬鹿にしてはいはい聞いていたが、なるほど、あいつらのデレデレした様子も、愛する人を見つけたら仕方がない事だったんだなと理解した。

 
「だんちょー! いるんでしょ? 開けてくださいよー!」

 ドンドン扉まで乱暴に叩き始めたのは、副団長のカラマだ。しまった、愛し愛される俺のモモカに出会えた喜びのあまり、出勤時間を過ぎていたようだ。

「うるさい。俺は今日は休むぞ」

 俺は、扉も開けずに、そのまま追い返してやろうと思いそう返した。さっさと帰れ。

「いやいや、何言ってんすか! 緊急奨励があったんですってば。魔法で知らせてもスルーするし。仕事第一の団長が、一体全体どうしちゃったんですか? ほら、行きますよ!」

 カラマも大人しく引き下がろうとしないようだ。ガチャガチャ鍵穴に何かをし始めたと思うと、あっという間に扉が開く。

「あれ? 団長、その服……。俺が選んでから一度も袖を通してなかったのに。まあ、いいや。ほら、騎士服に着替えて来てください!」

「……不法侵入で捕えてやろうか。無理やり鍵をこじ開けるなど、最近多発している空き巣はお前だったのか?」

「冗談言わないでくださいよ! 副団長の俺には、不測の事態に備えて団長の寮の合鍵が渡されているでしょ! 俺は普通に鍵を開けただけなんですからね」

「チ……。すぐ準備するからそこで待ってろ」

「鬼、悪魔! こんな雪の中、かわいい副団長を外で待たせるとか! 俺、凍えて死んじゃいますってば!」

 そう叫びながら、俺の横をすっとすり抜けるカラマ。止める間もなく、勝手知ったる俺の家のリビングにまっすぐ向かって行ってしまった。

「カラマ、待て! リビングに入るな!」

 俺は、カラマの足を止めるために、フリーズの魔法をぶつけたいと思ったが、その先には愛しい妻がいる。彼女が怪我をしては大変だ。強力な魔法を使うわけにはいかなかった。

 その一瞬の躊躇のせいで、カラマはリビングへの侵入を果たしてしまう。

「あれ? かわいい女の子がいる。ねぇ、君名前なんて言うの? 俺はカラマ。団長とはどういう関係?」

「え? あ、……モモカと言います。レンジさんとは……」

「モモカ、そいつの戯言に付き合わなくていい」

 しまった。モモカを他の男に見られてしまった。まだこの世界に来たばかりの彼女を、俺は当分の間誰にも知られたくないと思っていた。誰にも邪魔されず、俺とモモカが結婚してから、正式に王に伝えようと思っていたのが台無しだ。プロポーズすらまだなのに。

 つくづく、かわいいモモカに軽口を叩いているカラマが憎たらしい。今すぐあいつの口の中に、特大のひまわりの種を殻がついたまま100個詰め込んでやろうか。

 こうなったらさっさとカラマと出勤するのが吉だろう。5分も経過せず、騎士服を身につけた俺に、カラマが敬礼した。

「団長、では参りましょう!」

「ああ」

「すまないが、俺はこれから騎士団に行かねばならなくなった。なるべく早く帰って来るから、ここで待っていて欲しい。さっきまで使っていた俺のベッドで休んでいてくれ。お腹がすいたら、ある物は自由に使っていいから」

「あ、はい。ありがとうございます、レンジさん」

「ちょっとちょっと。ベッド使ってたとか気になるワードがあったけど、それはあとでじっくり聞くとして。モモカちゃんも来てもらいますよ」

「え?」

「は? モモカは関係ないだろう」

  俺は、いきなり何を言い出すんだとカラマを睨み付けた。

「関係は大ありっす。なんせ、異世界の乙女が来たっていう知らせが入ったんですから。魔力の無い黒髪の見知らぬ女の子でビィノ様たちに似た顔つき。さっきモモカちゃんに聞いたんですけど、昨日ここに来たばかりって言うじゃないですか。異世界の乙女を探せという命令だったんですが、まさかここにいたとはねぇ……」

 なんという事だ。モモカに口止めせず、5分くらいで戻れると彼女とカラマをふたりにして失敗したようだ。お調子者だが、副団長を務めるだけあって、カラマの短時間での情報収集能力のすさまじさに舌を巻く。

 俺のためだけにこの世界に来てくれたモモカを、王宮に連れて行ったら。歴代の異世界の乙女たちと同じように複数の夫を設けなければならなくなるだろう。

 考えただけで虫唾が走る。俺のモモカは俺だけの妻だ。他の男など許されようはずがない。

 俺は、こうなったらカラマを事故に見せかけてヤるか、などといった物騒な考えのもと、カラマがペラペラ続ける話を右から左に受け流していたのであった。









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