ドS年下エリート騎士の執着愛

南 玲子

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中庭のテラスは密室

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そうして私の抵抗もむなしく反論する間も与えられずに、ごく自然に・・・本当に誰が見ても自然な様子でダンスホールから離れた中庭のテラスにまで連れてこられた。

よくこんなことを繰り返しているのだろうか・・・。道すがら出会った給仕にチップを渡して、賑やかな場所からは遠く離れた、このひと気のないテラスに誰も近づけないようにと言い含めていた。

私はといえば誰もいない・・・誰も助けが来ないテラスに、満月の光を浴びながら肉食の加虐趣味を持つ危険な男と一緒に立っている。季節が春だとはいえ夜はまだ肌寒い。コートもなしにオフショルダーの薄いドレスを着ているだけの格好なので、体中に鳥肌が立ってきた。

そこは白の大理石で造られたテラスで、数段の階段の先は奥に庭園が続いている。すぐ傍には薔薇の庭園があって、満月に照らし出された花びらが美しく光ってこの世ではないような美しさだ。

小さな風が湧きおこる度に、その葉が擦れてさらさらと音を立てて芳醇な薔薇の香りを巻き上げる。

伯爵に壁際に追い詰められるとどうなるか分からない。なのでいつでも逃げられるように庭を後ろにして伯爵の前に立った。

「やっと僕二人きりになれたね。僕をここまで興奮させたのは君が初めてだよ、エミリー。君の事は気に入っているんだけれども、君は僕の容姿が嫌いだって言ったね。それは流石に見逃してあげられないな」

や・・・やばい。調子に乗っていいすぎたかもしれない・・。すこし言い方を弱めて反論する。

「女性がみんな綺麗な薔薇が好きなわけじゃありませんわ。好みの問題です」

「それもそうだね。薔薇には棘があるから刺されるのが怖い人は嫌いかもしれないね。小さな傷からでも人は簡単に死に至るから、狭小な人間は嫌いだろうね」

馬鹿にされたような言い方に怒りが再燃してきた。さっきまでの所業も合わさって怒りが更につのっていく。

「私は薔薇の棘なんかちっとも怖くありません。それに貴方もね。一体私をこんなところに連れてきてどうするつもりなの?あの時の事は誰にも言わないわ、それで終わりにしましょう。それに私は貴方の好みとは全く違うわ」

「エミリーはちっともわかってないんだ。僕は気の強い女性が僕に堕ちて最終的に僕の言いなりになるのを見たいんだ。なのにどの女も僕を肯定し崇拝するばかりで、自分の意見さえ言わない。そんなのはちっとも面白くない。だから君はまさに僕の理想の女性と言える。そうやって歯向かえば歯向かう程、僕は君がもっと欲しくなるんだ」

そういって爽やかな笑顔で私を見つめる。その眼の奥には何か邪な感情が見え隠れしていて、天使の見かけとは反対に、まるで悪魔にでも魅入られてしまったかのような気持ちになった。

「わっ・・・わ・・私は絶対に堕ちたりしないわ!!」

「なら証明してみてよ。ああ・・そんなに僕に興奮しないで、肩が震えているよ?」

優しい声で囁きながら私の肩にそっと置かれたダニエルの手は、人間の手とは思えないくらい冷たくて更に寒気を誘う。その手をあからさまに振り払って、私はダニエルから距離を取った。あまり近くにいると危ないと本能がそういっている。

「これは寒くて震えているんです!!貴方は上着を着ているからいいのだろうけれど、私はこの薄い生地一枚なんだから!!」

「そう?なら僕も脱ごうか・・・これでお互い様だよね」

「え・・・?!」

唐突にそういうと、ダニエルは騎士の制服の詰襟のボタンを一つ一つ外していって、あっという間に上着を脱いで地面に投げ捨てた。その下に着ていた白いシャツ一枚になると、そのボタンも次々に外し始めた。

「いや・・・ちょっと、そこまでは脱がなくても・・・。だってそれ脱いだら、貴方、裸じゃない?それに普通は男性が上着を脱いで女性に掛けてあげるものよ」

私が止めるのにも構わずにボタンが一つ一つ外されていき、シャツの前が段々開けて下の肌が間からチラチラ見えてきた。服の上からは分からなかった胸筋の盛り上がったおうとつや、腹筋やその隣にある腹斜筋の割れ目が露になってきて目のやり場に困る。

「貴方じゃなくてダニエルって呼んで欲しいな。それに僕はエミリーが青ざめた顔で震えている姿を見ているほうが好きなんだ。だから僕の上着を貸す気は全くないよ」

このドS野郎めーー!!

そういってダニエルは下方に頭を向けて、ズボンにしまわれているシャツの裾に両手を掛けて一気に引き抜いた。そうして目線だけ私に向けて、口の端を意味深に上げてにっこりと微笑む。裸の上に前をはだけたシャツだけを羽織っているその様子があまりにも色っぽくて、男性だというのに一瞬ドキッとする。

「これで満足?それとも、もっと脱いだ方がいい?」

いかんいかん。ドSにはドSで対抗しないと、伯爵の思うつぼだわ。少しでもМの片鱗を見せればやられる!!

「そうね、どうせなら全部裸になってしまえばいいわ。そうしたらその服を全部持ってここから逃げてあげる。貴方が裸のままどんな悲壮な顔をして絶望感に浸るか考えるだけで楽しいわ。そう思わない?」

両腕を体の前で組んで、偉そうにせせら笑いながら言ってやる。伯爵に負けを認めさせるまで絶対に言うなりになる気持ちはなかった。

「そんなことをいって僕の魅力に気が付いて戻れなくなってしまうのが怖いんじゃないの?僕のキスは腰が抜けるくらいに凄いよ。僕から二度と離れられなくなるほどの快楽をエミリーに与えてあげようか?」

「ふふふ、年下のくせに生意気ね。貴方のテクニックなんて大したことないに決まっているじゃないの。みんな貴方の地位と名声だけが目当てで我慢して気持ちがいいって嘘をついているのよ。それに気が付かない貴方は滑稽でみじめだわ」

「ふうん、滑稽で惨めね・・・そこまで言うなら本当に彼女たちがいったことが嘘なのか試してみる?」

緑色の瞳を妖しげに輝かせて、その形のいい唇をほんの少しだけ開いて誘うような目つきで見てくる。男性だというのに女性顔負けの色気に一瞬たじろいだ。意地悪で言ったでまかせだというのに、本気にして試されてはこまる。

「・・そ・・・それは・・」

「それとも僕の魅力に溺れてしまいそうで怖いのかな?たかがキスだよ。最後までするわけじゃない」

「こ・・・怖いわけないじゃないの!!!やるわよ!下手くそ過ぎて歯を当てないでね。私には痛めつけられて喜ぶ性癖はないの。あとで私とのキスが忘れられなくなって泣いて縋ったりしないでね!ほら・・キスするんだったらさっさと目を閉じなさいよ!!」

ダニエルの馬鹿にしたような笑いに、思わず負けず嫌いの性格が邪魔をして、つい売り言葉に買い言葉で勝負を受けてしまった。

「駄目だよ、それじゃ僕のテクニックを見せてあげられない。エミリーは目を開けたままで僕のキスが終わるまで動いちゃ駄目だよ。それが条件だ」

思わぬ状況になってしまったが、よく考えると好都合かもしれない。ダニエルのキスが終わった後、思い切り馬鹿にした笑いを浮かべて大したことが無かったと嘲笑してやればいい。そうすればこの自信たっぷりの鼻を少しはへし折ってやれるかもしれないわ。

「分かったわ、目を開けていればいいのね。望むところよ!早くかかってきなさい!」

「ふふっ・・・エミリーはちっともロマンチックじゃないね。キスする直前の女性の台詞じゃないよ。でもそこが堪らなくいいんだけどね。みて・・・僕はさっきから君にゾクゾク感じさせられっぱなしなんだよ」

そういって上半身をぶるっと震わせて、ダニエルは視線を自身の下半身に移した。自然に目をやると一見しただけでもズボンの中のモノが、はち切れんばかりに大きくなっているのが見てとれた。

実際には聞いて知識としては知ってはいたけれど、本当にアソコを大きくした男性を見たのは初めてだ。もしかしてダニエルはこの状況で私に発情して興奮しているとでもいうのだろうか???

一体どのあたりがそんなに性的に興奮させる要素だったのかと、信じられない気持ちで一杯になって私の目線はもうダニエルの下半身に釘付けになっている。


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