2 / 54
第1章
第2話 幼馴染はわからせてくれない
しおりを挟む「なぁ奏向ー。お前、好きな奴いるー?」
昼休み――教室で弁当を食べながら持田がボーッと窓から空を眺めて言う。
「な、なんだよいきなり……」
「なんか最近告られること多くてさぁ。でも俺、今は部活に集中したい時期だしどうしようか悩んでんだよなぁ」
「モテる男は辛いな」
高校2年になって早1ヶ月。いい意味でファーストコンタクト時の印象とは違い、持田は裏表のない良い奴だった。こんな贅沢な悩みを打ち明けられても決して自慢には聞こえないし、当人もそれを鼻にかけている様子もない。
人は見かけによらないとはこの事で、だからこそ俺は貴重な昼休みを、こうしてコイツと共に過ごしている。というか、持田以外に気を許せる友達がいないだけとも言える。
「でもお前には黒川さんがいるか! いつも夫婦漫才してるもんな!」
「アイツとは……ただの幼馴染だ……」
「そうかぁ? 俺にはお似合いに見えるけどな。黒川さん学年でもトップクラスに可愛いし、狙ってる奴も多いらしいぜ? ボヤボヤしてると取られちまうかもしんねーしさ」
「まぁ美人なのは、認めるけど……」
「あ、お前顔赤くね?」
「見るな! 黙って飯を食え! 神に感謝してよく噛んで食え! そしてもう喋るな!」
俺は持田の弁当箱から玉子焼きをつまんで無理矢理口にねじ込んだ。
「ブヘッ、わ、分かったって、そんな怒んなよ。でも奏向揶揄うのやっぱおもしれーわ。黒川さんの気持ち、俺も分かる気がする」
「汚いから食ったまま喋るな」
すると、クラスの喧騒を掻き消すように、聞き親しんだ声がする。
「あれー? いま奏向、男同士で『あーん』ってしてなかったぁ?」
昼食を終え教室に戻ってきた遥香の姿を見るなり、持田はオーバーにも思える手振りをつけて返す。
「そうなんだよ黒川さん。こいつ俺のこと大好きみたいでさ~。黒川さんの幼馴染、俺が貰っちゃっていい?」
「お、おい持田っ!」
「へ~良かったじゃん奏向。こんなので良かったらリボンつけてあげちゃうよ~?」
遥香は俺の席にゆっくり近付きながら、左手でオッケーサインを送った。
「黒川さんの公認いただきましたー! じゃあ奏向、今日の放課後、俺と一緒に市役所行くか」
「は? 何しに?」
「そんなの婚姻届貰うに決まってんだろ?」
「そんなことするくらいならすぐにでも市役所に爆破予告してやる」
「ハハハ……持田くん、どうか奏向を末永く宜しくお願いします!」
遥香が丁寧にお辞儀をすると、甘くフルーティな香りが、机2つ分離れた俺にまで届いた。
「任されよ!」
持田が二の腕で力こぶを作ると同時に、昼休みと茶番の終了を告げる鐘がなる。
この日の放課後、下駄箱で靴を履き替えていると、遥香がひょこっと顔を出した。
「ねぇ、今日奏向んち行ってもいい?」
「なんで?」
「ゲームしたいし」
「また俺をゲーム内でもボコるつもりかよ」
「うん。あたしが鍛えてあげる」
「なんでどのゲーム買っても持ち主の俺よりお前の方が強くなるのか、いまだに謎なんだが……」
「これが生まれ持った才能の差ってやつ? 1回死なないと埋めらんないかもね~?」
家に帰り俺の部屋で王道の格闘ゲームを始めるも、やはり結果はいつもと同じ。既にぐうの音も出尽くすほど滅多打ちにされていた。
俺は一体、コイツに何で勝負を挑めば勝利を掴めるのだろう。
「ねね、ステージ変えてもっかいやろ! 今のステージじゃハメ技あんま決まんないし!」
「お前……そんなに俺をいたぶって楽しいか?」
「え、楽しいよ? むしろ……生き甲斐?」
目玉焼きには醤油でしょ? みたいな顔で抜かす遥香。
「俺はソース派だけどな」
「は? 会話する気ある? 負け過ぎて頭おかしくなった? あ、元からか。じゃあ次負けたら土下座ね?」
「お前、絶対いい死に方しないぞ」
プライドを賭けた勝負の始まるカウントダウンがテレビ画面に映し出されると、俺は以前から気になっていたことをなんの気なしに尋ねてみた。
「ってかお前、なんでそんな安物のヘアピンまだつけてんだ?」
キュッと眉をひそめ、もの悲しげに俯く遥香。
「そげんこと、口に出さんとまだ分からんと……?」
遥香はたまに、変な喋り方をする。幼稚園の年中さんまで地方に住んでいたからだ。その時は決まって口ごもりながら、虫の鳴くような声でゴニョゴニョと囁く。
「え、今なんて? もっかい言ってくれよ」
「言いとおない……」
あれ……? いつもみたいに煽り返してこない。それどころか、どこかしおらしくすらある。
これは――勝てる!
付け入る隙を見出した俺は、ここぞとばかりに臨戦体制をとり隠しコマンドを入力する。
「謝るなら今のうちだぞ?」
「はあ? そーゆーのは勝ってから言えば?」
一世一代の好機と期待したのも束の間。速攻でいつもの高飛車メスガキモードへと戻っていた遥香は、素早い手つきでコントローラーを巧みに操った。は、話が違うじゃないか!
「さっきまでの態度はどうしたんだよ!」
反撃する暇もなくテレビ画面に表示された、無情なK.O.の文字。
「はい、やっぱあたしの勝ちー!」
おもむろに立ち上がり手拍子を始めたかと思えば、いつの間にかそれは、土下座コールへと姿を変えていた。
「ほ、本気かよっ!?」
「土下座しないなら大声で襲われたって叫ぶから」
「え、冤罪だ! そんな嘘はすぐにバレる!」
「奏向ママはどっちの言うことを信じてくれるかなぁ?」
既に仕事から帰宅して1階のリビングにいるであろう俺の母親は、俺なんかより遥香のことを実の娘のように溺愛している。
よって俺に勝ち目は……ない。
「負けました……」
「ざぁこ♡」
土下座していた俺には遥香の顔は見えなかったが、想像に容易い。どうせ人を小馬鹿にしたような薄ら笑いを浮かべているに違いない。
いつか、次こそ、わからせてやる……!
0
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?
みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。
普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。
「そうだ、弱味を聞き出そう」
弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。
「あたしの好きな人は、マーくん……」
幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。
よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん
菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる