完R18 勇者のパーティを追い出されて行き倒れた私を、婚約者に捨てられ家を破壊された大男が助けてくれました

にじくす まさしよ

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ふたつのお守り

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 あれから、私はルゥさんの小屋で一緒に暮らしている。

  小屋といっても作られてから数年しか経ってないような綺麗で過ごしやすいロッジ風の建物だ。
  部屋数は独り暮らし用だからか2LDK+ロフト。1階の一部屋は彼の私室で私が寝かされていた場所だ。もうひとつは物置になっている。

  彼は、朝早くからどこかに仕事にいって、陽が沈む前に帰って来る。そんなルゥさんのために、そうじや料理をして、私を受け入れてくれた彼が少しでも過ごしやすいように家の中を整えた。

 こんな、人が寄り付かない小さな小屋に住んでいるにしては、彼はお金に困っているようには見えない。食料品もなんだけど珍しい調味料がたくさんある。さらに、高価な魔法石を使用した照明の他、キッチン用品やライト、お風呂などが完備されている。どこかの貴族の小さな隠れ家みたいだななんて思う。

 私は、彼の部屋で一緒に過ごすわけにはいかないから、使ってなかったロフトに住まわせて貰っている。
  その時に、私用のベッドまで買ってくれた。お金を払おうとしたけれど、いらないって突っ返されている。

「よし。今日は、とれたてのお米にシャケとしめじをいれて釜で炊いみたけど気に入ってくれるかな?  うん、おこげもちょうどいい感じ。あとは具だくさんのお味噌汁に、川魚の塩焼き。梨のデザートピザ。いつもたくさん食べてくれるけど、本当に嫌いなものとかないのかしら?」

  今まで、好き嫌いの激しいお子さま舌の人のために料理を作っていたから、色々作れて楽しい。ルゥさんは、なんでもあっという間に平らげてくれる。
  食事量は、最初は全然足らなかったのにびっくりした。おかわり3杯めには、ご飯がなくなって、一応多めに作ったのに慌てて料理をいくつか準備したのを思い出してくすりと笑みがこぼれた。

  カインとはまるで全然違う彼に毎日新鮮な気持ちが生まれる。

  言葉数は少ないけど、一緒にいると変に緊張せず過ごす事のできる人がいるなんて不思議。

  まさか、こんなにも心穏やかな日がくるとは、お母さんが亡くなってから今まで、追い出された時はもちろんのこと、カインといた時にすら思ってもみなかった。

 彼が買ってきてくれたワンピースのポケットに忍ばせているお守りを取り出して、あの日の事を思い返す。




『ビスカス、君には恨みはないんだが。聖女様の悲しみは、この世界の神に届く……。聖女様が不幸になるとこの世界は天変地異に見舞われてしまう。同じ男として、故郷に妻子を持つ者として、あの男の事は許せない気持ちもあるが、魔王を討伐し、聖女様とご結婚される男なんだ。その方が女癖が悪いなど、絶対に知られるわけにはいかない。頼む、聖女様と世界のために、我々の前から消えてくれ……。我々が勇者殿の言うことを真に受けず、もっと注意していれば。気が付いた時には、ふたりはもうどうする事もできなくなっていて。本当にすまない、すまない……』

 申し訳なさそうに頭を下げたのは、この勇者パーティの色んな事を取り仕切る騎士団長さんで貴族だ。単なる平民の私に、こんな風に頭を下げるような立場の方ではない。
  彼は、頼りないカインたちを補佐していた。勇者様と聖女様だし、聖女様はこの国の王女様なんだから、彼女が聖女様でなくても、あの一行の人たちがふたりの仲が進展するのを止めるなんて無理な事だっただろう。

  カインは、天涯孤独になった私が彼を一方的に好きで着いてきた単なる幼馴染みだと言っていたみたいだし。

『……騎士団長様……わかりました……。立場を弁えずお騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした』

 幸い、カインが魔王を討伐し、聖女様が魔の森をあらかた清浄化したあとだ。魔物が出たとしても、スライムといった子供でも倒せるランクの低いものだけだろう。

『こんな事を言っても、全てこちらの都合だ。許せないとは思うし我々を許さなくてもいい。だが……だが。聖女様は本当に何もご存じないんだ。勇者殿と君との仲は単なる幼馴染であると信じておられる。あと、侍女頭がとっさに言った事も……』

『わかって、ます。私は単なる平民ですし、両親もいません。保護してくれる人もいない、ほんとならとっくに追い出されていてもおかしくなかったのに、騎士団長様や、侍女頭様はじめ、皆様にはとてもよくしてくださっていました。まるで、おかあさん、おとうさんのようで……。辛い事もありましたけど、皆さんと一緒に過ごせて、幸せでした』

