完R18 勇者のパーティを追い出されて行き倒れた私を、婚約者に捨てられ家を破壊された大男が助けてくれました

にじくす まさしよ

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幸せの鐘の音が鳴る日に

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 小春日和の過ごしやすい日、ついにカインは聖女様と結婚する。聖女様のお腹の中の子もすくすく育っていて、母子ともに健康のようで良かったと思う。カインには、これからは聖女様の良き夫として、産まれてくる子どもの父親として立派になって欲しい。

 素直に、そんな風に思えるようになったのは、目の前で私が作った料理を、美味しい美味しいと言いながら食べてくれる人のおかげだ。

 思えば、カインへの気持ちは恋愛としての好きだったわけじゃないのかもしれない。

 だって、側にいてくれるだけで、視線が交差するだけで、見つめられていると感じただけで、こんなにも胸がドキドキして、モゾモゾするような、居心地の良い気持ちは彼と一緒にいる時にだけ起こるのだから。



「ビスキィ、今日は連れて行きたい場所があるんだ。朝食が終わったら、一緒に出掛けよう」

「え? お仕事は?」

「今日はほとんどの国民が休日だ。お祭り騒ぎに参加する商店くらいしか働かない。俺も休みだからな」

 今日は魔王を倒した英雄の結婚式だから、仕事なんかせずに皆がお祝いをして楽しむ日なのだ。このお祭り騒ぎは1か月近く続く。稼ぎ時とばかりに、露店やあえて仕事をする人たち、どうしても仕事をしなければならない職種の人たち以外は、国の補助金がたくさん出るので思いっきり遊んで歌って、王様がたや勇者たちを褒めたたえるのである。

 ルゥさんは、私がかつてカインと結婚の約束をしていた事を知っている。アネト様から聞いて全てを知っているからこそ、ビスカスという人間じゃなくて、ビスキィという新しい私として接してくれる。

 だから、カインが結婚する今日、私の心が傷ついていないか心配してくれているんだろうと思う。

 ルゥさんは、魔石を採取するとても危険な仕事をしているらしい。しかも、彼が見つける魔石は極上品で、王族や貴族、アネト様のような高位魔法使いたちの研究に使われるというのだ。依頼がひっきりなしにあって忙しいんだとアネト様から聞いた時にびっくりした。

『もう充分稼いだしそろそろのんびりしたいんだ。そもそも、こき使われ過ぎだったからな』と言って、夕食前までに必ず帰って来てくれるのは、私のためだろう。私が、寂しくないように、ひとりで泣かないように、仕事をセーブしてくれている。

 私には一切何も言わずに、ただ、そこにいてくれて微笑んでくれるルゥさんを好きだと自覚してからというもの、その思いは坂を転げ落ちる雪玉のようにあっという間に膨れ上がった。

 以前、酔ったアネト様がうっかり口にした、彼が本当はこんなところでくすぶっているような人物じゃなくて、きちんとした貴族の令息な事を聞いた。王宮勤めをしていてもおかしくない人だと知ってから、あまり好きになってはいけない人なんだと気持ちをセーブしようとした。

 だけど……

 なぜだろう。ふと、視線が合い、彼の瞳が熱を持っていると感じる度に、ひょっとしたら、彼も私を好きでいてくれているのかなって、自惚れにもほどがある考えが頭にちらつく。

「どこに連れて行ってくれるんですか?」

「あとでわかるよ」

 朝食の片づけを済ませ、お弁当を準備した。
  ルゥさんが魔法を使ってそこに連れて行ってくれるらしい。彼に抱きかかえられ、優しく、でも力強く太く逞しい腕で支えられるとドキリと胸が高鳴る。

「ビスキィ、しっかり掴まっていて」

「はい」

 魔法の移動は、物凄く集中力が必要だ。少しでも気がそれると、目的地のポイントがずれたり、あまりにもコントロールが出来ない状況になれば、体が亜空間に囚われて一生この世界に帰って来れないらしい。

