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メルディ国編

リジーさんの怒涛(?)の日々だヨ⑦

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 冒険者ギルドでのゴタゴタ――まさに厄介事だった――を済ませ、さっさと兵舎へと戻ってきた。
 戻ってきたのは良いけど……ご飯をどこで作ろう? 流石に戦場であろう厨房を借りるのも申し訳ないし……どこか広場になっている場所――兵士の訓練場とか――をモンド隊長かサージット隊長に言って借りようか?
 そんな事を考えながら兵舎の入り口をくぐった途端、今度はサージット隊長とバッタリ行き会った。隊長達、タイミング良過ぎ……。

「サージット隊長、ただいま」
「お帰りなさい、リジー殿。冒険者ギルドの方はどうでしたか?」
「協力して貰える事になった」
「それは良かったです」
「そうだね……」

 ニコニコ笑顔で頷くサージット隊長。推理はダメダメだったけど、仕事関連では食えないな、この人も。
 それはともかくとして、偶然にも会えたのだから、簡易トイレの事と料理の出来る広場がないか確認してみよう。

「サージット隊長。あの簡――じゃない、護送車の中を見る事は出来る?」
「はい。モンド隊長に言われ、準備してあります。食事の後にでも、置いてある場所に案内します」
「あ、うん、ありがとう。――それで、その食事の事なんだけど……」
「はい?」

 取り敢えず、ネスもルベルも相当な量を食べるから、用意してもらうのは悪いので自分で食事を作る事。だから、出来れば広い場所を貸してほしい事を伝えると、サージット隊長は苦笑いを浮かべた。

「兵士は体が資本です。その為、全員がかなりの量を食べるので気にしなくて良いのですが……」
「ネスは依頼を受けた身だから良いとしても、ルベルはあたしが召喚して契約した存在だから、当初の予定にない。後から追加された存在まで面倒を見てもらうなんて、あたしが嫌」

 そもそも、あれほど食べるとは思ってもいなかった……いや。元の体の大きさ的には妥当というより少ないのかもしれない。それでも、普通は食料は有限だ。トキの中みたいに、どれほどあるのか分からないなんて有り得ない。
 それに、兵士は体が資本なんでしょ? あたし達の所為で消費される食材が増え、作れるものが減ると共に食べる量まで減るのは頂けない。そう考えると、やっぱり世話になるのは申し訳ないよね。
 そんな事を説明し頼み込むと、やっぱり苦笑したままサージット隊長が頷いた。

「外庭に訓練場があります。この時間なら食事や警備等で兵士が誰も居ませんので、そこをお使い下さい」
「ありがとう!」
「食事が終わった頃を見計らい、護送車を訓練場まで持っていきます」
「何から何までスミマセン……」
「いえ。無理をお願いしているのはこちらですので、リジー殿は気にしないで下さい」

 サージット隊長は笑顔であたし達を庭まで案内し、「では」と言って食事に向かった。
 そんなサージット隊長の背中を見送り、姿が完全に見えなくなってから周囲を見渡す。
 兵舎の外庭という話だけど、予想以上にかなり広い。800メートルトラックがすっぽり入る様な何もない広場があり、その広場の三方には休憩用なのか枝葉が横に広がる幹の太い木々が適度に植えられている。木々の向こう側は――壁? もしかして塀で囲まれているのだろうか?
 で。木々の植えられていない一方は兵舎。サージット隊長が向かった方向には広間があり、多くの兵士達が集まっている為、賑やかな声がこちらまで聞こえてくる。あそこが食堂なのかな。
 食堂の目の前で料理を作るのも申し訳ないが、量が量だ。仕方ない。

 あたしは気持ちを切り替え、何を作ろうか考える。
 うーん……?

 ……ここはやっぱり、物語の定番中の定番、アレにしようか?

『アレ?』

 そう、アレ。飯テロの定番、カレー!

