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チュンチュン小鳥が鳴く気だるい朝に
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少し肌寒い。体にかけられているシーツを手繰り寄せて体に巻き付けようとしたけど、なかなかシーツが近づいてこなかった。というより、シーツが体にかけられているのがおかしい。
あれ? ピンクスライムに襲われて外で眠ったはずなのに、どうしてシーツに包まっているの?
重だるくて動きづらい。翌朝になっているのなら体中を蝕んでいたはずの媚薬の効果はすっかり消えているのに、なんでこんなにも気だるいの?
そういえば、媚薬に侵されていた時に、私は唱えてはいけなかった呪文を口走ったかもしれない。10年以上使っていなかったけど、あれを使った後は体がこんな風になっていたなと思う。
だけど、あまりにもだるさが酷い。ひょっとして、呪文を唱えたっていうのは、必死だった私の思い違いで、実はまだ媚薬の効果が残っているのかもしれない。
「ん……」
「起きたか?」
とりあえず、このままだと何をどうする事も出来ない。起きなきゃと思って、あくびをしようとしたところ、近くで野太い男の人の声がした。初めて聞く声だった。
「え? あれ?」
瞼まで重いけど、なんとか目を開けると、そこにはすごく大きな男の人がいた。
ぼさぼさの髪は、寝起きの目にやや厳しい山吹色で、伸びすぎた無精ひげも同じ色。やや丸っこい目の中は真っ赤に熟れたアセロラのようだ。
「だ、だれですかー? きゃぁっ!」
いきなり現れた大男にびっくりして起き上がろうとしたけど、なんせ体が上手く動かない。わたわたベッドの上で動いているうちに、ベッドからずり落ちそうになった。
「危ないぞ……」
がっしりした腕に抱えられて、軽々ベッドの上に戻された。プチパニックになったままお礼を言うと、彼がそっぽを向く。なんだか、横顔が赤い気がした。
「あー……、礼はいいから、シーツをきちんと被ってくれ」
ふと、私の体を見下ろすと、胸の先がもう少しで見えそうなほどシーツが下がり、足の付け根ギリギリまで捲り上がっていた。
「ひゃあああ!」
慌ててシーツに包まった私は、もうどうなっているのか、どうしていいのか分からなくて涙が出て来た。
ひょっとして、彼とそういう関係になっちゃったの?
なんで下着まで着てないの? ……あの時、媚薬のせいで体が熱くなっていたから、考えたくないけど、前後不覚になった私が、助けてくれた彼に襲い掛かっちゃったとか?
恥ずかしさのあまりカーッと全身熱くなって、シーツの中で息を殺すようにうずくまった。
「驚かせてすまん。崖から落ちているのを見つけて、ここまで連れて来たんだ。悪いとは思ったんだが、破れた服も下着も泥だらけで濡れていたし着せたまま、俺のベッドに寝かせるわけにはいかなかったから脱がせた」
そういえば、崖から落ちた直後は全身が痛かった。痛みや傷がないのは、あの人たちに貰ったお守りのおかげだろうけど、生い茂る木や剥き出しの岩があったから服はボロボロになっていたかもしれない。
下着は……たぶん、恥ずかしい液で濡れていたと思う。
「あの……、あなたが、助けてくれたんですよね? あ、ありがとうございました」
恥ずかしがっている場合じゃない。とにかく、行き倒れた私を救助してくれたのは間違いなさそうだ。体が重だるいのは、きっと、イレースを使ったからだと思う。
媚薬のせいで一晩男女のアレコレをしていたとしたら、お守りが手元にない今は、私の下半身から血が出てお腹が痛むはず。でも、そんな痕跡はなさそうだから、最悪の事態は免れたようだ。
「礼を言われるほどの事はしていない。生憎、女性用の服なんてものはないんだ。俺の服だが、とりあえずこれを着てくれ」
シーツから顔だけ覗かせると、少しだけ頬を赤らめて困ったように眉をハノ字にさせた大きな男の人が私に向かって服を差し出してくれていた。
