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31 ドレスは縮まない(リース視点
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「マリリー、マナーの勉強は捗っているんだろうな?せめて手紙の一つくらい書けるようになってもらわないと」
マリリーの部屋としている部屋の扉を開けると返事はなく、酷いイビキの音が聞こえて来る。
「おい!まさか寝ているのか?!」
部屋の中にズカズカと入ると、ベッドの上で大の字になって、手や口にケーキのカスを纏わせたマリリーが寝ていた。
「ずごー……ぴゅるる……ずごー……」
「うっ、なんと醜悪な……」
私の気配に気づいたのか、顔の肉に埋まりかけの目が細く開いたようだった。
「んご、リースさまぁ?どうかなさったのでぇ?」
「どうかなさったも何も!マリリー、マナーの勉強はどうした?!」
少し強めに言うと、途端にマリリーは顔を真っ赤にして、金切り声を上げる。
「そんなものやってないわよっ!!大体何なのっ!あの講師はっ!人を蔑んだ目で見て!あんな奴こっちから願い下げよ!クビにしてやったわ!!」
またか……どんな講師を頼んでも1日もたたずに辞めさせてしまう。私が何度もお願いして頼んでいるのに、これではマリリーにマナーを教えてくれる人は居なくなってしまうではないか。
「マリリー、君はマナーも何もかも覚える気がないのか!」
「マリリーは悪くないっ!あいつらの教え方が悪いのよっ!リース様はどうしてそんな意地悪な事を言うのっ?!酷い!酷いわ!出てって!!」
キイキイと叫びながら、手に掴んだ物を投げつけて来る。枕などなら可愛いものだが、ケーキを食べるのに使っていたフォークなども投げつけてくるので、危なくてしょうがない。
「ま、マリリー!マナーはともかくとして、神殿には行くんだ。君は今聖女の資格すらないではないか。それでは私の婚約者としても、いささか不都合だ」
「分かったわよ!」
さっと身を隠した扉の向こう側でガチャン!と何かが割れる音がした。マリリーがまた、花瓶でも割ったのだろう。
王室の調度品だ、その花瓶とて安くはないのだがな……。
「じゃあ出かける為のドレスを買ってちょうだい!!」
またドレスか。アルカンジェルの家から支援が切られた私はそんなに沢山お金を持っているわけではないのだが……。
「前に買っただろう?」
「ドレスが縮んだのよ!」
ドレスは縮まない。お前が太ったんだろうと口に出しかけて、慌てて口を閉じた。そんな事を言ったら何が飛んでくるか分かったものではない。
「わ、分かったがあまり華美な物は駄目だ。神殿に行く為の服なのだからな」
「勿論です!」
と、言いながらどんな服を用意するのか考えただけで頭が痛くなる。
「商人を呼ばなくちゃ!やっぱりピンクよね!!」
ご機嫌で鼻歌を歌い始める。それにホッとして私はマリリーの部屋を離れた。早く彼女から遠ざかりたかったのもある。
「ではこの国で最高級と呼ばれている商人を呼びます」
「ええ!うんと値の張る物でも大丈夫よ!」
だから、マリリーがどの侍女と話をしているかは、見る事もなかった。マリリーの癇癪に耐え切れず、ほとんどの侍女がマリリーの世話を拒否していたのに。
「分かりました」
「ほんと、あんたって気が利くわね。無愛想だけど~私専属にして上げても良いわ」
「ごめん被ります、どんな拷問ですか」
「え?」
「いえ、どうぞ、小麦粉を練ってギトギトの油でじっくり揚げ、砂糖と蜂蜜で甘くした奥歯が蕩けるほど甘いドーナツでございます」
「わぁ!私の好きなおやつね!やっぱり貴方、私の専属にしてあげる」
「冗談は顔だけにして下さいませ。あの国一番のごうつくばりの商人を連れて参りますのでしばしお待ちを」
「わあ♪アリガト!」
ばくばくと物凄いドーナツをむかぼり続けるマリリーに
「見ているだけで気持ち悪い……」
と、吐き気を堪えながら部屋を後にするメイド。勿論、金儲けに走り過ぎて、誰からも相手にされなくなった商人を呼びに行くのだ。
