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苦痛だった料理
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思い切り空を飛んで気持ちがすっきりしてきた。
カインの事を思い出してムカムカモヤモヤするよりも、ルゥさんの事を思いながら声を出すほうが幸せを感じる。
「ピィー」
聞こえていないだろうけど、ルゥさんを呼びながら大空に溶け込むと、ほわほわして心が踊り出す。羽をいっぱいに広げて、彼への感謝を込めてこの国に伝わる古い歌を囀った。
「ビスキィ、そこにいたのか」
「ピ?」
すると、ルゥさんが私のほうに向かい腕を伸ばしている。ゆっくり下降して、彼の指し出す手に止まった。
「本性に戻ってどうした? 何かあったのか?」
「ピピッ」
「なんとなくだって? あー、俺たちが長い間話をしていたから不安にさせたか? アネトはさっき王都に帰った。ビスカスという人物の死亡をあいつが報告すれば、もう悪女として噂される者はこの世にいなくなる。ビスカスっていうのは、ビスキィとは何の関係もない女性だろ? 俺はさ、ビスキィしか知らない。だから、君さえ良かったら、俺のところにずっといてくれて構わない」
さっきまでの悲しい気持ちとかは一切言ってないけど、こうやって察して側にいてくれる人がいる。それだけで、他人から何をどう言われようとも構わないと思えた。
「ピィ……」
「いいのかだって? いいも悪いも。俺がビスキィにいて貰いたいんだ。最初、暫くしたら出て行くって言ってただろ? その、出て行くあてがあるのなら仕方がないとは思うが、無いのなら、これからも俺の家で美味い飯を作って欲しい」
ルゥさんはお人よしすぎる。本当にいいのか迷ったけれど、甘えていいのかな?
「ピ」
「じゃあ、決まりだ。籠にいっぱいウワバミソウが入ってるな。たくさん採ってくれてありがとう。今日は仕事を休むから、一緒に家に帰ろう」
ルゥさんの澄んだ赤い瞳をじいっと見る。すると、黄金色の小さな私がうつっていて、まるでルゥさんの中に居させて貰ってるかのよう。
優しくて温かくて、無条件で私を守ってくれる。
これまでは、私のやる事為す事にいちいち文句を言われる毎日だった。
カインのために料理を作るようになってから何かを言われない日なんてない。彼の両親も、父親が誰とも知れず天涯孤独になった私を気に入らないみたいだったし、彼のお母さんには特に嫌われていた。だから、そんな私と結婚してくれるっていうカインの言葉が嬉しくて、どんなに言われても頑張っていた。
『なんか、味が濃いんだよなー。形も大きいし。一口大って知ってるか?』
『ご、ごめんなさい。前に作った時には、小さかったみたいだったからカインのは大きめに材料をカットしたの。味付けも、濃すぎた? 本当にごめんなさい。それは私が食べるから、カインはこっちを食べて。こっちの方なら、前と同じ大きさで切っているし味付けもそのままだから……』
『お前な、いちいちそうやって言い訳すんなよ。はぁ、全く。ま、食べれなくはないからこのままでいいよ』
『そう? 無理しなくていいのに。でも、ありがとう』
『次はちゃんと俺の好みに作ってくれよなー。母さんが言うように、お前が料理下手なのはしかたないけど、いつまでもこんなんじゃ困るぜ』
『うん……ごめんね。他の人は美味しいって言ってくれたからそのままにしちゃった。もっと上手になるよう頑張る』
『他の奴らはお世辞だよお世辞。不味くても気を遣ってくれてるだけ。いいか? お前の下手な料理に付き合えるのは俺くらいなんだからさ。両親もいねぇお前と結婚しようなんて物好きな男はいないんだぞ?』
『……そうだね。カインありがとう』
何を作っても、前回言われた事を改善しても、どう工夫をしても、今度こそ気に入ってくれるかなっていう期待は打ち砕かれた。
料理をするのか辛くなって、もうどうしていいかわからなくなった。
でも、今は常にカインの気分や表情を読んで緊張していた頃とは全く違う。
ああ、ルゥさんが好きだなーってふと浮かぶ気持ちに戸惑う。カインに裏切られてから、まだ数日しか経ってないのに。
あっちがダメだったから、今度はこっちだなんて。こんなにも早く気持ちが変わるとか、自分もカインの移り気な浮気と同じな感じがして嫌になる。
ルゥさんが、にこにこ笑って私を優しく見つめてくれる。私を肩に止まらせて、一生懸命採ったウワバミソウの籠も軽々抱えた。
「ピ」
「服はそこか。どうする? あっちを向いているから人化するか?」
人化したら私は全裸になる。恥ずかしいし、人化したら彼との距離が開く。今は彼の顔の一番近くにいたい。
「ピ」
「はは、しばらく本性がいいのか。ならそこにいろ」
ルゥさんは私の色んな願いを叶えてくれる。なんにも出来ない私でも、彼となら委縮したり緊張せずに暮らせそう。もう充分甘え切っているけど、せめて、ルゥさんの側にいられなくなるその日まで、甘えていていいのかな……。
「ピ」
さりげなく、彼の顎のあたりに頬ずりしたらダメかなー?
