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学園編
23.伏兵は自分3
しおりを挟むクリストフ殿下をなだめて、デリア・リナウドと愉快な仲間たちをこの場からたたき出すのに、小一時間かかった。最後は、マリー・トーマンとパトリックまで合流して地獄絵図に……なりそうで、ならなかった。
最終的にパトリックがチャラ男スキルを発動して、問題児たちを一掃したから。
日陰だろうと、人口密度が低かろうと、スラムと蔑称されていようと、ここだって立派な王立学園の敷地内なのだ。設置されているベンチだって、屋根がないだけできちんと綺麗に手入れをされているのだ。
ただ、日陰だからどうしても湿気は残るし、屋根があると更に湿気がこもるという理由から屋根がなく、汚れやすくはあるけれども。
それでも、綺麗なのだ。現代日本の屋外キャンプ場より、遥かに。
「あれ? おかしいな、教わった公式を使ってるんだけどな?」
マリー・トーマンが教科書とノートを見比べながら、頭上に疑問符を飛ばしている。……私の隣で。
「ねえ? なんで、私の隣でやってるの? 殿下と約束してたんじゃないの?」
「うーん、そうなんだけど、さっきみたいにお嬢様たちが乗り込んできたら、やっぱり近くにいないと守れないと思うの!」
「……は?」
「ナナミってば、入学以来、お嬢様たちに目をつけられちゃってるじゃない? 大丈夫よ! わたしが守ってあげるからね! 慣れてるんだ、こういうの! 孤児院にいた頃もね――」
と、マリー・トーマンは己の孤児院時代の武勇伝を語り出した……。
孤児院の子供たちは年齢が二桁になると、チャリティー活動などに積極的に参加して、自分たちで運営資金を稼ぐようになる。たちの悪い連中というものはどの階級にもいるものだ。幼女趣味の変態貴族や、現実に夢を見過ぎている子息令嬢の相手をしてきたのだという。
貴族だろうが子供のお小遣いで孤児院経営ができるはずがない。だというのに、奴隷のようにこき使おうとしたり、連れ去ろうとしたりする者までいたのだ。
マリー・トーマンはそういう連中と互角に渡り合ってきた、と……。強いな。
我儘令嬢なんか敵ではなかったのではないか、とも思ったが……あの頃の私、非常識なまでに極悪だったからな……。
今の私は……大丈夫だろうか?
デリアを結局叱りつけてしまったし、グニラ・オレーンには秘密を強要しているし……気をつけて、いるんだけど…………な。
◇◆◇ ◇◆◇
来週から、前期の修了考査が行われる。
女性が受けるのは、通常の筆記科目と芸術科目、男性はそれに加えて体術と剣術だ。現代日本でいうところの期末テストのようなものか。だが、修了考査は合格できなければ、後期のクラスへ進むことはできない。
試験終了後は、科目ごとに成績優良者が掲示される。各科目において首位をとった者は、王侯貴族からお褒めの言葉を頂くことができる。社交界デビューを果たしていない子息令嬢にとって、これはとても特別な……大変名誉なことなのだ。
前回、『わたくし』はいくつもの考査で首位をとった。けれど、全てではなかった。それは『わたくし』にとって、あってはならないことだった。
たった一つの科目において……マリー・トーマンに後れを取ったのだ。
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