「センスもないし、質も悪いのに。ま、お似合いだわ」
うちのお嬢様には絶対にお勧めなんかしないけどねーと、メイドは独り言を言うのだった。
マリリーの部屋としている部屋の扉を開けると返事はなく、酷いイビキの音が聞こえて来る。
「おい!まさか寝ているのか?!」
部屋の中にズカズカと入ると、ベッドの上で大の字になって、手や口にケーキのカスを纏わせたマリリーが寝ていた。
「ずごー……ぴゅるる……ずごー……」
「うっ、なんと醜悪な……」
私の気配に気づいたのか、顔の肉に埋まりかけの目が細く開いたようだった。
「んご、リースさまぁ?どうかなさったのでぇ?」
「どうかなさったも何も!マリリー、マナーの勉強はどうした?!」
少し強めに言うと、途端にマリリーは顔を真っ赤にして、金切り声を上げる。
「そんなものやってないわよっ!!大体何なのっ!あの講師はっ!人を蔑んだ目で見て!あんな奴こっちから願い下げよ!クビにしてやったわ!!」
またか……どんな講師を頼んでも1日もたたずに辞めさせてしまう。私が何度もお願いして頼んでいるのに、これではマリリーにマナーを教えてくれる人は居なくなってしまうではないか。
「マリリー、君はマナーも何もかも覚える気がないのか!」
「マリリーは悪くないっ!あいつらの教え方が悪いのよっ!リース様はどうしてそんな意地悪な事を言うのっ?!酷い!酷いわ!出てって!!」
キイキイと叫びながら、手に掴んだ物を投げつけて来る。枕などなら可愛いものだが、ケーキを食べるのに使っていたフォークなども投げつけてくるので、危なくてしょうがない。
「ま、マリリー!マナーはともかくとして、神殿には行くんだ。君は今聖女の資格すらないではないか。それでは私の婚約者としても、いささか不都合だ」
「分かったわよ!」
さっと身を隠した扉の向こう側でガチャン!と何かが割れる音がした。マリリーがまた、花瓶でも割ったのだろう。
王室の調度品だ、その花瓶とて安くはないのだがな……。
「じゃあ出かける為のドレスを買ってちょうだい!!」
またドレスか。アルカンジェルの家から支援が切られた私はそんなに沢山お金を持っているわけではないのだが……。
「前に買っただろう?」
「ドレスが縮んだのよ!」
ドレスは縮まない。お前が太ったんだろうと口に出しかけて、慌てて口を閉じた。そんな事を言ったら何が飛んでくるか分かったものではない。
「わ、分かったがあまり華美な物は駄目だ。神殿に行く為の服なのだからな」
「勿論です!」
と、言いながらどんな服を用意するのか考えただけで頭が痛くなる。
「商人を呼ばなくちゃ!やっぱりピンクよね!!」
ご機嫌で鼻歌を歌い始める。それにホッとして私はマリリーの部屋を離れた。早く彼女から遠ざかりたかったのもある。
「ではこの国で最高級と呼ばれている商人を呼びます」
「ええ!うんと値の張る物でも大丈夫よ!」
だから、マリリーがどの侍女と話をしているかは、見る事もなかった。マリリーの癇癪に耐え切れず、ほとんどの侍女がマリリーの世話を拒否していたのに。
「分かりました」
「ほんと、あんたって気が利くわね。無愛想だけど~私専属にして上げても良いわ」
「ごめん被ります、どんな拷問ですか」
「え?」
「いえ、どうぞ、小麦粉を練ってギトギトの油でじっくり揚げ、砂糖と蜂蜜で甘くした奥歯が蕩けるほど甘いドーナツでございます」
「わぁ!私の好きなおやつね!やっぱり貴方、私の専属にしてあげる」
「冗談は顔だけにして下さいませ。あの国一番のごうつくばりの商人を連れて参りますのでしばしお待ちを」
「わあ♪アリガト!」
ばくばくと物凄いドーナツをむかぼり続けるマリリーに
「見ているだけで気持ち悪い……」
と、吐き気を堪えながら部屋を後にするメイド。勿論、金儲けに走り過ぎて、誰からも相手にされなくなった商人を呼びに行くのだ。
「センスもないし、質も悪いのに。ま、お似合いだわ」
うちのお嬢様には絶対にお勧めなんかしないけどねーと、メイドは独り言を言うのだった。
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