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リーエンの心労
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翌日、リーエンが倒れたとアルフレドが報告を受けたのは昼過ぎだった。午前中、リーエンはコーバスの授業を受け、昼食を食べて部屋に戻って一休みをしてから図書室に向かおうと部屋を出てほどなくのことだったらしい。
執務室にいたアルフレドは即座に全ての仕事をジョアンに押し付け、リーエンの元に駆け付けた。身体走査の結果、どうやらストレスか何かで一時的に血流が悪くなっているとのことだ。それがどういうことなのかアルフレドはよくわからないが、要するに原因が「外的要因ではなく内的要因」だということは理解した。
「魔界召集でいらした女性が倒れることは珍しいことではありません」
魔界では珍しく人間の体にも詳しい医師の言だ。確かにそうなのだろうとアルフレドも思う。彼の領地に住んでいる高位魔族レーヴァンの妻であるセーラという令嬢も、同じく魔界に来て3日目に倒れたと聞いた。最初の数日はストレスを溜めつつも緊張でおおよそ乗り切って、少し慣れた頃に「緊張したまま」を無意識に続けて倒れることが多いらしい。
使用人達に聞いても、昨日ティータイムでリーエンと会った時のことを考えても、彼女は最初に比べてよく話してよく笑うようになったとアルフレドは安心していた。だが、それは本当に心からの笑顔ではなく「少し慣れて立ち回れるようになったから」笑っていただけなのだろう。考えてみれば人間の令嬢にありがちな話だ。
護衛騎士やコーバスに聞けば彼女はとてもよく周囲に気を遣うようだったし、逆に気を遣わせまいとする様子も多いとのことだった。確かにそうかもしれない。それに、昨日のティータイムでは、明らかに彼女はアルフレドが夜のことを持ち出しはしないかと警戒していた。口にしなくともそうだと気付いたアルフレドが「日々の疲れはどうだ」と聞けば「夜、ベッドで横になるとすぐに眠ってしまって……」と答えた。それが嘘ではないことは昨日女中から受けたちょっとした報告でアルフレドは知っている。
(コーバス先生からは、能力にムラがありそうだが優秀な生徒だと聞いた。努力家らしいとも。そして、自習の仕方が独特だが、それはやり方を知らないのではなく彼女流なのだと。きっと幼い頃から勉学に励んで、自分にとって最適な方法を得ていたのだろうと……)
ああ、それはわかっていた。アルフレドはリーエンの寝顔を見ながら思う。
持続性の高い術を施した彼女のことが心配で、巡礼で人間界に行くたびにうまく供の者達を言いくるめてリーエンの様子を見に行っていた。巡礼の回数は5回。そして、リーエンと出会ったのは2回目だったため、3回目ぐらいには「使っても許される魔力量」がなんとなくわかり、うまく立ち回ることも出来た。
いつ彼女の屋敷に行っても、彼女は家族にも周囲にも愛されているようにアルフレドには見えた。そして、彼女の父は彼女に優しく、けれども人間界の貴族として正しい教育を施しているように見えたし、それを彼女自身真摯に受け止めているようにも見えた。
要するに、人間界でいうところの、健やかで真面目な貴族令嬢だったのだ。だが、そういう人物は魔界ではなかなか珍しい。その珍しい「健やかで真面目」だからこそ、あの日彼女は自分を助けてくれたのだろうとアルフレドは思っていたし、実際にそれは間違いではなかった。
だから、少し考えれば。もっと気を使ってあげなければ、彼女はなんでも頑張りすぎることなぞ、わかっていたはずだったのだ。
「……っ……」
ベッドで横たわっているリーエンを見つめたアルフレドは顔をしかめる。
相手は倒れて弱っている女性だ。だというのに。
(なのに、襲いたくなる。抑え過ぎている反動なのはわかっているが……)
