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【第63話】大切な孫の結婚式
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「その娘が魔女クレシェンド?」
『そうだ、フィル。そう言われている。
王は、それでもずっとクレシェンドを愛し続けた。この離宮の広間に二人が手を取り合い踊る様子が絵やステンドグラスが残されている』
「随分、変わったんだね。
クレシェンドは愛した王様の願いを叶えてあげたいだけだったのに、
何でそんなやり方しか出来なかったのかな。
今は全ての不幸を喜んでるみたいだけど……。
時が変えてしまうのかな………」
フィルが俯くとレガートは、フィルの手にキスをして、
『変わらないものもある。誓う』
と言いフィルを見詰めた。
「どうだか。解ったもんじゃないね」
おばあちゃんは小声で言った。さすがのフィルも我慢の緒が切れた。
「おばあちゃん!お願いだよ!レガートを認めてよ!クレシェンドに操られていたんだよ! 魔女の邪術で苦しんで、
僕に気を分けすぎたせいで死にそうになって………」
おばあちゃんは片足を踏み鳴らし声を荒げた。
「それが贖罪ですか!死ぬことに逃げるなんて、ずるいよ!
レガート様は悔いがないかもしれない。
最愛のフィルを助けて空に行けるんだから。
でもフィルは?
自分のせいでレガート様が空に行ったと一生泣いて暮らすんですよ?
全て上手くいったけど危ない綱渡りだった。王様が金の針をご自分に刺されたことを思い出すよ。レガート様達二人にはあんな悲しい思いをさせたくないんだよ。
愛する人を失う悲しみ、
共に人生を歩めない悲しみ。
……味わって欲しくないんだよぉ………」
おばあちゃんは泣きながらフィルにしがみつく。
レガートは肩を落とし、下を向いていた。
フィルは腕にしがみついたおばあちゃんの金の髪を撫でた。
おばあちゃんは暫く泣いた後、
つらそうに笑って、フィルの手を離した。
無事地上に降り立った天馬を樹に繋いで戻ってきた王様は、
『……アルト、つらい思いをさせた。お前は眠った私を……誰もいな氷の世界と化した妖精の園で待ち続けたと聞いた。
そして、外の世界で伴侶を得たが、
伴侶も娘も婿も早々と失ったと。……心を痛めただろう』
「いいのです。長らえて良かった。娘が遺した子のフィルにまた会えました。
王様ともまたお目にかかることが出来ました」
王様はおばあちゃんに、穏やかに言った。
『アルト。お前が私にまた会えるのもレガートのお陰なのだよ?
私一人ではどうにもならなかった。
私の力とレガートの力、フィルの補助魔法。
フィルが持っていたお前の遺髪。
そしてフィルがしている王家の翡翠の指輪。かつて私がお前に捧げた指輪だ。
レガートに虐げられたフィルの苦しみも、
魔女の思惑に嵌まった弟の愚かさも、
自分勝手に思えた贖罪も、
お前は全て見てきた。
今、弟の過ちを全て許せというのはあまりに勝手なのは解っている。
けれど、お前の反魂と、
フィルへの想いは本当だ。
すぐには難しいが、認めてやってくれ。
可愛い孫を、ずっとつらい環境の中、
子供同然に育ててきたフィルを祝福してやって欲しい。
弟は不器用で、
あまり感情をひとに見せるのが上手くない。
だが、誰よりもフィルを想っている。
レガートはフィルの生命の珠を取り戻すため、取引として手の爪を全ての魔女に差し出した。この弟にあるのは、フィルだけだ。
フィルのためなら何でもするだろう。
そのくらいの覚悟はレガートにはある。
頼む……アルト』
王様はおばあちゃんに、頭を下げた。おばあちゃんは、
「私などに頭を下げてはなりません」
と言って王様の肩を起こした。王様は、
『人に許しを乞うとき、謝るとき、願うとき、頭を下げるのは当然だ。貴賤はない』
はっきりと言った。そして、
『もう一度、そなたに会えて、良かった』
と言って王様は涙をこぼした。落ちた涙は金色に輝き、小さく砕けながら小川に落ちると川は金色の光を帯びた。
「解りました。レガート様……フィルを頼みます」
そう言うと、おばあちゃんは、少し寂しそうに微笑んだ。
───────────続
『そうだ、フィル。そう言われている。
王は、それでもずっとクレシェンドを愛し続けた。この離宮の広間に二人が手を取り合い踊る様子が絵やステンドグラスが残されている』
「随分、変わったんだね。
クレシェンドは愛した王様の願いを叶えてあげたいだけだったのに、
何でそんなやり方しか出来なかったのかな。
今は全ての不幸を喜んでるみたいだけど……。
時が変えてしまうのかな………」
フィルが俯くとレガートは、フィルの手にキスをして、
『変わらないものもある。誓う』
と言いフィルを見詰めた。
「どうだか。解ったもんじゃないね」
おばあちゃんは小声で言った。さすがのフィルも我慢の緒が切れた。
「おばあちゃん!お願いだよ!レガートを認めてよ!クレシェンドに操られていたんだよ! 魔女の邪術で苦しんで、
僕に気を分けすぎたせいで死にそうになって………」
おばあちゃんは片足を踏み鳴らし声を荒げた。
「それが贖罪ですか!死ぬことに逃げるなんて、ずるいよ!
