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10.抜け出し作戦決行

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「アス、これから《太陽の聖獣》に連絡を取る。何かあった時の為に、聖獣同士は離れていても会話することが出来るんだ。アイツはオレと違って昔から勉強熱心だったから、この状況を打破する方法を考えつくかもしれない」
「えっ!?」
「あ、オレ、アイツの前だと言葉が乱暴になると思うけど気にしないでな? 怖がらなくていいから」
「えっ、あ、うん……?」
「よし。――あ、そうだ。聖獣同士の会話は巫女も聞けるように出来るけど、試しに聞いてみる? オレが伝えるより直接聞いた方が早いと思うし」
「えっ? え、えぇ。とても気になるしお願いするわ」
「分かった。――おいコラ、ソウテン。聞こえてんだろ、早く返事しろ」
『……その不躾な呼び掛けと傲慢な声は、シンランですね。会話が出来るということは、人間の姿に戻れたのですか?』
「お蔭様でな」


(何の予告もなく会話が始まった!? ――って、ソウさんは“ソウテン”!? シンも“シンラン”!? 本当に“蒼天”と“深藍”が名前だったなんて……! そう言えば私、シンが人間の姿に戻った後も、本名を聞かずに当たり前のようにシンって言っていたわ……。偶然にもシンを本当の名前で呼んでたのね……。――偶然、だったのかしら――)


『君が私に連絡を取ってきたということは、余程重要な案件でしょうか』
「まぁな。アスの姉さんが魔族だった。闇魔法の一つの『変身魔法』を使ったんだよ。それと、本来は《月の巫女》であるアスの力を奪い取って、宝石に封印してた。で、勝手に《月の巫女》を名乗ってやがった」
『……それは……なかなかに大胆な行動をしていましたね……』
「おいソウテン、お前ニセ《月の巫女》の正体に気付けなかったのかよ。ニセ《月の巫女》は《太陽の巫女》と何度か一緒に仕事してたんだろ? 当然お前も一緒にいただろ。聖獣が魔族の気配を察しなくてどうすんだ。大好きな《太陽の巫女》のことばっか考えて脳内お花畑になっちまったんじゃねぇ?」
『……相変わらず失礼極まりない人ですね。一生聖獣姿でいれば良かったものを』
「んだとコラ!?」
『リリールア様からは魔族の気配は一切感じられませんでした。《太陽の巫女》の前だから魔族の気配を何らかの方法で隠していたのでしょうか。それに彼女は、私達の目の前でちゃんと“月の力”を使って……いや……待って下さい』


 そこでソウテンの言葉が途切れた。


「……どした? ソウテン」
『ユリアンヌに今伺いました。リリールア様と一緒に仕事をするようになったのはいつ頃だったかを思い出せないようです。――ユリアンヌは、アスタディア様と仕事をしていたはずなのに。ユリアンヌとアスタディア様が親しくなったのは、《太陽の巫女》と《月の巫女》として仕事を共にしたのがキッカケですから。何故それを今まで忘れていたのでしょうか……』


「…………っ!!」


 それを聞いて、アスタディアの心に衝撃が走る。


(確かにそうだった……。どうして忘れていたんだろう。どうして最初から、お姉様が《月の巫女》だって思い込んでいたんだろう。――ううん違う、あの人はお姉様じゃなくて、お姉様に変身した魔族だ。じゃあ本物のお姉様はどこに――)