そう思ったけど、流石に嫌がられるかもしれないから我慢して、採ったウワバミソウで何が食べたいか聞いた。
「そうだなー。最近揚げ物を食べていないから、てんぷらとか食べたい」
「ピピッ」
アネト様の分まで採ったからたくさん作れそう。残りは保存して、別の料理にすると伝えた。
「はは、楽しみにしているよ」
家に帰ってから、彼と一緒にごはんの準備をした。台所には男は立つもんじゃないってカインのお母さんに言われていたし、カインも絶対に料理を手伝うなんて事はしなかった。
いつだって、料理を作るのはひとりでだったし、また気に入られなかったらどうしようっていう不安と緊張の時間で、苦痛だと感じていた。
ルゥさんと並んで、葉っぱを取り除く。茎を湯で鮮やかな緑になるまでゆでた後、水に晒して茎をさっと粉にまぶす。葉っぱも使って、小エビを磨り潰してその葉っぱで包んで焼いた。
ルゥさんが、油が危ないからって揚げてくれる。彼が取り出す天ぷらを、私が持ったお皿に乗せてもらうなんて、なんだか一緒に作業しているみたいでとても嬉しいし幸せな時間を過ごせたのは初めてで。
ずっと、この人とこんな風に過ごせたらいいのにって思った。
カインの事を思い出してムカムカモヤモヤするよりも、ルゥさんの事を思いながら声を出すほうが幸せを感じる。
「ピィー」
聞こえていないだろうけど、ルゥさんを呼びながら大空に溶け込むと、ほわほわして心が踊り出す。羽をいっぱいに広げて、彼への感謝を込めてこの国に伝わる古い歌を囀った。
「ビスキィ、そこにいたのか」
「ピ?」
すると、ルゥさんが私のほうに向かい腕を伸ばしている。ゆっくり下降して、彼の指し出す手に止まった。
「本性に戻ってどうした? 何かあったのか?」
「ピピッ」
「なんとなくだって? あー、俺たちが長い間話をしていたから不安にさせたか? アネトはさっき王都に帰った。ビスカスという人物の死亡をあいつが報告すれば、もう悪女として噂される者はこの世にいなくなる。ビスカスっていうのは、ビスキィとは何の関係もない女性だろ? 俺はさ、ビスキィしか知らない。だから、君さえ良かったら、俺のところにずっといてくれて構わない」
さっきまでの悲しい気持ちとかは一切言ってないけど、こうやって察して側にいてくれる人がいる。それだけで、他人から何をどう言われようとも構わないと思えた。
「ピィ……」
「いいのかだって? いいも悪いも。俺がビスキィにいて貰いたいんだ。最初、暫くしたら出て行くって言ってただろ? その、出て行くあてがあるのなら仕方がないとは思うが、無いのなら、これからも俺の家で美味い飯を作って欲しい」
ルゥさんはお人よしすぎる。本当にいいのか迷ったけれど、甘えていいのかな?