 この世界は召喚されてきた人の頑張り(?)のお蔭で食が充実しているからカレーテロは起きないだろうけど、やっぱり一度は異世界でカレーを作ってみたいよね!
 王道的な反応は先の召喚者が経験しているからあたしは拝めないけど、異世界で、見た目はグロテスク(?)ながらも受け入れられたカレーを作る! このテンプレを楽しまずして、異世界にいる意味はない!(大げさ)

 何よりカレーは美味しいのに、小学校の調理実習メニューに入っちゃうくらい手軽に作る事が出来る。野菜の切り方を失敗しようと、手抜きしようと、どうにでも誤魔化せるし……。
 余ったら余ったでトキの中に入れておけば保存も可能。時間停止機能があるから食中毒の心配もない。あ、世話になるから隊長達を通して兵士にお裾分けしても良いよね。
 ついでに……食材のお礼に神にもお供え……出来るのだろうか? 勝手にトキに何かを送ってくるのだから、トキから回収も可能かな? まあ、その辺の事は後でにしておこう。

 という訳で、トキの中を確認する。うん……調味料の所に『カレールー』が存在している。ルーを調味料に分類するのもどうかと思うが、レトルトとは違うし……元は調味料の集まりだから、有りって言えば有り? カレー粉も存在しているから、何となく付き纏う違和感には目をつぶるべきかな?
 あ、甘口、中辛、辛口が揃ってる。同郷だろう異世界人のカレーに対する執念(?)が凄い。
 んー……ルーも相当な量があるから、全ての味を作っておこう。あたしはいつも中辛だけど、甘口は……ショタジジイが食べそうな気がする。

 さて。何カレーにするかだけど……オーソドックスなカレーは肉以外の材料は基本一緒だから、まとめて炒めるとして、ポークカレー、ビーフカレー、チキンカレー各3種の合わせて9種類にしようか。
 でも、元の世界では『9』という数字は『苦しむ』に通じるからと忌避される傾向が強かったから、もう1種。うーん……シーフードにすると、また増えちゃうし……。ああ、そうだ。ポークカレーにリンゴとハチミツ加えて激甘カレーでも作るか。これもショタジ――以下略。

 そうと決まればまずは、かまど? が必要か。後は鍋――の前に。

「ネス。ルベル。ちょっとそっちで待ってて」

 下手に手出しされると遣り難いし魔法が使い難いだろうから、ネスとルベルには少し離れてもらう。
 ネスもルベルもその辺は心得ているのか、黙って頷いた後、あたしから十数歩分くらい離れ、ワクワクした様な目でこっちを見ている。
 ……せ、責任重大かも?

 気を取り直して……。

 かまどはキャンプ場とかをイメージして魔法で――10個作り出す。
 鍋もやっぱりキャンプ――というより、キャンプよりも大勢の人が一緒だから、炊き出しとかそんな感じの大きな寸胴鍋かな? これは……トキの中にあった。神々の過保護レーダー、凄過ぎ。そして、甘やかしの対応が早過ぎ。だけどこれは使えるから、甘えておこう。

 全てのかまどに鍋をセットし普通の植物油を引いて、薪……もトキの中にあるからこれをくべて、火は魔法で。
 野菜も全てカット済みだから――本当に甘い――油が温まったらニンニク、しょうがを入れて炒める。この炒め作業も、ヘラを魔法で動かしているからオート。鍋の中を確認するだけで済むって楽だなー。
 ニンニクとかの香りがしてきたら、4つに豚肉、3つずつ牛肉、鶏肉を入れてさらに炒めてっと。肉に火が通ったら玉ねぎ――あ! ユキヒョウってネコ科! 玉ねぎはヤバい!? ……ネスに聞いたら大丈夫だとの事。ネギ類中毒の心配はないようだ。良かった。
 安心した所でニンジン、じゃがいも追加。軽く炒めたら魔法で出した水を入れて煮る!
 肉は一度取り出せとか、飴色玉ねぎとか、手順が違うとかは聞かない。あたしの手抜きカレーはいつもこれだから!
 煮込みは魔法で時短! 使えるものは使う! 沸騰したら弱火にしてアクを取って、さらに煮込みの時短魔法。アク抜きするだけ良いと思ってくれ。
 野菜が柔らかくなったらルー投入! お玉はオート魔法でぐ~るぐる。ああ、楽だ~。
 火は止めてからルーを入れろ? そんな面倒な作業は知らん!!
 あ、ポークの2つある甘口の片方にすりおろしリンゴとハチミツ! ビーフには……今回は赤ワインじゃなくてトマトケチャップと醤油! チキンには……普段何も入れないけど今回は隠し味としてヨーグルトでも入れておこう。一応味見して、とろみが付いたら火を消して――出来上がり! ああ、良い匂い。

 うん! 魔法、すっごい楽!!
 さあ、ご飯にしようとネスとルベルの方を振り返った――ら?

