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第二章
第23話
しおりを挟む「パパー。リュシーナがないてるー」
「あー。リュオンもないちゃったー。ヨシヨシ。いいこ。いいこ」
「ミリィ。ユーリカ。赤ん坊の世話してくれてありがとな」
シュリが娘と娘の幼馴染みの頭を撫でてお礼を言う。
「だって、ふたりのおねえちゃんだもん」
「わたしは、ふたりの『おねえちゃんがわり』だもん」
「ああ。二人とも立派な『ママ代わり』だ」
シュリの言葉に満面の笑みを浮かべる二人。
「あら。リュシーナもリュオンも泣いてたの?」
「ああ。『ちっちゃいママ』二人で面倒見てくれていたんだがな。陽が上って日陰がズレてしまったようだ」
「ユーリカ。明日ここへ来る時に、パパに『日除け』を持たせるの、忘れないで言ってくれる?」
「リュシーナとリュオンのため?」
「そうよ。アンタたちが小さい時にも使っていたの。邪魔になるからウチの倉庫に置いてあったのよ」
「うん。わかったの」
シンシアとユーリカの会話にレリーナの表情が曇る。シュリがそんなレリーナの手から籠を預かり、ミリアーナとユーリカの前にぶら下げる。
「ほら。ママがお菓子を作ってくれたから、お祖父ちゃんたちのお家に行っておいで」
「「はーい」」
二人は手を握り合って坂を下っていく。その先にシュリの両親が住む家がある。今日は其処にシュリの両親と村長一家・・・そしてナシードがいる。
「・・・村長が此処にいて良いの?」
「もちろん。私の意思はオルガが知ってるもん。だ・か・ら、レリは『そんな顔』しないの」
「まあ・・・。これに関しては俺たちは何とも言えないからな」
あの日・・・ナシードがシュリと共にいつも通りの『見回り』をしていた。そして北の山の麓に広がる森にある『渾々と清らかな水の湧き出る泉』の辺りで見つけた『光る水晶』。手に乗るほどの小さな水晶は、拾ったナシードの手のひらに吸い込まれていった。
「なんだ・・・今のは」
「おい。ナシード。・・・具合はどうだ?」
「なんともない。・・・いや。なんか清々しい気分だ」
ナシード自身には問題なかったが、心配性のシュリに引き摺られて戻った・・・シュリの実家に。怪しい状態のナシードを『愛する家族の元へ連れて行けない』という理由からだった。
何が起きたかを、冷静なナシードと話すたびに興奮していくシュリがなんとか説明し終えた時に、ずっと何かを考えていたオルガが口を開いた。
「此処の神殿で似た話を聞いたことがある」
「神殿・・・?じゃあ、神官も呼んだ方が良いか?」
「いや。・・・俺たちで向かった方が早い」
たしかに、誰かが往復するより片道をゾロゾロ行った方が早いだろう。
「シュリ。レリーナにはシシィがついている」
「ああ。・・・大丈夫。何が起きたのか、何が起きるのかが分からないと安心出来ないから」
「シュリ。俺が考えている説が間違っていなければ、コレは『悪いことではない』」
「・・・わかった。今はオルガを信じる」
シュリは若いが、自分で物事を判断し、人々を正しい道へと導く。シュリにしてみれば、愛する家族を守るためにしていることだ。そのため、それが身近な人の意見でも真偽を確かめるまでは頭から信じない。『疑り深い』と思われるかもしれない。しかし、この村は『特殊』で、彼の愛する家族は『特別』なのだ。
守るためには必要なことだろう。
神殿へ移り、冷静さを取り戻したシュリと自身の問題なのにまるで他人事のようなナシードがもう一度説明をする。
すべてを聞き終えた神官は一度部屋を退出し、戻ってきた時には一冊の本を手にしていた。
「此方は私がモーリスさんから聞いた村の話を一冊の本にしたものです。今の話は、この村の成り立ちで出て来ます」
昔、この地に魔物から逃げて来た人々がいた。その中に、8歳と5歳の小さな王子がいた。彼らは魔物たちに城を襲われる前に、いくつもある隠し通路から方々へ逃されていた。1ヶ所から逃せば全滅してしまう可能性がある。そのため、この二人は兄姉とは違う隠し通路から逃されて、少しの護衛と侍従、そして民たちと南へ逃げた。
北から魔物が押し寄せている。少しでも遠く、南に逃げるのは常套だろう。
しかし、この先は崖で逃げ場はない。そのため、崖に沿って逃げていた。そのまま岩盤に囲まれた狭い道を見つけて其処へ逃げ込んだ。此処なら魔物も追って来られないと信じたのだ。
その先に、広い空間があった。森や泉もあり、昼夜問わず仮眠だけで逃げ続けて来た彼らにとって、やっと横になって身体を休ませることの出来る場所だった。いや。これだけ綺麗な場所で眠りながら死ねても良いとさえ思っていた。
大人たちと違い、子供たちは回復が早い。特に王子たちにとって、『自然と触れ合う』のは初めての体験だった。
そして、それは起きた。
泉の辺りで、8歳の王子が『光る石』を見つけた。5歳の王子がそれに気付いて拾うと、それは王子の手に吸い込まれていった。
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