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45 放っときましょう

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「嫌だわ、王太子アンソニー殿下の足を引っ張ったのは貴女じゃない。貴女がもっと聖女として活躍すればアンソニー殿下はそのまま王太子だったし、いずれは皇帝になられたわ。それなのにあなたが「使えない聖女」だから王太子の座から外されたのよ。お判りになっていなかった?」

「わ、私!?私のせいなわけないじゃない!」

 自分が悪いと言われて急に焦っているわね。自覚がなかったのね……きっと我が儘やサボっても何とかなるって思っていたんでしょうね。どうしてそう思ったか、まあゲームだからとたかを括っていたのかしら。

「いや、お前のせいだ。アンソニー殿はそこまで無能な人物ではなかった。だがお前に傾倒し、お前の力を見誤った時点で沈むことが決まったのだよ。お前が「使える聖女」だったらこんな事にならなかったのにな。お前は帝国皇帝妃になりたいとか言ったな?自分でその機会を失ったんだよ、残念だったな」

 心底汚い物を見るような目でギルマルド様はルーナを見下ろします。まあそこまでする必要はないような気もしますが、私も完全に同意なのですよね。

「う、嘘……」

「嘘などついておりません。今、こうしてあなたがくだらない文句を私に言いに来ている間も、アンソニー殿下は走り回り、自分についてくれる貴族を探しているのではないですか?殿下が忙しそうにして構って貰えないから暇になったあなたとは違うのですよ」

 廃嫡されるとはいえ、アンソニー殿下はこれから先も皇族として生きて行く。それにはやはり自分の派閥と言うものが必要になる。それを取りまとめて行かないと今後もっと肩身の狭い思いをしながら長い人生を生きて行かなくてはならない。
 ……そうでなくてもギルマルド様の一派が幅を利かせているというのに。

「え、嘘。アンソニー様が皇帝になるのよ……?そんな訳ないじゃない。アンソニー様が皇帝にならなきゃ一体誰がなるのよ!」

「シシリー様に決まっておろう。愚かな女め!」

「あんたが!?嘘でしょうっ!」

 私も嘘であって欲しい所よ、その事実は。

「黙れと言っている」

 ギルマルド様の声が一段と低くなって、恐ろしい殺気がルーナに降りかかる。冷たくて重くて……血の匂いがしそうな身の毛がよだつような空気に私ですら少し吐き気を覚える。

「ひっ!う……な、なにこれ、き、気持ち悪い……うう、うえ……うげぇえ」

 その殺気をもろに浴びせかけられたルーナは耐えきれず、その場に膝から崩れ落ちると胃の中の物を吐き戻してしまう。気の毒な気はするけれど、何かしてやりたいという気持ちは一切起きない。

「少しはこの先の事を考えた方が宜しくてよ、ルーナさん。楽して生きて行こうなんて考えは捨てた方が良いわ」

 私だってあれだけ敵意むき出しのルーナを重く用いようなんてこれっぽっちも思わないもの。

「ああ、すみません。汚いモノを見せてしましましたね!シシリー様、すみませんすみません!」

「嫌ですわ、ギルマルド様が謝るようなことは何一つありませんですわ。ほほほ」

「流石大聖女様は心根も優しく美しい!」

 さっきとは別人のようなキラキラした顔で私の後ろを犬みたいにくっ付いてくる。ほんと慣れって怖いわ。くっ付いてくるのが当然って今思っちゃったものね。ま、ルーナは誰かがそのうち助けてくれるでしょう、放っておきましょ。
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