それにしても、おかしい。先日、サキュバスの長に「魔界召集も終わったことだし、今度は自分達女系一族用に人間の贄が欲しい」と申し出られた時――サキュバスは当然魔界召集の対象ではなく強い子孫を残すために人間の贄を欲しがるのだ――少し時間をもらって、庭園を歩きつつあれこれと話をした。あまり、彼女と室内にこもって2人で話すことは望ましくないと思えたし、かといって他の者に聞かせるのも憚られる話だったからだ。
その時、並んで歩いていても、こんな風に欲情はしなかった。サキュバス達は魔王城にいる時はフェロモンの放出を抑えるように義務付けられている。が、それはあくまでも「抑える」に留まる。にも関わらず、今の自分がまったく反応しなかったことにアルフレドは大いに驚いた。
ヴィンス師に「美味しいと思わない相手なのでしょう」と言われるとしても、サキュバスの「それ」に反応をするかしないかであれば、しないわけではない。料理の話でたとえれば、美味しそうと思うかどうかはともかく「自分が食べられるものなのかどうか」の判定はそれより早いはずだ。
だが、サキュバスから漏れ出しているフェロモンに、アルフレドはこれっぽっちも反応しなかった。完全に、サキュバスの長はアルフレドには「対象外」の存在だった。その時、彼は「自分がインキュバス側をリーエンのために徹底して抑えているからだろう」と思っていた。なのにどうだ。体調を崩して眠っている彼女を見た途端にこれだ。
もう、答えは一つだ。今の自分はどうやらリーエンに対してのみ、インキュバス側に寄って暴走をしてしまう。そして、それは本来正しいことなのだ。孕ませたい女がそこにいる。それがきっかけになるのは当然のこと。だが、問題は、自分はそういう目でリーエンを見ていたのだろうか? ということだ。
(見守ってきたが、以前から積極的に妻にしたかったわけではない。が、その妻にしたかったわけではないのは、人間界と縁が切れてしまう彼女を不憫に思ったからなのか、それとも俺が彼女をそういう目で見ることが出来なかったのか、いささか曖昧だ。恩があるから大切にしたいとは思っている。が、そこに恋情があるかというと……)
なくはない。可愛いと思うし、セックスは後回しにしても、時折抱きしめたいと思うし、優しくしたいと思う。が、そういった感情以外の思いも沢山ありすぎて、正直なところ自分が彼女にどんな感情を向けているのかよくわからなくなる。そして、そんな状況なのに、孕ませたいという欲だけは常にはっきりあるのだからどうしようもない。もし、リーエンがそれを知ったら、そんな中途半端なことを思っている男に抱かれたいわけがない。
「いかん。戻らないと本気でジョアンが死んでしまうぞ……」
アルフレドは立ち上がった。今日の仕事もまだ残っているし、ジョアンだって魔界召集で妻を娶ったばかりで、毎日長時間拘束するわけにもいかない。
と、その時リーエンの瞳がゆっくりと開いた。
「アルフレド様……? 夢かしら? ……お忙しいはずですもの……」
「……夢ではない」
「夢ではない、のですか……えっ!?」
リーエンは慌ててがばっと起きようとして、それから「あっ……」とすぐに体をぼすんとベッドに預けた。ぼんやりとした表情でベッドに倒れた彼女の様子は、今のアルフレドには少しばかり刺激が強い。リーエンに気取られないように、アルフレドは一瞬唇を噛み締めて、いっそう自制を強めた。
「何かしら? ……くらくらします……」
「覚えていないのか。お前は倒れたんだ」
「倒れた……? まさか……わたし、昔から体だけは丈夫で……風邪すら引かないんですよ……?」
「それは外的要因だろう」
自分が施した祝福は、外的要因だけをブロックするものだ……そう口走りそうになって、アルフレドは(おっと)と口をつぐんだ。あれもこれも抑える必要があってどうにも彼は大変だ。
「もう少し寝ていろ。お前は確かに体が丈夫なのかもしれないが、心と体は繋がっていて、そちらが原因のものならば防げないこともある」
伝わりにくいだろうか、と思いながらアルフレドが説明をすると、リーエンは僅かに悲しそうな表情を見せた。彼女が魔界に来てから、これほどに悲しみの感情を外に出したこと――ダリルの前で泣いたことを除けば――はなく、アルフレドはその表情に驚く。