「ありがとうございます」
すんごくぶかぶかの服は、裾も手も足も長すぎた。ズボンの中にシャツを入れこみ、手首と足首は折り曲げると何重にもなって重いくらい。ズボンがずり落ちそうだったから、ベルトで縛ったものの穴が一番小さい部分でも余った。仕方がないので髪をまとめていたピンとリボンでさらにきつくしてみた。
下着がなかったから、裸の上に彼が渡してくれたシャツとズボンだけだから心もとない。スースーするし、胸の部分がたよりなくて、腕で隠しながら御礼を言った。
「あ……あ、あー……。もう少し日が登ったら麓の村にいって女性用の服を調達してくる。それまで、不便だろうが我慢してくれ」
「不便だなんて……何から何までお世話になりっぱなしで。このご恩は必ず返します」
「いや、本当に大した事はしてないから」
照れくさそうにはにかんでそう応える大男は、明るい部屋で改めてみるとそんなに年上じゃなさそう。さっきとちがって、ぼさぼさだった髪はひとつにまとめられているし、おひげも剃っていたから印象がまるで違う。
「俺の名前は、スループ。ルゥと呼んでくれ」
「あ、私はビスカ……」
大男じゃなくて、ルゥさんはこの小屋でひとりで暮らしているみたい。故郷は少し離れているけど、同じ国の人だという。
つまり、カインたち勇者パーティーの事は知っているだろうし、すぐに私の事を噂で知るだろう。ビスカスと名乗ろうとして、私は口ごもった。
もうすでに、私は、悪女として魔の森に追放された事になっているはずだ。だから、この名前はもう使えない。
私が死んだと公式発表があるまで、当分の間大っぴらには歩けないだろう。私には、家族も、行くあても、協力者もいない。
「私の名前は、ビスキィって言います。ルゥさん、あの……なんでもしますから、良かったら暫くの間ここにおいてもらえませんか?」
困り果ててしまった私は、ルゥさんにそう頼み込んだ。彼は、目を丸くしてぽかんとしている。まるで、熊のような大きな人に、更に頭を深く下げたのであった。
人物紹介にビスキィを追加しました
あれ? ピンクスライムに襲われて外で眠ったはずなのに、どうしてシーツに包まっているの?
重だるくて動きづらい。翌朝になっているのなら体中を蝕んでいたはずの媚薬の効果はすっかり消えているのに、なんでこんなにも気だるいの?
そういえば、媚薬に侵されていた時に、私は唱えてはいけなかった呪文を口走ったかもしれない。10年以上使っていなかったけど、あれを使った後は体がこんな風になっていたなと思う。
だけど、あまりにもだるさが酷い。ひょっとして、呪文を唱えたっていうのは、必死だった私の思い違いで、実はまだ媚薬の効果が残っているのかもしれない。
「ん……」
「起きたか?」
とりあえず、このままだと何をどうする事も出来ない。起きなきゃと思って、あくびをしようとしたところ、近くで野太い男の人の声がした。初めて聞く声だった。
「え? あれ?」
瞼まで重いけど、なんとか目を開けると、そこにはすごく大きな男の人がいた。
ぼさぼさの髪は、寝起きの目にやや厳しい山吹色で、伸びすぎた無精ひげも同じ色。やや丸っこい目の中は真っ赤に熟れたアセロラのようだ。
「だ、だれですかー? きゃぁっ!」
いきなり現れた大男にびっくりして起き上がろうとしたけど、なんせ体が上手く動かない。わたわたベッドの上で動いているうちに、ベッドからずり落ちそうになった。
「危ないぞ……」
がっしりした腕に抱えられて、軽々ベッドの上に戻された。プチパニックになったままお礼を言うと、彼がそっぽを向く。なんだか、横顔が赤い気がした。
「あー……、礼はいいから、シーツをきちんと被ってくれ」
ふと、私の体を見下ろすと、胸の先がもう少しで見えそうなほどシーツが下がり、足の付け根ギリギリまで捲り上がっていた。
「ひゃあああ!」
慌ててシーツに包まった私は、もうどうなっているのか、どうしていいのか分からなくて涙が出て来た。
ひょっとして、彼とそういう関係になっちゃったの?
