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第52話、麗しき貴公子が聖なるつるぎで薙ぐものは
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「水よ!」
松の木から降りた俺は空中にとどまったまま、敵の頭めがけて怒涛の雨を降らせる。ふと見ると、惠簾が結界を張って水を防ぎながら、玲萌たち数人の女の子を守っている。その横には、その他大勢の学生を大きな結界で包んだ師匠の姿があった。すまねえな、みんな……
「無駄だと言ったのを忘れたか!?」
いちいち大声しか出せねえのか、こいつは。魔刀地獄斬で直撃を避けてはいるものの、すでにびしょぬれである。
「何度やったって同じだ! お前の記憶力は魔物っつーより爬虫類だな、うわっはっは」
全身ずぶぬれのまま大笑いしてやがる。俺は無視して、
「凍えし風よ、冬の詩を奏で給え」
と一言、風の精霊に呼びかけた。
ピキッ ピキパキッ
「うおおおっ つめてええぇ!」
みごとに男の体は魔術剣ごと凍結した。
「クソっ 腕が動かねえ! 剣がはりつきやがって――」
斬撃が襲ってこなければ恐れるものはない。俺は虹色に輝く神剣を上段に構えたまま垂直落下。
「うわああああ!」
男の悲鳴が大きくなる。まぶしすぎる光の中、俺は神剣をまっすぐ振り下ろした。
すべてが虹色に包まれる。あまりの明るさに何がどうなったかわからない。
「くもぎりさん……?」
師匠の防御魔術を破ってしまったのではと不安になって呼びかけると、
『安心なされ、ぬしさま。この聖なるつるぎでは闇に落ちたものしか斬れぬ。たとえ防御魔術を無効化してしまっても、あの学生がケガを負うことはないのじゃよ』
そうなのか、なら安心だな! ――と思ったのだが……
「焦げた頭髪は闇堕ちしてると認識されたのか……」
ようやく光がおさまった中、両耳の上にわずかな毛を残してほとんどの頭髪が成敗された男が立ち尽くしていた。
「わらわにも何がなんだか……」
遠巻きに見守る学生たちが、
「見てよ、團くんの頭っ」
「額から頭頂部の髪、どこ行ったんだよ」
「いや後頭部までいってるぜ」
学生たちが口々にさわぎだす。言わなきゃバレないのに――
俺は彼らの声をかき消すように、
「いやいやきみは結界も破るし水も斬るし、強い魔術剣を持っている上に腕前もなかなかだねっ!」
笑顔で持ち上げる。我ながら棒読みである。
「お、おう……?」
男が複雑な顔をしているところへ、
「しょ、勝者、橘くん! 真向斬りで決着!」
なんともいえない作り笑いを浮かべた師匠が近づいてくる。歩きながら、俺が水浸しにした大地を魔術でかわかしている。こういう地味な術、俺は使えないのだが意外と便利そうだな。
「いや~最後の必殺技がまさかこう作用するとは」
気を遣っているのか、見ると吹き出しちまうからなのか、師匠は團なにがしに背を向けたまま、
「橘くんは無限の魔力量なんて関係なく、つるぎで戦ってもじゅうぶんに強いですね」
と、俺の頭に手のひらを乗せた。「きみは賢い子です。得意の水魔術を凍らせて相手の動きを封じる作戦は、機転がきいていましたよ!」
おーほめられた。師匠は長い指で俺のやわらかい銀髪をもてあそびながら、
「そのつるぎとの相性はばつぐんのようですね。きっときみのまっすぐな魂だからこそ、伝説の神剣と共鳴したのでしょう」
うれしそうな師匠。だが駆け寄ってきた玲萌と惠簾が口々に、
「師匠ったらまた樹葵の頭なでてる」
「子供が好きなんでしょうか?」
「そうなのよ、でも女の子に親密接触するといまの時代、倫理観がめんどうだから――」
「橘さま、小柄で童顔だからすっかり餌食になってるんですわね」
惠簾がまたへんなことを言う。目つきも血色も悪い俺が童顔なわけない。
大きな声でうわさする二人を横目に、師匠は引きつった笑みを浮かべたまま後退した。
「樹葵、おめでとう!」
なにごともなかったように、玲萌が俺の首に両腕をまわして抱きついてきた。「空を舞って、剣を振るいながら魔術も使って、すっごくかっこよかったわよ!」
「ええほんと、うるわしいお姿でしたわ!」
惠簾はうっとりと頬を紅潮させている。「水浅葱色の外套が秋の空にはためいて、輝く神剣が風を薙ぐ―― 橘さまはまさに、絵巻物に描かれた貴公子のようですわね」
「そうそう! 敵の倒し方も髪の毛を奪うだけでやさしいし!」
「ん?」
團なにがしが、動けないながらも上目づかいになる。
「あたしの術くらった燃えカスがすっきりしてよかったんじゃな~い?」
「あ、玲萌、ちょっ――」
俺の制止もむなしく、こんどは惠簾がほがらかな笑みを浮かべてうなずいた。「秋の日差しを反射して、袈裟が似合いそうな頭ですこと。ほほほ」
巫女がそれ言う?