「ご迷惑を……体を患うなんて本当に久しぶりでまだ信じられないのですが……いえ、体ならともかく心を患うなんて、あってはいけないことですのに……お恥ずかしいです……」
「あってはいけない?」
「ええ。貴族たる者、領民達の指標となり常に彼らに不安をもたらさぬように、健やかな心であれと……そうお父様に言われて育ちましたし、わたしもそれは間違っていないと思うのです……」
「……残念ながら、ここにはお前を指標とする領民はいない。それは要するに、お前が強くあろうとする口実になるものが存在しないということだ」
一見、アルフレドの言葉は彼女に対して「貴族であることはここで何の意味もない」と冷たい現実を突きつけているようなものだ。だが、彼の本意はそれではない。
「俺が、お前の代わりにそういう者でいる。だから、お前は自分の心が弱った時には正直に音を上げれば良いし、いずれお前を指標とする者の面倒を見る立場になっても、俺に対しては弱っても良い」
「では、アルフレド様は……?」
再び眠りにつきそうに、うとうとと瞳を閉じるリーエン。彼女が紡ぐ言葉は半分は寝言のようなものだ。
「わたし……夢では……案外泣き言を言っているから平気だと……思って……アルフレド様も、そう……?」
最後はもごもとと聞き取れないほどになり、彼女の寝息がかすかに聞こえる。睡眠が足りていないわけではないが、今日明日は眠れるだけ眠らせた方が良いと医師に言われていたことを思い出しながら、じっと彼女の寝顔をみつめる。
「お前の父親は立派な貴族だったと俺も知っている。だが、それは己が守る者がそこにいて、人々の模範になる必要があるからだ……お前も、そうであろうとしているのだろうし、そういう立場で……姉よりも長女らしく振舞って生きていたことを俺は知っている。そんなお前だから、魔界召集で魔界に来たことがどういうことなのかを、きっと誰よりも心得ていて、自分で重責を負っているのだろうが」
倒れてはどうしようもない。
アルフレドは寝息を立てるリーエンの顔にかかる髪をどかし、毛布を整えた。
執務室にいたアルフレドは即座に全ての仕事をジョアンに押し付け、リーエンの元に駆け付けた。身体走査の結果、どうやらストレスか何かで一時的に血流が悪くなっているとのことだ。それがどういうことなのかアルフレドはよくわからないが、要するに原因が「外的要因ではなく内的要因」だということは理解した。
「魔界召集でいらした女性が倒れることは珍しいことではありません」
魔界では珍しく人間の体にも詳しい医師の言だ。確かにそうなのだろうとアルフレドも思う。彼の領地に住んでいる高位魔族レーヴァンの妻であるセーラという令嬢も、同じく魔界に来て3日目に倒れたと聞いた。最初の数日はストレスを溜めつつも緊張でおおよそ乗り切って、少し慣れた頃に「緊張したまま」を無意識に続けて倒れることが多いらしい。
使用人達に聞いても、昨日ティータイムでリーエンと会った時のことを考えても、彼女は最初に比べてよく話してよく笑うようになったとアルフレドは安心していた。だが、それは本当に心からの笑顔ではなく「少し慣れて立ち回れるようになったから」笑っていただけなのだろう。考えてみれば人間の令嬢にありがちな話だ。
護衛騎士やコーバスに聞けば彼女はとてもよく周囲に気を遣うようだったし、逆に気を遣わせまいとする様子も多いとのことだった。確かにそうかもしれない。それに、昨日のティータイムでは、明らかに彼女はアルフレドが夜のことを持ち出しはしないかと警戒していた。口にしなくともそうだと気付いたアルフレドが「日々の疲れはどうだ」と聞けば「夜、ベッドで横になるとすぐに眠ってしまって……」と答えた。それが嘘ではないことは昨日女中から受けたちょっとした報告でアルフレドは知っている。