『ビスカス……本来なら守るべき我が国の民である君を……本当にすまない、すまない……』

 事をおさめるために、侍女頭さんがああ言ったのも、仕方が無かった事かもしれない。大人たちは、カインの子供っぽいわがままな部分を知っている。勿論、さっき私の事を酷くいった侍女頭さんも。

 カインの食事係のような、いわば、このパーティにとって足手纏いでしかない私に対しても、まるで娘のように接してくれていた人たちだから、とっさに何も悪くない聖女様のために、身分のない異分子を切り捨てたのだろう。こんな状況じゃなかったら、私が傷つかないように取り計らってくれたと思う。

 もしも、カインがした事、彼の本心を知れば、聖女様は私以上に傷つき、悲しんでしまう。そうなったら世界は……私はぞっとして、両腕を抱えた。

 本音を言えば、悔しいし悲しいし、なんで私がって思う。

  どんなに頼まれてもついて来るんじゃなかった。そうすれば、私は町で違う人とお見合い結婚して幸せになっただろうし、自然とカインと聖女様が結ばれる、誰も傷つかない未来があったのかもしれない。

 カインだって、私の知っている彼は、こんな二股をするような人じゃない。憎たらしいし、ビンタでもしてくれば良かったとかも思うんだけど。それでも、やっぱり、長い間見て来たからか、どうしても彼を庇ってしまうような気持ちになってしまう。

 人を好きになるってなんなんだろう……どうして、心が変わるんだろう……。あんなやつだってわかっても、まだ好きだなんて、バカな女……

 涙を流している私を、騎士団長さんは抱きしめて泣き止むまで待ってくれた。まだ、気持ちはぐちゃぐちゃだけど、いつまでもこうしているわけにはいかない。

『あの、騎士団長さん……お願いが、ひとつ、あります』

『なんだ?』

『カインを……カインの事をよろしくお願いします。もう二度と、私みたいな女性が出ないように、しっかりカインをいてください。どうぞ、聖女様と聖女様のためにカインの事も幸せに導いてください……』

『ああ。ああ……。勇者殿がまさかこのような軽率な真似をするとは思わずに油断していた部分があった。今後は、しっかりと彼をして聖女様とお二人仲良く過ごされるようにする』

 カインは、これで二度と他の女性とフラフラする事は出来ないだろう。私を踏み台にした彼には、是非とも聖女様とだけ幸せになって欲しい。
  自由が好きで、誰にも縛られる事のなかった彼にとって、ある意味、ずっと牢獄のような生活になるかもしれない。

 私は、公には、勇者様を誑かした悪女として魔の森に追放処分になり、後日、事故死したことにされるらしい。不名誉な事だし、何よりも、私のような単なる平民にも優しく接してくださった聖女様に誤解されたままというのは悲しい。
  だけど、それでいいと思う。生きていたら、カインの事だから本気で私を心配して探しそうだから。

 私が死んだと聞かされたカインは、一体何を思うのだろう。彼の心の一部に、私という小さな棘がささっていればいいだなんて思う。

 ちっとも何も思われないかもしれないのに、ほんっと、私のバカ。お人よしすぎるにもほどがある。

 騎士団長さんから、侍女頭さんから私のために預かったという危険から身を守る護符のついた高価なお守りと、贅沢しなければ数か月は困らないくらいのお金を貰った。時間がなかったから、こんなものしか準備できなくて申し訳ないと言われた。
 騎士団長さんからは、彼の胸についている、家族からもらった体力を増幅させ小さな傷を瞬く間に回復させるというお守りも。
 最後に酷い目にあったけど、優しい彼らのおかげで、何か報われた気がする。気持ちの込められたそれらを胸に抱いて頭を下げた。

『せめて、安全な場所に連れて行ってあげたいが戻らねばならん。ビスカス、どうか無事で。こんなことを言えた立場ではないが、君に幸多からんことを』

『騎士団長様も……侍女頭様がたにも、私が感謝しているとお伝えください』

 たぶん、私にあんな事を言ってしまった彼女が、一番心を痛めていると思う。カインという男を見る目が皆無だった私が言うのもなんだけど、侍女頭さんは本当に皆のお母さんみたいに厳しくも優しい人だと信じているから。

 もう、二度と会う事のない騎士団長さんが、歩き出す私の背中を、いつまでも見守っているのがわかる。

 まずは、彼らが向かう都とは反対のほうに下山しようと思う。ここからはたったひとり。なるべく、夜のカーテンが降りないうちに、ふもとまで行きたい。

 魔物はほぼいないとはいえ、獰猛な獣はいるだろう。

 私は、せっかく止まっていた涙が、再び頬を伝うのもぬぐいもせず、ひたすら足を動かしたのだった。









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