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メルディ国編

52 要らないヨ!?

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「まずはリジー様へ、お礼を言わせて下さい」
「……は?」

 冒険者登録についての説明があるのかと思っていたのに、全く違う事を言われマヌケな返事をしてしまう。
 まず最初に、何でお礼? あたし、冒険者ギルドにお礼を言われるような事をやった――というか、やらかした? ――記憶はないんだけど?

「ルチタンとカジスを繋ぐ街道に出没する盗賊及び黒幕の捕縛、誠にありがとうございました」
「は?」

 2人揃って頭を下げてきたんだけど……え? なんで冒険者ギルドが捕縛に対して礼を言うの?

「かの盗賊達の被害に遭っていたのは一般の方々もそうですが、我等冒険者ギルドの冒険者が半分以上を占めています。未来ある冒険者をアレ等は己の欲の為だけに襲い、全てを奪いました。この行為を、我等冒険者ギルドが許す事はありません」

 頭を上げたハイディアの説明に納得する。
 そうか……『国土』という物がないから忘れやすいが、冒険者ギルドが冒険者の身分を証明しているという事は、国として考えると、冒険者ギルドが国で冒険者が国民という事になる。己の国の民を傷付けられたのだ。国――ギルドとしては怒って当然、そして、それを捕らえた人に感謝するのは自然な流れだろう。
 つまりグーリアスとハイディアは、あたしが盗賊やあのクズ達を捕まえたと知っているからこそ、あたしに対して最初から友好的だったのだ。うん、理由が分かってすっきりした。初対面から友好的って、不気味だもんね。どこの世界でも、裏があるんじゃと疑ってしまう。
 ああもしかして、青緑丸の大中の違いは、役職による感謝度の差って感じかな?

「メルディ国側にリジー様が提示した『罰』の内容は我等の耳にも届いています。ギルド側からもしっかり損害賠償や慰謝料の請求が可能で……腕が鳴ります」

 ……うん、まさに女傑って感じのセリフだなぁ……美人なのに、顔が凄い事になってる。

「それでは、本題の方に移らせて頂きます」

 切り替え早いな、おい!?
 しかも、言うが早いか2人揃って対面のソファに座り、ハイディアがどこからか書類の様な物とあの魔力量を測定する水晶玉を取り出した。その水晶玉は必要なのだろうか?

「まずはリジー様の冒険者登録を行いたいと思います。規約等のご説明は――」
「それはいい。ここに来るまでにネスに聞いた」

 うん。あのトンデモなテントの中で、結構色々な事を聞いた。話ができるスペースだけは色々あるからね~。
 依頼を受けられる範囲等、よく聞く『冒険者ギルド』と同じで覚えやすかった。ギルドの規約等の元ネタは異世界の勇者(?)が考案したシステムだと聞いて納得。ランクがアルファベットなのも異世界勇者仕様だったようだ。
 それから、マルの説明にあった指名依頼や強制依頼。マルの説明じゃ最初から発生する感じだったけど、ネスによくよく聞いたらCマイナスランクから発生すると教えられた。マル……。
 だがこれで判明。というか確定。マルの説明、ザル。ザル過ぎ。役立たず疑惑あり。
 なんかもう、マルって本当にヘルプ機能なのかと疑問が出てくる。でも魔法の様に、時々、ちゃんとした説明があるし……どうなんだろう?

