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第二部拾捌 怜の場合⑩

第3話『恵方巻きパーティー』②

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 恵方巻きの文化は、れいの記憶だと関西……特に大阪に多いイメージがあった。

 怜の母方がそちらなので、小さい頃は帰省した時に恵方巻きは普通に出てきた。

 しかし、学校に通い出して……友達が出来た時に聞いたら、そのような寿司は無いと言われてしまったのだ。

 あの時は大層驚いたが……十数年以上経った今では、ほぼ全国にその文化が広まったのにも物凄く驚いた。

 結局は、食品業界などの戦略らしいが……裕司ゆうじと付き合う前は、気軽に恵方巻きを買えるのとスーパーやコンビニによっては具材も大きさも違うのが面白く、家族も人数が多いので食べ比べをしたものだ。

 たとえ、作法としては間違っていたとはいえ。


「……こんなものかしら?」


 皐月さつきと共同作業で作っていた酢飯は、キラキラ艶々と輝いているように見えた。一度裕司を呼んで味を確認してもらうと、とりあえず及第点をもらえた。


「んじゃ、巻くとこは一緒にやろう」


 そして、裕司が智也ともやと用意してくれたのは……刺身用に柵で売っていた魚、厚焼き卵、野菜を普通の巻き寿司より太めの棒状に切った具材ばかりだ。揚げ物などは、今回パスとなった。食べにくさがあれの場合は目立つだろうと言うことになり。


「おお! 圧巻!!」

「ちょいと普通の恵方巻きじゃない作り方にするけど」

「「なになに??」」

「俺も聞いていないけど」

「簡単ですよ。醤油の使い方です」

「「「どゆこと??」」」


 怜にもさっぱりわからなかった。

 首を傾げていると、裕司は醤油を入れた……小皿ではなく、金属製のバットに白身魚……多分ブリを入れて箸で丁寧に絡めていった。


「無言で食べるし、いちいち醤油つけたら酢飯がぼろぼろ落ちるから……先に、少し淡白な味のやつにだし醤油つけちゃうだけ」

「「おお!?」」

「ほー? 考えつかないや」

「俺も教わっただけですけど」


 ただ、醤油もつけすぎないように……他の具材とのバランスも考えて海苔と酢飯をスタンバイしたところへ載せていく。

 バランを使って、柔すぎず、しっかりと巻いていけば。

 お店顔負けとまではいかないが、人生初の恵方巻きが出来上がったのだ。


「出来た出来た!!」

「わ!? 太くなった!! 口入るかしら??」

「んじゃ、交換するか?」

「やだ」


 とまあ、それぞれ思い思いに自分の恵方巻きが出来上がったので。

 食べる前に片付けをしてから、最初は豆まきをすることにしたのだった。


「「鬼はー外!! 福はーうち!!」」

「いって!?」

「落花生だから余計に痛い!!?」

 男は鬼役となったが、小さい大豆よりも落花生に変えた方がそれなりに痛がっていた。
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