(コーバス先生からは、能力にムラがありそうだが優秀な生徒だと聞いた。努力家らしいとも。そして、自習の仕方が独特だが、それはやり方を知らないのではなく彼女流なのだと。きっと幼い頃から勉学に励んで、自分にとって最適な方法を得ていたのだろうと……)
ああ、それはわかっていた。アルフレドはリーエンの寝顔を見ながら思う。
持続性の高い術を施した彼女のことが心配で、巡礼で人間界に行くたびにうまく供の者達を言いくるめてリーエンの様子を見に行っていた。巡礼の回数は5回。そして、リーエンと出会ったのは2回目だったため、3回目ぐらいには「使っても許される魔力量」がなんとなくわかり、うまく立ち回ることも出来た。
いつ彼女の屋敷に行っても、彼女は家族にも周囲にも愛されているようにアルフレドには見えた。そして、彼女の父は彼女に優しく、けれども人間界の貴族として正しい教育を施しているように見えたし、それを彼女自身真摯に受け止めているようにも見えた。
要するに、人間界でいうところの、健やかで真面目な貴族令嬢だったのだ。だが、そういう人物は魔界ではなかなか珍しい。その珍しい「健やかで真面目」だからこそ、あの日彼女は自分を助けてくれたのだろうとアルフレドは思っていたし、実際にそれは間違いではなかった。
だから、少し考えれば。もっと気を使ってあげなければ、彼女はなんでも頑張りすぎることなぞ、わかっていたはずだったのだ。
「……っ……」
ベッドで横たわっているリーエンを見つめたアルフレドは顔をしかめる。
相手は倒れて弱っている女性だ。だというのに。
(なのに、襲いたくなる。抑え過ぎている反動なのはわかっているが……)
それにしても、おかしい。先日、サキュバスの長に「魔界召集も終わったことだし、今度は自分達女系一族用に人間の贄が欲しい」と申し出られた時――サキュバスは当然魔界召集の対象ではなく強い子孫を残すために人間の贄を欲しがるのだ――少し時間をもらって、庭園を歩きつつあれこれと話をした。あまり、彼女と室内にこもって2人で話すことは望ましくないと思えたし、かといって他の者に聞かせるのも憚られる話だったからだ。
その時、並んで歩いていても、こんな風に欲情はしなかった。サキュバス達は魔王城にいる時はフェロモンの放出を抑えるように義務付けられている。が、それはあくまでも「抑える」に留まる。にも関わらず、今の自分がまったく反応しなかったことにアルフレドは大いに驚いた。
ヴィンス師に「美味しいと思わない相手なのでしょう」と言われるとしても、サキュバスの「それ」に反応をするかしないかであれば、しないわけではない。料理の話でたとえれば、美味しそうと思うかどうかはともかく「自分が食べられるものなのかどうか」の判定はそれより早いはずだ。
だが、サキュバスから漏れ出しているフェロモンに、アルフレドはこれっぽっちも反応しなかった。完全に、サキュバスの長はアルフレドには「対象外」の存在だった。その時、彼は「自分がインキュバス側をリーエンのために徹底して抑えているからだろう」と思っていた。なのにどうだ。体調を崩して眠っている彼女を見た途端にこれだ。
もう、答えは一つだ。今の自分はどうやらリーエンに対してのみ、インキュバス側に寄って暴走をしてしまう。そして、それは本来正しいことなのだ。孕ませたい女がそこにいる。それがきっかけになるのは当然のこと。だが、問題は、自分はそういう目でリーエンを見ていたのだろうか? ということだ。
(見守ってきたが、以前から積極的に妻にしたかったわけではない。が、その妻にしたかったわけではないのは、人間界と縁が切れてしまう彼女を不憫に思ったからなのか、それとも俺が彼女をそういう目で見ることが出来なかったのか、いささか曖昧だ。恩があるから大切にしたいとは思っている。が、そこに恋情があるかというと……)
なくはない。可愛いと思うし、セックスは後回しにしても、時折抱きしめたいと思うし、優しくしたいと思う。が、そういった感情以外の思いも沢山ありすぎて、正直なところ自分が彼女にどんな感情を向けているのかよくわからなくなる。そして、そんな状況なのに、孕ませたいという欲だけは常にはっきりあるのだからどうしようもない。もし、リーエンがそれを知ったら、そんな中途半端なことを思っている男に抱かれたいわけがない。