 まあ、今はそれより、冒険者の事。
 なぜCマイナスランクから発生するかというと、そこが一人前と半人前の分かれ目だかららしい。
 ちなみに、冒険者のランクと評価は。

 Fマイナス、F、Fプラスランクがド素人。
 Eマイナス、E、Eプラスランクが初心者。
 Dマイナス、D、Dプラスランクが半人前。
 Cマイナス、C、Cプラスランクが一人前。
 Bマイナス、B、Bプラスランクが中級者。
 Aマイナス、A、Aプラスランクが上級者。
 S、SSダブルSSSトリプルがそれぞれ超級者、規格外、超規格外……だと思う。Sランク以上は一目置かれるから、評価的にはもう、普通じゃないよこいつら、状態らしい。

 現在のネスはAプラスランクだから評価的には『上級者』だけど、Sに上がるのは時間の問題とか言われているから、既に普通じゃないと見られている、と……。
 ただネスの場合、あっちこっちフラフラと旅している――冒険者ギルド的にはランクの高い者ほど色々な国のギルドを回ってくれる方が助かる事から一所にいないのを推奨している――為、強制依頼や指名依頼は殆ど受けた事がないらしい。
 せいぜい、強制依頼の魔物の集団暴走スタンピード――ありがちなテンプレ――くらいで、指名依頼はない。獣人だからと、人間からは避けられる傾向にあるらしい。
 ただ、指名依頼とかなると依頼主は貴族である事が多い為、他の冒険者から様々な意味で面倒だと聞いている。だから、避けられる方がありがたいとネスは言っていた。
 ああ、やっぱりね……。

 でも、一定のランク以上にならないと強制も指名も発生しないっていうなら、そのランクに上がらなければいい。そうすれば面倒事は避けられる。
 DからCに上がる時に試験があるってのはマルの説明と同じだったから、つまり、ランクアップ試験さえ受けなければ、ずーーーーーーっとDプラスのままで居られるって事だ。ネスに確認したら、可能だと言われた。
 イイねイイね、試験制度! こういう時に役に立つ。

「では、リジー様の登録をさせて頂きます。護送の際の実績やメルディ国からの指名依頼、しかも依頼された魔道具はリジー様しか作れない。それから高魔力保持者であると聞き及んでおりますので、その事を鑑みますと――Sランクはいかがですか?」
「要らんわっ!!」

 あ、即答しちゃった。グーリアスとハイディアが「え、なんで?」みたいな顔している。
 ってか、そんな顔される方がビックリだっての! なんでいきなりSランク? あたしは最初のFマイナスから始めてのんびりポイント溜めて、Dプラスでストップさせる気満々なんだよ? 試験なんて受ける気は皆無なんだよ?
 ついでに、傍から見るとあたしって何の実績もない状態なのに、最初からネスより上の超級者――普通じゃない扱いっておかしいでしょうがっ! あたしってば、どんだけ規格外だと思われてる訳!? 規格外なのはあたしじゃなくて、あたしの加護なんだってば!!
 ……言えないけど。

 まあ……ある意味、これって異世界転移系のテンプレのひとつだけどさぁ……それ、あたしに適用しなくていいって。特例扱いは今後が絶対に面倒。だから本気で要らんっ!!

「ご不満ですか?」
「指名依頼や強制依頼の様な面倒そうなモノを受けたくない! だからくれるならDプラスで十分というかそこで終わり!!」
「「……」」

 一息で言い切ると、グーリアスとハイディアがポカーンと口を開く。いや、あたし、そんなおかしな事を言ってないよ?
 元々、マル創作のあたしの設定は『昔から人と関わるのが嫌でずっと山暮らしをしていたけど、広い世界を見てみようかと唐突に思い立ち、冒険者登録して世界を回ろうと思った』だよ? 指名依頼や強制依頼の様に、必ず人と関わるだろう事を良しとする訳ないでしょうが。
 それに、設定に関係なく、あたし自身が面倒事は全力でパス! 面倒なのは神の過保護だけで十分どころか許容オーバーだよ……。

「……指名依頼や強制依頼、試験等を受けなくていいなら、Sランクでもイイっすか?」
「……なんでそんなにあたしをSランクにしたいの?」
「それは……」

 食い下がってきたグーリアスに当然の疑問をぶつけると口ごもってしまった。
 グーリアスの隣に座るハイディアに視線を向けると、ハイディアは苦笑し口を開く。

「高魔力保持者は貴重ですから」

 うん、意味解らん!!

