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第49話 もふもふが好き

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 珀瑛ハクエイ様の……もふもふしたものは、とても心地良かった。

 簡易体ではなく、獣になった精獣化と言うのは……どこもかしこも、もふもふしていていつまでも触れていたかった。

 緑斗リョクト様の、ふわんふわんのお胸も素晴らしかったが……私には、こちらが良かった。出来るだけ、力を込めずにしがみつくと毛並みが……もふもふは頬をくすぐる。その感触が、私は好きだった。


『……ミラは、この毛並み好きなん?』


 ふいに、珀瑛様が私に声をかけてくださった。


「あ……お嫌でしたか?」


 いけない、不快に思われたかとしがみつく手を緩めようとしたが……珀瑛様はゆるく首を横に振られた。


『ちゃうねん。別に嫌ちゃうけど……そう思っただけや』

「そう、ですね……」


 両親から引き剥がされた以前は、あまり覚えはないが……聖女として、あの王族に囲われていた最初は……財宝などを召喚出来た後には、様々な贅沢を尽くされた。

 幼過ぎて、はじめは意味がわからなかったが……ふかふかのクッションやお布団には夢中になっていた覚えがある。それらも、年を重ねるごとに取り上げられたが……その名残りだろうか?


『せやったら、いくらでも触ってええで? ただ、飛んでいる時はくすぐらんとってな?』

「……くすぐっていましたか?」

『ちょぉ、こそばいだけや。大丈夫』


 不快でないことにホッと出来たが……頬擦りするのはやめようと、しがみつくだけにしておいた。

 やがて、龍羽リュウハ様のいらっしゃるお花畑に到着すると……龍羽様が、朝方の時のように出迎えてくださった。


「や! お疲れ様」


 龍羽様のお姿は、相変わらず子供の姿だけれど……どことなく、髪や肌が輝いているように見えた気がした。


「順調そうですなあ? 龍羽様」


 人型になられた珀瑛様が、何故か私の肩にぽんと手を置かれた。あたたかな温もりに、少しドキドキとしてしまう。


「うんうん! ミラ達のお陰だよ!! 里に足りていなかった魔力が循環したんだ! これで安心出来たよ」

「そんな……私は、ただゴミなどを召喚出来ただけで」

「そんな、じゃないよ? 僕らには最上の供物だ」


 かがんで? とおっしゃられたので……少し腰を折ると、龍羽様のお手が私のベールをかぶった頭を撫でられた。


「龍羽様?」

「神の愛し子。我ら精霊の愛し子。君には、僕らの同胞になることを……拒まぬか?」


 精霊王様らしい話し方になられた。

 はじめは何をおっしゃっているのかわからなかったが……すぐに、私の目に変化があることを思い出した。珀瑛様や龍羽様……そして、他の大精霊様方に触れていただいたことで、私は人間でなくなろうとしているのだ。

 その問いに、理解出来た頭には色々浮かんだが……私はゆっくり頷いた。


「拒みませぬ。望むのなら……貴方様方と同じに」

「……そう」


 何度か撫でていただくと、目が少し熱く感じたが……すぐに、私の前にステータスが表示されたのだ。



【ミラジェーン=アクエリエスの形態変化。


 神の恩寵、並びに精霊王や大精霊の魔力循環により……精霊化へ進化確認。

 多少なりとも、身体に変化があることだろう。

 聖女の称号はそのままに】



 どれもが、素晴らしい内容ばかりだと思ったのだが。

 私には、失ったと思っていた『聖女』の称号がそのままなのには驚きが隠せなかった。

 龍羽様にお聞きしようとしたのだが……目に感じていた熱さが、体中に広がってしまい、痛みに変わったそれを耐えるのに……私は花の上に倒れたのだった。
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