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第83話 もぐむしゃ

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 簡易体が、ひとまず決まったようだけれど。

 まだ、何回も繰り返すのには……魔力の馴染み方もだが、体力も足りないと言うことで。

 お昼ご飯には早いからと、お庭でお茶会をすることになった。


(……クッキー!)


 お茶のお供にと、揃えられた中には……クッキーがあったのだ。

 美しい……四角の形。黒と、薄茶で出来たクッキーだ。

 どのような味か気になるが、珀瑛ハクエイ様から『食おうや』とおっしゃっていただけるまで待った。想う相手から、無作法な態度を取ると思われたくないからだが。


「くく。ミラ、先に食ってええんやで?」

「……え?」

「はよ食いたいって、顔に出てるわ」

「……は、はい」


 しかし、顔に出ているとわかるのも恥ずかしい。

 あの木の葉で、クッキーのような味わいを感じたのに……こちらは別と言うか。

 恥ずかしくてうつむくと、珀瑛様からは頭を軽く撫でていただけた。


「待ちかねてたんやな? フー、ミラにお茶」

【ん】


 給仕は風珀フウハク様がしていただけるとようで……とぽとぽと、ポットからは美しい色合いのお茶がカップに注がれていく。

 カップに触れると、あたたかな温もりについほっとしてしまう。

 ゆっくり飲むと……ミルクはないのに、気持ちも体もほっとする味わいだった。


「ほい、クッキー。この黒いのはチョコの仲間や」

「……チョコ?」

「んー。見た目黒いんやけど、甘くて美味いで? ちょい苦いけど」


 苦いのは……あの城での生活で幾度か口にしたが。

 珀瑛様が勧めてくださるのなら……きっと違うのだろう。

 受け取ったクッキーを両手で持ち、黒い部分を軽くかじった。


(……まあ!)


 思ったほど、苦くない。

 むしろ……適度な苦味と言うべきか。

 甘いだけでなく、香ばしく……舌を休ませてくれるような、ほんのり舌に感じる苦味。

 反対の薄茶の部分は普通のクッキーだが、それを引き立てるようで……。

 木の葉の時のように、ついついサクサク食べてしまうのだ。


「……美味いか?」


 口にクッキーが入っていたため、珀瑛様からのお優しい質問には首を縦に振ることで答えた。


【ん。詰まるだろうから、お茶も飲んで】


 風珀様のお言葉に、ちゃんと飲み込んでからお茶を飲むと……こちらで初めていただいたクッキーの時と同じ味わいを感じた。

 カフェオレではないが、紅茶と合わせるととても美味しい。

 すると……風珀様が別のポットの中身を新しいカップに注がれた。


「……これは!」

【……ミラはこれも欲しいと思って】


 香りですぐにわかったが……私の大好きなカフェオレだったのだ!!


「ありがとうございます!! 風珀様!」

【ん、当然】


 誇らしげに笑われた風珀様に、もう一度御礼を告げてから……私は大好きなカフェオレを口にした。

 同じ苦いのでも、クッキー以上に私はこちらが好みだったが……クッキーを軽く食べてからカフェオレを飲むように教わると、なんとも言えない感じで幸福に満たされたのだった。


「休んだら、次は精獣化の方やな?」


 お茶でゆっくりしていた時に、告げていただくまで忘れかけていた。

 今日は、私の全体的な大精霊としての特訓の日なのだと。
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