『この世界において、高魔力――厳密に言いますと特レベル以上の魔力保持者の絶対数はかなり少ないです』

 って、そこでマルの説明かーい!!

『高魔力保持者であるリジーが知らないのはおかしな話ですので、説明させて頂きます。大丈夫です。説明している間は、加護を通して時空神が力を使い、世界の時間を止めていますので』

 ちょっ!? 遣りたい放題だね!?

『では、説明に戻ります』

 おーい……役立たず疑惑ありって言われたのが気に食わないのかなぁ……。

『……。この世界に生きる存在の中で最も魔力の高いと言われているのが、エルフと魔人族……召喚者の多くが魔族と呼ぶ者達です』

 スルーかよ……。
 って、ん? あれ? 魔人族? 魔族じゃない? 確かマル、『偉大な変人』の召喚理由が『悪の魔王退治』って言ったよね? 魔族の王だから、魔王じゃないの? あれ? 魔人族の王だから魔王??

『違います。この世界に『魔族』と呼ばれる存在はありません。ただ召喚者達が魔人族を見て『魔族』と呼び忌避する事が多かった為、あのクズ国はその勘違いを利用しました。魔王扱いされた魔人族の王も、本来なら普通に王としか呼ばれません』

 あの国、知れば知るほどクズ度に磨きが掛かっていくなぁ……。

『話を戻します。この世界で最も魔力が高いと言われているのがエルフと魔人族ですが、平均的に上レベル――つまり、魔力量は2000に満たない者が多いです。歴代の中で最も高かったのが銀で4800くらいです』

 え゛? あれ? あの水晶玉、1万まで計測可能なんだよね? その半分くらいが最高値?

『魔力値を計測しきれなかったのが余程悔しかったらしく、誰でも測りきれる計測器の開発に生涯を捧げた者が居ます。仮にエルフや魔人族に高魔力保持者が誕生しても、最高値の倍くらいまで測る事ができれば十分だろうと思い、1万まで計測可能な物を作り出しました』

 あー……なんかスマン。

『リジーの場合、多くの神々が加護を与えた影響で魔力量が飛躍的に上昇しましたので、仕方ないかと思われます』

 あたしの魔力が白なのは過保護の所為!? ふざけんなーーーーーっ!!!

『諦めて下さい。神々はリジーから加護を奪う気など全くありません』

 だったらこれ以上増やすなっ!!

『諦めて下さい』

 おいっ!!?

『種族的に人間は中レベルの魔力保持者が多いです』

 また流す!?

『歴代の中で最も魔力量が多かった人間は召喚者で、上の上レベル。色で言いますと赤。つまり、エルフや魔人族の平均と同じくらいが最高でした』

 流された挙句、さらっと問題発言?
 召喚者が最高って……じゃあ、この世界の人間の最高は?

『上の下レベルです。色で言いますと『桃』となります』

 量的には最低でも300違う……。
 それじゃあ、人間が上位だと思っているアホ共が嘘吐いてでも召喚して、なんとか自分達を優位に立たせようとする訳だ……。

『そういう訳がありますので、魔力計測器でも計測しきれない魔力を持つリジーを特別視し、自分達では解決できない事を解決して貰おうと思うのは当然の事だと思います』

 理由が分かればまあ納得? でも、特例扱いは要らないんだよね。

『リジーの設定の中に『世界を回ろうと思った』というのがありますので、丁度良いと考えたのでしょう』

 あたし的には『昔から人と関わるのが嫌』の部分の方が大事だと思うんだけど!?

『魔力色『白』の宿命だと思って、受け入れるしかないのでは?』

 断固拒否!!

 それに……神獣達も白だよ?

『リジー以外、神獣を召喚できる者等、この世界に存在しません。何より、神が召喚させません』

 だ・か・らっ! 特例扱いは要らないってのっ!!
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