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第1部 勇者パーティ最後の日

審判の日

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俺の名は勇者オルフェ。
元勇者オルフェだ。

することもなくなったオレは、毎日酒場で飲んだくれていた。
しかし、一時期よく通った女どものいる高級なところは、みんな門前払いになっていた。
しかたなく、昔なじみの飲み屋で、安い酒をちびちびとやっている。
昔なじみ、といったが昔とちがって、ツケがまったくきかなくなっていた。


メリクルウスとジークの2人は、あの翌日には王都を立ったらしい。

確かに自由に動けるうちに動くのがいいのだろう。

5日ばかり過ぎたある日、大仰な巻物を携えた審判官が、酒場で飲んだくれているオレのもとを訪れた。

ここには、打ち合わせや食事中の冒険者連中や一般市民もいるのに、こんなところでやるかね。

いや、こいつも罰の一環かもしれなかいと思い返したオレは、怒声を浴びせるかわりに立ち上がって彼女を迎えた。

「元『勇者』オルフェに申し伝える。」

小柄だが出るとこは出ていて締まるところは閉まってる。
なかなかオレ好みのスタイルの審判官は、そう言ってオレの目の前に広げた巻物を突きつけた。

あ、芝居でよく見るシーンだ。いや実際に刑罰の言い渡しってこんな風にやるんだな。

「謹慎中の身でありながら、勝手に出陣したことによりC級に、降格かよ。
まあ、そりゃあ仕方ねえなあ。
でもあれか? 妖魔とやりあったことの報奨金が10クラウドもらえて、で、腕の治療も受けられるのか。

ありがたい、ありがたいが」

随分と温情のある裁定だな。

と、オレが言うと審判官はポカンとした表情で
「判決文が読めるのか?」
と言った。

ああ、そうだ。

オレは字が読めるし、書ける。

もともと村にあった手習い所に通い始めたのは、7歳のときだ。
オレは自分の名前をかけるようになたんで、一週間で卒業を決め込んだのだか、一緒に通い始めたルークのやつは、いつまでたっても通うのをやめねえ。
何を、してやがるのかと聞いたら、なんとあいつ、自分の名前以外の字も書けるように勉強していやがった。

オルフェは、勇者になるんだろ?

だったら偉いひとたちと交流しなくちゃいけなくなるんだから、読み書きはしっかりしないと。

そんなやつに付き合わされて、王都にでる直前まで、隣村の教会の司祭のところまで通って、オレたちは、いろんな文字の種類や手紙の書き方、はては礼儀作法まできっちりと叩き込まれた。

なんの役にたつんだ!こんなもん!
とぼやいてみたが、ルークは答えもせずにいつも笑ってた。

いや、役にたつ。役にたったよ、ルーク。

くそっ

お前のしてくれたことはなにもかもオレの役に立っている。

「その通り、これはかなり温情のある判決となる。」
審判官は気を取り直して、くいっとメガネを戻すと、お付の書記官から一振の剣を受け取り、オレに差し出した。

「これは、次期公爵閣下からの直々の恩賞となる。謹んで受けるように。」

オレは剣をうけとった。

なんの装飾もない。
加護も付与魔法もない。

だが。

こいつはいい剣だった。

この長さと重さならまだ握力のもどらないオレの腕でも充分ふるうことが出来る。

刀身のバランスもオレのために作ったように思われた。

いや実際そうなんだろう。

クソが。

とどのつまりは、ルークだ。

ぜんぶ、ルークから始まったんだ。

オレはやつを切り捨てた。切り捨てたつもりだった。

そして、やつは、いま第五王女の婚約者で、次期パレス公爵ルーク閣下で、一方のオレは仲間に去られ、負傷が癒えず、ギルドから降格処分をうけた一介の冒険者だ。

それでもルークはオレを切り捨てるつもりはないらしい。
それどころか、どうやら援助し、導いてくれるつもりらしい。

「おい、どうした?なにを笑っている」

審判官は、眉をひそめてオレの顔を覗き込んだ。理知的な顔立ちだが、口唇が艶っぽい。

笑っている?笑ってるのか、オレは。

「気に入ったんだよ、あんたが。」

「ルークさまを謀殺しかけたその罪はそもそも死罪に値するのだぞ!それを・・・・」

怒りに頬を染めた審判官はますます、オレの好み、どストライクなのだが、正直、それはもうどうでもよかった。

勇者の地位も金も女もどうでもよかった。

ただ、もう一度、誇りをもって、おまえの前に立てるよう。
オレはそれだけを思って笑い続けた。
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