事務長の業務日誌

川口大介

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第四章 事務長、決戦!

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 ミレイアがリネットに駆け寄って、
「大丈夫?」
 剣を構えてレーゼの方を向いたまま、ぴたりと肩を寄せた。
 リネットは、唇の端に滲む血を手の甲で拭い、笑みを浮かべて答える。
「へーきよ、これぐらい。ありがとね、助かったわお嬢ちゃん」
「お互い様、というにはあなたの方が傷つき過ぎてる。助けられてるのはわたしの方よ。ありがとねリネット」
 レーゼをしっかりと睨みつけたまま、ミレイアは答える。そんなミレイアの横顔を見て、リネットは思った。そして言った。
「初めて見た時から、可愛いなとは思ってたけど。今こうして見ると、お嬢ちゃん、可愛いに加えてカッコいいわね」
「それはどうも」
「ね。また一緒にお風呂入りましょうね」
 思わず構えを崩して突っ伏しかけたミレイアだが、状況が状況なので堪える。
「い、いきなり何っ?! こんな時にどうしてそんなセリフが」
「あ、レーゼがっ!」
 こんな時にそんなセリフを発しつつも、やはりそれでも戦闘用人造人間、リネットはレーゼの動きに反応した。
 レーゼが、二人に背を向けて走り出したのだ。リネットが追うが、傷ついてはいても薬二錠で強化されたレーゼには追いつけない。レーゼはまっすぐ、洞窟内に入って行った。
 リネットも追って入ろうとする、が入れない。まるで、洞窟の奥から強い向かい風が吹いているかのように、何もないのに体が入れられない。
 ミレイアも追いついたが、やはり入れない。
「魔力も法力も感じない。この山の入口と同じく、精霊術で阻んでるみたいね」
「それをお嬢ちゃんは、クラちゃんと一緒に突破できたのよね?」
「あれとは入れる条件が違うわよ。今、あなたが入れなかったことで解るでしょ。ここは本拠地の心臓部なんだから、もっと厳しい設定になってるはず。多分、レーゼ以外は誰も入れない」
「じゃあ、このまま立て籠もられるとか、どこかへ逃げられるとか?」
「その可能性はあるわね。何とかしないと……」
「そんな心配は無用だ!」
 いきなり、天からレーゼの声がした。それも、一人の口から出た声とは思えない、まるで台風か津波のような、巨大な音量で。
 ミレイアとリネットが上を見る。そこにあるのは岩山の、岩壁だけだ。ざっと見て二階分くらいの高さはあろうか。
 その、二階の窓というべき辺りの岩が一部、カーテンほどの面積分がカーテンのように、左右に分かれた。
 岩のカーテンが開いた下にあったのは、開いた分と同じ大きさの透明な板。奇跡的なほどに澄んで凍りついた氷の板……といったところだろうか。無論、実際に氷ではないだろうが。
 その板の向こう、つまり岩山内部の麻薬研究施設の、二階の部屋? にレーゼがいる。どうやらあそこにいるレーゼが喋ると、音が増幅されて外に聞こえるらしい。
「逃げるだと? そんな必要はない! お前たちは全員、ここで死ぬのだからな! 偉大なるエルフ星人の英知の粋、最高技術の結晶によって!」
 頭上のレーゼに向かって、リネットが怒鳴り返す。
「麻薬で大きな動物、その次はお天気操作ときて、今度は何? やる気があるならそんなとこにいないで、降りてきて戦いなさいよ!」
「はん! 汚らわしい原住民に、これ以上接触したくはないのでな! お前たちの相手は、こいつだ!」
 透明な板の向こうで、レーゼが机の上? の何かを操作した。遠い上に角度的にも見えにくいが、あそこに何かの装置があるらしい。
 その操作の結果。
 岩山そのものが、動き出した。
「えっ……」
「な、何、これはっっ?」
 まるで、両膝を抱いて丸くなる姿勢で座り込んでいた人間が、立ち上がっていくかのように。
 岩山、つまり岩石のはずのそれが、まるで生き物のように。
 形を変えて、動いている。高く大きくなっていく。
「はははははははは!」
 レーゼの声が、相変わらずの大音量で響く。おそらくこれは、精霊術で風を操り、声を増幅させているのだろう。魔術にも似たような術があるので、ミレイアにも察しはつく。
 などと冷静に分析していられるのもそろそろ終わりか。ゆっくりと変形し、人型となって直立したそれは今、超々巨大なロック・ゴーレム……岩石巨人となってミレイアとリネットを見下ろしている。
 巨人の、眉間に当たる部分にあの透明な板があり、そこにレーゼがいる。あそこで操縦しているのだろうが、その高さはゆうに四階、いや五階相当だ。
 こんなものを、一体どう攻めればいいのか。
 クラウディオの腕や脚を見て「大神殿の柱のよう」なんて思ったミレイアであるが、もちろんそれは比喩だ。だがこのゴーレムの腕・脚ときたら、比喩ではなくそのものズバリ、写実的に言って「大神殿の柱並」か、それ以上の太さがある。しかも材質はもちろん、肉ではなく岩。レーゼを焼き殺せなかった程度の雷なんか当てても、お湯の一滴みたいなものだろう。
 こんな腕や脚で防御されたら、ダメージを与えられるわけがない。そして、それらを振り回して攻撃されたら……
「蟲のように踏み潰してくれるぞ、チキュウ星の原住民ども! エルフ星人の真の力を、星を越えてきた侵略兵器の恐ろしさを、この世の最後の思い出とするがいい!」
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