短編集

アーエル

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タイトルなし

3-5

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「神は何故、あのような学園をつくられたのでしょう?」


ガーデンテラスで美しいかんばせを曇らせているのは、学園を卒業後に淑女として美しく成長したエーベリッカ。
幼馴染みで婚約者の男性とは一昨年夫婦となり、彼女のなかには新たな生命が宿っている。

エーベリッカとマキシスとは学舎も違うため一度も接触はなく、親族として顔を合わせたこともない。
親戚の子爵が後妻を迎えるにあたり、後妻の連れ子と養子縁組をする許可を一族の頭領である父に求めてきた。
一族とは関係ない娘、もちろん養子縁組に問題はなかった。
それでも、子爵が求めたのは『特別養子縁組』。
子爵が亡くなれば実子と同じく資産などを分与される上、主家サンドレイ公爵家の庇護下にあるサンド・レイ子爵家の娘として嫁いでいくことも可能だ。

それに異議を申し立てて、サンド・レイ子爵の庇護を受けるのみという養子縁組にさせたのはエーベリッカである。
エーベリッカにとって、親戚とはいえ末端のサンド・レイ子爵は家族同然に慕うひとりだった。
またサンド・レイ子爵の実娘アンネリーナは、エーベリッカにとって姉以上に慕い、淑女として目標にしている令嬢だった。
そんな子爵が再婚をし、相手の連れ子を特別養子縁組でアンネリーナの義妹に据えるという。
そんなことを貴族令嬢らしく嫉妬深くて独占欲も強いエーベリッカが許すはずがない。
頭領の娘であるエーベリッカはその立場を利用したのだ。


「おじ様? 特別養子縁組を結ぶのは、その連れ子の本質を確認してからでもよろしいのではなくて?」


神がつくられたという貴族学園。
そこで卒業しなければ貴族として認められず、そもそも入学しなければ貴族籍から外されて平民になる。
それが神に決められた世界のことわりであり、脈々と受け継がれる世界共有のルールでもある。
そのために12歳から母国の学園に通って自身を磨き、16歳で卒業と同時に貴族学園に入学。
翌17歳で貴族学園を卒業する。

もちろん全員が貴族学園に通うわけではない。
王宮騎士や神聖騎士になる者など貴族社会から離れる者は通う必要がない。
そして貴族としての知識が足りないものの、そのほかの知識を求められる子息令嬢はいる。
そんな場合は貴族学園に通わず16歳で婚姻して貴族籍にその名を残す。


「いますぐに特別養子縁組にせず、養子縁組にしたらどうでしょう。学園に通わせてから判断してもよろしいのではなくて?」


エーベリッカの言葉には一理ある。
もし貴族として不適格だった場合、特別養子縁組にしていれば家名にも傷がつき主家にも迷惑がかかる。
子爵家を没落させて終わる問題ではなく、後妻の実家であるパナリス子爵家やその主家であるエイジェス侯爵家にまで影響する。


「もしもの事態が起きたとき、そのすべてに責任が持てるのですか?」

「そうだな。そのような最悪な事態が起きた場合、子爵家全員の生命を差し出せば済む問題ではない」


頭領からも遠回しに許可されなかった以上、サンド・レイ子爵に残された選択肢は2つ。
養子縁組で締結し、学園を卒業した16歳に特別養子縁組を結ぶ。
サンド・レイ子爵家の当主を息子に譲って縁を切り、パナリス子爵家に婿入りする。
その場合、パナリス子爵家にはすでに後継者がいるため、パナリス子爵家の主家に受け入れられなければ貴族籍を手放して平民となる。
サンド・レイ子爵家から離れサンドレイ公爵家の庇護を失った男に価値はなく、貴族籍を失う未来みちしか見えないだろう。
そんな気概を当主にまで上り詰めたサンド・レイ子爵にあるとは思えなかった。


サンド・レイ子爵はエーベリッカの提案に従い、養子縁組でマキシスの成長を見守ることとした。
その安全策は功を奏し、愚行を繰り返したマキシスはエレマン王子と共に神の国へと旅立った。
もし特別養子縁組でサンドレイ公爵家との縁を残していたら、大きな問題になっていただろう。
『王子と隣国の王家の血を受け継ぐ公爵家の一族に連なる子爵家の令嬢』というのは、肩書きだけでも問題がある。
パナリス子爵家やその主家エイジェス侯爵家なら、王家の血を受け継いでいない。

パナリス子爵家に謝礼金と国内の貴族としての地位を、エイジェス侯爵家には謝礼金と子爵家を預かる許可と賠償金を。
それで、エレマンとの立場となったマキシスを共に葬ることが可能になる。
今後、パナリス子爵家の第二子息が妻子を伴って移り住むことが決まり、共同事業の末端を隣国にて担う。
こうして、エレマンとマキシス……そして王家とパナリス子爵家の名誉は守られた。



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