レガート様は悔いがないかもしれない。
最愛のフィルを助けて空に行けるんだから。
でもフィルは?
自分のせいでレガート様が空に行ったと一生泣いて暮らすんですよ?
全て上手くいったけど危ない綱渡りだった。王様が金の針をご自分に刺されたことを思い出すよ。レガート様達二人にはあんな悲しい思いをさせたくないんだよ。
愛する人を失う悲しみ、
共に人生を歩めない悲しみ。
……味わって欲しくないんだよぉ………」
おばあちゃんは泣きながらフィルにしがみつく。
レガートは肩を落とし、下を向いていた。
フィルは腕にしがみついたおばあちゃんの金の髪を撫でた。
おばあちゃんは暫く泣いた後、
つらそうに笑って、フィルの手を離した。
無事地上に降り立った天馬を樹に繋いで戻ってきた王様は、
『……アルト、つらい思いをさせた。お前は眠った私を……誰もいな氷の世界と化した妖精の園で待ち続けたと聞いた。
そして、外の世界で伴侶を得たが、
伴侶も娘も婿も早々と失ったと。……心を痛めただろう』
「いいのです。長らえて良かった。娘が遺した子のフィルにまた会えました。
王様ともまたお目にかかることが出来ました」
王様はおばあちゃんに、穏やかに言った。
『アルト。お前が私にまた会えるのもレガートのお陰なのだよ?
私一人ではどうにもならなかった。
私の力とレガートの力、フィルの補助魔法。
フィルが持っていたお前の遺髪。
そしてフィルがしている王家の翡翠の指輪。かつて私がお前に捧げた指輪だ。
レガートに虐げられたフィルの苦しみも、
魔女の思惑に嵌まった弟の愚かさも、
自分勝手に思えた贖罪も、
お前は全て見てきた。
今、弟の過ちを全て許せというのはあまりに勝手なのは解っている。
けれど、お前の反魂と、
フィルへの想いは本当だ。
すぐには難しいが、認めてやってくれ。
可愛い孫を、ずっとつらい環境の中、
子供同然に育ててきたフィルを祝福してやって欲しい。
弟は不器用で、
あまり感情をひとに見せるのが上手くない。
だが、誰よりもフィルを想っている。
レガートはフィルの生命の珠を取り戻すため、取引として手の爪を全ての魔女に差し出した。この弟にあるのは、フィルだけだ。
フィルのためなら何でもするだろう。
そのくらいの覚悟はレガートにはある。
頼む……アルト』
王様はおばあちゃんに、頭を下げた。おばあちゃんは、
「私などに頭を下げてはなりません」
と言って王様の肩を起こした。王様は、
『人に許しを乞うとき、謝るとき、願うとき、頭を下げるのは当然だ。貴賤はない』
はっきりと言った。そして、
『もう一度、そなたに会えて、良かった』
と言って王様は涙をこぼした。落ちた涙は金色に輝き、小さく砕けながら小川に落ちると川は金色の光を帯びた。
「解りました。レガート様……フィルを頼みます」
そう言うと、おばあちゃんは、少し寂しそうに微笑んだ。
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