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ゼノアギアス戦記2

33 銀の月

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 傘をさしてティアンは雨の中を歩いていた。ジュンヤが丁寧に拭いてくれた尻尾に滴が落ちてしっとりとする。
 学園から教会まではそこそこ遠い。
ストロークが長いティアンの足でも、かなり掛かる。

 ジュンヤはもう着いたかな?

 どこへ行くとも告げなかったが、ジュンヤは教会の隣の家に向かった気がした。2人を見送ってから、時間は経っている。
 何故だろう、早く行けと鼓動がうるさい。今なら間に合う、今なら間に合う、足を動かせ地を駆けろ。

 まだ間に合う、空を裂き疾く駆けよ!

 何故 こんなに焦るのか分からない。この道は何度も通った道で、良く知っているから、危険がある訳でもない。それでも足は早くなった。

 ドキンドキンと、音がうるさい。やばい、まずい、早くしなくちゃ!なぜ?なぜ?なぜ?
 痛い、熱い、鼓動が脈打つ。



 傘も2つの鞄も投げ捨てて、ティアンは全身の力を漲らせた。

 雨で滑る大地を物ともせず、獣のその力を持って走り出す。

 ただ真っ直ぐ。

 途中の家は生垣を蹴り、上へ飛んだ。一息に屋根の上に着地し、衝撃で一部が弾け飛んだがスピードは緩めなかった。

 やばい!やばい!やばい!

 ごぅっと空気を割いた。雨は左右に割れたが、教会の穴の開いたとんがり屋根が見える頃、嗅ぎたくない臭いが鼻をついた。

 血だ、今まさに流されている大量の血の臭い!

 だんっ!軽やかさが売りの狐獣人らしからぬ、力強さで地面を蹴り、一気に生垣となだらかであまり長くない庭を飛び越えた。臭いが濃いのは教会とは反対側の部屋。窓が見える。

物音は今は聞こえない。
誰かのすすり泣く声。
濃い血の臭い。

さっき 聞こえた引き裂かれるような叫び

金陽ソレル!助けて!!

 心臓に深々と突き刺さっている兄弟に向かって

ジュンヤの持つ銀月の剣シルヴァンが助けを求めた。

「ジュンヤ?!」

 ティアンは窓を開けた。出来たばかりで立て付けの良い窓には鍵がかかっておらず、すんなり開いた。

 むせ返る血の臭い。
まだ家具が運び込まれていない室内の真ん中にジュンヤはいた。すぐ横にちらりと見かけたあの金髪の男がいて、両手で顔を覆って泣いている。

「ジュンヤ……?」

 ジュンヤは笑っていた。唇の両端が上がって、それは満足そうに。

「ジュンヤ!?」

 泣いている。銀月がないている。

名前を呼んでも返事はなかった。

「ジュンヤ!!」

 紫の瞳はティアンの方を向いて、開いていたが、光は失われていた。

 真っ赤な血溜まりの中で、ジュンヤは事切れていた。



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