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46:侵入

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タングール伯爵邸から1kmほど離れた所に馬車を停めさせ、マリーはそこから歩いた。
目立たないように裏道から屋敷へ近付き、ついに塀まで辿り着いたのだった。

(やっと着いたわ……。けれどどうやって中に入ろうかしら? 真正面から行って、大奥様に見つかってはいけないし……。旦那様が屋敷の中に今いるのかどうかもわからないし……)

マリーは途方に暮れた。

(取り敢えず、暗くなるのを待ちましょう。夜の方が旦那様が屋敷にいる確率が高いし、目立ちにくいし……)






辺りが薄暗くなる頃、一台の馬車が屋敷へ入って行った。

(あれはひょっとして!)

マリーが潜んでいる場所とは反対から馬車が来たため、中は見えなかった。
しかしマリーは一縷の希望を抱いて塀の側の木を登る。

(貧乏男爵家だったから、お転婆を咎められることはなかったのよ! まさか幼い頃の特技だった木登りが役に立つとは思わなかったわ!)

なんとか塀の上から中を見渡すことに成功した。

馬車から降りて来たのは、なんとマストだった。

「だ、旦那さ……っ!!!」

マリーは大声をあげかけて、慌てて止めて身を潜めた。
ローレルが出迎えに出て来たのだ。
そしてさっさと中へ入って行ってしまった。

(あ……咄嗟に身を隠してしまったけれど、大奥様に知られても旦那様にも気付いて貰えれば、きっと話は聞いてもらえたのじゃないかしら……?)

「あー……せっかくのチャンスを……」

マリーは自分の馬鹿さに頭を抱えた。

(これはもう、強行突破しましょう!)

こうしてマリーは不法侵入する覚悟を決めたのだった。






辺りはすっかり暗くなり、3階の執務室に電気が灯った。
食事を終えたマストが執務室へ行ったのだろう。

(3階のあの部屋は近くに木もないし、外から行くのは厳しいわね……。やはり、2階の子供部屋からの侵入が良さそうね。よく窓を開けて空気の入れ替えをするから、鍵が開いている可能性も高いし。子ども達が寝ついた後、侍女が部屋を空ける時間もあるだろうし……)

子ども達が寝ついてすぐなら寝が深いために起きにくい。
そのため、侍女はその時間に席を外すことが多いはずだ。
夜は、フリージアとリリーはほぼ同じ時間に眠りにつく。

木をつたって2階の屋根に登り、子ども部屋の窓の近くで侍女がいなくなるのをマリーは待った。

どれくらい待っただろうか?
輝く夜空の星を眺めていると、やっとその時は来た。

侍女が部屋から出て行くのを見て、マリーはそっと部屋に入った。
数日ぶりのフリージアとリリーに、涙が込み上げて来る。

(元気かしら? 私がいなくなったことには気付いてくれているかしら? )

一瞬、相変わらずのマイナス思考がやって来るも、すぐに頭を横に振った。

(ううん。考えても仕方ないことを考えて勝手に落ち込むのは、私の悪い癖よ!  侍女が戻って来るかもしれないから、早く行きましょう)

寝ている二人の頭をそっと撫で、マリーはまたすぐに会えることを信じて部屋を出る。

(見つかるかもしれないから、さっさと行くわよ!)

マリーは早歩きで、出来る限り物音を立てないように進んだ。
しかし階段を上り3階に到着した時、マリーは使用人に見つかってしまった。

「きゃっ! 誰かー! 侵入者です!!!」

薄汚れてコソコソしている女をマリーとは気付かずに、使用人は大声をあげた。

(わっ! 見つかってしまったわ!!!)

マリーは執務室へ猛ダッシュした。
本当は空腹に加え水分も暫くとれておらずフラフラだったが、最後の力をこめてダッシュする。

追いかけて来る護衛に驚き、マリーはノックをする余裕もなく執務室のドアを開けて中へ入った。






「……マリー……?」





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