「いかん。戻らないと本気でジョアンが死んでしまうぞ……」
アルフレドは立ち上がった。今日の仕事もまだ残っているし、ジョアンだって魔界召集で妻を娶ったばかりで、毎日長時間拘束するわけにもいかない。
と、その時リーエンの瞳がゆっくりと開いた。
「アルフレド様……? 夢かしら? ……お忙しいはずですもの……」
「……夢ではない」
「夢ではない、のですか……えっ!?」
リーエンは慌ててがばっと起きようとして、それから「あっ……」とすぐに体をぼすんとベッドに預けた。ぼんやりとした表情でベッドに倒れた彼女の様子は、今のアルフレドには少しばかり刺激が強い。リーエンに気取られないように、アルフレドは一瞬唇を噛み締めて、いっそう自制を強めた。
「何かしら? ……くらくらします……」
「覚えていないのか。お前は倒れたんだ」
「倒れた……? まさか……わたし、昔から体だけは丈夫で……風邪すら引かないんですよ……?」
「それは外的要因だろう」
自分が施した祝福は、外的要因だけをブロックするものだ……そう口走りそうになって、アルフレドは(おっと)と口をつぐんだ。あれもこれも抑える必要があってどうにも彼は大変だ。
「もう少し寝ていろ。お前は確かに体が丈夫なのかもしれないが、心と体は繋がっていて、そちらが原因のものならば防げないこともある」
伝わりにくいだろうか、と思いながらアルフレドが説明をすると、リーエンは僅かに悲しそうな表情を見せた。彼女が魔界に来てから、これほどに悲しみの感情を外に出したこと――ダリルの前で泣いたことを除けば――はなく、アルフレドはその表情に驚く。
「ご迷惑を……体を患うなんて本当に久しぶりでまだ信じられないのですが……いえ、体ならともかく心を患うなんて、あってはいけないことですのに……お恥ずかしいです……」
「あってはいけない?」
「ええ。貴族たる者、領民達の指標となり常に彼らに不安をもたらさぬように、健やかな心であれと……そうお父様に言われて育ちましたし、わたしもそれは間違っていないと思うのです……」
「……残念ながら、ここにはお前を指標とする領民はいない。それは要するに、お前が強くあろうとする口実になるものが存在しないということだ」
一見、アルフレドの言葉は彼女に対して「貴族であることはここで何の意味もない」と冷たい現実を突きつけているようなものだ。だが、彼の本意はそれではない。
「俺が、お前の代わりにそういう者でいる。だから、お前は自分の心が弱った時には正直に音を上げれば良いし、いずれお前を指標とする者の面倒を見る立場になっても、俺に対しては弱っても良い」
「では、アルフレド様は……?」
再び眠りにつきそうに、うとうとと瞳を閉じるリーエン。彼女が紡ぐ言葉は半分は寝言のようなものだ。
「わたし……夢では……案外泣き言を言っているから平気だと……思って……アルフレド様も、そう……?」
最後はもごもとと聞き取れないほどになり、彼女の寝息がかすかに聞こえる。睡眠が足りていないわけではないが、今日明日は眠れるだけ眠らせた方が良いと医師に言われていたことを思い出しながら、じっと彼女の寝顔をみつめる。
「お前の父親は立派な貴族だったと俺も知っている。だが、それは己が守る者がそこにいて、人々の模範になる必要があるからだ……お前も、そうであろうとしているのだろうし、そういう立場で……姉よりも長女らしく振舞って生きていたことを俺は知っている。そんなお前だから、魔界召集で魔界に来たことがどういうことなのかを、きっと誰よりも心得ていて、自分で重責を負っているのだろうが」
倒れてはどうしようもない。
アルフレドは寝息を立てるリーエンの顔にかかる髪をどかし、毛布を整えた。
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