 そこでアスタディアはハッとする。


「シン……」
「ん? どした、アス」
「お姉様との幼い頃の想い出がないの。お父様とお母様とピクニックに行った想い出はあるけど、そこにお姉様はいなかった。私達三人だけで……。今一生懸命記憶を掘り起こしてるけど、やっぱり他の想い出にも……。……もしかしたらお姉様は――」
「最初からいなかった、ってことか! オレがルーゲント侯爵家に来た時は、あの女がアスの双子の姉としてそこにいたから、それが当たり前だと思ってきたけど、昔からここにいるアスの両親や使用人達も、あの女をアスの双子の姉だという認識がある。アスにもだ。一体どういうことだ……?」
『……何やら陰謀の匂いがしますね。これは直接四人で話し合った方が良さそうです。明日にでも時間を作って――』
「いや、ダメだ。理由あってアスは今幽閉されてる。今だとあの女が部屋の鍵を開けてったから外に出れるが、明日になったらアスの両親が気付いてまた鍵を掛けちまうだろう。話し合いをするんだったら今しかない」
『……何だか色々と大変なことになっているみたいですね。待って下さい、今ユリアンヌに確認します』


 ソウテンの声がそこで途切れ、暫くした後に再び声が聞こえてきた。


『今、抜け出してこちらに来られることは出来ますか?』
「あぁ、やってやるさ」
『では、こちらに着いたらまた私に声を飛ばして下さい。迎えに行きます』
「りょーかい。じゃ、後でな」


 二人の会話が終わり、シンは自分の腕の中で動かないアスタディアを見た。

「……大丈夫か、アス?」
「あ……えぇ、大丈夫よ」
「今から《太陽の巫女》の屋敷に行く。あの女は“威嚇”を受けて自分の部屋から暫く動けないだろうし、鍵を開けていった今しかない。……行けそうか?」
「えぇ、行くわ」

 アスタディアはしっかりと頷くと、すぐにうーんと唸った。

「このまま出て行って、もし運悪くお父様やお母様に会っちゃったら連れ戻されてしまうわ。どうしたら……」
「だったら、あの女がアスに成りすましたように、今度はアスがあの女に成りすませばいいんじゃないか? 髪は帽子か何かで隠してさ」
「! そうね、いい提案だわ! ちょうどあの人が着ていて置いていったドレスがあるの。それを着ましょう。シン、ちょっと離れて後ろ向いててくれる?」
「えー? 見てちゃダメ?」
「ダメに決まってるでしょ!」
「眼福を得たかったのにな、残念。分かったよ」

 アスタディアをそっと離すと、部屋の隅に行って壁の方を見るシン。やけに素直に従った彼に、アスタディアは服を脱ぎつつ違和感を覚えた。

「何だか素直過ぎて逆におかしいと思ってしまったわ……」
「今の状況に空気を読んだと言ってくれよ。今回は大人しく引き下がるけど、落ち着いたらまた一緒に風呂入ろうな」
「えっ」


 シンの言葉で気が付いた。彼が聖獣姿の時、お風呂も毎日一緒に入っていたことに。


……彼には意図せず全てを見られていたことになる。


(ああぁっ、時を巻き戻したい!!)

 
 アスタディアは真っ赤になり思わずその場に蹲ったが、過ぎた時は元に戻らない。
 アスタディアがしゃがみ込んだ気配を感じたシンは、壁に目を向けたまま彼女に声を掛けた。


「どした、アス……? ――あっ、大丈夫だよ! アスの裸、見惚れるくらいすっごくキレイだから! 毎日いつでも見たいくらいだから! 触りたくて堪らなかったから! 毎回興奮がヤバかったから! 自信持っていいから! でも絶対オレにしか見せちゃダメだからな!!」


(違う! そういうことじゃない! 更に追い打ちは止めて……!!)


 蹲りそのまま床に沈み込みたい衝動に駆られたが、状況が状況なだけに動かなければいけない。
 顔が熱いままリリールアが置いていったドレスを着る。一人で着用可能な作りのドレスで良かった。
 髪を後ろにまとめて外出用の帽子を深く被る。用意が出来たアスタディアは、約束を守りずっと背を向けているシンを呼んだ。

「うん、ドレス姿もすっごく可愛い、アス。――ん? 顔赤いけどどした?」
「いいの! 行きましょう!」
「うん……?」

 シンは軽く首を傾げたが、スッと顔を引き締めるとアスタディアの肩を抱き、静かに部屋を出た。



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