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姉弟の一日①
しおりを挟むいつもより少し元気がなさそうな姿に、それ以上しつこく聞くことができなかった。
それから数日も経たないうちに、アンリ様から手紙が届いた。
ご友人が主催のガーデンパーティがあるそうで、内輪だけの気楽な集まりだから、一緒にどうかと誘われた。
ごく親しい集まりであれば、私もアンリ様も、後ろ指をさされるようなこともないだろうと思い、参加することにしたのだ。
「私は殿下から直接お誘いいただいたわけじゃないし、いきなりお邪魔してもご迷惑だわ。だから、今日は二人で楽しんできてね」
「殿下は、姉さまがくれば喜ぶと思うよ?」
上目遣いのエリックに、うっかり絆されそうになる。
「うふふ、ありがとう。稽古場といえど、騎士の皆さんに失礼のないようにね」
そのまま一緒に外へ出て、同じく見送りにきていた執事や侍女たちと、馬車に乗り込む二人を見守る。
二人はすぐに小窓を開けて、小さな顔を仲良く並べ、こちらに向かって元気な声で『行ってきます』と笑顔で挨拶をした。
御者の合図で馬車が走り出し、門を出たあとも、しばらく小窓からは小さな手がふたつ、こちらへ向けて振られていた。
「さて、私も準備しなきゃね」
振り返り、解散の合図のように伝えると、執事が口を開いた。
「お嬢様、本日は十時にご出発ということで、間違いありませんでしたでしょうか」
「ええ。アンリ様が迎えに来てくださることになっているから、よろしくね」
「かしこまりました」
*
「アンヌ、おかしくない?」
「とってもお綺麗ですわ。皆さまの視線をひとり占めされること間違いなしです」
ガーデンパーティ用に、いつもより少し丈が短めに作られたカジュアルドレス。
アンリ様の手紙には、ドレスコードは特にないが、堅苦しい正装は禁止だと書いてあった。
なるほど、いかにも内輪の集まりという感じだ。
「髪飾りはどれにいたしましょう」
目の前のテーブルに、ビロードの張られた薄型のジュエリーケースが置かれた。
幅と奥行きのあるその蓋を、アンヌは慎重な手つきで開く。
そこには、眩い輝きを放つ色とりどりの宝石が散りばめられた、たくさんの髪飾りが。
アンヌはうっとりとため息を吐いた。
「いつ見ても、本当に素晴らしいお品ですわ」
どれも、名工と名高い貴金属宝石細工工が手掛けた品だ。
精緻を極めた細工は、もはや芸術品と呼んでも過言ではない。
こめかみの辺りから丁寧に編み込んだ髪を後ろでひとつに束ねた今日の髪型。
(どれがいいかしら……)
例えカジュアルなパーティといえど、目立たぬ場所にこそ、こだわりを入れるもの。
悩む私の目に、ひとつの髪飾りが目に留まった。
月桂樹のモチーフに、エメラルドが散りばめられた髪飾り。
これは昔、お母さまから貰ったものだ。
「これにするわ」
アンヌは、私が指差したそれを確認し、頷いた。
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