「ピ」
「じゃあ、決まりだ。籠にいっぱいウワバミソウが入ってるな。たくさん採ってくれてありがとう。今日は仕事を休むから、一緒に家に帰ろう」
ルゥさんの澄んだ赤い瞳をじいっと見る。すると、黄金色の小さな私がうつっていて、まるでルゥさんの中に居させて貰ってるかのよう。
優しくて温かくて、無条件で私を守ってくれる。
これまでは、私のやる事為す事にいちいち文句を言われる毎日だった。
カインのために料理を作るようになってから何かを言われない日なんてない。彼の両親も、父親が誰とも知れず天涯孤独になった私を気に入らないみたいだったし、彼のお母さんには特に嫌われていた。だから、そんな私と結婚してくれるっていうカインの言葉が嬉しくて、どんなに言われても頑張っていた。
『なんか、味が濃いんだよなー。形も大きいし。一口大って知ってるか?』
『ご、ごめんなさい。前に作った時には、小さかったみたいだったからカインのは大きめに材料をカットしたの。味付けも、濃すぎた? 本当にごめんなさい。それは私が食べるから、カインはこっちを食べて。こっちの方なら、前と同じ大きさで切っているし味付けもそのままだから……』
『お前な、いちいちそうやって言い訳すんなよ。はぁ、全く。ま、食べれなくはないからこのままでいいよ』
『そう? 無理しなくていいのに。でも、ありがとう』
『次はちゃんと俺の好みに作ってくれよなー。母さんが言うように、お前が料理下手なのはしかたないけど、いつまでもこんなんじゃ困るぜ』
『うん……ごめんね。他の人は美味しいって言ってくれたからそのままにしちゃった。もっと上手になるよう頑張る』
『他の奴らはお世辞だよお世辞。不味くても気を遣ってくれてるだけ。いいか? お前の下手な料理に付き合えるのは俺くらいなんだからさ。両親もいねぇお前と結婚しようなんて物好きな男はいないんだぞ?』
『……そうだね。カインありがとう』
何を作っても、前回言われた事を改善しても、どう工夫をしても、今度こそ気に入ってくれるかなっていう期待は打ち砕かれた。
料理をするのか辛くなって、もうどうしていいかわからなくなった。
でも、今は常にカインの気分や表情を読んで緊張していた頃とは全く違う。
ああ、ルゥさんが好きだなーってふと浮かぶ気持ちに戸惑う。カインに裏切られてから、まだ数日しか経ってないのに。
あっちがダメだったから、今度はこっちだなんて。こんなにも早く気持ちが変わるとか、自分もカインの移り気な浮気と同じな感じがして嫌になる。
ルゥさんが、にこにこ笑って私を優しく見つめてくれる。私を肩に止まらせて、一生懸命採ったウワバミソウの籠も軽々抱えた。
「ピ」
「服はそこか。どうする? あっちを向いているから人化するか?」
人化したら私は全裸になる。恥ずかしいし、人化したら彼との距離が開く。今は彼の顔の一番近くにいたい。
「ピ」
「はは、しばらく本性がいいのか。ならそこにいろ」
ルゥさんは私の色んな願いを叶えてくれる。なんにも出来ない私でも、彼となら委縮したり緊張せずに暮らせそう。もう充分甘え切っているけど、せめて、ルゥさんの側にいられなくなるその日まで、甘えていていいのかな……。
「ピ」
さりげなく、彼の顎のあたりに頬ずりしたらダメかなー?
そう思ったけど、流石に嫌がられるかもしれないから我慢して、採ったウワバミソウで何が食べたいか聞いた。
「そうだなー。最近揚げ物を食べていないから、てんぷらとか食べたい」
「ピピッ」
アネト様の分まで採ったからたくさん作れそう。残りは保存して、別の料理にすると伝えた。
「はは、楽しみにしているよ」
家に帰ってから、彼と一緒にごはんの準備をした。台所には男は立つもんじゃないってカインのお母さんに言われていたし、カインも絶対に料理を手伝うなんて事はしなかった。
いつだって、料理を作るのはひとりでだったし、また気に入られなかったらどうしようっていう不安と緊張の時間で、苦痛だと感じていた。
ルゥさんと並んで、葉っぱを取り除く。茎を湯で鮮やかな緑になるまでゆでた後、水に晒して茎をさっと粉にまぶす。葉っぱも使って、小エビを磨り潰してその葉っぱで包んで焼いた。
ルゥさんが、油が危ないからって揚げてくれる。彼が取り出す天ぷらを、私が持ったお皿に乗せてもらうなんて、なんだか一緒に作業しているみたいでとても嬉しいし幸せな時間を過ごせたのは初めてで。
ずっと、この人とこんな風に過ごせたらいいのにって思った。
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