 ……。

 ……なぜだろう……なぜかネスとルベルの後ろに人だかり――というか、兵士の皆さんが。あ、サージット隊長とモンド隊長まで居る!? 何事!!?
 唖然として見ていると、頭を掻きつつモンド隊長が前に進み出てきた。

「申し訳ありません、リジー殿。その……カレーの匂いには勝てず……」

 意図せずして、メシテロ――というかカレーテロ!? 匂いテロ!? 発生しちゃいましたよっっ!!?
 てか、隊長達まで来ちゃっていいの? 仕事は!?

「今は休憩――というか、食事の時間です」

 そうですか……。何と言うか、緩い?
 あ、でも、副隊長とかもいるから、交替で食事は可能か――って、その副隊長は捕まえちゃってるけど大丈夫か!?

「副隊長はもう1人いますので、問題ないです」

 サージット隊長が慌てて訂正を入れる。
 それでも、1人少なくなっている分、負担は増えると思うのだが……。そう考えると、隊長が護送の旅に出たカジス村の副隊長達も大変だろうな……。

 け、景気付け(?)にカレーパーティーやろう! お裾分けでもしようかとか考えてたから、丁度良いよね!
 ただこの人数だから……カレーが足りる?
 ……足りなくなったら、また時短魔法で作れば良い……よね? 普通に作るよりは早いから、大丈夫だよね??

 不安になりながらも、空いたスペースに魔法で作った長テーブル‐――あの折りたたみテーブルみたいなやつ――を置き、その上に大量の(多分)神製のカレー皿とカレースプーン。一応、ご飯とパンとナンを巨大皿――これもトキの中にあった――に並べてっと。
 あ、料理はセルフサービスで宜しく!

 その後。
 やっぱり量が足りず、何度か作り直す事態になったけれど、調理部隊の人達が進んで手伝ってくれたおかげでさっきよりも楽が出来た。
 作り直す時、材料の提供を申し出てきたけれど、これはお断りさせてもらった。建前として、「お世話になるからそのお礼に」としておいた。……うん。本音は勿論、別にある。だけど、兵士達が喜んでくれたから、その辺の事は内緒で。
 そうして。
 カレーの魔力なのか、和気藹々とした空気で食事会(?)が進んだ結果、妙に隊長達や兵士達と仲良くなっちゃいました。
 あ、勤務中で食べられなかった人達用にカレーを全種類作り直し、交替してきたら食べられるよう大量のご飯やナン、パンと共に食堂に預けておいた。後から何人かの兵士があたしの部屋へお礼に来た。律儀だ……。
 カレーのお蔭と言って良いと思うんだけど、みんなが協力的になった為、翌日以降に発生したアレやコレの対処が早いはやい。

 異世界カレー。やっぱり、半端ないって!(笑)

 ちなみに。
 あの激甘カレー。好んで食べ、空にしたのは……ネスでした。甘党??
 ルベルは辛口を好み、もっと辛くても良いとか。……地獄の何丁目まで行けるんだろうとか思ったけど、作る気はない。食べ物は粗末にしちゃいけない――自分が食べないから余計にそう思う――からね、うんうん。

 さらについで。
 全てのカレーをもう一度作り直し、トキの中へ。
 マルを通して神へお裾分けしたら、食材とか素材とかがまた増えたらしい。いや、量を把握していないから、増えたと言われても分かんないって。
 取り敢えず、マルを通してお礼は言っておいたけど……ネス同様、神もチョロい? チョロ神? この程度の事でお礼返しってどうなのよ?
 この世界の神という存在に、少々の不安を覚える一コマとなってしまった。
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