「き、貴様ああああ!!」
あ。気づいた。
「じゃ、瀬良の旦那、俺たち生徒会の集まりがあるんで! おいとまさせていただきやすっ!」
いまだ吠えている男を残しつつ、俺は玲萌と惠簾を連れてそうそうに退散したのだった。
松の木から降りた俺は空中にとどまったまま、敵の頭めがけて怒涛の雨を降らせる。ふと見ると、惠簾が結界を張って水を防ぎながら、玲萌たち数人の女の子を守っている。その横には、その他大勢の学生を大きな結界で包んだ師匠の姿があった。すまねえな、みんな……
「無駄だと言ったのを忘れたか!?」
いちいち大声しか出せねえのか、こいつは。魔刀地獄斬で直撃を避けてはいるものの、すでにびしょぬれである。
「何度やったって同じだ! お前の記憶力は魔物っつーより爬虫類だな、うわっはっは」
全身ずぶぬれのまま大笑いしてやがる。俺は無視して、
「凍えし風よ、冬の詩を奏で給え」
と一言、風の精霊に呼びかけた。
ピキッ ピキパキッ
「うおおおっ つめてええぇ!」
みごとに男の体は魔術剣ごと凍結した。
「クソっ 腕が動かねえ! 剣がはりつきやがって――」
斬撃が襲ってこなければ恐れるものはない。俺は虹色に輝く神剣を上段に構えたまま垂直落下。
「うわああああ!」
男の悲鳴が大きくなる。まぶしすぎる光の中、俺は神剣をまっすぐ振り下ろした。
すべてが虹色に包まれる。あまりの明るさに何がどうなったかわからない。
「くもぎりさん……?」
師匠の防御魔術を破ってしまったのではと不安になって呼びかけると、
『安心なされ、ぬしさま。この聖なるつるぎでは闇に落ちたものしか斬れぬ。たとえ防御魔術を無効化してしまっても、あの学生がケガを負うことはないのじゃよ』
そうなのか、なら安心だな! ――と思ったのだが……
「焦げた頭髪は闇堕ちしてると認識されたのか……」
ようやく光がおさまった中、両耳の上にわずかな毛を残してほとんどの頭髪が成敗された男が立ち尽くしていた。
「わらわにも何がなんだか……」
遠巻きに見守る学生たちが、
「見てよ、團くんの頭っ」
「額から頭頂部の髪、どこ行ったんだよ」
「いや後頭部までいってるぜ」
学生たちが口々にさわぎだす。言わなきゃバレないのに――
俺は彼らの声をかき消すように、
「いやいやきみは結界も破るし水も斬るし、強い魔術剣を持っている上に腕前もなかなかだねっ!」
笑顔で持ち上げる。我ながら棒読みである。
「お、おう……?」
男が複雑な顔をしているところへ、
「しょ、勝者、橘くん! 真向斬りで決着!」
なんともいえない作り笑いを浮かべた師匠が近づいてくる。歩きながら、俺が水浸しにした大地を魔術でかわかしている。こういう地味な術、俺は使えないのだが意外と便利そうだな。
「いや~最後の必殺技がまさかこう作用するとは」
気を遣っているのか、見ると吹き出しちまうからなのか、師匠は團なにがしに背を向けたまま、
「橘くんは無限の魔力量なんて関係なく、つるぎで戦ってもじゅうぶんに強いですね」
と、俺の頭に手のひらを乗せた。「きみは賢い子です。得意の水魔術を凍らせて相手の動きを封じる作戦は、機転がきいていましたよ!」
おーほめられた。師匠は長い指で俺のやわらかい銀髪をもてあそびながら、
「そのつるぎとの相性はばつぐんのようですね。きっときみのまっすぐな魂だからこそ、伝説の神剣と共鳴したのでしょう」
うれしそうな師匠。だが駆け寄ってきた玲萌と惠簾が口々に、
「師匠ったらまた樹葵の頭なでてる」
「子供が好きなんでしょうか?」
「そうなのよ、でも女の子に親密接触するといまの時代、倫理観がめんどうだから――」
「橘さま、小柄で童顔だからすっかり餌食になってるんですわね」
惠簾がまたへんなことを言う。目つきも血色も悪い俺が童顔なわけない。
大きな声でうわさする二人を横目に、師匠は引きつった笑みを浮かべたまま後退した。
「樹葵、おめでとう!」
なにごともなかったように、玲萌が俺の首に両腕をまわして抱きついてきた。「空を舞って、剣を振るいながら魔術も使って、すっごくかっこよかったわよ!」
「ええほんと、うるわしいお姿でしたわ!」
惠簾はうっとりと頬を紅潮させている。「水浅葱色の外套が秋の空にはためいて、輝く神剣が風を薙ぐ―― 橘さまはまさに、絵巻物に描かれた貴公子のようですわね」
「そうそう! 敵の倒し方も髪の毛を奪うだけでやさしいし!」
「ん?」
團なにがしが、動けないながらも上目づかいになる。
「あたしの術くらった燃えカスがすっきりしてよかったんじゃな~い?」
「あ、玲萌、ちょっ――」
俺の制止もむなしく、こんどは惠簾がほがらかな笑みを浮かべてうなずいた。「秋の日差しを反射して、袈裟が似合いそうな頭ですこと。ほほほ」
巫女がそれ言う?
「き、貴様ああああ!!」
あ。気づいた。
「じゃ、瀬良の旦那、俺たち生徒会の集まりがあるんで! おいとまさせていただきやすっ!」
いまだ吠えている男を残しつつ、俺は玲萌と惠簾を連れてそうそうに退散したのだった。
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