 ぎゅっと彼の太い首筋に腕を回して抱き着いた。
  びくっとルゥさんの体が大きく揺れたので、痛かったのかと問うと、痛くはないといいつつ、そっぽを向かれた。目の前の大きな耳が赤くなっていて、そんな彼の姿を見てしまうと、どうしても期待しちゃう自分がいる。

 転移魔法をルゥさんが唱えると、一瞬で景色が変わった。

「わぁ……! すごい」

「ビスキィに見せたかったんだ」

 太陽はもうすぐ南天に登る。
  国中に、カインたちの結婚を祝う鐘の音が、リーンゴーンと厳かに響き渡っていた。

 目の前で、ごうごうと水しぶきというよりも煙のような水を吹きあげながら、巨大な滝が流れ落ちている。まるで、そこから先は、世界がないくらい大きな景色に言葉を失った。

 透明で清らかな水のスクリーンには、太陽に照らされていくつもの虹がかかっている。大自然の迫力と壮大さに、私は心震わされて、ほんの少しだけ怖くなる。世界一安全で安心できるルゥさんの胸にしがみ付いて眺めていた。

 すると、ぽつりとルゥさんが呟いた。

「鐘の音がうるさいな……ここなら、滝の音で聞こえないと思ったんだが……ごめん」

「ルゥさんったら。謝らないでください。こんなにも素晴らしい景色初めて見ました! ふふふ、それに、幸せの音じゃないですか」

「……の音なのか?」

 彼が、私の心の中に悲しい気持ちなどがないのか、傷ついていないのか無言で伺ってくる。

「はい、幸せの音です。ルゥさん、私ね、当時は、苦しくて悲しくて辛かった。私を取り巻く人たち全員に裏切られた気がしたし、口ではいい子ぶった事を言っていたけど、やっぱり、傷ついたし憎いと思いました。でも、そんな気持ちを、ルゥさんが癒して変換してくれたんです。だから、本当に、今は、彼らの幸せを願っているんです。こんな穏やかな気持ちになれたのは、ルゥさんのおかげです……。ルゥさんが、いてくれたから、私は……」

「ビスキィ……」

 胸が熱い。気持ちが張り詰めて、膨れ上がって、ドキドキする大きな鼓動の音がするのは、私の中からなのか、それとも──。

 あんなにも聞こえたうるさいほどの大きな滝の音も、鐘の音も消えたかのよう。

 ルゥさんが、じっと私を見つめて、私もその瞳を一心に見つめ返す。

「ビスキィ、好きだ」

 一瞬とも、永遠とも思えるような、まるで、この世界すらも消え、ふたりしかいないかのような時の狭間で、唐突に言われた。

 信じられない、と思う。それと同時に、やっぱり、彼もそう思ってくれていたんだと心が歓喜で満ち溢れた。考えるよりも早く、私の口から出たのは、もうずっと心に秘めて温めて来た言葉だけだった。

「ルゥさん、わ、わたしも、好きです……」

 彼の目が見開いた。と思ったら、一瞬で、この世の何よりも大切なものを見るかのような笑顔になった。

  どうしようもなく、彼が愛しい。この想いを、どう伝えたらいいのだろう。

 そっと、私の唇に吸い寄せられるかのように彼の顔が近づいて来る。私のほうが彼に近づいて行っているのかもしれない。

 綺麗な赤……

 太陽に照らされて明るく輝く山吹色の前髪が、俯いた事で影を作り、赤い瞳を暗くする。少しずつ、瞼が閉じられ、もっと見ていたい色が隠れた。

 何かが唇に当たり、滝の音よりも大きく感じるちゅっという高く短い音が体中に鳴り響く。

「ビスキィ、好きだ」

 熱が離れて寂しくなった唇に、彼の吐息と言葉がかかる。

「私も、好」

 彼に応えたいのに、言葉の途中で再び唇を塞がれた。もう、離れて欲しくない。ずっと、こうしてくっついていたくて、無我夢中で彼の頭を力強く引き寄せた。私の首から後頭部に彼の大きな手が当たり、ぐっと彼に引き寄せられた。

 息をするのももどかしく唇を合わせている私たちを祝福しているかのように、幸せの鐘の音が広がっていた。
 







 

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