悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ

文字の大きさ
上 下
71 / 106
学園編

48.多面的な三角関係の足音3

しおりを挟む

「便利な道具も使う人間の品性によっては、無用の長物でしかないらしい。とても……醜悪で滑稽だな。神聖なる学びで、これは一体何の真似だ?」

 現れたのは、クリストフ殿下だ。
 静かな口調の中に尋常でない怒りを感じる。これは……が、マリー・トーマンを害そうとしていた時によく向けられていた怒りに似て――。

「殿下?! なぜここに……っ?!」
 動揺したデリアが手からペーパーナイフを取り落とした!
 その際に切れ味のいいナイフの刃が彼の手の甲を滑り、赤い線を作る。彼は顔色一つ変えないが、結構痛い傷なんじゃないかと思うんだけど……。

 デリアが落としたナイフを、取り巻きに奪われる前に取っておこう!
 慌ててナイフを拾ったのだけれど……彼女たちは微動だにしていなかった。彼女たちは青い顔をしてクリストフ殿下に釘付けだ。私が思っていた以上に、彼の登場に動揺しているらしい。まあ、当然か。


 ――このすきに、思い切って逃げてしまおうか?
 そんなことを考えていると、背後から制止を促す弱々しい声が聞こえてきた。

「デ……デリア……! お前はなんと言うことを……!」
「お父様?!」

 現れた気弱な紳士は、リナウド侯爵だったのか。
 確かに高そうなベルベット地のスーツに身をつつんでいる。しかし、その様相は自信に満ちたものとは言いがたい。
 リナウド卿にお会いするのは、恐らく初めてだと思う。
 家人やリナウド母娘おやこの様子から、彼についてはどこか頼りなく影の薄い男だという印象を抱いていた。あながち間違ってはいなかったらしい。

 きょかれたデリアと、オロオロとするだけのリナウド卿を見比べていると、手からナイフが奪われた! 誰だ?!

「怪我はないか?」
 ――パトリック…………だ。
 ナイフを取り上げたのは彼だったようだ。えっと……毎度ご迷惑をおかけ致しまして申し訳ございません。

「大丈夫……です」


「ナナミ! 大丈夫?! 何があったの?!」
 続いて現れたのはマリー・トーマンだ。
 クリストフ殿下の背後から慌てた様子で現れて、キビキビとした動作と発生で私をデリア軍団の外へと誘導する。実に鮮やかなお手並みだ。
 殿下と一緒にいたのだろうか? 順調に友好を深めているようで何よりなんだけど……パトリックも一緒だったのだろうか? ……三角関係勃発してる?

 やや離れた所からデリア軍団を遠巻きに見ると、リナウド卿が娘にすがっている様子が見て取れる。毅然きぜんと説教ができないタイプのようだ。リナウド卿に代わり、殿下がデリアを叱責している様子が聞こえてくる。
 この場面には覚えがある。これは、うん、と同じだ。



 ――前回、王妃様の前で恥をかかされた格好となったは、後日、マリー・トーマンの友人を集団で襲い、憂さ晴らしをした。ちょうど今、デリア・リナウドが私に対して行っていたようなこと……よりもひどいことを、した。
 わたくしは相手の顔すら覚えていない。
 取り巻きが口にした「あれはあの女の友人だ」という言葉を鵜呑うのみにした。いや、本当はどうでもよかったのだ。制服の質感から彼女たちが平民であることは一目瞭然だった。

 誰でもよかった。
 は、誰かを貶めることで己の地位と権力を知らしめることができると……本気で思っていたんだ。

 そして、そんなに、マリー・トーマンは――――。

「わたしに文句があるならわたしに言えばいいでしょう?! わたしの友人にこれ以上のひどい真似は赦せません!! 無抵抗な人間に暴力を振るって得られる程度のものに価値があるなんて、わたしは思いません!!」

 ――うん。
 これと全く同じセリフを、言ってきたんだ。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ある公爵令嬢の生涯

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,966pt お気に入り:16,122

婚約破棄されましたが、幼馴染の彼は諦めませんでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:280

転生したら捨てられたが、拾われて楽しく生きています。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:11,310pt お気に入り:24,901

一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:1,124

婚約者の浮気をゴシップ誌で知った私のその後

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:360

好きになって貰う努力、やめました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:2,185

処理中です...