なんで下着まで着てないの? ……あの時、媚薬のせいで体が熱くなっていたから、考えたくないけど、前後不覚になった私が、助けてくれた彼に襲い掛かっちゃったとか?
恥ずかしさのあまりカーッと全身熱くなって、シーツの中で息を殺すようにうずくまった。
「驚かせてすまん。崖から落ちているのを見つけて、ここまで連れて来たんだ。悪いとは思ったんだが、破れた服も下着も泥だらけで濡れていたし着せたまま、俺のベッドに寝かせるわけにはいかなかったから脱がせた」
そういえば、崖から落ちた直後は全身が痛かった。痛みや傷がないのは、あの人たちに貰ったお守りのおかげだろうけど、生い茂る木や剥き出しの岩があったから服はボロボロになっていたかもしれない。
下着は……たぶん、恥ずかしい液で濡れていたと思う。
「あの……、あなたが、助けてくれたんですよね? あ、ありがとうございました」
恥ずかしがっている場合じゃない。とにかく、行き倒れた私を救助してくれたのは間違いなさそうだ。体が重だるいのは、きっと、イレースを使ったからだと思う。
媚薬のせいで一晩男女のアレコレをしていたとしたら、お守りが手元にない今は、私の下半身から血が出てお腹が痛むはず。でも、そんな痕跡はなさそうだから、最悪の事態は免れたようだ。
「礼を言われるほどの事はしていない。生憎、女性用の服なんてものはないんだ。俺の服だが、とりあえずこれを着てくれ」
シーツから顔だけ覗かせると、少しだけ頬を赤らめて困ったように眉をハノ字にさせた大きな男の人が私に向かって服を差し出してくれていた。
「ありがとうございます」
すんごくぶかぶかの服は、裾も手も足も長すぎた。ズボンの中にシャツを入れこみ、手首と足首は折り曲げると何重にもなって重いくらい。ズボンがずり落ちそうだったから、ベルトで縛ったものの穴が一番小さい部分でも余った。仕方がないので髪をまとめていたピンとリボンでさらにきつくしてみた。
下着がなかったから、裸の上に彼が渡してくれたシャツとズボンだけだから心もとない。スースーするし、胸の部分がたよりなくて、腕で隠しながら御礼を言った。
「あ……あ、あー……。もう少し日が登ったら麓の村にいって女性用の服を調達してくる。それまで、不便だろうが我慢してくれ」
「不便だなんて……何から何までお世話になりっぱなしで。このご恩は必ず返します」
「いや、本当に大した事はしてないから」
照れくさそうにはにかんでそう応える大男は、明るい部屋で改めてみるとそんなに年上じゃなさそう。さっきとちがって、ぼさぼさだった髪はひとつにまとめられているし、おひげも剃っていたから印象がまるで違う。
「俺の名前は、スループ。ルゥと呼んでくれ」
「あ、私はビスカ……」
大男じゃなくて、ルゥさんはこの小屋でひとりで暮らしているみたい。故郷は少し離れているけど、同じ国の人だという。
つまり、カインたち勇者パーティーの事は知っているだろうし、すぐに私の事を噂で知るだろう。ビスカスと名乗ろうとして、私は口ごもった。
もうすでに、私は、悪女として魔の森に追放された事になっているはずだ。だから、この名前はもう使えない。
私が死んだと公式発表があるまで、当分の間大っぴらには歩けないだろう。私には、家族も、行くあても、協力者もいない。
「私の名前は、ビスキィって言います。ルゥさん、あの……なんでもしますから、良かったら暫くの間ここにおいてもらえませんか?」
困り果ててしまった私は、ルゥさんにそう頼み込んだ。彼は、目を丸くしてぽかんとしている。まるで、熊のような大きな人に、更に頭を深く下げたのであった。
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