メスガキ系幼馴染をわからせるのは諦めて普通の青春送ります……おや!? 幼馴染のようすが……!

野谷 海

文字の大きさ
40 / 54
第2章

第32話 幼馴染はモヤってる(遥香Side)

しおりを挟む



 夜空に振られてからの奏向は、やっぱり元気がなかった。

 あれからもう3日も経つのに、今までみたいな心から笑った顔は、まだ見せてくれない。

 言葉では「もう大丈夫」とか「元気になった」なんて強がってるけど、何年も奏向を見てきたあたしには、それが嘘だってことくらい、すぐにわかっちゃうんだよね。

 奏向の浮かない顔を見てたら、こっちまでモヤモヤする。どうして一緒にいるあたしじゃなくって夜空のことばっか考えてるのって、文句も言いたくなる。

 それに……前に約束したデートのことだって、忘れてないか心配。

 ――でも言えない。

 そんなこと、言えるはずないじゃん。

 今あたしに出来るのは、奏向の心の整理が終わるまで、待つことだけ。

 待つって、ただジッとしてるだけなのに、こんなに辛いことなんだって初めて知った。

 それに夜空が奏向にとった行動は全部きっと、あたしのせいだ。あたしがあの日、夜空にあんなこと言ったから。そのせいで奏向と、きっと夜空のことも傷付けちゃったんだと思う。

 いま目の前にいる奏向は、宿題に夢中。勉強している間は何も考えてなくていいから、ホントならウザいだけの夏休みの宿題に、あたしは少しだけ感謝してた。

 そしたら、奏向が頭を掻きながら言う。
 
「なぁ遥香、この問題教えてくれよ」

「どれ?」

「ここなんだけど……」

 それは、英語の文法問題だった。

「そこは受動態だからbe動詞+過去分詞だよ」

「あぁ、そっかそっか!」

 ――受動態って、なんか今のあたしみたい。

 どっか仲間外れにされたような、置いてけぼりをくらったみたいな疎外感。

 あたしのいないところで、2人だけで勝手に盛り上がって、勝手に過去にされて。

 それになんか、譲られたみたいで…………こんなことして欲しくて、あたしは夜空に気持ちを伝えたんじゃない。

 ただ、自分がマジになってることに、馴れ合いなんかしたくなかっただけなのに。

 夜空には、あたしが惨めに見えたのかな……違うよね。あの子はそんな子じゃない。ただ純粋に優しいから、あたしに気を遣ってくれただけなんだろうな。

 自分の気持ちを、押し殺して。

 あたしには絶対出来ない。ってか絶対したくない。そんな半端な気持ちで、恋してない。

 これは夜空の考えを否定してるんじゃなくて、あたしと夜空の考え方の違い。夜空は、こらからもあたしと友達でいたいって思ってくれたんだ。

 きっとそうだ。だって、道端のゴミを片っ端から拾うような子だもんね。そんな子、今まで見たことないもん。


 居ても立っても居られなくなったあたしは、気付いた時には夜空にメールを送ってた。

 すぐに既読がついて、返信がくる。

 それを見て、立ち上がった。

「ごめん奏向、ちょっと行ってくる」
 
「え、どこに?」

「夜空と、喧嘩バトってくる」

「はっ!?   なんで……!?」

「全部終わったら話すから、奏向はここで大人しく宿題終わらせといて!」

「な、何するつもりか知んないけど、暴力とかはやめろよ……!?」

「そんなのする訳ないじゃん奏向のバカっ!   アホ!   ヘタレ!」

「お前……情緒どうしたんだよ……」

 今まで我慢して、見て見ぬ振りしてたイライラが、こんなところで爆発しちゃった。

 
 待ち合わせの駅に着くと、すぐに夜空も来た。

 流れてた汗を見たら、家から走ってきたんだってすぐ分かる。

「は、遥香ちゃん……!   お待たせしました!」

「ううん。カラオケでも行こっか……」

「私、カラオケなんて初めてなので楽しみです……!」

 嬉しそうな笑顔も、どこか無理してるように見える。

 この子も奏向と、おんなじだ。

 また少しだけ、イラッとした。

 カラオケボックスに入ると、夜空は物珍しそうに部屋の隅々まで観察してた。

「遥香ちゃん……これはなんですか……?」

 デンモクを不思議そうに見つめる夜空。今どきカラオケを知らない高校生って、ホントにいるんだ。

「それは曲を入れるリモコンだよ。そこから入力してあの機械に転送すると曲が流れるの」

「へぇ……すごいです……!   遥香ちゃんはいつもどんな曲を歌うんですか……?」

「夜空ごめん……今日カラオケに来たのは、歌う為じゃないんだ……話がしたいの……」

「そ、そうですか……やっぱり……」

 やっぱり……その言葉からも、あたしが遊びに誘ったんじゃない事を、夜空も薄々感じとっていたみたいだった。

 テーブルを挟んで向かい合って座っていた夜空に、そのまま直球をぶつける。

「なんで奏向に、あんなこと言ったの?   それって夜空の本心じゃないよね?」

 ――夜空は、下を向いてしまった。

 そのままの姿勢で、か細い声が返ってくる。

「ああするのが、一番だって思いました……」

「なんで?」

「遥香ちゃんとも、夜木君とも、ずっとお友達でいられる方法だと思ったからです……私がお休みの日さえ我慢すれば、夜木君とはまた学校でも会えますし、遥香ちゃんにも嫌われなくて済むって……」

「やっぱそうなんだ……じゃあ夜空の本当の気持ちは?   もしあたしが奏向を好きじゃなかったら、夜空はどうしたい?」
 
「夜木君に、会いたいです……動物園にも、ライブにも……また一緒に行きたいです……」

 影になって顔は見えなかったけど、震えた声でそう言った夜空はたぶん……泣いていた。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

覚えたての催眠術で幼馴染(悔しいが美少女)の弱味を握ろうとしたら俺のことを好きだとカミングアウトされたのだが、この後どうしたらいい?

みずがめ
恋愛
覚えたての催眠術を幼馴染で試してみた。結果は大成功。催眠術にかかった幼馴染は俺の言うことをなんでも聞くようになった。 普段からわがままな幼馴染の従順な姿に、ある考えが思いつく。 「そうだ、弱味を聞き出そう」 弱点を知れば俺の前で好き勝手なことをされずに済む。催眠術の力で口を割らせようとしたのだが。 「あたしの好きな人は、マーくん……」 幼馴染がカミングアウトしたのは俺の名前だった。 よく見れば美少女となっていた幼馴染からの告白。俺は一体どうすればいいんだ?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

女子ばっかりの中で孤軍奮闘のユウトくん

菊宮える
恋愛
高校生ユウトが始めたバイト、そこは女子ばかりの一見ハーレム?な店だったが、その中身は男子の思い描くモノとはぜ~んぜん違っていた?? その違いは読んで頂ければ、だんだん判ってきちゃうかもですよ~(*^-^*)

処理中です...