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第2章
番外編 メスガキ中学生『職場体験』
しおりを挟むこれは――俺と遥香がまだ中学3年生だった頃の、些細な日常の記憶。
俺とメスガキ系幼馴染との、ありふれているけど大切で、かけがえのない思い出の物語。
***
今日は職場体験の日だった。
なんの因果か、俺と遥香は2人だけの班になる。
そしてよりにもよって俺たちが割り振られた職場は――警察署だった。
嫌な予感がぷんぷんする。
警察署に入る中学生なんて、不良か落とし物を届けに行く奴くらいのものだろう。
だから俺は、警察署に着いた瞬間から変な緊張感に苛まれていた。
「ねぇ奏向、なんでそんな緊張してるの? ただの職場体験じゃん」
「だってお前……第三者から見たら俺たち、なんか悪いことしたみたいじゃねーか?」
「誰もそんな風に思わないって! それにもし奏向が捕まっても、あたしが毎日着替えとか持ってきてあげるし」
「なんで俺が捕まる前提なんだよ。悪いことなんてした覚えないぞ?」
「じゃあ大丈夫じゃん。ねね、早く中入ろ?」
なんでコイツはこんなに楽しそうにしていられるのか、俺にはさっぱりわからなかった。
署内に入り、受付みたいなところで中学と名前を名乗ると、奥の部屋へと通される。
取り調べ室みたいなところを想像していたけど、意外と普通の会議室みたいな部屋だった。
すぐに担当の林田さんという女性警察官が来てくれ、俺たちに警察官の主な仕事を説明してくれた。
「――じゃあここまでで、何か質問あるかしら?」
「はい、はい!」
元気よく手を挙げた遥香。
「あたし、手錠見てみたいです!」
「そうね……今回だけ特別よ?」
林田さんは流石に拳銃は見せてはくれなかったが、手錠や警棒などを特別に見学させてくれた。
「ねぇ奏向、これつけてみていい?」
遥香は俺に手錠を向ける。
「嫌だよ! お前が自分でつけろ!」
そう言った途端、イケナイ妄想をしてしまう。
「あ、奏向、今えっちな妄想したでしょ? 林田さん、ここに変態がいます。奏向を捕まえてください」
俺の心を読んだ幼馴染は、あっさりと俺をおかみに売った。
「おい遥香、いい加減なこと言うんじゃねーよ! 俺は断じてそんな妄想してないぞ!」
俺たちのいつもの調子を見た林田さんは笑みを溢しながら尋ねる。
「ハハハ……君たち本当に仲が良いねぇ? もしかして、お付き合いとかしているのかな?」
「そう見えますか!?」
「違います!!」
2人同時に声を上げてしまい顔を見合わせると、なぜか遥香は嬉しそうだった。
「君たちはどうやって仲良くなったの?」
「お、幼馴染のただの腐れ縁です……」
「そっかぁ。私にも昔そういう人がいたんだけどね? 昔ヤンチャしてた時に、バイクの事故で死んじゃったの。だから君たち見てると羨ましいなぁって思っちゃって……」
中学生には重い話だったけれど、興味津々の遥香はその話を深掘りして聞いていた。
それで分かったのだが、林田さんは元暴走族だったらしい。所謂レディースというやつだ。その幼馴染の男性とはバイク仲間だったが、高校生の時に亡くなってしまったのだとか。
「その人のこと、好きだったんですか?」
遥香は、生唾を呑んで尋ねた。
「ええ……大好きだった。だから私、もうそんな思いをする人が居なくなればいいなと思って警察官になったの」
「今でも……好きですか……?」
と、またも続けて尋ねる遥香。
「そうね……忘れられない。だから君たちには、私みたいな後悔はしてほしくないかな!」
「林田さんの気持ち、天国のその人にきっと伝わってると思います!」
「ありがとう黒川さん。でも私の心配より、あなたももう少しくらい素直になった方がいいと思うわよ?」
林田さんの揶揄うような視線と共に送られた言葉に、遥香は顔を赤く染めて俯いた。俺には2人が何の話をしているのかサッパリわからなかったが、遥香がやっと大人しくなってくれてホッとしていた。
その後は、パトカーに乗せられて交番をあちこち回った。
パトカーに乗るなんて、それこそ悪いことをしないと出来ないであろう経験に、俺の緊張は最大限に達する。
後部座席に並んで座っていた遥香は、俺の耳元でボソボソと囁いた。
「ねね、今あたしが窓開けて『この人に襲われたー!』って言ったら、どうなるかな……?」
「なっ……おまっ……」
「ニヒヒ……」
口元に手を運び、悪戯に笑う遥香。
「で、でも犯人と被害者を同じパトカーに乗せる訳ないだろ!」
「なぁーんだ、気付いちゃったか。つまんないのー!」
「ふんっ、俺をそこまで舐めてもらっちゃ困るな」
「じゃあさ、今おしり触られたって騒いだら、どうなると思う……?」
「なっ……お前……冗談だろ……?」
「どうだろ……?」
「お、俺は……ど、どうすればいい……?」
「わかんないの……?」
「ゆ、許してください……遥香様……」
「ざぁこ♡」
――このメスガキめっ!
絶対にいつか、わからせてやる!!
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