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暖炉とふわもこゆたんぽの温もりが、体をやんわり包んでくれる。目を閉じて、その温もりを全身に浴びていると、体の芯から指先まで、じぃんと血が通うのがわかった。
「ジョアンさん、コアラがしゃべってます……」
「だから、そのコアラが俺! いい加減、理解してくれ。Fクラスのやつらが獣化したのを見たことくらいあるだろ?」
「マッキーやウォンはしゃべりませんでしたから……皆、獣化しても、鳴き声とかしゅーしゅーとか言う音くらいしか。そもそも、ジョアンさんは、コアラなのにどうやって人語を話しているんですか?」
「……魔法を使えば簡単だ」
エリートクラスのジョアンさんたちは、人間ほどじゃないけれど魔法を使える。だから、上位クラスでは獣化状態でも人語を操れるということらしい。Fクラスのみんなは、魔法が使えても、指先程度の火や光を1秒作りだすくらいしかできないから、しゃべりたくてもしゃべれないのだろう。
「そうなんですねぇ……」
(知れば知るほど、ジョアンさんってすごい。紳士のお手本みたいに優しくて、強くて頼もしくて魔法まで使えるなんて……)
わたくしには、ジョアンさんが神様の使いのように思えてきた。彼のクラスの子たちも同様に素晴らしい才能の持ち主なのだろう。
(ゴーリン会長やエクセルシスさんは生徒会の役員だし、マニーデさんはAクラスのクラス委員。わたくし、本当にすごい人たちに仲良くしてもらっていたのね……)
獣人国ではみそっかすどころか、ミジンコ以下のわたくしの側に、雲の上の人たちが側にいてくれることに感謝した。
(先生がおっしゃっていた通り、わたくしは社会に出たらひとりぼっちになるから、学園でしか平和に過ごせないのかも……)
頑張ろうと決めてから、毎日難しい本を読み漁っていた。非力でひ弱なわたくしには、学力をあげるしかないから。
ふいに、社会に出てからの不安が押し寄せる。
(ううん。獣人国の大人の中にも、きっと人間を理解してくれる人はいるはず。学園でも、最初は孤立していたじゃない。わたくしにできることを、がんばるだけよ)
「ところで、どうして獣化を?」
「そりゃ、お前が着替えているし、人化状態だと、色々まずいだろうが……」
「やっぱりそうだったんですね。わたくしのために、細かなところまで配慮してくださってありがとうございます」
「別に、お前のためじゃねぇし」
わたくしは、暖炉の側にあるロッキングチェアに腰を掛け、膝の上にジョアンさんを乗せていた。彼は降りたがっていたけれど、どうしても抱っこしたいとお願いすると、膝に乗ってくれたのだ。
もふもふかわいい耳がちょこちょこ動いて身もだえそうになる。少しごわごわする毛皮がチクチク刺さるけれど、真ん丸の背中はとっても柔らかくて気持ち良くて。とにかく可愛くて可愛くて、もう、ジョアンさんを愛でる事しか頭になかった。
チェアと一緒にゆらゆら揺れていると、瞼が重くなってきた。
早朝からお弁当を作って、道中はジョアンさんに抱っこされていてもかなり疲れていた。更に、さっきの騒動で、心まで疲労困憊になっていたのである。
(ゆらゆら……
ふわふわ……)
「そんなことよりも、雨がやみそうにない。夕方以降は、危険度があがるから動くのを禁止されている。だから、一晩をここで過ごすことになる」
(ジョアンさんの体温が、あったかくて気持ちがいい……)
「おい、アイリス聞いてんのか?」
(ジョアンさんの声が遠くなっていく。ああ、眠りたくないの。眠ったら、また嫌な悪夢がわたくしを傷つけるから……)
「ん……うぅん、眠りたくない……」
頬がくすぐったい。なんだろう、とってもいい夢を見そうな気がする。唇に当たる、少しかさついた大きな手のひらに頬を摺り寄せた。
「アイリス、眠いのか?」
耳から夢の中に入って来る声は、いつもはぶっきらぼうで怒っているみたいなのに、なんだか甘くて優しい。
「ん……」
蕩けるようなその声が嬉しくて、でも、頭が覚めなくて返事が出来たのかどうかわからなかった。
「ちっ、しょうがねぇな……おやすみ」
うっすら目を開けると、とんでもなく優しい瞳のジョアンが目の前にいた。びっくりしたけれど、彼はペアであるわたくしの側にずっといてくれる。彼の言葉が、すんなり心に入って来て、そのまま幸せな温もりの側で目を閉じた。
(ああ、きっと……。今日見る夢はずっと楽しくて、優しさで溢れて幸せに違いないわ……)
「ジョアンさん、コアラがしゃべってます……」
「だから、そのコアラが俺! いい加減、理解してくれ。Fクラスのやつらが獣化したのを見たことくらいあるだろ?」
「マッキーやウォンはしゃべりませんでしたから……皆、獣化しても、鳴き声とかしゅーしゅーとか言う音くらいしか。そもそも、ジョアンさんは、コアラなのにどうやって人語を話しているんですか?」
「……魔法を使えば簡単だ」
エリートクラスのジョアンさんたちは、人間ほどじゃないけれど魔法を使える。だから、上位クラスでは獣化状態でも人語を操れるということらしい。Fクラスのみんなは、魔法が使えても、指先程度の火や光を1秒作りだすくらいしかできないから、しゃべりたくてもしゃべれないのだろう。
「そうなんですねぇ……」
(知れば知るほど、ジョアンさんってすごい。紳士のお手本みたいに優しくて、強くて頼もしくて魔法まで使えるなんて……)
わたくしには、ジョアンさんが神様の使いのように思えてきた。彼のクラスの子たちも同様に素晴らしい才能の持ち主なのだろう。
(ゴーリン会長やエクセルシスさんは生徒会の役員だし、マニーデさんはAクラスのクラス委員。わたくし、本当にすごい人たちに仲良くしてもらっていたのね……)
獣人国ではみそっかすどころか、ミジンコ以下のわたくしの側に、雲の上の人たちが側にいてくれることに感謝した。
(先生がおっしゃっていた通り、わたくしは社会に出たらひとりぼっちになるから、学園でしか平和に過ごせないのかも……)
頑張ろうと決めてから、毎日難しい本を読み漁っていた。非力でひ弱なわたくしには、学力をあげるしかないから。
ふいに、社会に出てからの不安が押し寄せる。
(ううん。獣人国の大人の中にも、きっと人間を理解してくれる人はいるはず。学園でも、最初は孤立していたじゃない。わたくしにできることを、がんばるだけよ)
「ところで、どうして獣化を?」
「そりゃ、お前が着替えているし、人化状態だと、色々まずいだろうが……」
「やっぱりそうだったんですね。わたくしのために、細かなところまで配慮してくださってありがとうございます」
「別に、お前のためじゃねぇし」
わたくしは、暖炉の側にあるロッキングチェアに腰を掛け、膝の上にジョアンさんを乗せていた。彼は降りたがっていたけれど、どうしても抱っこしたいとお願いすると、膝に乗ってくれたのだ。
もふもふかわいい耳がちょこちょこ動いて身もだえそうになる。少しごわごわする毛皮がチクチク刺さるけれど、真ん丸の背中はとっても柔らかくて気持ち良くて。とにかく可愛くて可愛くて、もう、ジョアンさんを愛でる事しか頭になかった。
チェアと一緒にゆらゆら揺れていると、瞼が重くなってきた。
早朝からお弁当を作って、道中はジョアンさんに抱っこされていてもかなり疲れていた。更に、さっきの騒動で、心まで疲労困憊になっていたのである。
(ゆらゆら……
ふわふわ……)
「そんなことよりも、雨がやみそうにない。夕方以降は、危険度があがるから動くのを禁止されている。だから、一晩をここで過ごすことになる」
(ジョアンさんの体温が、あったかくて気持ちがいい……)
「おい、アイリス聞いてんのか?」
(ジョアンさんの声が遠くなっていく。ああ、眠りたくないの。眠ったら、また嫌な悪夢がわたくしを傷つけるから……)
「ん……うぅん、眠りたくない……」
頬がくすぐったい。なんだろう、とってもいい夢を見そうな気がする。唇に当たる、少しかさついた大きな手のひらに頬を摺り寄せた。
「アイリス、眠いのか?」
耳から夢の中に入って来る声は、いつもはぶっきらぼうで怒っているみたいなのに、なんだか甘くて優しい。
「ん……」
蕩けるようなその声が嬉しくて、でも、頭が覚めなくて返事が出来たのかどうかわからなかった。
「ちっ、しょうがねぇな……おやすみ」
うっすら目を開けると、とんでもなく優しい瞳のジョアンが目の前にいた。びっくりしたけれど、彼はペアであるわたくしの側にずっといてくれる。彼の言葉が、すんなり心に入って来て、そのまま幸せな温もりの側で目を閉じた。
(ああ、きっと……。今日見る夢はずっと楽しくて、優しさで溢れて幸せに違いないわ……)
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